元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru

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サビネコ便の配達員

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ワッサワサに伸び放題となって畑だらけになっているパトリックの領地。
特に可愛い花が咲くわけではなく、かといって食べられそうな植物でもない。

「なんだあれは!農夫を呼べ!」
「旦那様、あれは既に来年分まで見込み税収を納めている土地です」
「なっなんだって?こんなに広いんだぞ?そんなはずはないだろう?」
「いいえ、間違いなく旦那様が了承したと奥様と約束した土地で御座います」
「農夫たちは何をしているんだ?まさか作業もせずにごろ寝してるのか?」
「いいえ、持ち出しの手弁当で堰堤の修繕を行っております」
「畑を放ったままでか!しかり飛ばしてやる」
「いいのですか?奥様との約束を反故にされても」
「あれは魔法契約のうちにははいっておらん」

そう言って、馬に跨り堰堤で作業をする農夫たちのもとにやってきます。
騎乗して見下ろす限り、サボっている様子はありませんし、間違いなく自前の作業道具に手弁当です。

「そろそろじゃないのか?」
「いや、約束まではあと3週間ある。まだだな」
「結構草が生え放題になってるんだが、大丈夫だろうか」
「文句は言えねぇだろう?金は払ってもらったんだし」

農夫たちは作業をしながら話をしているのをパトリックが聞いているのを知りません。

「でもあの奥様別嬪さんだったよなぁ」
「領主さまももったいないことするよな。あの女またいただろう?」
「隣の村のリックとだってよ」
「竿が立派なら誰でもいいって事か。領主さまも気の毒になぁ」
「いやあの奥さんをあんなところに追いやるんだからソッチは普通じゃないんだろうな」

イマイチ、ピンとこない会話。
あの女とは誰の事だ?と頭の中には疑問符を咥えてカモメがハーバーライト。
隣村のリックとは何者なんだ?まさかエレインが連れ込んでいるのか?
そう思っていると農夫たちは道具を片付け始めます。

「さて、午後は里芋に寄せ土をするんだったな」
「半年くらいで収穫と言ってたが大丈夫かなぁ。さらに土がドロドロだぞ」
「土が乾いたらだめらしいぞ。取り敢えず言われたようにやってみるだけだな」

木の陰に隠れてみていると、草が茂っていない畑に足を取られながらも育っている苗に土を根元へと盛っています。
農作業の指導はした事がなかったのに誰がしているんだろう?とふと考えます。
農夫たちの話を盗み聞きする限りでは屋敷の者ではなさそうです。

ふと先程まで作業をしていた堰堤の場所に戻ってみると、見た事ないような木の組み方をしています。
そこに小石を隙間なく詰め込んで叩いて締めたような形跡があります。
土木作業も農夫たちに教えた事はないんだが…と思い屋敷に帰ったら聞いてみようと思うのです。


屋敷に帰るまでの間によく出入りしている業者の馬車とすれ違います。
あれほど買い物はダメだと言っているにも関わらずリリシアの買い物は止まりません。
先月は王都で買い物をした最後の領袖がきましたが、目玉が飛び出て思わず「キタ●ー」っと叫びそうになりました。
昨年の純利益が全て吹き飛んでも足らないくらいの額の買い物をたった半日足らずでしていたリリシア。
それでも飽き足らず毎週のようにやって来る業者にあれこれ頼んでいるようです。

と、そこに猛スピードで駆けていく馬が1頭近づいてきます。
砂煙の量からするとかなり飛ばしているようです。屋敷になにか早馬か?と思ったら屋敷の方には行かずに樫の木の祠のある方に曲がっていきます。
ちらっと見えた鞍には「サビネコ便」と書かれていたなと思うパトリック。
でもあの先は‥‥そう、エレインしか住んでいる者はいません。

慌てて追いかけ祠の分岐のあたりで追いつき、呼び止めます。

「この先に何か用があるのか」
「ありますよ。お届け便ですから」
「お届け便?屋敷への間違いではないのか?」
「いいえ?定期購読いただいてまして今回初めてなんですがこの先で間違いないです」
「間違いない?本当に?依頼主は誰なんだ?」
「えぇっ?何言ってるんです。腐ってもサビネコ便。個人情報は教えられません」
「ちょっとでいいんだ。誰宛なのか教えてくれ」
「個人情報はダメですってば!‥‥あっ!」

パトリックに掴まれそうになった配達員、片足が溝に嵌ってスニーカーが泥だらけです。
パトリック配達員の肩を掴んでお願いをしている夏の夕暮れ。

「頼む、5分だけでいい!俺の話を聞いてくれ」
「嫌ですよ。キャンセルの電話でもかかってきたらどうしてくれるんです」

ジ―ジーセミが鳴きます。

ジィジグジィジグジグジグ…♪1匹だけが鳴いてるようです。

「そ、そうか‥‥すまなかった。帰りに領主の屋敷に寄ってくれないか」
「何か引き受ける荷物があるんですか?でも無理です」
「何故だ?」
「私、配達専門なので。よくあるでしょう?この手紙は送信専用ですみたいなの。あれです」

思わぬ時間を食ってしまった配達員ここからが一番の難所なのに!シャァァァー!
夜道はそのまま駆け抜けるつもりのようですね。頑張れサビネコ便。


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