36 / 41
レオポルトの罪
しおりを挟む
「本日の議題に無かった議題。ついでですからこちらも検討願います」
カルロは向かった先で扉を開ける。
開かれた扉の前に立っていたのはエドガルドだった。
レオポルドは目線だけを貴族たちに向ける。カリメルラの言葉から何故エドガルドがここに?いや、そもそも何故側近なのに控えていなかったのかと貴族たちが口々に誰ともなく問いかけ始め、場がざわつき始めた。
エドガルドは胸を張り、臣下の礼を取ると息を大きく吸い込んだ。
「エドガルド・トラント。ここに罪を告白すべく参りました」
レオポルドの顔色が一瞬で色を失い蒼白になり、額から汗が滲み玉となって頬を伝った。立ち上がったレオポルドは手を大きく振りかざし「出ていけ」と命じるがエドガルドは従わない。
「その者を捕らえよ!地下牢にいる筈が脱獄ま――」
「うっせぇつってんだろうが!黙ってろっ!」
レオポルドの声をかき消すかのようなヴァレリオの声が部屋に響く。
余りの声に、ガラスがキシキシと軋み、貴族たちの手元にある幾つかのグラスがひっくり返りテーブルに色を付ける。
「私は、そこにいる陛下‥‥陛下と共に先王に毒を盛った。床に伏せる原因を作ったのは陛下と私だ」
「何を言ってるんだ!気でも狂ったのか!聞くなッ!痴れ者の戯言など聞く必要はない!」
「痴れ者かも知れないが、戯言ではない!私は命ぜられるままにアベラルド殿下の所有する伯爵領から産出している鉛を手に入れ、先王の部屋のランプ全てに仕込む手助けをした。全ては‥‥全てはレオポルド第一王子殿下が即位をする為。そして王国から帝国への野望を叶えるため‥‥だった」
「まことなのですか?!陛下!!」
貴族たちが立ち上がりレオポルドに詰め寄る。
そしてアベラルドもレオポルドに向かって言葉を投げた。
「兄上、本当なのか…父上を…父上をあのような体にしたのは兄上なのか!私は王位など望まないと何度も言ったはずだ。何もしなくても父上の次は兄上だった。なのにどうして!」
ヴァレリオは小さく舌打ちをした。アベラルドは何故だと問いかけながらも、思惑通りに進んでいると思っているのか顔の表情が弛んでいたからだ。
カルロから次の王位にと話を聞かされていたヴァレリオには、アベラルドの浅はかな思いが敵と対峙した時のように全身に響いてきた。
パン!エドガルドは手を打って音を出し、貴族たちを鎮める。
「今また、その思いを遂げるために陛下はファッジン辺境伯領に兵を向かわせようとしている。それは…辺境伯夫人、私の妹でもあるステファニアの身柄を拘束し、ファッジン辺境伯を従わせるためだ。私はこの地位に就くために妹を利用した。妹は私に利用され、国に利用され、今もまた陛下に利用されようとしている。先王はまだ生きている。妹もまだ辺境にいる。今しかない。もうこれ以上…私の仕えた陛下に罪を重ねて欲しくないのだ。止めて…止めてくれ…頼む…」
「これは証拠の品の一部だ。今は全て取り換えてある。こちらの書類は私費で鉛を購入する手続きをした書面だ。購入者は架空の人物となっているが、私費、購入の増減の流れ、そして私費を用立てるための署名、偽名の署名は陛下のものだ」
言い終えて膝から崩れ嗚咽を漏らすエドガルドの隣でカルロは先王の部屋で使用されていたランプと鉛購入に関わる書類をを貴族たちに見えやすいよう高く掲げた。貴族たちの視線が一気に集まるその場に1人だけ視線を向けないものがいた。
王妃テレーザ、その目線の先にいるのは茫然となったレオポルドだった。
エドガルドは出来過ぎたのだ。処分しておけば闇に葬れたはずだった。
だが、アベラルドの領地からの鉛と言うアベラルドを蹴落とすために必要だった書面には偽名でもレオポルドの直筆でサインが入っている。100%ではないものの見る者が見れば誰が書いたか推測は出来るだろう。
――切ってはいけない男を切ってしまった――
レオポルドの最大の失敗だった。
「レオポルド様‥‥本当なのですか」
「違う…違うんだ…」
「本当…なのですね」
長い間、レオポルドを見てきたテレーザは悔んだ。
