7 / 36
第07話 呼び出しの理由
しおりを挟む
ただ呼び出すだけなら謁見の間に人を集めなくても良かっただろうが、シュルタスにはそうしなければならない理由があった。
絶対的な力を持ちながらもその足元、いやわき腹が大きく抉られる事態にブートレイア王国は直面していた。
メリルが生まれて16年。
同じく愛する妹フランソワーノが亡くなって16年。
16年前も強国ではあった隣国モーセットはさらに力を付けて巨大な国となった。戦をすれば引き分けに持ち込めるかはブートレイア王国が総力を挙げて五分五分。つまりは勝ち目がない。
国王シュルタスは国を守るためにモーセットとかつて結べなかった姻戚関係を持たねばならなくなった。
第1王女キュリアナを嫁がせようと話を進めていたのだが、1年前モーセット王国で開催された夜会に招かれたキュリアナは相手がモーセット王国の王太子ではなく、国王の弟の1人で辺境伯となった男の子息だと知るとゴネだした。
王妃となるのなら嫁ぐ事も受け入れるが、たかが臣下の、しかも子息に第1王女の自分が嫁ぐなどあり得ないと、流石にその場では失礼に当たる事は無かったのだが、その後贈り物が届いても、手紙が来ても返事すらしなかった。ブートレイア王国に辺境伯と子息を招き開いた夜会でも「会いたくない」と駄々を捏ね、仮病を使って寝室から一歩も出て来ない。
辺境伯も最初は笑って流してくれてはいたが、お忍びでやって来た辺境伯にキュリアナが従者に愚痴る場を見られてしまい、この話が流れそうになっていた。
ブートレイア王国としては願ってもない相手。国王の弟で辺境伯を推してきた。これは暗に軍事的な安全保障、そして不可侵を意味するもの。
王女を1人嫁がせるだけで周辺国の干渉を防げるのだから持参金を倍にしてもお釣りがくる。
「では、私にキュリアナ王女の身代わりとなって嫁げと?」
「そう言う事だ。フランソワーノの娘である事は私が保証する。メリルは私の・・・姪だ」
居並んだ臣下がザワっとざわめいたが、直ぐに全員がメリルに向かって片手を胸に、片手を背に回して臣下の礼を取った。
「で、ですが私は何も教育されていませんし、王都に来る前まではただの村で住んでいる1人の国民で・・・」
「いきなり王女の子だったと言われても戸惑いもあろう。しかし残念なことに私には娘がいないのだ。王女に恵まれず、姪のそなたに縋るしかない不憫な王の願い。聞き入れてはくれぬか」
シュルタスの声に「ヒュっ」と息を飲む声が聞こえた。キュリアナだった。
「陛下っ!!ちっ父上っ!?」
キュリアナが声をあげると同時にその両脇を兵士が掴んだ。
「待って!待ってくださいませ!父上っ!母上ーっ!」
メリルはゾッとした。兵士に両腕に手を回されて叫びながら退室させられていくキュリアナに国王シュルタスは視線も向けず表情も変えない。
そしてシュルタスから少し下がった位置に腰を下ろしているのが王妃なのだろうが、キュリアナ王女の声に薄く笑いすら浮かべている。
「王族はその身を民の為に使ってこそ。それが出来ぬ者など必要ない。メリル、モーセット王国との姻戚関係はブートレイア王国としては二度目となる。反故にすることは出来んのだ。解るな?」
――解るな?って言われても・・・NOなんて言えないわよ――
廻りの期待する返事は「YES」のみ。
さっきまで小馬鹿にしてみていたのになんでそんな目で見るのぉ~!!
本当なら今頃は連日で作ったばかりの「湯あみ用人間桶」に、これまた自作の「香りの元」を溶かしこんで湯に首まで浸かり「はあぁ~ビバビバ♪」だったのに。
香りの元は木や花の独特な香りを20種類ほど作ったのでちょうど2週目の旅をするはずだったのに!
どうしてくれるの!!
