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第25話  3千万、ご返金~♪

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その場を見ただけで、ついでにメアリーの騒ぐ声にダストール伯爵夫妻は何があったのかを悟った。

「申し訳ございません!大変な粗相を!」

謝って済む問題ではない事はダストール伯爵夫妻も判る。この状況で出来る事はシルビアを完全に切る事だけだ。だがシルビアを切ったとしてもメアリーが残る。

相当な処分が下ってしまう事に足がガクガクと震えた。


「ご息女とその子供の件については用件の後に言い訳を聞いてやる」

「あ、ありがとうございます!誰か!シルビアとメアリーを部屋に放り込んでおけ!」

「部屋に放り込む必要はない。騎士団の荷馬車も一緒に来ているんだから乗せておけばいい」

「え…あ、はいっ!誰か!2人を馬車に放り込むのを手伝ってやってくれ」

「罪人を捕縛するのに騎士がいるんだ。素人の手を煩わせる必要もない。手出しは不要だ」


ダストール伯爵のコロコロ変わる指示に数人の使用人は持ち場に戻るふりをして逃げ出していく。明らかに控室に向かっただろうなと思われる使用人を見てサレンダーは「やれやれ」手を軽く上げた。

騒ぎがいったん収まると王太子とサレンダーは応接室でダストール伯爵夫妻と向き合って座った。


「今日、ここに来たのは代理でな。これを返金したいと頼まれて持ってきた」

「返金?なんでしょうか」

「ご子息の婚約支度金3千万だ。納めてくれるな?」

「えっ?!と、言いますとこれはルチケット子爵から?で…御座いますか?」

「いいや。ロッティーナ・ルチケット、ご息女からだ」

「ロッティーナから…。この件はルチケット子爵はご存じなのですか?」

「さぁ。どうだろうな。ロッティーナ嬢は気を利かせたのだと思うがな」

「気を利かせた…いったいどういう事でしょう」

「昨日の今日だから知らなくても仕方がない。だが世間が知れば大騒ぎになるだろうしダストール伯爵家にも迷惑をかけるからルチケット子爵家との繋がりを切ってくれたんだと私は…思うんだがな?」


何のことかさっぱり解らないダストール伯爵夫妻は顔を見合わせたがサレンダーが補足した言葉に先ほどのシルビアの愚行並みに驚いた。

「昨日ルチケット子爵夫妻は捕縛をされたんだ。子息も一緒にな」

「い、いったい何をしたんです?」

「今のところは…未成年者からの金品強奪を含む虐待、脱税だな」


ダストール伯爵夫妻は再度顔を見合わせて差し出された3千万を「納めます」と受け取りにサインをした。

サレンダーが「今のところは」と前置きしたことで虐待と脱税だけでも懲役は免れないが他にも余罪があれば最悪極刑も考えられる。

そんな家と関りがあればトバッチリを食らうのは火を見るよりも明らか。今のうちに引いた方が賢い選択になる。


「そして…だ。あと6日後にロッティーナ嬢は18歳の成人を迎える。知っているか?」

「はい。息子より3か月早い誕生日ですので」

「知っているなら話は早い。今回ロッティーナ嬢は被害者であるためルチケット子爵夫妻の罪について波及することはない。脱税に付いても未成年故に経営にはタッチしていないと見做されるからな」

「そうですね。あと6日。運のいい子ですね。命拾いだ」

「命拾いか。ふふっ。言いえて妙だな。して、6日後。ロッティーナ嬢は婚約破棄を申し出る予定になっている」

「こっ、婚約破棄?!何故です?」

「支度金を返金しただけでは婚約がなかった事にはならないのは解るな?今のロッティーナ嬢に出来る誠意をダストール伯爵家に見せているだけだ」

「そ、そうでした。はい」


ダストール伯爵夫妻は嫌な事に気が付いた。

未成年の婚約を結ぶのは家長。
解消をするのも家長である。

王太子の言うように支度金を返金しただけでは婚約が無かった事にはならない。そういう意思がありますよと相手に伝えるだけに留まる。

ルチケット子爵夫妻が捕縛されたのなら1秒でも早く婚約を解消したいがルチケット子爵は昨日捕縛されたのなら今は拘置所。聴取の認否にも関わるので会えるのは弁護士のみで署名させようと思えば弁護士を雇うしかない。

しかし未成年の虐待は有償懲役になるのは確実で差し入れを条件にされては敵わない。この先何十年も付き纏われるのは真っ平ごめんだ。

未成年であるが故にルチケット子爵の署名が無ければ婚約解消は出来ないのが歯痒い。

王太子の言うようにあと6日経たねば成人年齢にならないロッティーナが出来る事は支度金を返金する事だけ。そして婚約解消であれ、破棄であれ関係性を絶つことを知らせるのが限界。

当主が捕縛をされたことを理由に婚約破棄を言い出しても構わないが、その場合もルチケット子爵は捕縛中で破棄の調停はルチケット子爵の裁判が終わった後になり結審まで長ければ数年後になる。

そうなれば関係のある家として世間に知れ渡ってしまう。

――最悪じゃないか――

お先真っ暗とはこの事だとダストール伯爵夫妻は肩を落とした。

救いはロッティーナが6日後に成人をする。ただロッティーナ本人は被害者なのでダストール伯爵家からロッティーナに瑕疵を問う事は出来ない。

しかしロッティーナは成人と同時に婚約破棄を申し立てると言う。

ダストール伯爵夫妻には訳が分からなかった。


「話し合いをしてくれと頼まれてね」

「頼まれた?!ロッティーナに?殿下がですか?!」


貴族としては王太子に面倒な話し合いを頼むくらいの間柄なのであれば婚約は続行したい。王家のパイプがあれば将来安泰だからだ。

ダストール伯爵の考えはあっさりと王太子の言葉で覆る。


「ロッティーナ嬢からではない。私はいうなれば代理の代理だ」

「は、はぁ…そうでしたか。しかし婚約破棄とは物騒な話で」


ロッティーナなど18歳になろうと子供だ。
どうにでも言い含められる。ダストール伯爵はほくそ笑んだ。

のだが…。
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