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廃棄されるドレス
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アゼントン公爵夫妻を迎えた国王は拍子抜けをした。
「側妃?あぁそれはめでたい事です。半年後などというくだらない決め事がなければ、娘の結婚式の日と同じでも一向に差しさわりは御座いませんのになぁ」
「本当に良いのか?」
「良いも悪いも殿下がお決めになり、陛下も了承された。どこに問題が?」
「いや、公爵にとっても一人娘にこのような仕打ちをと腹を立てておるのではないかと」
「立てる腹など持ち合わせておりません」
「そうですわ。むしろ陛下は殿下の事をお考えになられては?」
「どういう意味だ?」
「意味などと…オホホ。陛下もお困りでしょうに」
「私が何を困っていると」
「女の扱いですわ。2人いれば2人、3人いれば3人。数が増えれば悩む事もおありでしょう」
「あ、うむ…そうだな」
側妃たちを思い出す。確かに5人いる側妃たちは房事の前にもあの側妃は態度がどうだ、ドレスが華美だ、自分は先週我慢をしたのだと、とにかく口を塞ぎたくもなる。
「フランセア嬢にはそのような事はないように私も配慮をしよう」
「えぇ、是非お願いしますわ。まだ18歳。娘に憂いなきようお願いしますわ」
「娘からは殿下と確約をしたと聞いております。
守ってさえ頂ければ我々も旗を握る事も御座いません」
遠回しに約束を蔑ろにした時は容赦なく反旗を翻すと釘をさしてくる公爵。
兎に角、反対はされなかったと国王は胸をなで下ろした。
結婚式を翌日に控え、国内のどこもが慌ただしい中フランセアの実家であるアゼントン公爵家からは離宮に輿入れ道具が最後の荷物を運び入れた。
「お嬢様、なんとお労しい事か」
「本当に。殿下があのような不義理な方だとは思いもしませんでした」
口々にハロルドの行為に対し不快感を露わにする使用人達。
13歳で婚約をしてからは、先日までは誰もが仲睦まじい2人を祝福していた。
「側妃」
たった一言で全てが裏返ってしまったのである。
しかし、当の本人であるフランセアは至って平常。何も変わらない。
むしろ、こうなった事を悦んでいるほどでもあった。
と、いうのもフランセアとしてはハロルドとの婚約は乗り気ではなかった。
アゼントン公爵家としても、2回断りを入れていた婚約である。
放っておいても引く手あまたのフランセアにわざわざ弱小国の王妃という面倒しかない座を与えようなどと考える事もなかったのである。
「ねぇ、これなんかどうかしら?」
侍女たちと数着のドレスやワンピースを服の上から当てて鏡の前でポーズをとる。
その様子は何事もなければこの先の新しい生活に期待と喜びでいっぱいの18歳の女の子である。次々に部屋に運び込まれてくる衣装はあっという間にクローゼット3つ目である。
「お嬢様、ハロルド様からはこちらが届いておりますが」
「捨てておいて。欲しいならあげるわ」
鏡に向かって数着あるワンピースをあてながら、ハロルドから届いたと言う衣装箱には目もくれない。蓋を開けたままで侍女も思わず苦笑をする。
迷わずに蓋を閉じて廃棄と書いた紙を張る。ドレスだけではなく小物に至るまでハロルドからの贈り物がなくともフランセアは持ち物に困る事はない。
ハロルドからの贈り物は全て廃棄用、寄付用に馬車に戻されたのだった。
同時に側妃の部屋も北の棟で改修が進んでいる。ビーチェ嬢のリクエストだと言うドット柄や明るいピンク色の壁紙で【25歳の少女】らしさを前面に押し出している。
先だってその部屋をみたハロルドは、いつもピンクのレースがふんだんにあしらわれたドレスやワンピースをよく着用しているビーチェらしいと苦笑した。
側妃の部屋の隣は側仕えとなる侍女たちの部屋の為、夫婦と言ってもそれぞれの部屋や夫婦の寝室は存在しない。と言っても広さはかなりあり、キングサイズのベッドが小さく見えるほどである。
