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第22話    ビオレッタの決意の固さ

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戦場でも砲弾が自分のいる方に飛んでくると思えば誰彼となく掛け声をかける。「耳と目を塞げ!」と大声で呼びかけるのだ。

そうしないと爆風で鼓膜は破れるし、目も飛び出してしまう。
直撃を受ければ命も消し飛ぶが、生き残っても視覚、聴覚を失う可能性があるので塞ぐ。

ビオレッタは爆破された建物から然程離れていない箇所で被害にあった。
戦場の経験も無いビオレッタ。経験があってもまさか爆発するなど誰も思っていないので目や耳を塞いだ者がいたとは思えない。

あの状況を考えれば目が無事だった事が奇跡に近いのだ。聴覚を失っていてもなんら不思議はない。

ライネルは自身で最悪の方向に舵を切ってしまった。
調停員は時計を見て、ライネルを畳みかけるように問い掛けた。

「いくつかの質問を省略します。まず、証拠11のドレスですが贈ったのは間違いありませんか」

ガタガタと緞帳のような厚いカーテンの後ろから別の職員が引っ張り出してきたのは背中が大きく開いたドレスを着せたトルソー。

「こちらは貴方がカタログから選び、支払いを終えている事も仕立て屋にも確認を取っております」
「は、はい…ですが!こんなドレスだなんて知らなかったんです」
「貴方が贈ったのに?貴方がカタログから選んだのでは?」
「それは・・・」

ライネルは迷った。そっとビオレッタを見ればビオレッタと視線が合った気がした。
(そうだ、ビオレッタなら判ってくれる!)

奇妙な自信がライネルの全身にたぎり、ライネルは「選んだのはソフィアという女性です」と答えた。

「ソフィアさん?貴方には姉も妹もいないと思いますが・・・」
「親族ではありません。面倒をみて、一時一緒に住んでいた女性です。しかしビオレッタと結婚するに当たり屋敷は出てもらいました」
「放りだしたと言う事ですか?」
「いえ、家を借りました。家と言っても集合住宅の一室です。今は・・・行方が分かりませんので部屋は解約しました」

調停員の印象が頗る悪いと言う事もライネルは気が付かない。
こうなれば隠して置くのは体の関係だけで、ただ面倒をみていた女性と押し切った方が良いと考えた。

どう考えても王命で花嫁が来るので愛人を別に住まわせたとしか受け取れない発言。
調停員の目には堂々と言い切るライネルにビオレッタが離縁を申請するのも止む無しとしか受け取れない。

「質問を変えます。結婚の初日。貴方がそのソフィアさんの家で宿泊したのは認めますか?」
「結果的に帰宅が昼になったのは認めます。子供の具合が悪かったのです。面倒をみている以上放っておく事は出来ませんでした」
「花嫁は放っておいたのに?」

調停員も悪しき慣習だとは思っているが、文書として取り決めは無くても初夜にお手付きにならないどころか捨て置かれた女性がどのように扱われるかは知っている。

ライネルは堂々と答えた。

「ビオレッタなら判ってくれると思いましたので」

流石にこれは・・・と数人の調停員がライネルから目を逸らし天井を仰ぎ見る。
ライネルとしては「子供が大変だった」という状況をビオレッタは理解してくれると言う意味だったが、調停員には「その後の不遇な扱いも受け入れる」というまるで女性を人として扱わない前時代的な思想、発想だと受け止めた。

「貴方の言葉は解りました。では・・・ビオレッタさん、言いたいことがあればどうぞ」

ライネルは期待と希望の視線をビオレッタに向けた。
筆談だと聞けば隣の男性職員との距離が近いことも許容できる。

立ち上がったビオレッタと入れ違うようにライネルは椅子に腰を下ろした。


「わたくしは、離縁を望みます」
「なんでだ!ビオレッタ!」
「静かに!!発言は許していませんよ。別室で彼女の言葉の報告を受けるようにしますか?」
「いえ・・・ですがっ!ビオレッタ!!」

ライネルはビオレッタに縋るような視線を向けるがビオレッタの視線は調停員に向かっていた。


「わたくしは彼に恋人がいようと愛人がいようとどうでもいいのです。負傷し、全身が痛くて・・・このまま死なせてほしいと思っていた時に届いた水仙の鉢植え。その後、過去を後悔しているとクロッカスの花を受け取ったあと、彼が言ったのです。背中の傷はショッキングだから見せない方が良い、そして・・・見えない傷など傷のうちに入らないと。分かり合えないと思いました」


(そんな事‥‥言ったか?)ライネルはビオレッタの言葉に過去を思い出すが花束を渡した時、やっと会えたとしか思わず舞い上がっていて記憶になかった。

そしてビオレッタは「見て頂きたく思います」そう言うとウィッグを取った。
ライネルは驚きでぽかんと口を開けたまま何も言えず思考も止まった。調停員も驚いて口が半開きで固まっている。

貴族令嬢でなくても女性ならその姿を晒す事がどれほどの屈辱になるか。
それでもウィッグを取ったビオレッタ。決意の固さを示していた。

髪は伸びてはいるものの長さもちぐはぐ。ウィッグで隠しているなんて思いもしなかったが、考えてみれば救出した時にビオレッタのスカートの裾は熱風で自然発火を起こす寸前だった事をライネルは思い出した。

「髪はいずれ伸びてきますが、音はもう以前のようには聞こえません。医者からもわたくしがこうやって話す言葉も相手には聞き取れなくなる日が来ると告げられています。足も・・・歩く事は出来ますが馬に乗ったり走ったりはもう出来ないのです。隠さねばならない傷は沢山ありますが隠さなくても他者から見えない傷もあるのです」


ビオレッタは調停員に向けていた視線をライネルに向けてさらに大きく声をあげた。

「彼とはこの先を共に歩く事は出来ません。離縁を強く望みます」


ライネルは離縁を回避しようと動いたが、それはソフィアを発端とする事を勘違いされてはならないと思っての事だったが、ビオレッタがライネルへの気持ちを失ったのはライネルの言動そのものだった。

「嫌だ!嫌だ!ビオレッタ!お願いだよ!悪いところは全て直す!僕にはビオレッタしかいないんだ!何のために・・・何のために戦場に行き死線を超えて来たのか!全部ビオレッタ!君の為なのに!」

必死の叫びも早口だとビオレッタには全てを聞き取れない。
男性職員にライネルの言葉を書き取ってもらったビオレッタは今までライネルに向けた事も無い、何も感じ取れない無の表情で静かに告げた。

「自分の為でしょう?」

調停員もライネルが今にもビオレッタに飛び掛かりそうになったため、慌ててライネルを羽交い絞めにし、調停の終わりを告げた。

別室に通されたライネルがまだ気持ちも落ち着かない短い時間で調停は終わり、結果も通達された。

【離縁を認める】

短い文章にライネルは慟哭する。廊下を伝ってその悲痛な声がビオレッタの控室にも聞こえてくるが、ビオレッタにはライネルの声は聞こえなかった。

★~★
よっし!あと2話ですよ~p(*^-^*)q

この後は21時10分と・・・(ΦωΦ)フフフ…22時22分でぇす♡
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