元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru

文字の大きさ
上 下
18 / 56

夫の切実な悩みが始まる日

しおりを挟む
ドドドっと走っていくと確かに大きな樫の木があります。おぅ!祠もあるではないですか。
あの地図が下手な執事よりよっぽど門番のほうが役に立つよねと思いつつ分岐を左へ。

馬の前方に何個も照明弾となる火魔法を飛ばしながら走っていきます。
勿論火事になってはいけないので線香花火仕様。ジュボっと落ちる寸前で消えていきます。

パトリックの屋敷の最上階(と言っても3階)からは明るい玉のようなものが遠くの方に消えていくのが見えます。

リリシアが湯あみをしているようで執務室にはパトリックと執事。
執事は残念そうな顔をしております。

「旦那様、本当に良かったのですか?」
「何がだ?」
「あの魔法で出した現金ですが、黒い穴の向こう…多分数億はありましたよ」
「えっ?‥‥何故それを言わない」
「言ってどうなるのです?向こうは正論、こっちは感情論になるだけです」

「それもそうだが…」
「なんだかとてつもなく大きな魚を逃がした気がするのですが」
「俺もなんとなくそんな気はしている」

「それから、王太子殿下から書簡が届いております」
「殿下から?何故それを先に言わない」
「言ってどうなるのです?今から読んで頂くのに。言うより見たほうが早いです」

王太子殿下からの書簡を受け取り目を通していくパトリック。
はぁ~っと頭を抱えております。

「どうしますか」
「どうするもなにも‥‥断れないだろう」
「それは承知しておりますが、公爵様からも叱られますよ」
「頭が痛いな。金はもう…借りられないだろう」
「そうですね。本気でお考えくださいね。離縁までの1年を待たず破産しますよ」
「そうだな…買い物を控えるように言っておくよ」
「何度も聞きまましたが、今度は本気でお願いします」

執事は本日届いた分ですとリリシアの王都で買い物をした請求書の束を置いていきます。
一番上にあるものは一番安い物のようですがそれでも500万。
それが何枚あるのだろうと今更ながらにパトリック頭を抱えます。

王太子殿下は来月早々にエレインに会いに行くと書簡に書いています。
リリシアの事は知っているとは言え、実に悩ましい問題です。
地図でしか見た事のない辺境の中の辺境に本当に追いやってしまった今、取り返しもつきません。

「可愛いんだが…浪費が半端ないな」

当面は父の公爵がエレイン用として渡してくれた2億で払えるでしょうが半分は王都の買い物で消えてしまうのがなんとも言えない所です。
執事の言う父から叱られるのはエレインの為の金を一切エレインの為には使わずにリリシアに使ったことがバレれば廃嫡だけでは済まない事を示唆しているようです。

椅子に深く腰をかけてエレインとの6か条が書かれた紙を手にして読んでいます。
胸がポォっと明るくなり、なんだ?と見てみると刻印がある事に気が付きます。

「ガチだったのか…本気でマズいな」

呟いた時、ノックもなしに扉が開きます。

「おまたせぇ。今日もかわいい??」
「あぁ、可愛いよ」
「うふっ。じゃぁベッドに行こうよぉ」

リリシアに手を引かれベッドのある寝室に行くと、お姫様抱っこをせがむリリシア。
疲れているんだけどなと思いつつ、要望に応えてベッドまで運びます。

王都で買ったという指輪をした指を色んな角度で見ているリリシアは確かに可愛いと思うけれど、なんとなく色あせて見えてしまう気がして、フルフルと首を横に振ります。

もう4年になるリリシアとの付き合い。ケンカをしたのも、自分がリリシアの男だと公爵家の男が言うものだからついつい殴ってしまった。弟2人はそれに巻き込まれただけである。
店を半壊させるほど暴れてしまい喧嘩両成敗かと思ったら向こうは腕の骨を折っていた。
反省しろと辺境に飛ばされた時、リリシアが王都は離れたくないと嫌がったので何でも買ってやると連れては来たもののこれほどだとは思わなかった。

それでも守ってやらないとと思う庇護欲をかり立たされ我儘を聞いてきたが、エレインを見た今、これいいのかと考えてしまっています。

「いい指輪だな。ちょっと見せてくれ」
「だめー。これはりりィのだもん」

触らせてくれることもないリリシアと、かなり昔のしかも初版本をどうぞと事も無げに貸してくれたエレインをついつい比べてしまっています。

灯りを消してリリシアを抱きましたが、射精まで至らずに途中で萎えてしまう息子。
翌日以降は、リリシアが色々と試すもののちっとも反応しなくなってしまいます。
いったいどうした俺?と22歳のパトリック。EDかも?と悩む日々がはじまったのでした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

(完結)その女は誰ですか?ーーあなたの婚約者はこの私ですが・・・・・・

青空一夏
恋愛
私はシーグ侯爵家のイルヤ。ビドは私の婚約者でとても真面目で純粋な人よ。でも、隣国に留学している彼に会いに行った私はそこで思いがけない光景に出くわす。 なんとそこには私を名乗る女がいたの。これってどういうこと? 婚約者の裏切りにざまぁします。コメディ風味。 ※この小説は独自の世界観で書いておりますので一切史実には基づきません。 ※ゆるふわ設定のご都合主義です。 ※元サヤはありません。

