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レオポルトの罪

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「本日の議題に無かった議題。ついでですからこちらも検討願います」

カルロは向かった先で扉を開ける。
開かれた扉の前に立っていたのはエドガルドだった。

レオポルドは目線だけを貴族たちに向ける。カリメルラの言葉から何故エドガルドがここに?いや、そもそも何故側近なのに控えていなかったのかと貴族たちが口々に誰ともなく問いかけ始め、場がざわつき始めた。

エドガルドは胸を張り、臣下の礼を取ると息を大きく吸い込んだ。

「エドガルド・トラント。ここに罪を告白すべく参りました」

レオポルドの顔色が一瞬で色を失い蒼白になり、額から汗が滲み玉となって頬を伝った。立ち上がったレオポルドは手を大きく振りかざし「出ていけ」と命じるがエドガルドは従わない。

「その者を捕らえよ!地下牢にいる筈が脱獄ま――」
「うっせぇつってんだろうが!黙ってろっ!」

レオポルドの声をかき消すかのようなヴァレリオの声が部屋に響く。
余りの声に、ガラスがキシキシと軋み、貴族たちの手元にある幾つかのグラスがひっくり返りテーブルに色を付ける。

「私は、そこにいる陛下‥‥陛下と共に先王に毒を盛った。とこに伏せる原因を作ったのは陛下と私だ」

「何を言ってるんだ!気でも狂ったのか!聞くなッ!痴れ者の戯言など聞く必要はない!」

「痴れ者かも知れないが、戯言ではない!私は命ぜられるままにアベラルド殿下の所有する伯爵領から産出している鉛を手に入れ、先王の部屋のランプ全てに仕込む手助けをした。全ては‥‥全てはレオポルド第一王子殿下が即位をする為。そして王国から帝国への野望を叶えるため‥‥だった」

「まことなのですか?!陛下!!」

貴族たちが立ち上がりレオポルドに詰め寄る。
そしてアベラルドもレオポルドに向かって言葉を投げた。

「兄上、本当なのか…父上を…父上をあのような体にしたのは兄上なのか!私は王位など望まないと何度も言ったはずだ。何もしなくても父上の次は兄上だった。なのにどうして!」

ヴァレリオは小さく舌打ちをした。アベラルドは何故だと問いかけながらも、思惑通りに進んでいると思っているのか顔の表情が弛んでいたからだ。
カルロから次の王位にと話を聞かされていたヴァレリオには、アベラルドの浅はかな思いが敵と対峙した時のように全身に響いてきた。

パン!エドガルドは手を打って音を出し、貴族たちを鎮める。


「今また、その思いを遂げるために陛下はファッジン辺境伯領に兵を向かわせようとしている。それは…辺境伯夫人、私の妹でもあるステファニアの身柄を拘束し、ファッジン辺境伯を従わせるためだ。私はこの地位に就くために妹を利用した。妹は私に利用され、国に利用され、今もまた陛下に利用されようとしている。先王はまだ生きている。妹もまだ辺境にいる。今しかない。もうこれ以上…私の仕えた陛下に罪を重ねて欲しくないのだ。止めて…止めてくれ…頼む…」

「これは証拠の品の一部だ。今は全て取り換えてある。こちらの書類は私費で鉛を購入する手続きをした書面だ。購入者は架空の人物となっているが、私費、購入の増減の流れ、そして私費を用立てるための署名、偽名の署名は陛下のものだ」

言い終えて膝から崩れ嗚咽を漏らすエドガルドの隣でカルロは先王の部屋で使用されていたランプと鉛購入に関わる書類をを貴族たちに見えやすいよう高く掲げた。貴族たちの視線が一気に集まるその場に1人だけ視線を向けないものがいた。

王妃テレーザ、その目線の先にいるのは茫然となったレオポルドだった。

エドガルドは出来過ぎたのだ。処分しておけば闇に葬れたはずだった。
だが、アベラルドの領地からの鉛と言うアベラルドを蹴落とすために必要だった書面には偽名でもレオポルドの直筆でサインが入っている。100%ではないものの見る者が見れば誰が書いたか推測は出来るだろう。

――切ってはいけない男を切ってしまった――

レオポルドの最大の失敗だった。

「レオポルド様‥‥本当なのですか」
「違う…違うんだ…」
「本当…なのですね」

長い間、レオポルドを見てきたテレーザは悔んだ。
見て来たばかりにレオポルドの嘘が判ってしまう。

テレーザの手がレオポルドの肩に触れようとした瞬間、レオポルドの体は兵士によって両腕を抱えられてしまった。数名の貴族が影を作るとレオポルドはそのまま引きずられるように連行されていく。

「お待ちなさい。嫌疑の段階で不敬です。手を離しなさい」
「王妃殿下。陛下の身柄は――」
「不敬だと言っているのです。ファインド公爵」

テレーザの実家でもあるファインド公爵家。その当主はテレーザの父でもある。
しかしテレーザはハッキリとした口調で告げた。

「罪が罪であるならば、わたくしも同罪。喜んでこの首を差し出しましょう。しかし今はまだ陛下は国王陛下なのです。わたくしが付き添います。ファインド公爵、わたくしはまつりごとには法により関与出来ぬ立場、事の次第の判る貴方が適任と判断し後の事は王妃の名に於いて一任致します」

「承知…致しました」

レオポルドとテレーザが兵士と共に退出をしていく。
ヴァレリオはレオポルドに向かって言った。

「弟、妬んでも仕方ねぇだろ。半分でも血、繋がってんだろ?」
「・・・・」
「兄弟姉妹、異父でも異母でもいるんだからいいじゃねぇか。ま、それが原動力になったのかも知れないが、俺には叔父っていうジジィしかいねぇから勿体ねぇなって思うよ」
「そ…うだな…」

レオポルドはヴァレリオに向かって微笑んだ。



パタンと音を立てて扉が閉じればアベラルドがカルロに駆け寄った。

「カル――」

声をかけ、アベラルドの手はカルロまであと手のひら一つ分だった。


「さぁて。本日のメインディィーッシュを捌くとすっかぁ!」

ヴァレリオの声が部屋に響いた。
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