透けて見えるピンク色の天幕のついたベッドもやはりビーチェらしいが、ピンクの水玉模様のベッドカバーは幼女と閨を共にするような背徳感も感じさせた。
「ハロっ!見て。可愛くなったでしょう?あとは天井なのっ」
「そうだね。半年も待たせてしまうが我慢をしてくれるかな」
「それはいいんだけどぉ…お妃様に虐められたらどうしようかと思ってぇ」
「それなら大丈夫だ。多分顔を見る事もないはずだ」
「えっ?でも王宮の中にいるんでしょう?食事とか一緒じゃないの?」
「彼女は離宮に住まうんだ。食事は出来るだけ君ともとるようにするよ」
その言葉に、ふと考える仕草になるビーチェ。
ビーチェは側妃と言う立ち位置には大いに満足をしている。
面倒な公務はしなくてもいいし、ただハロルドの愛を受け子を成し、贅沢が出来ればそれでいいのだ。だが不安要素がないと言えば嘘になる。
ハロルドよりも7歳年上のビーチェは美に対しての余念はないが、もう25歳。
5年経てば30歳である。対して正妃のフランセアは23歳。今の自分よりも若い。
ある程度の行為まではハロルドにさせているが、手と口以外をハロルドは拒むのだ。
一線を超えたくてもハロルドは頑なに結婚まではと拒否をする。
早くしなければ、女としての武器が使えなくなる。
年齢は抗いようのないビーチェにとってのハンデなのである。
当初側妃は離宮住まいだと聞き、ガッカリした。ハロルドの渡りが少なくなるからだ。
だが、王宮内と聞いてビーチェは企んだ。
フランセアに虐められていると泣きつく事でハロルドを独占しようと考えたのだ。
そして正妃としては立派だが、夫の愛は自分だけのものと見下すつもりだったが、顔を見る事もないだろうと言われると計画が狂ってしまう。半年後自分は26歳になっているのだ。
虐められる場を設けることが出来ない。
しかし、向こうは離宮、自分は王宮内だとすれば‥‥ニヤリと口元が緩む。
ビーチェの歪んだ顔はすぐに甘えた表情に戻る。
腕に縋りつき、胸を押し付ければハロルドがゴクリとツバを飲むのがわかる。
あと半年の辛抱なのだ。
先に子を産み、贅沢の限りを尽くそうとビーチェは未来を頭に描いた。
「側妃?あぁそれはめでたい事です。半年後などというくだらない決め事がなければ、娘の結婚式の日と同じでも一向に差しさわりは御座いませんのになぁ」
「本当に良いのか?」
「良いも悪いも殿下がお決めになり、陛下も了承された。どこに問題が?」
「いや、公爵にとっても一人娘にこのような仕打ちをと腹を立てておるのではないかと」
「立てる腹など持ち合わせておりません」
「そうですわ。むしろ陛下は殿下の事をお考えになられては?」
「どういう意味だ?」
「意味などと…オホホ。陛下もお困りでしょうに」
「私が何を困っていると」
「女の扱いですわ。2人いれば2人、3人いれば3人。数が増えれば悩む事もおありでしょう」
「あ、うむ…そうだな」
側妃たちを思い出す。確かに5人いる側妃たちは房事の前にもあの側妃は態度がどうだ、ドレスが華美だ、自分は先週我慢をしたのだと、とにかく口を塞ぎたくもなる。
「フランセア嬢にはそのような事はないように私も配慮をしよう」
「えぇ、是非お願いしますわ。まだ18歳。娘に憂いなきようお願いしますわ」
「娘からは殿下と確約をしたと聞いております。
守ってさえ頂ければ我々も旗を握る事も御座いません」
遠回しに約束を蔑ろにした時は容赦なく反旗を翻すと釘をさしてくる公爵。
兎に角、反対はされなかったと国王は胸をなで下ろした。
結婚式を翌日に控え、国内のどこもが慌ただしい中フランセアの実家であるアゼントン公爵家からは離宮に輿入れ道具が最後の荷物を運び入れた。
「お嬢様、なんとお労しい事か」
「本当に。殿下があのような不義理な方だとは思いもしませんでした」
口々にハロルドの行為に対し不快感を露わにする使用人達。
13歳で婚約をしてからは、先日までは誰もが仲睦まじい2人を祝福していた。
「側妃」
たった一言で全てが裏返ってしまったのである。
しかし、当の本人であるフランセアは至って平常。何も変わらない。
