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結婚式はご自由に☆前王の末路
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「どういう事なんだ?説明をしろ」
文官に食って掛かるのはハロルドである。
ビーチェとの結婚式当日になっても何の準備もされていないのである。
戴冠式以降、ハロルドは連日ビーチェのいる伯爵家に朝早くに馬車に乗せられて連れて行かれ、夕食後に馬車に揺られて王宮に帰る日々を過ごしていた。
多少はあるだろうと思っていたが、執務も全くない。
朝食を食べて、呆け、昼食を食べて呆け、3時の茶を飲み呆け、夕食を食べて寝る。
時折気晴らしにと引退した元大臣たちが来た時にチェスを楽しむくらいである。
王宮内を歩いても今までと全く変わらない。次官や文官は気忙しく動いているし裏に回ればメイドたちが掃除や洗濯に勤しんでいる。何も変わらない中でハロルドだけはする事がない。
「私にも何か手伝う事くらいあるだろう」
次官や文官、従者に詰め寄っても何も変わらない。ハロルドは行う公務などないのだ。
側妃との婚儀の礼が近いと言う事もあり、城では夜会などは行われない。
数回、ビーチェを連れて高位貴族の夜会に行ってみたが、国王が愛人を連れてきたとヒソヒソ話す声がこれ見よがしに聞こえてくる。
ダンスを踊ればビーチェは簡単なステップしか出来ない上にどうも無様である。
「支度金」と支給された金で仕立てたドレスはどれも高額でおそらくは夜会にいる誰よりも目を引いているが如何せんベルラインのドレスである。裾になる従って膨らみのあるドレスは今の流行がAラインである事からも目立っている上に場所を取る。
そんなドレスを基本ピンク色で仕立てるビーチェ。腰にも大きなリボンがありふと見れば招待されている幼女が着ているものと大差ない。
居た堪れなくなり、早々に会場を後にする。
誰かがやるだろうと甘く考えていたハロルドは伯爵家に来た仕立て屋の言葉に焦る。
「側妃殿下のウェディングドレスはどちらでお仕立てになられましたか?」
伯爵の顔を見るが、ふいっと逸らされてしまった。
ビーチェの姉と妹は薄ら笑いを浮かべるのみ。当のビーチェは今仕立てるドレスを選ぶのにカタログに釘付けで人の話を聞いてはいない。
「あと2カ月もないでしょうから、もう微調整に入られているのでしょう?」
採寸票に数字を書き込みながら仕立て屋はさも当たり前のように言葉を発する。
ハロルドは従者に問うが、御当人同士でお決めくださいと言うばかりである。
城に戻り、側仕えの従者に問いただしてみれば、
「側妃様ですし正妃様のような婚儀ではありません。招待客も国王自らが御選出くださいませ。それに支度金は支給されています。それを使って今日も仕立てをされたのでしょう?」
「すまないが、リストを作ってくれないか。あと式場となる聖堂にも話をしたい。ドレスも急ぎ作らねばならん。直ぐに人を集めてくれ」
「それは陛下直々になさってください。我々は決定に従っているだけです」
「は?何を言ってるんだ?わかった。では命令する。お前が率先してやれ」
「それは出来かねます。そのような命令をされるのであれば先の命令が誤りであったと先ずは取り下げて頂く必要が御座います」
なんだと聞いてみれば、【離宮からの通達】で側妃の婚儀については国としては認めたのみであり、式などを行うかどうかを含め一切は本人が決めるのだと言うではないか。
「フランセアを呼べ!今すぐ!ここにだ!」
「無理でしょう。何を仰っているんですか」
「何をだって?国王は私だ!勝手に何を決めているんだ」
「言いましたでしょう?離宮で決まったのです」
「なっ‥‥た、確かにそうかも知れないが側妃の件は認められたはずだ」
「ですから、陛下が遊びまわっても誰も文句は言っておりませんよ」
ハロルドはテーブルにあった花瓶や菓子の籠を放り投げると離宮に行くと部屋を飛び出た。
だが、離宮についても門は開くことはない。
「私は国王だ!妃に会うのに何故邪魔をする」
「王妃殿下より、誰彼と通すなと言われております。お引き取りを」
「貴様っ!国王である私の命令が聞けないのか」
「私の主君は王妃殿下。そこまで仰るのであれば王妃殿下に問い合わせて参ります」
「早くしろ!私が来たと聞けばすぐに通すはずだ」