見て来たばかりにレオポルドの嘘が判ってしまう。
テレーザの手がレオポルドの肩に触れようとした瞬間、レオポルドの体は兵士によって両腕を抱えられてしまった。数名の貴族が影を作るとレオポルドはそのまま引きずられるように連行されていく。
「お待ちなさい。嫌疑の段階で不敬です。手を離しなさい」
「王妃殿下。陛下の身柄は――」
「不敬だと言っているのです。ファインド公爵」
テレーザの実家でもあるファインド公爵家。その当主はテレーザの父でもある。
しかしテレーザはハッキリとした口調で告げた。
「罪が罪であるならば、わたくしも同罪。喜んでこの首を差し出しましょう。しかし今はまだ陛下は国王陛下なのです。わたくしが付き添います。ファインド公爵、わたくしは政には法により関与出来ぬ立場、事の次第の判る貴方が適任と判断し後の事は王妃の名に於いて一任致します」
「承知…致しました」
レオポルドとテレーザが兵士と共に退出をしていく。
ヴァレリオはレオポルドに向かって言った。
「弟、妬んでも仕方ねぇだろ。半分でも血、繋がってんだろ?」
「・・・・」
「兄弟姉妹、異父でも異母でもいるんだからいいじゃねぇか。ま、それが原動力になったのかも知れないが、俺には叔父っていうジジィしかいねぇから勿体ねぇなって思うよ」
「そ…うだな…」
レオポルドはヴァレリオに向かって微笑んだ。
パタンと音を立てて扉が閉じればアベラルドがカルロに駆け寄った。
「カル――」
声をかけ、アベラルドの手はカルロまであと手のひら一つ分だった。
「さぁて。本日のメインディィーッシュを捌くとすっかぁ!」
ヴァレリオの声が部屋に響いた。
カルロは向かった先で扉を開ける。
開かれた扉の前に立っていたのはエドガルドだった。
レオポルドは目線だけを貴族たちに向ける。カリメルラの言葉から何故エドガルドがここに?いや、そもそも何故側近なのに控えていなかったのかと貴族たちが口々に誰ともなく問いかけ始め、場がざわつき始めた。
エドガルドは胸を張り、臣下の礼を取ると息を大きく吸い込んだ。
「エドガルド・トラント。ここに罪を告白すべく参りました」
レオポルドの顔色が一瞬で色を失い蒼白になり、額から汗が滲み玉となって頬を伝った。立ち上がったレオポルドは手を大きく振りかざし「出ていけ」と命じるがエドガルドは従わない。
「その者を捕らえよ!地下牢にいる筈が脱獄ま――」
「うっせぇつってんだろうが!黙ってろっ!」
レオポルドの声をかき消すかのようなヴァレリオの声が部屋に響く。
余りの声に、ガラスがキシキシと軋み、貴族たちの手元にある幾つかのグラスがひっくり返りテーブルに色を付ける。
「私は、そこにいる陛下‥‥陛下と共に先王に毒を盛った。床に伏せる原因を作ったのは陛下と私だ」
「何を言ってるんだ!気でも狂ったのか!聞くなッ!痴れ者の戯言など聞く必要はない!」
「痴れ者かも知れないが、戯言ではない!私は命ぜられるままにアベラルド殿下の所有する伯爵領から産出している鉛を手に入れ、先王の部屋のランプ全てに仕込む手助けをした。全ては‥‥全てはレオポルド第一王子殿下が即位をする為。そして王国から帝国への野望を叶えるため‥‥だった」
「まことなのですか?!陛下!!」
貴族たちが立ち上がりレオポルドに詰め寄る。
そしてアベラルドもレオポルドに向かって言葉を投げた。
「兄上、本当なのか…父上を…父上をあのような体にしたのは兄上なのか!私は王位など望まないと何度も言ったはずだ。何もしなくても父上の次は兄上だった。なのにどうして!」
ヴァレリオは小さく舌打ちをした。アベラルドは何故だと問いかけながらも、思惑通りに進んでいると思っているのか顔の表情が弛んでいたからだ。
カルロから次の王位にと話を聞かされていたヴァレリオには、アベラルドの浅はかな思いが敵と対峙した時のように全身に響いてきた。
パン!エドガルドは手を打って音を出し、貴族たちを鎮める。
