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第18話 勘違いの上、思考がズレた女
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エリーゼの知る貴族の理は然程に多くはない。
しかし短い間でも貴族の抱える愛人の元で働いていた時に貴族は何か用件があって出向く前に「先触れ」と言う「お伺いしたいんですけど?」という予告を出す事は知っていた。
但し、知っているのは先触れを出すと言う事で、その書き方であったり先触れを出してもあっては貰えない事もある事実は知らない。知っているのはあくまでも来訪しますよという事前の予告を先触れと言うだけのこと。
文字の書けないエリーゼは代書屋に行き「これも必要経費」と金を払った。
「なんと書けば宜しいでしょう」
「そうね。今日とか明日は向こうも都合があると思うから明後日行くって書いて」
「明後日伺うと書けば宜しいので?」
「そうよ。あ!時間ね、お昼にランチを食べながらってのもいいわね。昼前に行くって書いて」
代書屋は言われた通りの事を書く。これで終わりかと帰ろうとするエリーゼはさらに代金を請求された。
「ま、待ってください。この手紙をどうするんです?」
「どうするも何も。届けてよ」
「でしたら配送料が必要です」
「はぁっ?!お金ならさっき払ったじゃない」
「あれは代書する費用です。法で決められた価格です。何よりこれは信書扱いになるので個人や民間商会では届ける事が出来ませんよ」
「は?信書?なにそれ」
識字率も高くないので平民に手紙が届く事は先ずない。
チラシですら絵は解っても文字が読めないので「新規OPEN」も理解をしてもらえないのだ。
エリーゼは貴族の間でも見本品などは民間の配送商会が届けるのだから手紙も届けられると思ったのだが、私文のある信書は公的な認可を貰っている国営配送しか届けることが出来ないのだと初めて知った。
「面倒ね。幾らなの」
「書留なら800ルペ。書留速達なら1250ルペ。普通配送なら90ルペですね」
「じゃ、その普通配送でいいわ」
「普通配送ですと、本日はもう受付を締め切っているので明日の依頼になり、相手さんに届くのはそれから4、5日後になります。先程書いた内容ではもう来訪日が過ぎて手紙が届く事になりますよ」
「じゃぁどうしろって言うのよ!」
「書留速達でしょうか。普通速達なら明日の受付で明後日の配送なので来訪日に届く事になりますが配送は午後なのでこれまた届いた時には来訪時間を過ぎている事になります」
「あぁっ!もうじゃぁその書留速達でいいわよ。これならいつ届くのよ」
「明日の午後でしょうね」
代書の金を払い、配送の費用も払ったエリーゼは気分を悪くした。
必要経費と割り切ってはいるが、手紙一つ送るのに纏めてやってくれないサービスの悪さ。代書料だけでも2万ルペなのだからそのくらいやってくれてもいいのにと憤慨したのだ。
気分が悪いまま夕食の買い物をしたのだが、2人分の上、日雇いの仕事が何時入るかも判らずまとめ買い。大量の荷物になってしまった。
「配送サービス始めましたー」
清算が終わりサッカー台で荷物を木箱に詰めていると声が聞こえた。
「こんな大きな荷物…運んでくれるサービスなんて便利よね」
そう思い、家まで配送を頼んだのだが、配送料がかかると言う。しかも荷物が既定の大きさを超えているので割増料金。なんと買い物した額とほぼ一緒の配送料だった。
「配送サービスなんでしょ!サービスなのになんで金を取るのよ!」
「お嬢さん、バカ言っちゃ困る。誰が何時、サービスは無料と言ったんだ?」
「サービスって無料に決まってるじゃない!馬鹿はソッチでしょう」
「あのねぇ。サービスってのは形が無い品物なんだよ。何を勘違いしてるんだ?」
エリーゼは周囲に同意を求め大声をあげたものだから、クスクスと嘲笑する声が聞こえてくる。
『やぁねぇ。あれってカスハラっていうんじゃない?』
