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場違いなカリメルラ、潜伏したカルロ
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「何よもう!出ていきなさいよ!」
「申し訳ございませんっ」
カリメルラの機嫌の変わりようは誰にも読めないくらいに激しかった。
朝、ブラシで髪を梳きはじめたメイドににこやかに話をしている最中で、突然泣き出したり、怒り出したりするのだ。ドレッサーの天板にうっかり物を置いておけば、飛んできて当たりケガをするだけならまだいい。
鏡に向かって投げつけて、割れた鏡の破片でカリメルラが怪我でもすれば腐っても王子妃なのだ。ただでは済まない。あれ以来、またアベラルドの訪問はなく使用人達は、肩を落とす。
通いはじめてくれるのであれば、改善されるかと思っていたのだ。
「ホントに使えない‥‥なんでこんなクズばっかりなのよ」
荒れている時は、娘のブリジッタも使用人が抱き上げて避難をさせる。
カリメルラは見境なく暴れるため、そこにブリジッタがいようがいまいがお構いなしに物を投げてくる。何度か当たってしまい泣き出したブリジッタの声にまたカリメルラが激昂するのだ。
「私だけに子供を押し付けて!殿下を呼んできなさいよ!」
「妃殿下落ち着いてくださいませ」
「名前つけたんだから、世話をしろと向こうの宮においてきてよ!」
喚くカリメルラが、暴れ疲れるのを待つだけの日々。
使用人が長続きするはずも無く、第二王子妃の宮は入れ替わりも激しかった。
今日もいつものように、いつ「着火」するのかと怯えながら使用人達は洗面から始まり、身支度、朝食とスケジュールをこなすはずだった。
ドレッサーの前で「着火」してしまったカリメルラがメイドから櫛を取り上げて放り投げた。
ガゴッ!!
放り投げた櫛は手前のテーブルに当たり、転がっていく。
今日はどれくらいの時間で終わるんだろう。使用人達が諦めの溜息を飲んだ。
そんなカリメルラに1人の侍女が近寄って耳元で囁いた。
「カリメルラ様」
「なによ」
「先日、代筆をした手紙の受取人。ファッジン辺境伯が間も無く王都に到着するとの知らせが御座いました。如何なさいますか」
カリメルラの鼻がヒクりと動き、あれほど暴れていた手足、口の動きが止まった。
――ステファニアも来るのかしら――
多くの貴族等であれば「細君も帯同するのか」と問うだろうが、カリメルラはその言葉にステファニアが来ると思い込んでしまった。
ニマァと顔が弛み、猫なで声で先程まで髪を梳いていたメイドを手招きする
「最高に仕上げて頂戴。あ、宝飾品があったわよね。持ってきて。私に似合いそうなものを選ぶわ」
「宝飾品‥‥でございますか?」
「そうよ。何時だったが夜会で老婆が髪まで宝飾品を編み込んでいたじゃない?あの時は客寄せの道化師かと思ったけれど私ならもっと美しく編み込めるはずよ」
「ですが…」
メイドは、手を止めた。
以前のカリメルラであれば薄いオレンジ色の髪色だったのだが、出産して間もなくの頃に訪れたゲール公爵が帰ったあと、暴れて部屋に閉じこもり、やっと出て来たかと思えば髪の毛は色が抜けて白髪になっていたのだ。
それは今も変わらず、突然怒り出すので時間のかかる染髪は出来ないのだ。
生活態度も決して褒められたものではなく、食事は気が向いた時。酒と煙草を嗜み、先月は咥え煙草でブリジッタを抱くものだからその灰がブリジッタの髪や衣服に落ち大騒ぎになった事がある。
そのような生活はカリメルラの容貌も変えた。
だらしなく垂れ下がった頬の肉は顎と同化し、今ではその顎も胸と繋がっているのではないかと思うくらいに体そのものも丸みを帯びすぎているし、24歳という年齢にも首を傾げる。