「今また、その思いを遂げるために陛下はファッジン辺境伯領に兵を向かわせようとしている。それは…辺境伯夫人、私の妹でもあるステファニアの身柄を拘束し、ファッジン辺境伯を従わせるためだ。私はこの地位に就くために妹を利用した。妹は私に利用され、国に利用され、今もまた陛下に利用されようとしている。先王はまだ生きている。妹もまだ辺境にいる。今しかない。もうこれ以上…私の仕えた陛下に罪を重ねて欲しくないのだ。止めて…止めてくれ…頼む…」
「これは証拠の品の一部だ。今は全て取り換えてある。こちらの書類は私費で鉛を購入する手続きをした書面だ。購入者は架空の人物となっているが、私費、購入の増減の流れ、そして私費を用立てるための署名、偽名の署名は陛下のものだ」
言い終えて膝から崩れ嗚咽を漏らすエドガルドの隣でカルロは先王の部屋で使用されていたランプと鉛購入に関わる書類をを貴族たちに見えやすいよう高く掲げた。貴族たちの視線が一気に集まるその場に1人だけ視線を向けないものがいた。
王妃テレーザ、その目線の先にいるのは茫然となったレオポルドだった。
エドガルドは出来過ぎたのだ。処分しておけば闇に葬れたはずだった。
だが、アベラルドの領地からの鉛と言うアベラルドを蹴落とすために必要だった書面には偽名でもレオポルドの直筆でサインが入っている。100%ではないものの見る者が見れば誰が書いたか推測は出来るだろう。
――切ってはいけない男を切ってしまった――
レオポルドの最大の失敗だった。
「レオポルド様‥‥本当なのですか」
「違う…違うんだ…」
「本当…なのですね」
長い間、レオポルドを見てきたテレーザは悔んだ。
見て来たばかりにレオポルドの嘘が判ってしまう。
テレーザの手がレオポルドの肩に触れようとした瞬間、レオポルドの体は兵士によって両腕を抱えられてしまった。数名の貴族が影を作るとレオポルドはそのまま引きずられるように連行されていく。
「お待ちなさい。嫌疑の段階で不敬です。手を離しなさい」
「王妃殿下。陛下の身柄は――」
「不敬だと言っているのです。ファインド公爵」
テレーザの実家でもあるファインド公爵家。その当主はテレーザの父でもある。
しかしテレーザはハッキリとした口調で告げた。
「罪が罪であるならば、わたくしも同罪。喜んでこの首を差し出しましょう。しかし今はまだ陛下は国王陛下なのです。わたくしが付き添います。ファインド公爵、わたくしは政には法により関与出来ぬ立場、事の次第の判る貴方が適任と判断し後の事は王妃の名に於いて一任致します」
「承知…致しました」
レオポルドとテレーザが兵士と共に退出をしていく。
ヴァレリオはレオポルドに向かって言った。
「弟、妬んでも仕方ねぇだろ。半分でも血、繋がってんだろ?」
「・・・・」
「兄弟姉妹、異父でも異母でもいるんだからいいじゃねぇか。ま、それが原動力になったのかも知れないが、俺には叔父っていうジジィしかいねぇから勿体ねぇなって思うよ」
「そ…うだな…」
レオポルドはヴァレリオに向かって微笑んだ。
パタンと音を立てて扉が閉じればアベラルドがカルロに駆け寄った。
「カル――」
声をかけ、アベラルドの手はカルロまであと手のひら一つ分だった。
「さぁて。本日のメインディィーッシュを捌くとすっかぁ!」
ヴァレリオの声が部屋に響いた。
91
お気に入りに追加
4,248
あなたにおすすめの小説
いじめられ続けた挙げ句、三回も婚約破棄された悪役令嬢は微笑みながら言った「女神の顔も三度まで」と
鳳ナナ
恋愛
伯爵令嬢アムネジアはいじめられていた。
令嬢から。子息から。婚約者の王子から。
それでも彼女はただ微笑を浮かべて、一切の抵抗をしなかった。
そんなある日、三回目の婚約破棄を宣言されたアムネジアは、閉じていた目を見開いて言った。
「――女神の顔も三度まで、という言葉をご存知ですか?」
その言葉を皮切りに、ついにアムネジアは本性を現し、夜会は女達の修羅場と化した。
「ああ、気持ち悪い」
「お黙りなさい! この泥棒猫が!」
「言いましたよね? 助けてやる代わりに、友達料金を払えって」
飛び交う罵倒に乱れ飛ぶワイングラス。
