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第06話    王命の書簡

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ライネルは何かに憑りつかれたように任務に没頭をした。
ビオレッタとの未来が無いのなら生きている意味すらないと寝る間を惜しんで・・・いや寝ることも放棄して爆破犯を探した。

アジトを点々としてなかなか尻尾が掴めなかったが、ようやく捕縛に至ったのはビオレッタが負傷してもうすぐ半年になろうとしている時だった。

爆破犯は複数人。国境を接する他国の人間で、戦火で村を焼かれ家族を失った者だった。

「お前たちが村を焼き!家族を殺したんだ!大事な人を失った悲しみを思い知れ!」

取り調べでそう言い放ちライネルの顔に唾を吐きかけた男は絞首刑となり城壁に吊るされた。

ライネルは屈辱など感じていなかった。
むしろ男を捕らえた事で高揚感に包まれていた。

何故ならこの事でライネルは国王から褒賞を貰えることが決定し「何でも望みの物を与える」という言葉に「ビオレッタ・オルバンシェとの婚姻を望む」と告げていたからである。

「その婚約は解消になったのではないのか?」
「手違いがあったのです。お互いが誤解をしており、きちんと話し合う事も無いまま当主同士が解消を決めてしまいました。当事者である私と彼女の気持ちなど捨て置かれたままに」


仲睦まじかった頃の2人は知る人がいないほどの相思相愛だった事は国王も知っていた。親により引き裂かれた悲劇の恋人。そんな印象を持った国王はオルバンシェ伯爵を呼び出し婚約解消に至る経緯を問い質した。

怒り心頭のオルバンシェ伯爵は「あり得ない!あんな男に嫁がせるくらいなら娘を修道院に入れる」と話を聞く処ではない。

余りにも憤慨し過ぎてオルバンシェ伯爵は鼻血を出し、その場に倒れてしまった。

アガトン伯爵も呼び出したのだが、ソフィアの事を隠して置かねば不貞行為で分が悪いと感じたアガトン伯爵は「オルバンシェ伯爵の意向に従ったまで」と全てをオルバンシェ伯爵家の言い出した事と逃げた。


記録を見れば、オルバンシェ伯爵家のビオレッタが爆破事件に巻き込まれて負傷していた事も直ぐにわかる。同時にライネルが帰還後は書類整理に追われ、その後は朝となく夜となく爆破犯を捜索し、爆破の有る度に負傷者を救助していた事も記録されていた。

記録されている事実だけを見れば「娘の見舞いにも来ないと父親が憤慨し暴走した」ようにも見える。

王命を出すとは言え、国王も1人の兵士の醜聞や恥部まで知るわけではない。
なにより不貞行為があるとして、いつライネルにそんな時間があったかと言えば「ない」と即答できる報告書。


国王は何でも望むものと言った手前、報告書を見る限りでは瑕疵のないライネルの希望通り、王命としてオルバンシェ伯爵家に書簡を出した。


「何が目的なんだ・・・こんな事なら修道院に・・・くそっ!」

修道院に入れてしまえば、家族ですら年に1回の面会も出来るかどうかわからない。神と結婚をしたとされる修道女となれば俗世に戻る事は先ずない。

娘に会えなくなる寂しさもあったが、貴族の令嬢が修道院に行くとなればビオレッタの怪我などから「二目と見られない令嬢を捨てた」とみなされて弟のレイスに後を継がせた時にレイスの居場所も無くなる。

だから修道院行きは反対したのだが、王命を使ってくる手に出るのなら修道院に入れておけば良かったと地団太を踏んだ。

親のひいき目ではないが、ビオレッタを望んでくれる青年はいる筈だとも考えた。

事実負傷した後、ビオレッタを妻にと釣り書きを送って来た貴族もいる。
ただ、オルバンシェ伯爵はその釣り書きは尽く暖炉に放り込んだ。


「傷物でしょう?お金をくれるなら娶りますよ?」と足元を見た釣り書きばかりだったからだ。

「何処の世界に娘を金を払って嫁がせる馬鹿がいるんだ!」貰ったとしても断ったであろうオルバンシェ伯爵の部屋の壁は至る所に釣り書きの数だけ絵画が飾られることになった。

「旦那様!いけません!」使用人が必死で止めたが、怒りで拳を壁に叩き込み穴だらけになったから絵画で隠す事になったのである。


オルバンシェ伯爵は書簡をグシャリと握り、「陛下に会って来る」と言ったが「これは決定です。お会いになったところで覆る事はありません」と言い残し部屋から出ていく従者を見送る事しか出来なかった。
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