元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru

文字の大きさ
上 下
26 / 56

好きでも限度がある

しおりを挟む
ガシャーン!!

パトリックの屋敷の窓ガラスに小さめの花瓶が投げつけられて割れてしまいます。
降ってくるガラスを慌てて避ける庭師たちがいます。

外にいる者たちは割れた窓ガラスから聞こえてくる声を聞き漏らすまいとじっと立ったままです。
部屋の中では、パトリックとリリシアが向かい合っております。

「なんでよ!なんで?何でも買っていいって言ったじゃない!」
「わかった。わかった。買ってもいい。だが月に100万までだ」
「100万?たった100万で何が買えるって言うのよ!」

1本の指に1つだけでなく2つも指輪をした指が幾つもありますし、付けられない指輪は10個以上ある宝石箱にぎっしりと詰まっています。
首には珍しい大粒で透明度の高いサファイアのネックレス。
そのネックレスももういくつ目かというほど買っていますし、毎月何着も自分仕様に誂えるドレス。下着や手袋、帽子、バッグなど1回しか使わないどころか、出来たからと届いてみたら箱から出しもしないものだってあります。

菓子も一口食べれば次の菓子と食べくさしていくだけで、齧られているので使用人も持ち帰ったりできません。
すべて廃棄処分になっていきます。

パトリックは1週間執事とみっちりそれまでの収支の見直しをしておりました。
明らかに変わったのは、自分がここの領主になってからです。
それまでは少ないながらも純利益はプールできていたのですが、領主になってたった2か月でなくなり、そこからは公爵家からの援助で借金はせずにすんでおりましたがそれも2年が限度。

次の1年は借金をしてなんとか賄い、使用人を減らし、給料を減額し、税金を限度額まで引き上げましたが翌年はもう完全な自転車操業状態。危うく倒れるところでエレインとの婚約、結婚となってドーンとまとまって2億が入りましたが、それも今では残り2千万あるかどうかまで減っています。それだって使用人への給与と屋敷の維持費で消えていきます。

かろうじて王家からのエレインの支度金の5憶は手付かずですがこのままリリシアの散財が続けば王家からの支度金に手を付けるしかなくなります。

すでに公爵家からのエレインの支度金に、エレインには全く使わず残り10%弱になっている事を知られれば廃嫡は間違いありません。
王家からの支度金に手を付ければパトリックだけでとどまらず、公爵家の降格すらあり得るのです。

まだエレインが嫁いでたった3か月弱だというのにどうした物かとやっと腰を上げて、パトリックはリリシアに買い物の制限だけでも守ってもらおうとしたのです。
ドレスも宝石も小物も沢山ありますし、毎月100万すら実際はきびしいけれど贅沢な菓子なら買えるだろうと思ったのですが、蓋を開ければ物を投げるわ、喚き散らすわのリリシアです。

「リリシア、判ってくれ。正直その100万だってやっと捻出するんだ」
「関係ないわ。約束が違うわ!ちゃんと守ってよ!」

ガシャーン!!

またリリシアの投げたものがガラスに当たり割れていきます。
窓ガラスだって無料ではありません。ガラスだけではなく枠だって変えなければならないし、それまでの間に雨でも降ればここは執務室。大事な資料が濡れてしまったりしたら大変です。

「物を投げるのは危ないよ。やめてくれ」
「なら今まで通りの買い物をさせてよ!」
「それは無理なんだ‥‥こんな事は言いたくないが金がないんだ」
「ならあの女からもらえばいいじゃない!いっぱい持ってたわ」
「なっ‥‥そんな事出来るわけがないだろう!」
「出来るわよ。何度か寝てあげれば?イかせてあげれば出してくれるわよ」

あまりの下品な発言にパトリックは額に手をやります。執事は無表情。
リリシアは魔法契約がどういうものかを理解していないのでどうにでも出来ると思っているようです。
しかし、リリシア以外は知っているのです。特にパトリックはエレインの事をどうするべきか考えるだけで胸が焼けるように熱くなります。恋焦がれているのではなく刻印が熱を持ち、火傷するかと思うほど。