「もし、そうならない場合は不審者として取り押さえますがよろしいですね」
ハロルドはその言葉に怯んでしまった。
突然に来れば先客などがあれば自分だって追い返せと言うかもしれない。
「判った…先触れをだしてからにしよう・・・手間を取らせた」
だが、ハロルドが何度先触れを出してもフランセアから返事はない。
そうこうしているうちに婚儀の日となり、何もしないままでハロルドとビーチェは夫婦となった。
式をするかどうかは本人の判断。何もしなければ何も起こらない。
だが、入籍の日は決まっている為、書類上は夫婦になったのである。
戸惑いながらもビーチェを王宮に迎え、北の棟にある部屋に案内をした。
勿論、その日は初夜でもある。ハロルドはビーチェを相手に男になった。
快感を覚えたての猿のように昼も夜もなくビーチェと繋がる。
腹が減ればベルを鳴らせば扉の向こうに食事が用意される。
ワゴンを引き寄せ、2人で食べさせ合って腹が張ればまだ性交をする。
「ハロは何にも仕事をしなくていいの?」
「私の今の仕事はビーチェに沢山子種を注いで世継ぎを作る事だ」
何もする事がなかった数か月と違って世継ぎを作る事はあの議会でも言われていた事である。
与えられた仕事だとハロルドは胸を張って言える自信があった。
遠い南の領地に送られた前国王。
出発した際の馬車ではこの先の道は通れないと言われ小ぶりな馬車に乗り換える。
誰か一人は残ってくれると思っていた側妃たちを思うと乾いた笑いしか出なかった。
「結局は国王という地位にしか寄ってこなかった寄生虫だったか」
子まで成したのに、その王女も連れて出て行ってしまった。
女は見切りをつけると早いと聞いたが…と呟きクックっと喉を鳴らして笑う。
「すみません。この先の小さな町で乗り換えをお願いします」
「またか‥‥今度の馬車はもっと良いやつにするようにしろ」
「と、申しましてもこんな田舎町ですからご希望に添えるかどうか」
今まで何もかも移動などは従者に任せっぱなしだった前国王は気がついていなかった。
城から持ち出した宝飾品や現金、仕立ての良い服などが積まれた荷は馬車を乗り換えた時に全て奪われてしまった事に。いや、それでは言い方が悪い。
片道切符の運賃に全てが当てられている事に気がついていない。
最初の乗り換えは城を出て10日目だった。この時点で既に出国している。
出国の手続きは【最後の面倒】だと弟2人がしてくれている事、それすらも気がつかない。
馬車を乗り換えてさらに10日目。最後の馬車に乗りかえればその先は【未開の地】である。
未開と言っても、数年前に開拓団が来て小屋を建てている。
その小屋が「屋敷」なのである。目の前には海が広がり、浸食されて部分的に足元の地盤が崩壊した断崖絶壁に建つ眺望だけは誰もが目を見張るその地で唯一雨風がしのげる屋敷。
最後の小さな町についた御者は食料を買いこんだが、前国王は粗末な屋台をチラチラ見ただけで食料の買い込みは行わない。不憫に思った御者は道中の食事だけは前国王の分だけを購入した。
「何も買わなくていいんですか?」
「何を買うと言うのだ?早く体を伸ばして眠りたいのだ。馬車を走らせろ」
御者は老婆心から忠告をしたのだが、前国王にはその心は届かなかった。
更に乗り心地の悪い馬車に乗り換えて走る事2週間。その間の食事は御者が提供した。
そして到着した小屋の前。前国王は目を疑った。
馬車を下りた国王は突然動きだした馬車に声を掛けたが馬車は来た道を引き返していった。
下ろす荷物などないため、前国王が下りれば御者は来た道を戻るだけだ。
ここに送り届けるための賃は貰っている。道中の食事は弾んでもらったチップを少し使っただけである。そのチップすら御者にしてみれば1年間遊んで暮らせる額である。
今まで通り働けば、新しい馬も数頭買えるのだ。2週間分の食事くらいはサービスである。
前国王は小屋の中に入った。足を伸ばしてねる寝台すらない。何もないただの空間だった。
小屋の周りは断崖絶壁で、やって来た方向を見れば、草も生えていない剥き出しの荒れ地。
狭い道だったから、従者は後から来るのだろうと小屋に入り床に寝転がった。
しかし、翌日もその翌日もこの地を訪れるものは一人としていなかった。
数年後、本格的に国の事業として開拓団がこの地を訪れた時、まだ小屋はあった。
その中にあった白骨化した人間の亡骸にそっと持ってきた乾パンを備えた。
「腹が減ってたんだろうなぁ」
白骨の衣類を捲るとおそらく壁になっていた板を食べたのだろう。
細かくなったおがくずよりも少し大きめの木くずがワっと宙を舞った。
文官に食って掛かるのはハロルドである。
ビーチェとの結婚式当日になっても何の準備もされていないのである。
戴冠式以降、ハロルドは連日ビーチェのいる伯爵家に朝早くに馬車に乗せられて連れて行かれ、夕食後に馬車に揺られて王宮に帰る日々を過ごしていた。
多少はあるだろうと思っていたが、執務も全くない。
朝食を食べて、呆け、昼食を食べて呆け、3時の茶を飲み呆け、夕食を食べて寝る。
時折気晴らしにと引退した元大臣たちが来た時にチェスを楽しむくらいである。
王宮内を歩いても今までと全く変わらない。次官や文官は気忙しく動いているし裏に回ればメイドたちが掃除や洗濯に勤しんでいる。何も変わらない中でハロルドだけはする事がない。
「私にも何か手伝う事くらいあるだろう」
次官や文官、従者に詰め寄っても何も変わらない。ハロルドは行う公務などないのだ。
側妃との婚儀の礼が近いと言う事もあり、城では夜会などは行われない。
数回、ビーチェを連れて高位貴族の夜会に行ってみたが、国王が愛人を連れてきたとヒソヒソ話す声がこれ見よがしに聞こえてくる。
ダンスを踊ればビーチェは簡単なステップしか出来ない上にどうも無様である。
「支度金」と支給された金で仕立てたドレスはどれも高額でおそらくは夜会にいる誰よりも目を引いているが如何せんベルラインのドレスである。裾になる従って膨らみのあるドレスは今の流行がAラインである事からも目立っている上に場所を取る。
そんなドレスを基本ピンク色で仕立てるビーチェ。腰にも大きなリボンがありふと見れば招待されている幼女が着ているものと大差ない。
居た堪れなくなり、早々に会場を後にする。
誰かがやるだろうと甘く考えていたハロルドは伯爵家に来た仕立て屋の言葉に焦る。
「側妃殿下のウェディングドレスはどちらでお仕立てになられましたか?」
伯爵の顔を見るが、ふいっと逸らされてしまった。
ビーチェの姉と妹は薄ら笑いを浮かべるのみ。当のビーチェは今仕立てるドレスを選ぶのにカタログに釘付けで人の話を聞いてはいない。
「あと2カ月もないでしょうから、もう微調整に入られているのでしょう?」
採寸票に数字を書き込みながら仕立て屋はさも当たり前のように言葉を発する。
ハロルドは従者に問うが、御当人同士でお決めくださいと言うばかりである。
城に戻り、側仕えの従者に問いただしてみれば、
「側妃様ですし正妃様のような婚儀ではありません。招待客も国王自らが御選出くださいませ。それに支度金は支給されています。それを使って今日も仕立てをされたのでしょう?」
「すまないが、リストを作ってくれないか。あと式場となる聖堂にも話をしたい。ドレスも急ぎ作らねばならん。直ぐに人を集めてくれ」
「それは陛下直々になさってください。我々は決定に従っているだけです」
「は?何を言ってるんだ?わかった。では命令する。お前が率先してやれ」
「それは出来かねます。そのような命令をされるのであれば先の命令が誤りであったと先ずは取り下げて頂く必要が御座います」
なんだと聞いてみれば、【離宮からの通達】で側妃の婚儀については国としては認めたのみであり、式などを行うかどうかを含め一切は本人が決めるのだと言うではないか。
「フランセアを呼べ!今すぐ!ここにだ!」
「無理でしょう。何を仰っているんですか」
「何をだって?国王は私だ!勝手に何を決めているんだ」
「言いましたでしょう?離宮で決まったのです」
「なっ‥‥た、確かにそうかも知れないが側妃の件は認められたはずだ」
「ですから、陛下が遊びまわっても誰も文句は言っておりませんよ」
ハロルドはテーブルにあった花瓶や菓子の籠を放り投げると離宮に行くと部屋を飛び出た。
だが、離宮についても門は開くことはない。
「私は国王だ!妃に会うのに何故邪魔をする」
「王妃殿下より、誰彼と通すなと言われております。お引き取りを」
「貴様っ!国王である私の命令が聞けないのか」
「私の主君は王妃殿下。そこまで仰るのであれば王妃殿下に問い合わせて参ります」
「早くしろ!私が来たと聞けばすぐに通すはずだ」
「もし、そうならない場合は不審者として取り押さえますがよろしいですね」
ハロルドはその言葉に怯んでしまった。
突然に来れば先客などがあれば自分だって追い返せと言うかもしれない。
