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第04話    理解を超える

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「なんだこれは!!どういう事なんだ!?」

父のアガトン伯爵が留守のライネルに会わずに屋敷から帰って1週間後。

久しぶりに数時間の帰宅となったライネルは前回持ち帰った書類を隊舎で決済し、新たに執務机の上に置かれた書類をカバンに詰め込んでいた。

その中にオルバンシェ伯爵家の蝋封がされた封筒を見つけた。

「ビオレッタの具合はどうなんだろう。もう起き上がれるようになっただろうか」

そう呟いて封筒の中を取り出し、文字を見たとたんに叫んだ。




爆発のあった日。約束の時間に間に合うよう隊舎を出たライネルだったが、隊舎を出た所で見知った顔、ソフィアが子供を抱いて立っているのを見かけた。

「大事な用があるんだろうか」と愛馬から下りて話しかけると、名を呼んだだけでソフィアはその場に泣き崩れ、周囲の目もありこのままにはしておけないと個室のあるカフェにソフィアを連れて行った。

時間を気にするライネルだったが、しくしくとただ泣くだけのソフィアに事情も聴けずにいた時、離れた場所であるカフェも窓や外壁が大きく揺れた。

ガラスが割れるほどではなかったが、「爆発だ!劇場の方だぞ」空に舞い上がる真っ黒な煙を見て叫ぶ人の声にライネルはソフィアを宥める事などすっかり忘れてカフェを飛び出し、馬を走らせた。

ライネルが到着した頃にはもう火が出ていたが、倒れている人を助けようと何人もの男達がケガ人を運んでいた。

「ビオレッタ?!ビオレッタはどこだ?!」

約束の時間に自分が来る事が出来ていれば劇場へ入場するのは16時。
それまでの時間で来年に控えた結婚式でお互いの指にはめる結婚指輪を選ぶために店を訪れる予定だった。

ソフィアに時間を取られていなければビオレッタはこの場にはいないという事だが、約束の時間から少し遅れてもきっとビオレッタは待っていたであろうことを思うとライネルはいても経ってもいられず、その場にある瓦礫を覗き込み、ビオレッタの名を呼んだ。

その時、聞き覚えのあるニーナの声がした。

「お嬢様っ!お嬢様!しっかりなさってくださいませッ!」

瓦礫に躓きながら辿り着けばそこまで迫った火にビオレッタのスカートの裾が煙を上げ始めていた。しかし動かそうにも片腕が瓦礫の下にあり、無理に引き抜けば腕は千切れてしまう。

「僕が持ち上げて隙間を作る。その間に体を引いてくれ」
「解りましたッ!」

ただの瓦礫となった大きな看板をなんとか少しだけ浮かせるとニーナがビオレッタの体を引いた。

「よし、逃げるぞ!走れるか」
「はいっ!」

ニーナの顔も手も血だらけで、服も汚れ破れもあった。

安全な場所までビオレッタを運ぶとライネルはまだ逃げきれていない者を助けるために戻るしかなかった。それが兵士の役目でもあり、ここに来た以上ビオレッタだけを救えばそれで終わりではなかったのだ。

大怪我である事は間違いないが、ビオレッタが生きている事はライネルには励みにもなりその後、15名を救出する事も出来た。

が、それからは相次いで起こる爆破事件に時間を取られ、隊舎から離れることも出来ない。
手紙を出そうと紙とペンを取ればその上に新たな報告書が持ち込まれて手紙を書く時間も無い。

睡眠も30分ほど仮眠を取ればまた報告書と爆破犯を捜索するために出掛けねばならず、兵士の中には疲れ切って馬に騎乗したまま眠ってしまい落馬して負傷する者も出た。


そんな2か月を過ごしていたのだが、手にした封筒は婚約解消の手続きが承認された事を示す王宮からの文書。

「どうして婚約が解消なんだ?!理解出来ない!」

家令の顔を見るが家令は「何故、驚いているのですか?」とこっちが理解不能だと言わんばかりにライネルを見た。


家令から見ても執事から見ても「婚約破棄にならなかっただけ儲けものでしょう?」としか思えなかったからである。


ライネルはオルバンシェ伯爵家に向かったのだが、門番もそれまで笑顔で迎えてくれていたのに「取り次いでくれないか」と頭を下げても「先触れのない方にあるじは会いません」とにべもない。

先触れを出しオルバンシェ伯爵と面会の約束を取り付けてはみるものの、余程に運がないのか、いや見放されたのか約束の日にまた爆破があった。

私用で抜けるとは言い出せず、後ろ髪を引かれる思いで任務にあたる。事情を再度したためて面会を求めるも届くのは断りの返事ばかりとなった。
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