「とにかく、買い物は月に100万だ。それ以上は無理だ」
「なら1年我慢すれば今月1200万は構わないの?」

確かに計算上ではそういう理屈も成り立ちますが相手はリリシア。
翌月から1年間何も買わないなんてとても思えません。
今の提案の月に100万が飲めないのに0が出来るはずがないと思うのも当然ですからね。

「だめだ。月に100万。その月に余りが出ても翌月には回せない。もうそこまで来てるんだよ。出来れば買い物はしないでくれるとありがたいとも思っているんだ」

「無理よ!こんな田舎で他に何の愉しみがあるって言うの?このイ●ポ!!」

大声で言い残すとバタンとドアを乱暴に締めて退室してしまいます。

「旦那様‥‥本当ですか?」
「‥‥‥‥あぁ」
「はぁ…」

静かになった執務室ですが玄関からは馬車が出ていきます。

「全く‥‥」
「支払いについては業者には通知しておりますので」
「あぁ、助かる」

そして夕方になり屋敷に知らせが届くのです。
買い物に制限をつけられたリリシアが宝飾品店で暴れて多くの品が破損しただけでなくケガ人まで出たというパトリックにとっては訃報とも言える知らせでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

侯爵夫人のハズですが、完全に無視されています

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のシンディーは学園を卒業と同時にキャッシュ侯爵家に嫁がされた。 しかし婚姻から4年、旦那様に会ったのは一度きり、大きなお屋敷の端っこにある離れに住むように言われ、勝手な外出も禁じられている。 本宅にはシンディーの偽物が奥様と呼ばれて暮らしているらしい。 盛大な結婚式が行われたというがシンディーは出席していないし、今年3才になる息子がいるというが、もちろん産んだ覚えもない。

いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と

鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。 令嬢から。子息から。婚約者の王子から。 それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。 そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。 「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」 その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。 「ああ、気持ち悪い」 「お黙りなさい! この泥棒猫が!」 「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」 飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。 謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。 ――出てくる令嬢、全員悪人。 ※小説家になろう様でも掲載しております。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

私は王子のサンドバッグ

猫枕
恋愛
伯爵令嬢のローズは第二王子エリックの婚約者だった。王子の希望によって成された婚約のはずであったが、ローズは王子から冷たい仕打ちを受ける。 学園に入学してからは周囲の生徒も巻き込んで苛烈なイジメに発展していく。 伯爵家は王家に対して何度も婚約解消を申し出るが、何故か受け入れられない。 婚約破棄を言い渡されるまでの辛抱と我慢を続けるローズだったが、王子が憂さ晴らしの玩具を手放すつもりがないことを知ったローズは絶望して自殺を図る。

私も貴方を愛さない〜今更愛していたと言われても困ります

せいめ
恋愛
『小説年間アクセスランキング2023』で10位をいただきました。  読んでくださった方々に心から感謝しております。ありがとうございました。 「私は君を愛することはないだろう。  しかし、この結婚は王命だ。不本意だが、君とは白い結婚にはできない。貴族の義務として今宵は君を抱く。  これを終えたら君は領地で好きに生活すればいい」  結婚初夜、旦那様は私に冷たく言い放つ。  この人は何を言っているのかしら?  そんなことは言われなくても分かっている。  私は誰かを愛することも、愛されることも許されないのだから。  私も貴方を愛さない……  侯爵令嬢だった私は、ある日、記憶喪失になっていた。  そんな私に冷たい家族。その中で唯一優しくしてくれる義理の妹。  記憶喪失の自分に何があったのかよく分からないまま私は王命で婚約者を決められ、強引に結婚させられることになってしまった。  この結婚に何の希望も持ってはいけないことは知っている。  それに、婚約期間から冷たかった旦那様に私は何の期待もしていない。  そんな私は初夜を迎えることになる。  その初夜の後、私の運命が大きく動き出すことも知らずに……    よくある記憶喪失の話です。  誤字脱字、申し訳ありません。  ご都合主義です。  