ワインを瓶を咥えて浴びるように飲むさまはカリメルラが言う老婆も老婆で阿婆擦れ老婆である。
「何?早くしなさいよ。いい?これが第二王子妃ってのを見せつけるような装いにするの。あっ!こんな陳腐なドレスではダメね。着替えるわ。衣装メイドを呼んできて」
侍女やメイドはカリメルラの要望通りに仕上げていく。
胸元が大きくあいたドレスだが、デコルテは肉で盛り上がり胸の上に胸がある。
ウエストを強調したいのだろうが、胸の下に2段の胸があるように見える。
まるでボンレスハムに宝飾品をトッピングしたようだ。
白髪の髪には薄いブルーやイエローの宝飾品では目立たないため、真っ赤、真っ青、紫色の濃い色の宝飾品が窓ガラスについた雨粒のようにぶら下がっている。
出来上がったカリメルラに侍女頭が静かに言った。
「まだ午前中だと言うのに…このようなお姿でどちらに行かれると?」
第二王子妃の宮。そこにいる使用人は全てアベラルドの宮にいた者達。
目の前の下品な娼婦になり果てたカリメルラを外に出せばアベラルドが笑い者になってしまう。使用人達はアベラルドの評価がこれ以上落ちるのは困るのだ。
いずれは臣籍降下し伯爵となって伯爵領に出向くと言っても今は王子。
難なくその日を迎える事が出来れば使用人達の首は繋がる。宮を離れる日には勤務した年数に応じて褒賞も出るだろうが、侍女頭となればその額を知っている。
「今すぐ妃殿下を元に戻しなさい」
侍女頭の声にカリメルラは激昂した。自分のセンスを否定されたと感じたからである。
「辺境伯を、ステファニアを迎えるのにこれ以上地味にしたら目立たないじゃない」
いつもの酒焼けした声を張り上げれば良いのでは?と言いかけた言葉を侍女頭は飲み込みつつも、益々この状態を部屋から出す訳に行かぬと後ろにいた侍女に扉を施錠するよう伝えた。
誰の主催かもわからない仮面舞踏会ならいざ知らず、辺境伯が来るとすれば出向く先は謁見室。若しくは国王が用意した部屋となる。そのような場には基本は単色。宝飾品も必要最低限で品位が問われるのだ。こんなカリメルラを出席させれば居並ぶ高位貴族の当主だけでなく、国王も眉を顰めるだろう。
使用人達はカリメルラを宥めつつ「お直し」と言いながら宝飾品を外していく。
まだ時間はあるからと、更に豪奢なドレスを持ってきて「こちらが良いのでは」と勧め、気を逸らす。ドレスを脱がしながら、背中に出来物があると湯殿に誘う。
――これならいつものように暴れてくれた方がずっと楽――
使用人の奮闘と、カリメルラの期待虚しく当日ファッジン辺境伯が登城することはなかった。
☆★☆
「まもなく辺境伯一行が登城します」
「判った。ありがとう。君はもう宮に戻らない方がいい。顔が知られているからね」
「ですが!」
「大丈夫。あとは私が後始末をする」
「カルロ様。まだ伯爵家の間者はカルロ様を探しています。危険です」
「私もその伯爵家の人間なんだ。表の裏を知っているからまだ息をしてるんだ」
「無理をされないでください。我々は何時でも」
実家からも狙われる身となり、潜伏した先は王城の中である。
下手に市井に出れば、市井にも伯爵家の息がかかった一般の民のなりをした間者は多い。
かと言って伯爵家の屋敷は自分以上に家族が構造を理解していて逃げきれない。
アベラルドの元から消えた風を装って、王城内に潜伏した方が安全なのだ。
何より、潜伏している部屋は国王レオポルドが万が一のために身を顰めるシェルター。気の置けないものだけを使って最小限の動きで動向を知る。
「アベラルド殿下の元にこれを。何時ものように掃除をする振りをして渡してくれ」
「承知致しました」