「判った…先触れをだしてからにしよう・・・手間を取らせた」
だが、ハロルドが何度先触れを出してもフランセアから返事はない。
そうこうしているうちに婚儀の日となり、何もしないままでハロルドとビーチェは夫婦となった。
式をするかどうかは本人の判断。何もしなければ何も起こらない。
だが、入籍の日は決まっている為、書類上は夫婦になったのである。
戸惑いながらもビーチェを王宮に迎え、北の棟にある部屋に案内をした。
勿論、その日は初夜でもある。ハロルドはビーチェを相手に男になった。
快感を覚えたての猿のように昼も夜もなくビーチェと繋がる。
腹が減ればベルを鳴らせば扉の向こうに食事が用意される。
ワゴンを引き寄せ、2人で食べさせ合って腹が張ればまだ性交をする。
「ハロは何にも仕事をしなくていいの?」
「私の今の仕事はビーチェに沢山子種を注いで世継ぎを作る事だ」
何もする事がなかった数か月と違って世継ぎを作る事はあの議会でも言われていた事である。
与えられた仕事だとハロルドは胸を張って言える自信があった。
遠い南の領地に送られた前国王。
出発した際の馬車ではこの先の道は通れないと言われ小ぶりな馬車に乗り換える。
誰か一人は残ってくれると思っていた側妃たちを思うと乾いた笑いしか出なかった。
「結局は国王という地位にしか寄ってこなかった寄生虫だったか」
子まで成したのに、その王女も連れて出て行ってしまった。
女は見切りをつけると早いと聞いたが…と呟きクックっと喉を鳴らして笑う。
「すみません。この先の小さな町で乗り換えをお願いします」
「またか‥‥今度の馬車はもっと良いやつにするようにしろ」
「と、申しましてもこんな田舎町ですからご希望に添えるかどうか」
今まで何もかも移動などは従者に任せっぱなしだった前国王は気がついていなかった。
城から持ち出した宝飾品や現金、仕立ての良い服などが積まれた荷は馬車を乗り換えた時に全て奪われてしまった事に。いや、それでは言い方が悪い。
片道切符の運賃に全てが当てられている事に気がついていない。
最初の乗り換えは城を出て10日目だった。この時点で既に出国している。
出国の手続きは【最後の面倒】だと弟2人がしてくれている事、それすらも気がつかない。
馬車を乗り換えてさらに10日目。最後の馬車に乗りかえればその先は【未開の地】である。
未開と言っても、数年前に開拓団が来て小屋を建てている。
その小屋が「屋敷」なのである。目の前には海が広がり、浸食されて部分的に足元の地盤が崩壊した断崖絶壁に建つ眺望だけは誰もが目を見張るその地で唯一雨風がしのげる屋敷。
最後の小さな町についた御者は食料を買いこんだが、前国王は粗末な屋台をチラチラ見ただけで食料の買い込みは行わない。不憫に思った御者は道中の食事だけは前国王の分だけを購入した。
「何も買わなくていいんですか?」
「何を買うと言うのだ?早く体を伸ばして眠りたいのだ。馬車を走らせろ」
御者は老婆心から忠告をしたのだが、前国王にはその心は届かなかった。
更に乗り心地の悪い馬車に乗り換えて走る事2週間。その間の食事は御者が提供した。
そして到着した小屋の前。前国王は目を疑った。
馬車を下りた国王は突然動きだした馬車に声を掛けたが馬車は来た道を引き返していった。
下ろす荷物などないため、前国王が下りれば御者は来た道を戻るだけだ。
ここに送り届けるための賃は貰っている。道中の食事は弾んでもらったチップを少し使っただけである。そのチップすら御者にしてみれば1年間遊んで暮らせる額である。
今まで通り働けば、新しい馬も数頭買えるのだ。2週間分の食事くらいはサービスである。
前国王は小屋の中に入った。足を伸ばしてねる寝台すらない。何もないただの空間だった。
小屋の周りは断崖絶壁で、やって来た方向を見れば、草も生えていない剥き出しの荒れ地。
狭い道だったから、従者は後から来るのだろうと小屋に入り床に寝転がった。
しかし、翌日もその翌日もこの地を訪れるものは一人としていなかった。
数年後、本格的に国の事業として開拓団がこの地を訪れた時、まだ小屋はあった。
その中にあった白骨化した人間の亡骸にそっと持ってきた乾パンを備えた。
「腹が減ってたんだろうなぁ」
白骨の衣類を捲るとおそらく壁になっていた板を食べたのだろう。
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