そうは思っても、こんなワンマンな独裁者風の国王に逆らうほどメリルは強心臓ではないし、「命なんてくれてやるわ!」とあっさり今生に見切りを付ける啖呵を切れるわけでもない。
誰だって命は惜しいし、メリルにはまだやりたいことも沢山ある。
――未練だらけなのよぅ~!!――
グッとスカートを抓んだ指に力を込めたメリルは声を絞り出した。
「身に余る大役、承りました」
今更実の母だと言う第2王女に恨み言を言っても仕方がない。
リンダが王家の教えを説いていたのはこの日が来るかも知れない事を予見してのことだったのかとメリルは「何もかも今更~!!」心で盛大に叫んだのだった。
絶対的な力を持ちながらもその足元、いやわき腹が大きく抉られる事態にブートレイア王国は直面していた。
メリルが生まれて16年。
同じく愛する妹フランソワーノが亡くなって16年。
16年前も強国ではあった隣国モーセットはさらに力を付けて巨大な国となった。戦をすれば引き分けに持ち込めるかはブートレイア王国が総力を挙げて五分五分。つまりは勝ち目がない。
国王シュルタスは国を守るためにモーセットとかつて結べなかった姻戚関係を持たねばならなくなった。
第1王女キュリアナを嫁がせようと話を進めていたのだが、1年前モーセット王国で開催された夜会に招かれたキュリアナは相手がモーセット王国の王太子ではなく、国王の弟の1人で辺境伯となった男の子息だと知るとゴネだした。
王妃となるのなら嫁ぐ事も受け入れるが、たかが臣下の、しかも子息に第1王女の自分が嫁ぐなどあり得ないと、流石にその場では失礼に当たる事は無かったのだが、その後贈り物が届いても、手紙が来ても返事すらしなかった。ブートレイア王国に辺境伯と子息を招き開いた夜会でも「会いたくない」と駄々を捏ね、仮病を使って寝室から一歩も出て来ない。
辺境伯も最初は笑って流してくれてはいたが、お忍びでやって来た辺境伯にキュリアナが従者に愚痴る場を見られてしまい、この話が流れそうになっていた。
ブートレイア王国としては願ってもない相手。国王の弟で辺境伯を推してきた。これは暗に軍事的な安全保障、そして不可侵を意味するもの。
王女を1人嫁がせるだけで周辺国の干渉を防げるのだから持参金を倍にしてもお釣りがくる。
「では、私にキュリアナ王女の身代わりとなって嫁げと?」
「そう言う事だ。フランソワーノの娘である事は私が保証する。メリルは私の・・・姪だ」
居並んだ臣下がザワっとざわめいたが、直ぐに全員がメリルに向かって片手を胸に、片手を背に回して臣下の礼を取った。
「で、ですが私は何も教育されていませんし、王都に来る前まではただの村で住んでいる1人の国民で・・・」
「いきなり王女の子だったと言われても戸惑いもあろう。しかし残念なことに私には娘がいないのだ。王女に恵まれず、姪のそなたに縋るしかない不憫な王の願い。聞き入れてはくれぬか」
シュルタスの声に「ヒュっ」と息を飲む声が聞こえた。キュリアナだった。
「陛下っ!!ちっ父上っ!?」
キュリアナが声をあげると同時にその両脇を兵士が掴んだ。
「待って!待ってくださいませ!父上っ!母上ーっ!」
メリルはゾッとした。兵士に両腕に手を回されて叫びながら退室させられていくキュリアナに国王シュルタスは視線も向けず表情も変えない。
そしてシュルタスから少し下がった位置に腰を下ろしているのが王妃なのだろうが、キュリアナ王女の声に薄く笑いすら浮かべている。
「王族はその身を民の為に使ってこそ。それが出来ぬ者など必要ない。メリル、モーセット王国との姻戚関係はブートレイア王国としては二度目となる。反故にすることは出来んのだ。解るな?」
――解るな?って言われても・・・NOなんて言えないわよ――
廻りの期待する返事は「YES」のみ。
さっきまで小馬鹿にしてみていたのになんでそんな目で見るのぉ~!!
本当なら今頃は連日で作ったばかりの「湯あみ用人間桶」に、これまた自作の「香りの元」を溶かしこんで湯に首まで浸かり「はあぁ~ビバビバ♪」だったのに。
香りの元は木や花の独特な香りを20種類ほど作ったのでちょうど2週目の旅をするはずだったのに!
どうしてくれるの!!
そうは思っても、こんなワンマンな独裁者風の国王に逆らうほどメリルは強心臓ではないし、「命なんてくれてやるわ!」とあっさり今生に見切りを付ける啖呵を切れるわけでもない。
誰だって命は惜しいし、メリルにはまだやりたいことも沢山ある。
――未練だらけなのよぅ~!!――
グッとスカートを抓んだ指に力を込めたメリルは声を絞り出した。
「身に余る大役、承りました」
今更実の母だと言う第2王女に恨み言を言っても仕方がない。
リンダが王家の教えを説いていたのはこの日が来るかも知れない事を予見してのことだったのかとメリルは「何もかも今更~!!」心で盛大に叫んだのだった。
109
お気に入りに追加
2,643
あなたにおすすめの小説
茶番には付き合っていられません
わらびもち
恋愛
私の婚約者の隣には何故かいつも同じ女性がいる。
婚約者の交流茶会にも彼女を同席させ仲睦まじく過ごす。
これではまるで私の方が邪魔者だ。
苦言を呈しようものなら彼は目を吊り上げて罵倒する。
どうして婚約者同士の交流にわざわざ部外者を連れてくるのか。
彼が何をしたいのかさっぱり分からない。
もうこんな茶番に付き合っていられない。
そんなにその女性を傍に置きたいのなら好きにすればいいわ。
自称ヒロインに「あなたはモブよ!」と言われましたが、私はモブで構いません!!