『神様と思っている客ってこと?恥ずかしくないのかしら』
――え?間違ってるのアタシなの?!――
周囲の反応を見るに、エリーゼと同意見の者は1人もいない。恥ずかしくなったエリーゼは「自分でやるからいいわ」と荷物を引き取った。
――要らないものまであるから大きな木箱が必要なのよ――
そう思うともう一度サッカー台に買い物をした商品を並べて包装している紙やトマトのヘタ、紙製のトレーに入った肉を取り出して2回りほど小さな箱に詰め直した。
さぁ帰ろう。とするとまた呼び止められた。
「なんなの!もぅ!」
「お客さん、困るんですよ。ちゃんとゴミは分別をしてください」
「はぁっ?!してるわよ!ゴミだからゴミ箱に入れたでしょう?こっちの箱に入れたものまで捨てろって事?人が分別してないような言い方をしないで!気分悪いわ」
係員はさっきエリーゼがゴミ箱に入れた物を幾つか取り出した。
「包装紙の紙。これはここでいいんです。再利用しますから。ですがトマトのヘタや大根の葉っぱ、肉の脂身などは生ごみなのでここに入れられると困るんです。そして肉とか魚を包んでいた紙製のトレー。サッと水洗いをして店舗の外にある回収箱に入れてください。これがゴミの分別です」
「は?頭悪いの?ゴミはゴミでしょ?再利用するとか水で洗うとか。客のする事じゃないでしょ」
エリーゼはエリーゼなりの分別をしたのだ。
「ゴミか、ゴミじゃないか」の分別をしたのである。
周囲の目はまたもやエリーゼには批難を向けていた。
「あぁ!もういいわよ!全部この箱に入れるわよ!持って帰ればいいんでしょ!」
ゴミとして捨てたものを小さめの箱に押し込むと木箱の底から卵が割れてトロリと出てくる。
「卵が割れたじゃない!どうしてくれるのよ!服も汚れた!弁償して!」
騒ぎ立てたエリーゼだったが、憲兵を呼ぶと言われて「二度と来るか!こんな店!」捨て台詞を残し木箱を抱えて小走りで立ち去った。
――冗談じゃないわ。割れた卵の掃除なんて臭くてやってられないわよ――
咎められるかもと逃げたのではなく、掃除をするのが嫌で逃げたのだった。
エリーゼがその店を生涯出禁になったのは言うまでもない。
しかし短い間でも貴族の抱える愛人の元で働いていた時に貴族は何か用件があって出向く前に「先触れ」と言う「お伺いしたいんですけど?」という予告を出す事は知っていた。
但し、知っているのは先触れを出すと言う事で、その書き方であったり先触れを出してもあっては貰えない事もある事実は知らない。知っているのはあくまでも来訪しますよという事前の予告を先触れと言うだけのこと。
文字の書けないエリーゼは代書屋に行き「これも必要経費」と金を払った。
「なんと書けば宜しいでしょう」
「そうね。今日とか明日は向こうも都合があると思うから明後日行くって書いて」
「明後日伺うと書けば宜しいので?」
「そうよ。あ!時間ね、お昼にランチを食べながらってのもいいわね。昼前に行くって書いて」
代書屋は言われた通りの事を書く。これで終わりかと帰ろうとするエリーゼはさらに代金を請求された。
「ま、待ってください。この手紙をどうするんです?」
「どうするも何も。届けてよ」
「でしたら配送料が必要です」
「はぁっ?!お金ならさっき払ったじゃない」
「あれは代書する費用です。法で決められた価格です。何よりこれは信書扱いになるので個人や民間商会では届ける事が出来ませんよ」
「は?信書?なにそれ」
識字率も高くないので平民に手紙が届く事は先ずない。
チラシですら絵は解っても文字が読めないので「新規OPEN」も理解をしてもらえないのだ。
エリーゼは貴族の間でも見本品などは民間の配送商会が届けるのだから手紙も届けられると思ったのだが、私文のある信書は公的な認可を貰っている国営配送しか届けることが出来ないのだと初めて知った。
「面倒ね。幾らなの」
「書留なら800ルペ。書留速達なら1250ルペ。普通配送なら90ルペですね」
「じゃ、その普通配送でいいわ」