むしろ、こうなった事を悦んでいるほどでもあった。
と、いうのもフランセアとしてはハロルドとの婚約は乗り気ではなかった。
アゼントン公爵家としても、2回断りを入れていた婚約である。
放っておいても引く手あまたのフランセアにわざわざ弱小国の王妃という面倒しかない座を与えようなどと考える事もなかったのである。
「ねぇ、これなんかどうかしら?」
侍女たちと数着のドレスやワンピースを服の上から当てて鏡の前でポーズをとる。
その様子は何事もなければこの先の新しい生活に期待と喜びでいっぱいの18歳の女の子である。次々に部屋に運び込まれてくる衣装はあっという間にクローゼット3つ目である。
「お嬢様、ハロルド様からはこちらが届いておりますが」
「捨てておいて。欲しいならあげるわ」
鏡に向かって数着あるワンピースをあてながら、ハロルドから届いたと言う衣装箱には目もくれない。蓋を開けたままで侍女も思わず苦笑をする。
迷わずに蓋を閉じて廃棄と書いた紙を張る。ドレスだけではなく小物に至るまでハロルドからの贈り物がなくともフランセアは持ち物に困る事はない。
ハロルドからの贈り物は全て廃棄用、寄付用に馬車に戻されたのだった。
同時に側妃の部屋も北の棟で改修が進んでいる。ビーチェ嬢のリクエストだと言うドット柄や明るいピンク色の壁紙で【25歳の少女】らしさを前面に押し出している。
先だってその部屋をみたハロルドは、いつもピンクのレースがふんだんにあしらわれたドレスやワンピースをよく着用しているビーチェらしいと苦笑した。
側妃の部屋の隣は側仕えとなる侍女たちの部屋の為、夫婦と言ってもそれぞれの部屋や夫婦の寝室は存在しない。と言っても広さはかなりあり、キングサイズのベッドが小さく見えるほどである。
透けて見えるピンク色の天幕のついたベッドもやはりビーチェらしいが、ピンクの水玉模様のベッドカバーは幼女と閨を共にするような背徳感も感じさせた。
「ハロっ!見て。可愛くなったでしょう?あとは天井なのっ」
「そうだね。半年も待たせてしまうが我慢をしてくれるかな」
「それはいいんだけどぉ…お妃様に虐められたらどうしようかと思ってぇ」
「それなら大丈夫だ。多分顔を見る事もないはずだ」
「えっ?でも王宮の中にいるんでしょう?食事とか一緒じゃないの?」
「彼女は離宮に住まうんだ。食事は出来るだけ君ともとるようにするよ」
その言葉に、ふと考える仕草になるビーチェ。
ビーチェは側妃と言う立ち位置には大いに満足をしている。
面倒な公務はしなくてもいいし、ただハロルドの愛を受け子を成し、贅沢が出来ればそれでいいのだ。だが不安要素がないと言えば嘘になる。
ハロルドよりも7歳年上のビーチェは美に対しての余念はないが、もう25歳。
5年経てば30歳である。対して正妃のフランセアは23歳。今の自分よりも若い。
ある程度の行為まではハロルドにさせているが、手と口以外をハロルドは拒むのだ。
一線を超えたくてもハロルドは頑なに結婚まではと拒否をする。
早くしなければ、女としての武器が使えなくなる。
年齢は抗いようのないビーチェにとってのハンデなのである。
当初側妃は離宮住まいだと聞き、ガッカリした。ハロルドの渡りが少なくなるからだ。
だが、王宮内と聞いてビーチェは企んだ。
フランセアに虐められていると泣きつく事でハロルドを独占しようと考えたのだ。
そして正妃としては立派だが、夫の愛は自分だけのものと見下すつもりだったが、顔を見る事もないだろうと言われると計画が狂ってしまう。半年後自分は26歳になっているのだ。
虐められる場を設けることが出来ない。
しかし、向こうは離宮、自分は王宮内だとすれば‥‥ニヤリと口元が緩む。
ビーチェの歪んだ顔はすぐに甘えた表情に戻る。
腕に縋りつき、胸を押し付ければハロルドがゴクリとツバを飲むのがわかる。
あと半年の辛抱なのだ。
先に子を産み、贅沢の限りを尽くそうとビーチェは未来を頭に描いた。
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