婚約者の浮気相手が子を授かったので

澤谷弥(さわたに わたる)
恋愛
ファンヌはリヴァス王国王太子クラウスの婚約者である。 ある日、クラウスが想いを寄せている女性――アデラが子を授かったと言う。 アデラと一緒になりたいクラウスは、ファンヌに婚約解消を迫る。 ファンヌはそれを受け入れ、さっさと手続きを済ませてしまった。 自由になった彼女は学校へと戻り、大好きな薬草や茶葉の『研究』に没頭する予定だった。 しかし、師であるエルランドが学校を辞めて自国へ戻ると言い出す。 彼は自然豊かな国ベロテニア王国の出身であった。 ベロテニア王国は、薬草や茶葉の生育に力を入れているし、何よりも獣人の血を引く者も数多くいるという魅力的な国である。 まだまだエルランドと共に茶葉や薬草の『研究』を続けたいファンヌは、エルランドと共にベロテニア王国へと向かうのだが――。 ※表紙イラストはタイトルから「お絵描きばりぐっどくん」に作成してもらいました。 ※完結しました

結婚式をやり直したい辺境伯

C t R
恋愛
若き辺境伯カークは新妻に言い放った。 「――お前を愛する事は無いぞ」 帝国北西の辺境地、通称「世界の果て」に隣国の貴族家から花嫁がやって来た。 誰からも期待されていなかった花嫁ラルカは、美貌と知性を兼ね備える活発で明るい女性だった。 予想を裏切るハイスペックな花嫁を得た事を辺境の人々は歓び、彼女を歓迎する。 ラルカを放置し続けていたカークもまた、彼女を知るようになる。 彼女への仕打ちを後悔したカークは、やり直しに努める――――のだが。 ※シリアスなラブコメ ■作品転載、盗作、明らかな設定の類似・盗用、オマージュ、全て禁止致します。

悪役令嬢の去った後、残された物は

たぬまる
恋愛
公爵令嬢シルビアが誕生パーティーで断罪され追放される。 シルビアは喜び去って行き 残された者達に不幸が降り注ぐ 気分転換に短編を書いてみました。

欲しいというなら、あげましょう。婚約破棄したら返品は受け付けません。

キョウキョウ
恋愛
侯爵令嬢のヴィオラは、人の欲しがるものを惜しみなく与える癖があった。妹のリリアンに人形をねだられれば快く差し出し、友人が欲しがる小物も迷わず送った。 「自分より強く欲しいと願う人がいるなら、譲るべき」それが彼女の信念だった。 そんなヴィオラは、突然の婚約破棄が告げられる。婚約者である公爵家の御曹司ルーカスは、ヴィオラを「無能」呼ばわりし、妹のリリアンを新たな婚約者に選ぶ。 幼い頃から妹に欲しがられるものを全て与え続けてきたヴィオラだったが、まさか婚約者まで奪われるとは思ってもみなかった。 婚約相手がいなくなったヴィオラに、縁談の話が舞い込む。その相手とは、若手貴族当主のジェイミーという男。 先日ヴィオラに窮地を救ってもらった彼は、恩返しがしたいと申し出るのだった。ヴィオラの「贈り物」があったからこそ、絶体絶命のピンチを脱することができたのだと。 ※設定ゆるめ、ご都合主義の作品です。 ※カクヨムにも掲載中です。

僕は君を思うと吐き気がする

月山 歩
恋愛
貧乏侯爵家だった私は、お金持ちの夫が亡くなると、次はその弟をあてがわれた。私は、母の生活の支援もしてもらいたいから、拒否できない。今度こそ、新しい夫に愛されてみたいけど、彼は、私を思うと吐き気がするそうです。再び白い結婚が始まった。

旦那様は私より幼馴染みを溺愛しています。

香取鞠里
恋愛
旦那様はいつも幼馴染みばかり優遇している。 疑いの目では見ていたが、違うと思い込んでいた。 そんな時、二人きりで激しく愛し合っているところを目にしてしまった!?

多分悪役令嬢ですが、うっかりヒーローを餌付けして執着されています

結城芙由奈 
恋愛
【美味しそう……? こ、これは誰にもあげませんから!】 23歳、ブラック企業で働いている社畜OLの私。この日も帰宅は深夜過ぎ。泥のように眠りに着き、目覚めれば綺羅びやかな部屋にいた。しかも私は意地悪な貴族令嬢のようで使用人たちはビクビクしている。ひょっとして私って……悪役令嬢? テンプレ通りなら、将来破滅してしまうかも! そこで、細くても長く生きるために、目立たず空気のように生きようと決めた。それなのに、ひょんな出来事からヒーロー? に執着される羽目に……。 お願いですから、私に構わないで下さい! ※ 他サイトでも投稿中

処理中です...