「普通配送ですと、本日はもう受付を締め切っているので明日の依頼になり、相手さんに届くのはそれから4、5日後になります。先程書いた内容ではもう来訪日が過ぎて手紙が届く事になりますよ」
「じゃぁどうしろって言うのよ!」
「書留速達でしょうか。普通速達なら明日の受付で明後日の配送なので来訪日に届く事になりますが配送は午後なのでこれまた届いた時には来訪時間を過ぎている事になります」
「あぁっ!もうじゃぁその書留速達でいいわよ。これならいつ届くのよ」
「明日の午後でしょうね」
代書の金を払い、配送の費用も払ったエリーゼは気分を悪くした。
必要経費と割り切ってはいるが、手紙一つ送るのに纏めてやってくれないサービスの悪さ。代書料だけでも2万ルペなのだからそのくらいやってくれてもいいのにと憤慨したのだ。
気分が悪いまま夕食の買い物をしたのだが、2人分の上、日雇いの仕事が何時入るかも判らずまとめ買い。大量の荷物になってしまった。
「配送サービス始めましたー」
清算が終わりサッカー台で荷物を木箱に詰めていると声が聞こえた。
「こんな大きな荷物…運んでくれるサービスなんて便利よね」
そう思い、家まで配送を頼んだのだが、配送料がかかると言う。しかも荷物が既定の大きさを超えているので割増料金。なんと買い物した額とほぼ一緒の配送料だった。
「配送サービスなんでしょ!サービスなのになんで金を取るのよ!」
「お嬢さん、バカ言っちゃ困る。誰が何時、サービスは無料と言ったんだ?」
「サービスって無料に決まってるじゃない!馬鹿はソッチでしょう」
「あのねぇ。サービスってのは形が無い品物なんだよ。何を勘違いしてるんだ?」
エリーゼは周囲に同意を求め大声をあげたものだから、クスクスと嘲笑する声が聞こえてくる。
『やぁねぇ。あれってカスハラっていうんじゃない?』
『神様と思っている客ってこと?恥ずかしくないのかしら』
――え?間違ってるのアタシなの?!――
周囲の反応を見るに、エリーゼと同意見の者は1人もいない。恥ずかしくなったエリーゼは「自分でやるからいいわ」と荷物を引き取った。
――要らないものまであるから大きな木箱が必要なのよ――
そう思うともう一度サッカー台に買い物をした商品を並べて包装している紙やトマトのヘタ、紙製のトレーに入った肉を取り出して2回りほど小さな箱に詰め直した。
さぁ帰ろう。とするとまた呼び止められた。
「なんなの!もぅ!」
「お客さん、困るんですよ。ちゃんとゴミは分別をしてください」
「はぁっ?!してるわよ!ゴミだからゴミ箱に入れたでしょう?こっちの箱に入れたものまで捨てろって事?人が分別してないような言い方をしないで!気分悪いわ」
係員はさっきエリーゼがゴミ箱に入れた物を幾つか取り出した。
「包装紙の紙。これはここでいいんです。再利用しますから。ですがトマトのヘタや大根の葉っぱ、肉の脂身などは生ごみなのでここに入れられると困るんです。そして肉とか魚を包んでいた紙製のトレー。サッと水洗いをして店舗の外にある回収箱に入れてください。これがゴミの分別です」
「は?頭悪いの?ゴミはゴミでしょ?再利用するとか水で洗うとか。客のする事じゃないでしょ」
エリーゼはエリーゼなりの分別をしたのだ。
「ゴミか、ゴミじゃないか」の分別をしたのである。
周囲の目はまたもやエリーゼには批難を向けていた。
「あぁ!もういいわよ!全部この箱に入れるわよ!持って帰ればいいんでしょ!」
ゴミとして捨てたものを小さめの箱に押し込むと木箱の底から卵が割れてトロリと出てくる。
「卵が割れたじゃない!どうしてくれるのよ!服も汚れた!弁償して!」
騒ぎ立てたエリーゼだったが、憲兵を呼ぶと言われて「二度と来るか!こんな店!」捨て台詞を残し木箱を抱えて小走りで立ち去った。
――冗談じゃないわ。割れた卵の掃除なんて臭くてやってられないわよ――
咎められるかもと逃げたのではなく、掃除をするのが嫌で逃げたのだった。
エリーゼがその店を生涯出禁になったのは言うまでもない。
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