「マリエルは元気か?そろそろ腹の子も動きが解る頃だろう?」
「順調と。悪阻で食べられなかった分、食べてしまうので食欲を抑えるのに苦労されていると」
「そうか。元気そうで何よりだ」
「伝えますか?」
「何を」
「旦那様が無事だと言う事を」
「いや、何も動きがない方がマリエルは落ち着いていられるだろうから不要だ」
アベラルドに渡して貰う手紙には、決行は辺境伯が謁見の時と認めた。
――辺境伯がこちらに付いてくれればよいのだが――
カルロにはもう打つ手は無いに等しい。一介の伯爵子息なのだ。
城の動きを観察している中で、自分がまだ廃嫡されていない事に父の動きも読めなかった。
レオポルドの前国王への暗殺未遂は証拠も揃っている。名を騙り鉛を手に入れたのもエドガルドだと突き止め、その鉛が前国王の部屋で使われている事も掴んだ。
これで前国王が小康状態となったのは息のかかった者に、ランプを全て交換させたからだ。
「報告がもう一つ御座います」
「なんだ」
「トラント侯爵令息が投獄されました。場所は地下牢」
「謁見にトラント侯爵夫妻は呼ばれていたのではないか?」
「陛下より書状は届いており、仕度は確認しましたので参加はするようです」
「投獄‥‥何があったんだ?」
「辺境伯領への派兵に反対したと間者は報告しましたが」
「反対?…あの忠犬が…飼い主に従わなかった‥‥」
カルロは考え込んだ。
――好機なのか…危機なのか…どっちだ――
エドガルドの投獄が罠であれば投獄と言う格好のエサに反逆者が食いつく事を予想しているだろう。しかし、本当にエドガルドがレオポルドに一線を画したのであればエドガルドをこちら側に引き込んだ時点で勝ちである。
レオポルドは言い訳をする間も無く拘束され、国王の座から引きずり降ろされて断頭台の錆をなるだろう。
辺境伯がこちらについてくれれば、その場には高位貴族もいる。レオポルドを断罪し拘束できるだろう。しかし辺境伯の動向が読めない以上、勝算は未知数。前国王がまだ生きているうちにレオポルドの罪を白日の下に晒し、アベラルドに即位をしてもらわねばならない。
カルロはヴァレリオがアベラルドに確執がない事を祈るしかなかった。
「申し訳ございませんっ」
カリメルラの機嫌の変わりようは誰にも読めないくらいに激しかった。
朝、ブラシで髪を梳きはじめたメイドににこやかに話をしている最中で、突然泣き出したり、怒り出したりするのだ。ドレッサーの天板にうっかり物を置いておけば、飛んできて当たりケガをするだけならまだいい。
鏡に向かって投げつけて、割れた鏡の破片でカリメルラが怪我でもすれば腐っても王子妃なのだ。ただでは済まない。あれ以来、またアベラルドの訪問はなく使用人達は、肩を落とす。
通いはじめてくれるのであれば、改善されるかと思っていたのだ。
「ホントに使えない‥‥なんでこんなクズばっかりなのよ」
荒れている時は、娘のブリジッタも使用人が抱き上げて避難をさせる。
カリメルラは見境なく暴れるため、そこにブリジッタがいようがいまいがお構いなしに物を投げてくる。何度か当たってしまい泣き出したブリジッタの声にまたカリメルラが激昂するのだ。
「私だけに子供を押し付けて!殿下を呼んできなさいよ!」
「妃殿下落ち着いてくださいませ」
「名前つけたんだから、世話をしろと向こうの宮においてきてよ!」
喚くカリメルラが、暴れ疲れるのを待つだけの日々。
使用人が長続きするはずも無く、第二王子妃の宮は入れ替わりも激しかった。
今日もいつものように、いつ「着火」するのかと怯えながら使用人達は洗面から始まり、身支度、朝食とスケジュールをこなすはずだった。
ドレッサーの前で「着火」してしまったカリメルラがメイドから櫛を取り上げて放り投げた。
ガゴッ!!
