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第27話 前進あるのみ
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アレはなんだったのか。
やっと落ち着ける家に戻って来たのになんだか落ち着かない。
気を利かせたヴェッセルが勝手知ったるなんとやらでジェッタ伯爵とコルネリアに茶を淹れた。
「ハーベ伯爵家か…いったいなんでまた今頃」
ポツリとジェッタ伯爵が呟く。
婚約は破棄になったし、慰謝料も払ってもらった。その金はコルネリアがジェッタ伯爵に預けているが一切手を付けていない。
婚約破棄となってハーベ伯爵家にはいろんなことが一気に起こった。
カスパルの廃籍の1週間後には長兄が家督を継いだが、コルネリアが世話をしていた先々代夫人が無くなったのはそのたった3日後。
「待っていたのかしら」コルネリアも呟いた。
「待っていた?」ヴェッセルとジェッタ伯爵が問う。
食事に着替えに清拭、そして排泄の世話に寝返りを数時間おき。全ての世話をしていたコルネリアに先々代夫人が「マトモ」になる時間は極わずか。月に1回数分あるかないかだったが殆どの時間は理性が効かない状態だったので積年の恨みもあったのだろう。
先々代夫人からすれば義両親にあたる2人への罵詈雑言は聞いている方が心を病むくらいに酷いものだった。
そして嫁イビリが解っていて庇ってくれない夫、自分よりも義両親に甘える息子、そしてそんな血を濃く受け継いだ孫。コルネリアは家族だからこそ許せないのだろうなと感じていた。
「マトモ」になった時に必ず言うのが「なんで他人の貴女が世話をするの!」だったが、他にいないので仕方がない。
「何となくだけど、家族だけになったから人生の最期に復讐しようとしたような気がするの」
だとすれば廃籍になったカスパルは?となるが、先々代夫人は何故かカスパルだけは嫌っていた。カスパルは間違いなくハーベ伯爵と夫人の子供なのだが、似ている部分が1つもないカスパル。先々代夫人はカスパルの母親の不貞をずっと疑っていた。
だからカスパルは先々代夫人の中では家族じゃなかったのではないかと思えるのだ。
本当の孫なのに憐れなものだ。
扉の外で丁度帰宅をしたコルネリアの母親が言葉をかけながら部屋に入って来た。
「亡くなった人を悪く言ってはいけないわよ。先々代夫人を思い出す時は刺繍を教えて貰っていた頃だけにしておきなさい。その中でも嬉しそうにしていた時だけのね」
うーん…と考えるが正直、刺繍に関しては凄いなと思ったことはあるがコルネリアも先々代夫人個人になると申し訳ないが「いいところが見つからない」のが正直な感想。
時代もあるのだろうが選民思想っがハッキリしていて、年長者は敬ってナンボだったので結構教え方も「こんな事も判らないなんて」と散々に馬鹿にされたし、ジェッタ伯爵家を継ぐので当主に成るための勉強をしていた事から先々代夫人の友人に褒められたりすると「褒められて嬉しいと思うより女のくせに出しゃばる事を恥と思え」と言われたりもした。
先々代夫人の時代には女性が男性のように家を経営したり、事業を行う事は恥ずかしい事だったのだ。
「前時代的な人ほど他人を受け入れないからね。新しい事とか先ず反対する事から始めるし、文書にしても斜め読み。都合のいいところしか切り取らないものさ。それが彼らの生き方だと認めればいいんだよ」
ヴェッセルが言うと言葉に重みを感じるのはシャウテン子爵家の行う事は昔から身分制度を否定するものが多かったので突き上げもそれなりに経験をしているからだろう。
パンパンとジェッタ伯爵が手を打ち鳴らした。
「ハーベ家の事は終わり!彼らはもう関係ない。事業の関りもないし彼らの事よりもこれからだ。副王都では何か収穫があったのか?」
「もう、帰ったばかりなんだから今日は休ませてあげれば?」
ジェッタ伯爵の言葉に夫人が副王都から戻ったばかりの2人を気遣うが、若さもあるのか2人はごそごそとカバンを開けて書類を幾つか取り出した。
「お母様。気遣いは有難いんだけど覚えているうちに伝えておきたいの」
そう言ってコルネリアはバルトリの説明を両親にし始めた。
「ただ設置すればいいものでもないですが伯爵にお願いがあるんです」
「お願い?私にかね?」
「えぇ。ジェッタ伯爵家の領地が王都からすれば川の上流にあります。その領地に貧民窟の者を林業従事者として向かわせたいのです」
「林業…山の手入れをしてくれるのかい?それは有難いが…」
ジェッタ伯爵の懸念は貧民窟の者への偏見ではなく、文字の読み書きなどが不十分なので林業をするとしても不慣れであり、手順などを口頭だけで説明をするのは滑落や大雨の時の崩落などを伝え難いからと言うもの。
領民であれば最低限の伝達は主に貼り紙などだが読めないと常に誰かが教えてやらねばならなくなる。
「最低限の読み書きは教えます。直ぐは無理なので5年。この5年で受け入れ態勢を整えてもらえないでしょうか。領民の方もいきなり大勢が来るとなれば混乱すると思いますので」
「5年か…ならその間、交流をさせてはどうだろう。貧民窟から領地に向かう者だってどんな場所かも判らなかったら困るだろうし、来てみてこんなはずじゃないとなれば時間だけを無駄に使う事にもなる」
「それでね!お父様。領地にこのバルネリを作ろうと思うの」
「バルネリ?なんだいそれは」