ゆずこしょう
恋愛
ティアナ・ノヴァ(15)には1人の変わった友人がいる。
ニーナ・ルルー同じ年で小さい頃からわたしの後ろばかり追ってくる、少しめんどくさい赤毛の少女だ。
そしていつも去り際に一言。
「私はヒロインなの!あなたはモブよ!」
ティアナは思う。
別に物語じゃないのだし、モブでいいのではないだろうか…
そんな一言を言われるのにも飽きてきたので私は学院生活の3年間ニーナから隠れ切ることに決めた。
所詮は他人事と言われたので他人になります!婚約者も親友も見捨てることにした私は好きに生きます!
ユウ
恋愛
辺境伯爵令嬢のリーゼロッテは幼馴染と婚約者に悩まされてきた。
幼馴染で親友であるアグネスは侯爵令嬢であり王太子殿下の婚約者ということもあり幼少期から王命によりサポートを頼まれていた。
婚約者である伯爵家の令息は従妹であるアグネスを大事にするあまり、婚約者であるサリオンも優先するのはアグネスだった。
王太子妃になるアグネスを優先することを了承ていたし、大事な友人と婚約者を愛していたし、尊敬もしていた。
しかしその関係に亀裂が生じたのは一人の女子生徒によるものだった。
貴族でもない平民の少女が特待生としてに入り王太子殿下と懇意だったことでアグネスはきつく当たり、婚約者も同調したのだが、相手は平民の少女。
遠回しに二人を注意するも‥
「所詮あなたは他人だもの!」
「部外者がしゃしゃりでるな!」
十年以上も尽くしてきた二人の心のない言葉に愛想を尽かしたのだ。
「所詮私は他人でしかないので本当の赤の他人になりましょう」
関係を断ったリーゼロッテは国を出て隣国で生きていくことを決めたのだが…
一方リーゼロッテが学園から姿を消したことで二人は王家からも責められ、孤立してしまうのだった。
なんとか学園に連れ戻そうと試みるのだが…
僕の姉の容姿は、中の下だと婚約者が言っていたのを小耳に挟んでしまいました
山田ランチ
恋愛
ある日姉と共に、姉の婚約者が話しているのを小耳に挟んでしまいました。
「コレットの容姿は中の下だろ? 後を追い掛けてくるのも迷惑しているくらいだ」
コレット・ロシニョール 17歳。侯爵家令嬢。ジャンの双子の姉。
ジャン・ロシニョール 17歳。侯爵家嫡男。コレットの双子の弟。
トリスタン・ド・デュボワ 18歳。公爵家嫡男。コレットの婚約者。
クレマン・ルゥセーブル・ジハァーウ、王太子。
シモン・ノアイユ 23歳。伯爵家嫡男。コレットの従兄。
ルネ 18歳。ロシニョール家の侍女でコレット付き。
シルヴィー・ペレス 17歳。子爵令嬢。
コレットは愛しの婚約者が自分の容姿について話しているのを聞いてしまう。このまま婚約者のそばにいては疎まれてしまうと思ったコレットは、親類の領地へ向かう事に。そこで新しい商売を始めたコレットは、知らない間に国の重要人物になってしまう。そしてトリスタンにも女性の影が見え隠れして……。
ジレジレ、すれ違いラブストーリー
【完結】貴方のために涙は流しません
ユユ
恋愛
私の涙には希少価値がある。
一人の女神様によって無理矢理
連れてこられたのは
小説の世界をなんとかするためだった。
私は虐げられることを
黙っているアリスではない。
“母親の言うことを聞きなさい”
あんたはアリスの父親を寝とっただけの女で
母親じゃない。
“婚約者なら言うことを聞け”
なら、お前が聞け。
後妻や婚約者や駄女神に屈しない!
好き勝手に変えてやる!
※ 作り話です
※ 15万字前後
※ 完結保証付き
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
【完結】これからはあなたに何も望みません
春風由実
恋愛
理由も分からず母親から厭われてきたリーチェ。
でももうそれはリーチェにとって過去のことだった。
結婚して三年が過ぎ。
このまま母親のことを忘れ生きていくのだと思っていた矢先に、生家から手紙が届く。
リーチェは過去と向き合い、お別れをすることにした。
※完結まで作成済み。11/22完結。
※完結後におまけが数話あります。
※沢山のご感想ありがとうございます。完結しましたのでゆっくりですがお返事しますね。
【完結】結婚しないと 言われました 婚約破棄でございますね
来
恋愛
「アイリス! お前のような卑怯ものとは 結婚する事など出来ない!ここに婚約を破棄させて貰う! 顔も見たくない 直ぐ様出ていけ!」
オスカー王子からの婚約破棄宣言
王子様から言われるのだから その様にさせていただきます
沢山のお気に入り登録 ありがとうございます
恋愛大賞に初応募いたしました ドキドキ!
累計ポイント
100万越えました
完結後にも 読んでいただき
本当にありがとうございます
恋愛大賞投票も1万越えました
感謝以外に言葉が見つかりません
恋愛大賞結果
20000ポイント近くを獲得
169位でした
投票していただいた方々
ありがとうございますm(_ _)m
累計も120万ポイントを超える様です
完結してもお読みいだいております
ありがとうございますm(_ _)m
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる