貴方が側妃を望んだのです

cyaru

文字の大きさ
上 下
4 / 16

廃棄されるドレス

しおりを挟む
アゼントン公爵夫妻を迎えた国王は拍子抜けをした。

「側妃?あぁそれはめでたい事です。半年後などというくだらない決め事がなければ、娘の結婚式の日と同じでも一向に差しさわりは御座いませんのになぁ」

「本当に良いのか?」
「良いも悪いも殿下がお決めになり、陛下も了承された。どこに問題が?」
「いや、公爵にとっても一人娘にこのような仕打ちをと腹を立てておるのではないかと」
「立てる腹など持ち合わせておりません」
「そうですわ。むしろ陛下は殿下の事をお考えになられては?」

「どういう意味だ?」
「意味などと…オホホ。陛下もお困りでしょうに」
「私が何を困っていると」
「女の扱いですわ。2人いれば2人、3人いれば3人。数が増えれば悩む事もおありでしょう」
「あ、うむ…そうだな」

側妃たちを思い出す。確かに5人いる側妃たちは房事の前にもあの側妃は態度がどうだ、ドレスが華美だ、自分は先週我慢をしたのだと、とにかく口を塞ぎたくもなる。

「フランセア嬢にはそのような事はないように私も配慮をしよう」

「えぇ、是非お願いしますわ。まだ18歳。娘に憂いなきようお願いしますわ」
「娘からは殿下と確約をしたと聞いております。
 守ってさえ頂ければ我々も旗を握る事も御座いません」

遠回しに約束を蔑ろにした時は容赦なく反旗を翻すと釘をさしてくる公爵。
兎に角、反対はされなかったと国王は胸をなで下ろした。






結婚式を翌日に控え、国内のどこもが慌ただしい中フランセアの実家であるアゼントン公爵家からは離宮に輿入れ道具が最後の荷物を運び入れた。

「お嬢様、なんとお労しい事か」
「本当に。殿下があのような不義理な方だとは思いもしませんでした」

口々にハロルドの行為に対し不快感を露わにする使用人達。
13歳で婚約をしてからは、先日までは誰もが仲睦まじい2人を祝福していた。

「側妃」

たった一言で全てが裏返ってしまったのである。
しかし、当の本人であるフランセアは至って平常。何も変わらない。
むしろ、こうなった事を悦んでいるほどでもあった。


と、いうのもフランセアとしてはハロルドとの婚約は乗り気ではなかった。
アゼントン公爵家としても、2回断りを入れていた婚約である。
放っておいても引く手あまたのフランセアにわざわざ弱小国の王妃という面倒しかない座を与えようなどと考える事もなかったのである。

「ねぇ、これなんかどうかしら?」

侍女たちと数着のドレスやワンピースを服の上から当てて鏡の前でポーズをとる。
その様子は何事もなければこの先の新しい生活に期待と喜びでいっぱいの18歳の女の子である。次々に部屋に運び込まれてくる衣装はあっという間にクローゼット3つ目である。

「お嬢様、ハロルド様からはこちらが届いておりますが」
「捨てておいて。欲しいならあげるわ」

鏡に向かって数着あるワンピースをあてながら、ハロルドから届いたと言う衣装箱には目もくれない。蓋を開けたままで侍女も思わず苦笑をする。
迷わずに蓋を閉じて廃棄と書いた紙を張る。ドレスだけではなく小物に至るまでハロルドからの贈り物がなくともフランセアは持ち物に困る事はない。

ハロルドからの贈り物は全て廃棄用、寄付用に馬車に戻されたのだった。






同時に側妃の部屋も北の棟で改修が進んでいる。ビーチェ嬢のリクエストだと言うドット柄や明るいピンク色の壁紙で【25歳の少女】らしさを前面に押し出している。

先だってその部屋をみたハロルドは、いつもピンクのレースがふんだんにあしらわれたドレスやワンピースをよく着用しているビーチェらしいと苦笑した。

側妃の部屋の隣は側仕えとなる侍女たちの部屋の為、夫婦と言ってもそれぞれの部屋や夫婦の寝室は存在しない。と言っても広さはかなりあり、キングサイズのベッドが小さく見えるほどである。