放り投げた櫛は手前のテーブルに当たり、転がっていく。
今日はどれくらいの時間で終わるんだろう。使用人達が諦めの溜息を飲んだ。
そんなカリメルラに1人の侍女が近寄って耳元で囁いた。
「カリメルラ様」
「なによ」
「先日、代筆をした手紙の受取人。ファッジン辺境伯が間も無く王都に到着するとの知らせが御座いました。如何なさいますか」
カリメルラの鼻がヒクりと動き、あれほど暴れていた手足、口の動きが止まった。
――ステファニアも来るのかしら――
多くの貴族等であれば「細君も帯同するのか」と問うだろうが、カリメルラはその言葉にステファニアが来ると思い込んでしまった。
ニマァと顔が弛み、猫なで声で先程まで髪を梳いていたメイドを手招きする
「最高に仕上げて頂戴。あ、宝飾品があったわよね。持ってきて。私に似合いそうなものを選ぶわ」
「宝飾品‥‥でございますか?」
「そうよ。何時だったが夜会で老婆が髪まで宝飾品を編み込んでいたじゃない?あの時は客寄せの道化師かと思ったけれど私ならもっと美しく編み込めるはずよ」
「ですが…」
メイドは、手を止めた。
以前のカリメルラであれば薄いオレンジ色の髪色だったのだが、出産して間もなくの頃に訪れたゲール公爵が帰ったあと、暴れて部屋に閉じこもり、やっと出て来たかと思えば髪の毛は色が抜けて白髪になっていたのだ。
それは今も変わらず、突然怒り出すので時間のかかる染髪は出来ないのだ。
生活態度も決して褒められたものではなく、食事は気が向いた時。酒と煙草を嗜み、先月は咥え煙草でブリジッタを抱くものだからその灰がブリジッタの髪や衣服に落ち大騒ぎになった事がある。
そのような生活はカリメルラの容貌も変えた。
だらしなく垂れ下がった頬の肉は顎と同化し、今ではその顎も胸と繋がっているのではないかと思うくらいに体そのものも丸みを帯びすぎているし、24歳という年齢にも首を傾げる。
ワインを瓶を咥えて浴びるように飲むさまはカリメルラが言う老婆も老婆で阿婆擦れ老婆である。
「何?早くしなさいよ。いい?これが第二王子妃ってのを見せつけるような装いにするの。あっ!こんな陳腐なドレスではダメね。着替えるわ。衣装メイドを呼んできて」
侍女やメイドはカリメルラの要望通りに仕上げていく。
胸元が大きくあいたドレスだが、デコルテは肉で盛り上がり胸の上に胸がある。
ウエストを強調したいのだろうが、胸の下に2段の胸があるように見える。
まるでボンレスハムに宝飾品をトッピングしたようだ。
白髪の髪には薄いブルーやイエローの宝飾品では目立たないため、真っ赤、真っ青、紫色の濃い色の宝飾品が窓ガラスについた雨粒のようにぶら下がっている。
出来上がったカリメルラに侍女頭が静かに言った。
「まだ午前中だと言うのに…このようなお姿でどちらに行かれると?」
第二王子妃の宮。そこにいる使用人は全てアベラルドの宮にいた者達。
目の前の下品な娼婦になり果てたカリメルラを外に出せばアベラルドが笑い者になってしまう。使用人達はアベラルドの評価がこれ以上落ちるのは困るのだ。
いずれは臣籍降下し伯爵となって伯爵領に出向くと言っても今は王子。
難なくその日を迎える事が出来れば使用人達の首は繋がる。宮を離れる日には勤務した年数に応じて褒賞も出るだろうが、侍女頭となればその額を知っている。
「今すぐ妃殿下を元に戻しなさい」
侍女頭の声にカリメルラは激昂した。自分のセンスを否定されたと感じたからである。
「辺境伯を、ステファニアを迎えるのにこれ以上地味にしたら目立たないじゃない」
いつもの酒焼けした声を張り上げれば良いのでは?と言いかけた言葉を侍女頭は飲み込みつつも、益々この状態を部屋から出す訳に行かぬと後ろにいた侍女に扉を施錠するよう伝えた。
誰の主催かもわからない仮面舞踏会ならいざ知らず、辺境伯が来るとすれば出向く先は謁見室。若しくは国王が用意した部屋となる。そのような場には基本は単色。宝飾品も必要最低限で品位が問われるのだ。こんなカリメルラを出席させれば居並ぶ高位貴族の当主だけでなく、国王も眉を顰めるだろう。