副王都で書き写してきたバルネリの図面を見せるとジェッタ伯爵は唸った。
やっと落ち着ける家に戻って来たのになんだか落ち着かない。
気を利かせたヴェッセルが勝手知ったるなんとやらでジェッタ伯爵とコルネリアに茶を淹れた。
「ハーベ伯爵家か…いったいなんでまた今頃」
ポツリとジェッタ伯爵が呟く。
婚約は破棄になったし、慰謝料も払ってもらった。その金はコルネリアがジェッタ伯爵に預けているが一切手を付けていない。
婚約破棄となってハーベ伯爵家にはいろんなことが一気に起こった。
カスパルの廃籍の1週間後には長兄が家督を継いだが、コルネリアが世話をしていた先々代夫人が無くなったのはそのたった3日後。
「待っていたのかしら」コルネリアも呟いた。
「待っていた?」ヴェッセルとジェッタ伯爵が問う。
食事に着替えに清拭、そして排泄の世話に寝返りを数時間おき。全ての世話をしていたコルネリアに先々代夫人が「マトモ」になる時間は極わずか。月に1回数分あるかないかだったが殆どの時間は理性が効かない状態だったので積年の恨みもあったのだろう。
先々代夫人からすれば義両親にあたる2人への罵詈雑言は聞いている方が心を病むくらいに酷いものだった。
そして嫁イビリが解っていて庇ってくれない夫、自分よりも義両親に甘える息子、そしてそんな血を濃く受け継いだ孫。コルネリアは家族だからこそ許せないのだろうなと感じていた。
「マトモ」になった時に必ず言うのが「なんで他人の貴女が世話をするの!」だったが、他にいないので仕方がない。
「何となくだけど、家族だけになったから人生の最期に復讐しようとしたような気がするの」
だとすれば廃籍になったカスパルは?となるが、先々代夫人は何故かカスパルだけは嫌っていた。カスパルは間違いなくハーベ伯爵と夫人の子供なのだが、似ている部分が1つもないカスパル。先々代夫人はカスパルの母親の不貞をずっと疑っていた。
だからカスパルは先々代夫人の中では家族じゃなかったのではないかと思えるのだ。
本当の孫なのに憐れなものだ。
扉の外で丁度帰宅をしたコルネリアの母親が言葉をかけながら部屋に入って来た。
「亡くなった人を悪く言ってはいけないわよ。先々代夫人を思い出す時は刺繍を教えて貰っていた頃だけにしておきなさい。その中でも嬉しそうにしていた時だけのね」
うーん…と考えるが正直、刺繍に関しては凄いなと思ったことはあるがコルネリアも先々代夫人個人になると申し訳ないが「いいところが見つからない」のが正直な感想。
時代もあるのだろうが選民思想っがハッキリしていて、年長者は敬ってナンボだったので結構教え方も「こんな事も判らないなんて」と散々に馬鹿にされたし、ジェッタ伯爵家を継ぐので当主に成るための勉強をしていた事から先々代夫人の友人に褒められたりすると「褒められて嬉しいと思うより女のくせに出しゃばる事を恥と思え」と言われたりもした。
先々代夫人の時代には女性が男性のように家を経営したり、事業を行う事は恥ずかしい事だったのだ。
「前時代的な人ほど他人を受け入れないからね。新しい事とか先ず反対する事から始めるし、文書にしても斜め読み。都合のいいところしか切り取らないものさ。それが彼らの生き方だと認めればいいんだよ」
ヴェッセルが言うと言葉に重みを感じるのはシャウテン子爵家の行う事は昔から身分制度を否定するものが多かったので突き上げもそれなりに経験をしているからだろう。
パンパンとジェッタ伯爵が手を打ち鳴らした。
「ハーベ家の事は終わり!彼らはもう関係ない。事業の関りもないし彼らの事よりもこれからだ。副王都では何か収穫があったのか?」
「もう、帰ったばかりなんだから今日は休ませてあげれば?」
ジェッタ伯爵の言葉に夫人が副王都から戻ったばかりの2人を気遣うが、若さもあるのか2人はごそごそとカバンを開けて書類を幾つか取り出した。
「お母様。気遣いは有難いんだけど覚えているうちに伝えておきたいの」
そう言ってコルネリアはバルトリの説明を両親にし始めた。
「ただ設置すればいいものでもないですが伯爵にお願いがあるんです」
「お願い?私にかね?」
「えぇ。ジェッタ伯爵家の領地が王都からすれば川の上流にあります。その領地に貧民窟の者を林業従事者として向かわせたいのです」
「林業…山の手入れをしてくれるのかい?それは有難いが…」
ジェッタ伯爵の懸念は貧民窟の者への偏見ではなく、文字の読み書きなどが不十分なので林業をするとしても不慣れであり、手順などを口頭だけで説明をするのは滑落や大雨の時の崩落などを伝え難いからと言うもの。
領民であれば最低限の伝達は主に貼り紙などだが読めないと常に誰かが教えてやらねばならなくなる。
「最低限の読み書きは教えます。直ぐは無理なので5年。この5年で受け入れ態勢を整えてもらえないでしょうか。領民の方もいきなり大勢が来るとなれば混乱すると思いますので」
「5年か…ならその間、交流をさせてはどうだろう。貧民窟から領地に向かう者だってどんな場所かも判らなかったら困るだろうし、来てみてこんなはずじゃないとなれば時間だけを無駄に使う事にもなる」
「それでね!お父様。領地にこのバルネリを作ろうと思うの」
「バルネリ?なんだいそれは」
副王都で書き写してきたバルネリの図面を見せるとジェッタ伯爵は唸った。
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