透けて見えるピンク色の天幕のついたベッドもやはりビーチェらしいが、ピンクの水玉模様のベッドカバーは幼女と閨を共にするような背徳感も感じさせた。

「ハロっ!見て。可愛くなったでしょう?あとは天井なのっ」
「そうだね。半年も待たせてしまうが我慢をしてくれるかな」
「それはいいんだけどぉ…お妃様に虐められたらどうしようかと思ってぇ」
「それなら大丈夫だ。多分顔を見る事もないはずだ」
「えっ?でも王宮の中にいるんでしょう?食事とか一緒じゃないの?」
「彼女は離宮に住まうんだ。食事は出来るだけ君ともとるようにするよ」

その言葉に、ふと考える仕草になるビーチェ。

ビーチェは側妃と言う立ち位置には大いに満足をしている。
面倒な公務はしなくてもいいし、ただハロルドの愛を受け子を成し、贅沢が出来ればそれでいいのだ。だが不安要素がないと言えば嘘になる。

ハロルドよりも7歳年上のビーチェは美に対しての余念はないが、もう25歳。
5年経てば30歳である。対して正妃のフランセアは23歳。今の自分よりも若い。
ある程度の行為まではハロルドにさせているが、手と口以外をハロルドは拒むのだ。
一線を超えたくてもハロルドは頑なに結婚まではと拒否をする。

早くしなければ、女としての武器が使えなくなる。
年齢は抗いようのないビーチェにとってのハンデなのである。

当初側妃は離宮住まいだと聞き、ガッカリした。ハロルドの渡りが少なくなるからだ。
だが、王宮内と聞いてビーチェは企んだ。
フランセアに虐められていると泣きつく事でハロルドを独占しようと考えたのだ。

そして正妃としては立派だが、夫の愛は自分だけのものと見下すつもりだったが、顔を見る事もないだろうと言われると計画が狂ってしまう。半年後自分は26歳になっているのだ。
虐められる場を設けることが出来ない。
しかし、向こうは離宮、自分は王宮内だとすれば‥‥ニヤリと口元が緩む。


ビーチェの歪んだ顔はすぐに甘えた表情に戻る。
腕に縋りつき、胸を押し付ければハロルドがゴクリとツバを飲むのがわかる。
あと半年の辛抱なのだ。
先に子を産み、贅沢の限りを尽くそうとビーチェは未来を頭に描いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

王太子殿下の子を授かりましたが隠していました

しゃーりん
恋愛
夫を亡くしたディアンヌは王太子殿下の閨指導係に選ばれ、関係を持った結果、妊娠した。 しかし、それを隠したまますぐに次の結婚をしたため、再婚夫の子供だと認識されていた。 それから10年、王太子殿下は隣国王女と結婚して娘が一人いた。 その王女殿下の8歳の誕生日パーティーで誰もが驚いた。 ディアンヌの息子が王太子殿下にそっくりだったから。 王女しかいない状況で見つかった王太子殿下の隠し子が後継者に望まれるというお話です。

私はあなたの何番目ですか?

ましろ
恋愛
医療魔法士ルシアの恋人セシリオは王女の専属護衛騎士。王女はひと月後には隣国の王子のもとへ嫁ぐ。無事輿入れが終わったら結婚しようと約束していた。 しかし、隣国の情勢不安が騒がれだした。不安に怯える王女は、セシリオに1年だけ一緒に来てほしいと懇願した。 基本ご都合主義。R15は保険です。

懐妊を告げずに家を出ます。最愛のあなた、どうかお幸せに。

梅雨の人
恋愛
最愛の夫、ブラッド。 あなたと共に、人生が終わるその時まで互いに慈しみ、愛情に溢れる時を過ごしていけると信じていた。 その時までは。 どうか、幸せになってね。 愛しい人。 さようなら。