使用人達はカリメルラを宥めつつ「お直し」と言いながら宝飾品を外していく。
まだ時間はあるからと、更に豪奢なドレスを持ってきて「こちらが良いのでは」と勧め、気を逸らす。ドレスを脱がしながら、背中に出来物があると湯殿に誘う。
――これならいつものように暴れてくれた方がずっと楽――
使用人の奮闘と、カリメルラの期待虚しく当日ファッジン辺境伯が登城することはなかった。
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「まもなく辺境伯一行が登城します」
「判った。ありがとう。君はもう宮に戻らない方がいい。顔が知られているからね」
「ですが!」
「大丈夫。あとは私が後始末をする」
「カルロ様。まだ伯爵家の間者はカルロ様を探しています。危険です」
「私もその伯爵家の人間なんだ。表の裏を知っているからまだ息をしてるんだ」
「無理をされないでください。我々は何時でも」
実家からも狙われる身となり、潜伏した先は王城の中である。
下手に市井に出れば、市井にも伯爵家の息がかかった一般の民のなりをした間者は多い。
かと言って伯爵家の屋敷は自分以上に家族が構造を理解していて逃げきれない。
アベラルドの元から消えた風を装って、王城内に潜伏した方が安全なのだ。
何より、潜伏している部屋は国王レオポルドが万が一のために身を顰めるシェルター。気の置けないものだけを使って最小限の動きで動向を知る。
「アベラルド殿下の元にこれを。何時ものように掃除をする振りをして渡してくれ」
「承知致しました」
「マリエルは元気か?そろそろ腹の子も動きが解る頃だろう?」
「順調と。悪阻で食べられなかった分、食べてしまうので食欲を抑えるのに苦労されていると」
「そうか。元気そうで何よりだ」
「伝えますか?」
「何を」
「旦那様が無事だと言う事を」
「いや、何も動きがない方がマリエルは落ち着いていられるだろうから不要だ」
アベラルドに渡して貰う手紙には、決行は辺境伯が謁見の時と認めた。
――辺境伯がこちらに付いてくれればよいのだが――
カルロにはもう打つ手は無いに等しい。一介の伯爵子息なのだ。
城の動きを観察している中で、自分がまだ廃嫡されていない事に父の動きも読めなかった。
レオポルドの前国王への暗殺未遂は証拠も揃っている。名を騙り鉛を手に入れたのもエドガルドだと突き止め、その鉛が前国王の部屋で使われている事も掴んだ。
これで前国王が小康状態となったのは息のかかった者に、ランプを全て交換させたからだ。
「報告がもう一つ御座います」
「なんだ」
「トラント侯爵令息が投獄されました。場所は地下牢」
「謁見にトラント侯爵夫妻は呼ばれていたのではないか?」
「陛下より書状は届いており、仕度は確認しましたので参加はするようです」
「投獄‥‥何があったんだ?」
「辺境伯領への派兵に反対したと間者は報告しましたが」
「反対?…あの忠犬が…飼い主に従わなかった‥‥」
カルロは考え込んだ。
――好機なのか…危機なのか…どっちだ――
エドガルドの投獄が罠であれば投獄と言う格好のエサに反逆者が食いつく事を予想しているだろう。しかし、本当にエドガルドがレオポルドに一線を画したのであればエドガルドをこちら側に引き込んだ時点で勝ちである。
レオポルドは言い訳をする間も無く拘束され、国王の座から引きずり降ろされて断頭台の錆をなるだろう。
辺境伯がこちらについてくれれば、その場には高位貴族もいる。レオポルドを断罪し拘束できるだろう。しかし辺境伯の動向が読めない以上、勝算は未知数。前国王がまだ生きているうちにレオポルドの罪を白日の下に晒し、アベラルドに即位をしてもらわねばならない。
カルロはヴァレリオがアベラルドに確執がない事を祈るしかなかった。
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