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第05話    家族の気遣い

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夏が終わり、秋という季節を寝台の上で過ごす事となったビオレッタは半年も経てば部屋ではなく家族と食事を食堂で取れるようになった。

背中の傷の瘡蓋が肌寒さを感じれば引き攣るように痛みを発するし、しばらく寝たきりだった事もあって自室で歩行訓練をしたが、部屋から食堂まで歩けば息が上がる。

しかし、泣き言は言っていられなかった。
弟レイスが家を継げば小姑となる自分が何時までも家で厄介になっていれば弟の妻となる女性もいい気はしない。

レイスの婚約者はファッセル侯爵家の三女ナタリア。

「お義姉様はそんな事を考えないでくださいませ」と修道院行きを猛反対しているし、治療については国王や王妃も信頼を寄せる御殿医をビオレッタの為に手配もしてくれた。

ファッセル侯爵家の力なくしてビオレッタの回復は語れないほど尽力をしてくれたのだ。ナタリアもただ寝ているだけでは退屈だろうと詩集を持って来て、読み聞かせをしてくれたし歩行訓練も率先して手伝ってくれた。


「お父様、先日のお話はご検討いただけましたか?」

オルバンシェ伯爵の手が止まる。伯爵だけではなく母も、弟のレイスもビオレッタの声に肉を切るナイフの手が止まった。

「急がなくてもいいんじゃないか?ほら、今日も3件釣り書きが届いたんだ。まだ19なんだしゆっくり考えても問題ない」

「そうだよ。慌てて修道院に行く必要もないよ。ナタリアも姉上がいる方が楽しいと一緒に住む事を喜んでいるんだ」

家族はビオレッタに向かって、少し大きめの声でゆっくりと話す。1音1音をハッキリ唇を動かす様子もビオレッタに見せる。

声が聞き取りづらいビオレッタに対して配慮をしてくれているのだ。
ビオレッタにはそれが有難いと思う反面、本来ならしなくていい事をさせていると思おうと心苦しくもあった。


「でしたら・・・同居では御座いませんが籍をこのままにとお言葉に甘え、暫く領地に行かせてもらえませんか」

「領地か・・・しかし間もなく雪も降り始める。2カ月の道のりの途中で進めなくなってしまうからな。春になれば許可しよう。ただし、それまでに1人で庭を散策できる程度になってる事が条件だ」


出来ればライネルもいる王都は今夜にでも離れてしまいたい。事件から2カ月は完全な寝たきり。その後寝台の上に体を起こす事から始めて、やっと食堂まで歩けるようにもなった。

確かに今のままなら常に誰かの介助が必要で、ニーナにも家族が居るが家族を置いて領地に付き添う事になる。特にニーナは事故の責任を感じていてビオレッタが行くと言えば断っても付いていくというのは間違いない。

幼い頃は庭の木に登ってニーナに悲鳴をあげさせたお転婆だったが、そこまでに至らずとも問題ない程度に歩く事が出来るようになれば、ニーナには王都に残ってもらい1人で領地に行くことも出来るだろう。

「お父様。ありがとうございます」

ビオレッタはフォークで切らなくてもいいように皿に盛られた肉を頬張った。



しかし、領地に行くのを春が来る頃としてしまった事がビオレッタの人生を再再度狂わせる結果になるとは誰も思わなかった。オルバンシェ伯爵家の家族も使用人も、ビオレッタ本人ですら誰もが春になれば傷も癒え、前向きに歩き出せると考えていたからである。


「今日は庭に出てみるわ」
「お嬢様、無理ですよ。今朝は霜が降りていて外はお寒ぅ御座います」
「冬だから寒いのは当り前よ。ニーナはコートを5枚くらい羽織ればどうかしら?」
「私が温まってどうするんです!お嬢様の体が冷えると言っているのです!」
「歩いていれば体も温まるわ」

ビオレッタが肌寒く感じる風が吹く庭に出たのは事故から半年後。
くしくもその日、オルバンシェ伯爵家に王家から使いがやって来て国王の言葉を残していった。

【ライネル・アガトンとの結婚を認める】


オルバンシェ伯爵は国王から遣わされた従者の前でその書簡をぐしゃりと握り潰した。
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