婚約者と義妹に裏切られたので、ざまぁして逃げてみた

せいめ
恋愛
 伯爵令嬢のフローラは、夜会で婚約者のレイモンドと義妹のリリアンが抱き合う姿を見てしまった。  大好きだったレイモンドの裏切りを知りショックを受けるフローラ。  三ヶ月後には結婚式なのに、このままあの方と結婚していいの?  深く傷付いたフローラは散々悩んだ挙句、その場に偶然居合わせた公爵令息や親友の力を借り、ざまぁして逃げ出すことにしたのであった。  ご都合主義です。  誤字脱字、申し訳ありません。

婚約解消したら後悔しました

せいめ
恋愛
 別に好きな人ができた私は、幼い頃からの婚約者と婚約解消した。  婚約解消したことで、ずっと後悔し続ける令息の話。  ご都合主義です。ゆるい設定です。  誤字脱字お許しください。  

巻き戻り令嬢は長生きしたい。二度目の人生はあなた達を愛しません

せいめ
恋愛
「アナ、君と私の婚約を解消することに決まった」  王太子殿下は、今にも泣きそうな顔だった。   「王太子殿下、貴方の婚約者として過ごした時間はとても幸せでした。ありがとうございました。  どうか、隣国の王女殿下とお幸せになって下さいませ。」 「私も君といる時間は幸せだった…。  本当に申し訳ない…。  君の幸せを心から祈っているよ。」  婚約者だった王太子殿下が大好きだった。  しかし国際情勢が不安定になり、隣国との関係を強固にするため、急遽、隣国の王女殿下と王太子殿下との政略結婚をすることが決まり、私との婚約は解消されることになったのだ。  しかし殿下との婚約解消のすぐ後、私は王命で別の婚約者を決められることになる。  新しい婚約者は殿下の側近の公爵令息。その方とは個人的に話をしたことは少なかったが、見目麗しく優秀な方だという印象だった。  婚約期間は異例の短さで、すぐに結婚することになる。きっと殿下の婚姻の前に、元婚約者の私を片付けたかったのだろう。  しかし王命での結婚でありながらも、旦那様は妻の私をとても大切にしてくれた。  少しずつ彼への愛を自覚し始めた時…  貴方に好きな人がいたなんて知らなかった。  王命だから、好きな人を諦めて私と結婚したのね。  愛し合う二人を邪魔してごめんなさい…  そんな時、私は徐々に体調が悪くなり、ついには寝込むようになってしまった。後で知ることになるのだが、私は少しずつ毒を盛られていたのだ。  旦那様は仕事で隣国に行っていて、しばらくは戻らないので頼れないし、毒を盛った犯人が誰なのかも分からない。  そんな私を助けてくれたのは、実家の侯爵家を継ぐ義兄だった…。  毒で自分の死が近いことを悟った私は思った。  今世ではあの人達と関わったことが全ての元凶だった。もし来世があるならば、あの人達とは絶対に関わらない。  それよりも、こんな私を最後まで見捨てることなく面倒を見てくれた義兄には感謝したい。    そして私は死んだはずだった…。  あれ?死んだと思っていたのに、私は生きてる。しかもなぜか10歳の頃に戻っていた。  これはもしかしてやり直しのチャンス?  元々はお転婆で割と自由に育ってきたんだし、あの自分を押し殺した王妃教育とかもうやりたくたい。  よし!殿下や公爵とは今世では関わらないで、平和に長生きするからね!  しかし、私は気付いていなかった。  自分以外にも、一度目の記憶を持つ者がいることに…。      一度目は暗めですが、二度目の人生は明るくしたいです。    誤字脱字、申し訳ありません。  相変わらず緩い設定です。

処理中です...