戻る場所がなくなったようなので別人として生きます

しゃーりん
恋愛
医療院で目が覚めて、新聞を見ると自分が死んだ記事が載っていた。 子爵令嬢だったリアンヌは公爵令息ジョーダンから猛アプローチを受け、結婚していた。 しかし、結婚生活は幸せではなかった。嫌がらせを受ける日々。子供に会えない日々。 そしてとうとう攫われ、襲われ、森に捨てられたらしい。 見つかったという遺体が自分に似ていて死んだと思われたのか、別人とわかっていて死んだことにされたのか。 でももう夫の元に戻る必要はない。そのことにホッとした。 リアンヌは別人として新しい人生を生きることにするというお話です。

男装の騎士に心を奪われる予定の婚約者がいる私の憂鬱

恋愛
私は10歳の時にファンタジー小説のライバル令嬢だと気付いた。 婚約者の王太子殿下は男装の騎士に心を奪われ私との婚約を解消する予定だ。 前世も辛い失恋経験のある私は自信が無いから王太子から逃げたい。 だって、二人のラブラブなんて想像するのも辛いもの。 私は今世も勉強を頑張ります。だって知識は裏切らないから。 傷付くのが怖くて臆病なヒロインが、傷付く前にヒーローを避けようと頑張る物語です。 王道ありがちストーリー。ご都合主義満載。 ハッピーエンドは確実です。 ※ヒーローはヒロインを振り向かせようと一生懸命なのですが、悲しいことに避けられてしまいます。

【完結】用済みと捨てられたはずの王妃はその愛を知らない

千紫万紅
恋愛
王位継承争いによって誕生した後ろ楯のない無力な少年王の後ろ楯となる為だけに。 公爵令嬢ユーフェミアは僅か10歳にして大国の王妃となった。 そして10年の時が過ぎ、無力な少年王は賢王と呼ばれるまでに成長した。 その為後ろ楯としての価値しかない用済みの王妃は廃妃だと性悪宰相はいう。 「城から追放された挙げ句、幽閉されて監視されて一生を惨めに終えるくらいならば、こんな国……逃げだしてやる!」 と、ユーフェミアは誰にも告げず城から逃げ出した。 だが、城から逃げ出したユーフェミアは真実を知らない。

魔法のせいだから許して?

ましろ
恋愛
リーゼロッテの婚約者であるジークハルト王子の突然の心変わり。嫌悪を顕にした眼差し、口を開けば暴言、身に覚えの無い出来事までリーゼのせいにされる。リーゼは学園で孤立し、ジークハルトは美しい女性の手を取り愛おしそうに見つめながら愛を囁く。 どうしてこんなことに?それでもきっと今だけ……そう、自分に言い聞かせて耐えた。でも、そろそろ一年。もう終わらせたい、そう思っていたある日、リーゼは殿下に罵倒され頬を張られ怪我をした。 ──もう無理。王妃様に頼み、なんとか婚約解消することができた。 しかしその後、彼の心変わりは魅了魔法のせいだと分かり…… 魔法のせいなら許せる? 基本ご都合主義。ゆるゆる設定です。

心の声が聞こえる私は、婚約者から嫌われていることを知っている。

木山楽斗
恋愛
人の心の声が聞こえるカルミアは、婚約者が自分のことを嫌っていることを知っていた。 そんな婚約者といつまでも一緒にいるつもりはない。そう思っていたカルミアは、彼といつか婚約破棄すると決めていた。 ある時、カルミアは婚約者が浮気していることを心の声によって知った。 そこで、カルミアは、友人のロウィードに協力してもらい、浮気の証拠を集めて、婚約者に突きつけたのである。 こうして、カルミアは婚約破棄して、自分を嫌っている婚約者から解放されるのだった。

処理中です...