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第01話   陸の孤島カルボス村

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ここは陸の孤島カルボス村。

「メエちゃん。ここに野菜!置いとくよ!」
「はぁい!ありがとうございますぅ~いつものところにぃ~」

姿は見えないが声だけが返って来る。
隣町に住む行商人のジョンは息子のディックに「そこでいいってよ」声を掛けるとディックは小さな小屋とも言えるような家の玄関脇に置かれている蓋つき木箱の上にキャベツやセロリなど野菜の入った籠を置いた。

額の汗を拭うと息子のディックは荷馬車のへりに腰を掛けて手綱を握り、ジョンは荷台に乗り込むと年老いた馬がゆっくりと歩きだし、細いあぜ道を戻って行った。

小さな家に住む「メエちゃん」と呼ばれているのはメリル。16歳。
16年前にカルボス村にやって来た。



★~★

カルボス村に来た頃には生後2か月のまだ首もしっかりと坐っていない赤子だったメリル。
50代後半と思われる年齢の夫婦ハンザとリンダと共にやって来た。

年齢的に2人の子供とは思えない月齢の子供は村人には不自然に思われないよう「大恩ある方が亡くなったので里親になった」と告げていた。

3人の生活は豊かだったかと言えばNO。
村人と同じくた食べる物は粗末なもので、着ている服も綻びを継接ぎしたもの。
下手をすれば村人よりも倹しい生活だった。

物心ついた時にはリンダに料理や掃除に裁縫、ハンザには家の修理や家畜の世話に薪割り、村の人からは農作業や薬草から作る薬の煎じ方など生きる術を教えてもらった。

山に入って食べられる木の実やキノコ、山菜も採って来た。
川では泳げるし、潜れるし魚も釣る。

村の子供と少し違うのはリンダはメリルに文字の読み書き、算術、マナーや所作、そしてブートレイア王国の王家の成り立ちや王家の教えを教えたこと。

『難しいなぁ。昔の王様の名前なんか誰も知らないわよ?』
『メリル。これは大事な事なの。ほら17代は誰だった?』
『うーん…トルメス王‥違う。ケルトス王?』
『もう一度ちゃんと読みなさい。夕食の後に復習するわよ』
『えぇーっ?!夜もやるのぉ』
『夜やりたくなければちゃんと覚えなさい』
『はぁい』


そしてリンダはメリルに髪を切る事は固く禁じた癖に「保護」だとして洗ったばかりの髪に「ソマリそう」で染色を必ず行った。


暫くはハンザとその妻リンダ、そしてメリルで暮らしていたが、メリルが8歳の時にリンダが、3年前にハンザが天寿を全うし神の御許に召された。

13歳で独りぼっちとなったメリルに村の人は手を貸し、知恵を貸した。
引き取ってやりたかったが貧しい村。家族が1人増えればその分食べるものも増える。そこまで面倒をみられるほどに余裕のある家はなかったのである。

『私は大丈夫。でも作った薬草は一緒に売って貰っていい?』
『いいよ。ごめんな。それくらいしかしてやれなくてさ』
『すまないねぇ。こんな時、力になってやりたいんだけど』
『大丈夫だってば。こう見えて壁も直せるし屋根の煙突だって掃除出来るわ』

ハンザは自身の財産やリンダの遺した衣類を売り、数年はメリルが食うに困らないようにと亡くなる前に「月に2回、野菜などを届けて欲しい」と行商人のジョンに頼んでいた。


小さな家で一人暮らしのメリル。

玄関の扉を開ければ食事をする部屋とその奥に寝室。
こじんまりとしたキッチンと外には不浄と湯殿。

リンダが亡くなり寝室に少し床が見えた。
ハンザも亡くなると寝室はメリルの寝台だけになった。

家の大きさは変わらなくても部屋が広くなり、すこし寂しい時もあるけれどメリルはなんでも1人で、時々村人に助けられて生きて来た。



★~★

メリルの住む家を後にしたジョンとディックは向かいからこんな田舎には似つかわしくない兵士の集団とすれ違った。

「この先にはメエちゃんの家しかないが、なんだろう?」
「メェちゃんじゃないだろ。山越えで隣国にでも向かってるんじゃないか?」
「それもそうだな」


土煙をあげながら人数にしてみれば20人、いや30人だろうか。
騎乗した兵士ばかりの集団を振り返えるジョン。

「まさかな・・・」ぽつりと呟いた声にディックが「なんか言ったぁ?」聞き直す。

「なんでもない」ジョンは後ろの土煙を見てまた呟いた。
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