謀略渦巻く宮廷の中で、咲き誇るは一輪の悪の華。
――出てくる令嬢、全員悪人。
※小説家になろう様でも掲載しております。
冤罪から逃れるために全てを捨てた。
四折 柊
恋愛
王太子の婚約者だったオリビアは冤罪をかけられ捕縛されそうになり全てを捨てて家族と逃げた。そして以前留学していた国の恩師を頼り、新しい名前と身分を手に入れ幸せに過ごす。1年が過ぎ今が幸せだからこそ思い出してしまう。捨ててきた国や自分を陥れた人達が今どうしているのかを。(視点が何度も変わります)
もう彼女でいいじゃないですか
キムラましゅろう
恋愛
ある日わたしは婚約者に婚約解消を申し出た。
常にわたし以外の女を腕に絡ませている事に耐えられなくなったからだ。
幼い頃からわたしを溺愛する婚約者は婚約解消を絶対に認めないが、わたしの心は限界だった。
だからわたしは行動する。
わたしから婚約者を自由にするために。
わたしが自由を手にするために。
残酷な表現はありませんが、
性的なワードが幾つが出てきます。
苦手な方は回れ右をお願いします。
小説家になろうさんの方では
ifストーリーを投稿しております。
あなたへの想いを終わりにします
四折 柊
恋愛
シエナは王太子アドリアンの婚約者として体の弱い彼を支えてきた。だがある日彼は視察先で倒れそこで男爵令嬢に看病される。彼女の献身的な看病で医者に見放されていた病が治りアドリアンは健康を手に入れた。男爵令嬢は殿下を治癒した聖女と呼ばれ王城に招かれることになった。いつしかアドリアンは男爵令嬢に夢中になり彼女を正妃に迎えたいと言い出す。男爵令嬢では妃としての能力に問題がある。だからシエナには側室として彼女を支えてほしいと言われた。シエナは今までの献身と恋心を踏み躙られた絶望で彼らの目の前で自身の胸を短剣で刺した…………。(全13話)
王太子さま、側室さまがご懐妊です
家紋武範
恋愛
王太子の第二夫人が子どもを宿した。
愛する彼女を妃としたい王太子。
本妻である第一夫人は政略結婚の醜女。
そして国を奪い女王として君臨するとの噂もある。
あやしき第一夫人をどうにかして廃したいのであった。
戻る場所がなくなったようなので別人として生きます
しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。
子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。
しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。
そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。
見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。
でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。
リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。
王命での結婚がうまくいかなかったので公妾になりました。
しゃーりん
恋愛
婚約解消したばかりのルクレツィアに王命での結婚が舞い込んだ。
相手は10歳年上の公爵ユーグンド。
昔の恋人を探し求める公爵は有名で、国王陛下が公爵家の跡継ぎを危惧して王命を出したのだ。
しかし、公爵はルクレツィアと結婚しても興味の欠片も示さなかった。
それどころか、子供は養子をとる。邪魔をしなければ自由だと言う。
実家の跡継ぎも必要なルクレツィアは子供を産みたかった。
国王陛下に王命の取り消しをお願いすると三年後になると言われた。
無駄な三年を過ごしたくないルクレツィアは国王陛下に提案された公妾になって子供を産み、三年後に離婚するという計画に乗ったお話です。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる