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言葉は何のためにある?
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少し手が震えますが、背中から「大丈夫」と温かい空気がわたくしを包みます。
「遠くない未来に隣にいらっしゃるニレイナ様から代替わりを致します。わたくしの在任中についての配分は既に申し渡しておりますがその後の事です」
本当なら名指しは出来ないのですが…
「教皇様、代替わりをした折には、それぞれの国の自国の法、制約が及ばない治外法権の室をご用意ください」
「それは教会内にということかの」
――ちゃんと話せるじゃない!大事な時にフォーフォーだったのに!――
「コホン。その通りでございます。屋敷にしますとその為の護衛の兵などが必要となりますが、教会内でしたら既に護衛の兵はおりますから、新たに兵を集めずに済みます」
3か国の陛下は小さく頷いてくださいました。
ですが、次を飲んでくださるかは判りません。馴染むまでには時間もかかるでしょう。
「水の神の選出は限界に来ています。わたくしが子を産めなかったとき、生んでも男児のみの場合は何をどう足掻こうと途絶える事はお判り頂いているでしょう。女児を産んだとしてもわたくしはその子に継承させるような教育は致しません。自分の未来は自分で決めるものですから」
「その通りだが、それではまたこの3か国が争いを始めるのではないか?」
「ですから、わたくしの代ではそれぞれの国で話し合った結果を持って来るようになります。それはニレイナ様からわたくしへの移行期間があるように、わたくしから3か国への移行期間なのです。次の代は各国から選出された2、3名が教会内に設置した部屋で審査を行えばよいのです。元々折衝で折り合いのついた内容。それを抜かりがないか確認をするだけです」
「まぁ、限界が近いゆえに致し方なしか…しかし戦は…」
「今の状態は言ってみれば責任転嫁なのです。水の神という偶像に決定を委ね、国王としての責任を放棄しているのです。ですが、自国民の水を確保するのは本来国王の仕事です。わたくしの屋敷に護衛は不要です。その資金は全て水源の保護に当て、各国が持ち回りで間伐、清掃、植林を行ってください。今はそれすら出来ておりません。水源を守るのは兵士ではなく、その水を飲み生きていく者達です。元は1つの水源。皆同じ水を飲んで生きているのですから協力し合う事は出来るはずです」
「ですが、それならば今水源にいる兵士にも可能ではありませんか?」
「本来は名は呼びませんが、ルレイザ国王。兵士の剣は斧では御座いませんし、鎌でも御座いませんよ」
「そ、それは確かに‥‥」
「兵士には兵士の、木こりには木こりの仕事が御座います。簡単な事なのです。しかし今すぐに出来ないのは長きに渡りそれぞれの国の民は水の神に信仰し、絶対的な信用と信頼を抱いています。それを否定は出来ません。ですが10年、20年と月日を重ねるごとに水がある事、水が飲めることを守っているのは神ではなく人だと考えさせることが必要なのです」
「その役目、先ずは私が務めよう。王子が名乗りを上げたとなればついてくる民もいる筈だ。人任せにせず私、自らが斧を持ち、鎌を手にしよう」
手をあげられたのはルレイザ国のブリュンゲルトさん。王太子殿下だったのですね。
しかし、続いてアブレド国のウィファン殿下も手をあげられました。
「我が国は多大な迷惑をかけた。その役目は私にやらせてくれないだろうか」
ですがブリュンゲルトさんが鼻をフフンと鳴らされております。
「こう言ってはなんだがウィファン殿下、アブレド国王家は民の信頼度が地に落ちているではないか。そこでウィファン殿下が名乗りを上げて何人が付いてくるというのだ。無理やりお抱え兵士を引き連れるが関の山ではないか」
「くっ…」
「やめないか。ブリュンゲルト」
ルレイザ国のシュッツガルド国王陛下がブリュンゲルトさんを諫められました。
少し苦笑いをしたトマフィー国のエクリエンス国王陛下がぽつり・・・。
「先ずはルレイザ国、その後アブレド国でどうだ。民に強いるのは無理ではなく自発だ。急いては事を仕損じるというだろう。レオパス家の一件もある。どうしてもいうのなら順番は公平にくじ引きにでもすればいい」
空気が良くありません。上手く伝わってないのでしょう。
「今すぐではないのです。代替わりをしてからですのでアブレド国もその頃には持ち直している事も考えられるでしょう。その時になり持ち回りではなく現在の兵士さんのように各国が人数を決めて派遣をするという方法もあります。大事なのは水源の警護をするのではなく、水源の保全をする事なのです」
「しかしっ!」
食い下がったウィファン殿下でしたが…。
「しつこい!黙れ!」
クリス様がピリピリとした空気を出しております。
「エルシー様が今すぐではないと言っているのが聞こえないのなら、俺の剣で耳掃除をしてやるぞ。右から左に大穴が抜けて音だけでなく空気もよく通るようにしてやるが?」
――あら?エルじゃなくエルシー様なのね?――
「いいか?立場上、書面通達で決定を伝えたって何の問題もない所をこうやって雁首揃えて話をしているんだ。エルを困らせるんなら、話はここまでだ。決定事項の通達を待っていろ」
――あら、エルに戻ってる――
「ト、トマフィー国はエルシー様がおられるし、クリストファー殿を通じやり取りが出来るから強気に出られるのでしょう?!我が国はそうではないんだ!」
「ウィファン殿、我が国はエルシー殿との関係性は貴国と同じだが?弟と婚姻をしたからと言って特別扱いをされているかのような物言いは心外だ。そもそも――」
「おやめなさい」
空気が悪くなってしまったところにニレイナ夫人が声をあげられました。
やはりわたくしとは違って皆さん静かになられます。
「話し合えと言っているのです。言い合いをするのではなく話し合う。事情があるのは何処も同じです。エルシーが立場を利用しトマフィー国に便宜を図っているのであれば、わたくしの責でエルシーを罰します。決意を示した時にも聞いたはずです。個人的な事情で忖度をするような生半可な気持ちで決めたのではないと」
「も、申し訳ない…軽率な発言でした」
「弟の発言、申し訳ない。アブレド国王としてお詫び申し上げる。弟は国を思うばかりに思いが強すぎただけなのです。しかし非礼は非礼。申し訳なかった」
「では、話し合いなさい。わたくしからエルシーに代替わりするまではまだ間があるでしょう。エルシーに継がせずわたくしの死亡で混乱に陥る可能性もあったのです。何もしなかったわたくしと違いエルシーはあなた方に時間を与えたのです。話し合いなさい。話し合って分かり合えないなら分かり合えるまで話なさい。判り合うために言葉があるのです」
その日の夜は3か国の国王の前で、ウィファン殿下とブリュンゲルトさんは記憶を失うほど酔いつぶれ、翌朝仲良く朝食を食べていたそうでございます。
☆彡☆彡☆彡
次回は最終回
クリス様は本懐を遂げられるでしょうか?
「遠くない未来に隣にいらっしゃるニレイナ様から代替わりを致します。わたくしの在任中についての配分は既に申し渡しておりますがその後の事です」
本当なら名指しは出来ないのですが…
「教皇様、代替わりをした折には、それぞれの国の自国の法、制約が及ばない治外法権の室をご用意ください」
「それは教会内にということかの」
――ちゃんと話せるじゃない!大事な時にフォーフォーだったのに!――
「コホン。その通りでございます。屋敷にしますとその為の護衛の兵などが必要となりますが、教会内でしたら既に護衛の兵はおりますから、新たに兵を集めずに済みます」
3か国の陛下は小さく頷いてくださいました。
ですが、次を飲んでくださるかは判りません。馴染むまでには時間もかかるでしょう。
「水の神の選出は限界に来ています。わたくしが子を産めなかったとき、生んでも男児のみの場合は何をどう足掻こうと途絶える事はお判り頂いているでしょう。女児を産んだとしてもわたくしはその子に継承させるような教育は致しません。自分の未来は自分で決めるものですから」
「その通りだが、それではまたこの3か国が争いを始めるのではないか?」
「ですから、わたくしの代ではそれぞれの国で話し合った結果を持って来るようになります。それはニレイナ様からわたくしへの移行期間があるように、わたくしから3か国への移行期間なのです。次の代は各国から選出された2、3名が教会内に設置した部屋で審査を行えばよいのです。元々折衝で折り合いのついた内容。それを抜かりがないか確認をするだけです」
「まぁ、限界が近いゆえに致し方なしか…しかし戦は…」
「今の状態は言ってみれば責任転嫁なのです。水の神という偶像に決定を委ね、国王としての責任を放棄しているのです。ですが、自国民の水を確保するのは本来国王の仕事です。わたくしの屋敷に護衛は不要です。その資金は全て水源の保護に当て、各国が持ち回りで間伐、清掃、植林を行ってください。今はそれすら出来ておりません。水源を守るのは兵士ではなく、その水を飲み生きていく者達です。元は1つの水源。皆同じ水を飲んで生きているのですから協力し合う事は出来るはずです」
「ですが、それならば今水源にいる兵士にも可能ではありませんか?」
「本来は名は呼びませんが、ルレイザ国王。兵士の剣は斧では御座いませんし、鎌でも御座いませんよ」
「そ、それは確かに‥‥」
「兵士には兵士の、木こりには木こりの仕事が御座います。簡単な事なのです。しかし今すぐに出来ないのは長きに渡りそれぞれの国の民は水の神に信仰し、絶対的な信用と信頼を抱いています。それを否定は出来ません。ですが10年、20年と月日を重ねるごとに水がある事、水が飲めることを守っているのは神ではなく人だと考えさせることが必要なのです」
「その役目、先ずは私が務めよう。王子が名乗りを上げたとなればついてくる民もいる筈だ。人任せにせず私、自らが斧を持ち、鎌を手にしよう」
手をあげられたのはルレイザ国のブリュンゲルトさん。王太子殿下だったのですね。
しかし、続いてアブレド国のウィファン殿下も手をあげられました。
「我が国は多大な迷惑をかけた。その役目は私にやらせてくれないだろうか」
ですがブリュンゲルトさんが鼻をフフンと鳴らされております。
「こう言ってはなんだがウィファン殿下、アブレド国王家は民の信頼度が地に落ちているではないか。そこでウィファン殿下が名乗りを上げて何人が付いてくるというのだ。無理やりお抱え兵士を引き連れるが関の山ではないか」
「くっ…」
「やめないか。ブリュンゲルト」
ルレイザ国のシュッツガルド国王陛下がブリュンゲルトさんを諫められました。
少し苦笑いをしたトマフィー国のエクリエンス国王陛下がぽつり・・・。
「先ずはルレイザ国、その後アブレド国でどうだ。民に強いるのは無理ではなく自発だ。急いては事を仕損じるというだろう。レオパス家の一件もある。どうしてもいうのなら順番は公平にくじ引きにでもすればいい」
空気が良くありません。上手く伝わってないのでしょう。
「今すぐではないのです。代替わりをしてからですのでアブレド国もその頃には持ち直している事も考えられるでしょう。その時になり持ち回りではなく現在の兵士さんのように各国が人数を決めて派遣をするという方法もあります。大事なのは水源の警護をするのではなく、水源の保全をする事なのです」
「しかしっ!」
食い下がったウィファン殿下でしたが…。
「しつこい!黙れ!」
クリス様がピリピリとした空気を出しております。
「エルシー様が今すぐではないと言っているのが聞こえないのなら、俺の剣で耳掃除をしてやるぞ。右から左に大穴が抜けて音だけでなく空気もよく通るようにしてやるが?」
――あら?エルじゃなくエルシー様なのね?――
「いいか?立場上、書面通達で決定を伝えたって何の問題もない所をこうやって雁首揃えて話をしているんだ。エルを困らせるんなら、話はここまでだ。決定事項の通達を待っていろ」
――あら、エルに戻ってる――
「ト、トマフィー国はエルシー様がおられるし、クリストファー殿を通じやり取りが出来るから強気に出られるのでしょう?!我が国はそうではないんだ!」
「ウィファン殿、我が国はエルシー殿との関係性は貴国と同じだが?弟と婚姻をしたからと言って特別扱いをされているかのような物言いは心外だ。そもそも――」
「おやめなさい」
空気が悪くなってしまったところにニレイナ夫人が声をあげられました。
やはりわたくしとは違って皆さん静かになられます。
「話し合えと言っているのです。言い合いをするのではなく話し合う。事情があるのは何処も同じです。エルシーが立場を利用しトマフィー国に便宜を図っているのであれば、わたくしの責でエルシーを罰します。決意を示した時にも聞いたはずです。個人的な事情で忖度をするような生半可な気持ちで決めたのではないと」
「も、申し訳ない…軽率な発言でした」
「弟の発言、申し訳ない。アブレド国王としてお詫び申し上げる。弟は国を思うばかりに思いが強すぎただけなのです。しかし非礼は非礼。申し訳なかった」
「では、話し合いなさい。わたくしからエルシーに代替わりするまではまだ間があるでしょう。エルシーに継がせずわたくしの死亡で混乱に陥る可能性もあったのです。何もしなかったわたくしと違いエルシーはあなた方に時間を与えたのです。話し合いなさい。話し合って分かり合えないなら分かり合えるまで話なさい。判り合うために言葉があるのです」
その日の夜は3か国の国王の前で、ウィファン殿下とブリュンゲルトさんは記憶を失うほど酔いつぶれ、翌朝仲良く朝食を食べていたそうでございます。
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