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第11話 人生初のオンパレード
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「きゃぁっ!」
咄嗟に体を捩じった時、ついでのように足も捻じれてしまい横から石畳に体が打ち付けられた。
「ごめん!!大丈夫?」
ぶつかってきた男性は転んだロッティーナに手を差し出した。
「急いでて…前をよく見ていなかった。全面的に僕が悪い。どこかけがは無い?」
「大丈夫です」
手を貸してもらって立ち上がったが、歩こうとすると捻ってしまった足が痛み顔を歪めてしまった。
「足を怪我してるね。本当に申し訳ない…。家まで送るよ」
「いいえ。急いでいるんですよね。私は大丈夫です」
ロッティーナは更に遠回りになるけれど河原に行きイヌザンショウの葉を採取して湿布代わりにしようと考えたが、男性は「怪我をさせてしまったから」と引き下がりそうにない。送って行くと言ってロッティーナの手を放してくれなかった。
「僕のせいで怪我をしてしまったのにそのまま行かせることは出来ない。そうだな…」
うーん…男性は考えてロッティーナの服装を見るとロッティーナの前にしゃがみ込んで背中を向けた。
「な、なにを?!」
「横抱きは不味いと思うから背負うよ。僕の背中に乗って」
――え?いやいや、馬も乗った事ないのに初乗りが男性って?!――
ロッティーナが乗った事があるのは辻馬車と大掃除をする時にデスクの上に置いた椅子くらい。人間の背中に背負われた経験は生まれて間もなく18年だが一度もない。
「恥ずかしいと思うけど、皆抽選会場の方を見ているから大丈夫だ」
「そういう問題じゃ…」
迷っているロッティーナだったが「背負われるのが嫌なら横抱きしかない」と言われ仕方なく男性の背中に背負われてしまった。
「少し走るよ」
「は、はい」
揺らさないように気を使ってくれているのか。それとも背負われるとこんな感じなのか。初めての経験のロッティーナには揺れている感覚はあまりなかった。
「ごめん。ちょっと待たせたら借りを作ってしまうヤツを待たせてるんだ。医者もいると思うからそこに行っていいかな。かかりつけの医者がいるなら先に回るけど」
「お医者様なんて…知り合いにもいません」
「じゃ、僕に任せてくれて良いかな」
「は、はぁ…でも私、お医者様に診て頂くほどお金が」
「支払いが必要なら僕が払うのは当然だ。心配しないで」
男性に背負われて通りを抜けるとそこは貴族の中でもごく一部の貴族が御用達の店が並ぶ一角に入った。ロッティーナのような服装ならショーウィンドウを外から見ているだけでシッシと手で「あっち行け」とされてしまいそうな高級商店街。
高級商店街と言っても店に直接やって来る貴族はおらず、店の方が屋敷に来てくれるクラスの商店街である。
「えぇっと…ミッレ…ミッレ…」
男性はロッティーナを背負ったまま店の名前だろうか呟きながら小走りで歩道を駆けていく。
「あ、あの…多分ですけど通り過ぎたかと」
「え?マジ?どの辺りにあった?」
「3軒手前のお店の看板がミッレだったと思うんですが…。間違っていたらごめんなさい」
学問塾に行く前ならロッティーナも解らなかっただろうが、やはり学問塾に行った1年間は無駄ではなくロッティーナは色々な言葉を覚え、読み書きできるようになった。
そのおかげで通り過ぎた時に看板の文字もしっかりと判読できた。
男性は体を反転させると看板を見上げ「あった!ありがとう」と言い…ロッティーナが「入って良いのかな?」とびくびくしているのも気が付かず高級仕立て店ミッレの扉を開けた。
「降ろすよ」
そう言われたけれど足が痛いからではなく、自分がこの磨き上げられた床に立っていいのか解らない。
人生初がまたもや訪れたロッティーナ。
背負われるのも初めてなら、王家御用達の店の中に入り空気を吸い込むのも初めて。当然店の床に立つのも初めてだ。
「あ、あの…床が汚れてしまうので私は外で…」
「何言ってるんだ。大丈夫だよ」
大丈夫と言われてもロッティーナの心が全く大丈夫ではない。
そして更なる初体験がロッティーナに降りかかった。
「どうしたんだい?恋人?」
「ひゅっ!!」
日頃から面倒ごとばかりが降りかかるので少々の事では気を飛ばしたり出来ない強靭な心臓が恨めしい。
ロッティーナを背負っている男性に声を掛けながら店の奥から出てきたのは王太子殿下、その人だった。
目が覚めるような美丈夫でロッティーナは生きて動いている王太子を見たのは成婚の儀のパレードだけだが、街の至る所には国王一家の肖像画が掲げられていて通常絵に描くと本人よりも5割増しになるのだが、目の前に現れた王太子は更に肖像画の8割増しの美貌だった。
「来る途中でぶつかってしまったんだ。足を挫いたみたいで」
「ジャック…何やってるんだ。女性を転ばせてしまうなんて。大丈夫だったかい?」
「ひゃ、ひゃぃ」
まさか王太子殿下ご本人様に声を掛けられる、しかも気遣われる日が来るとは。
今日は教会クジの抽選日だが、ロッティーナは王太子に声を掛けて貰った。それだけで人生の運を全てつぎ込んでも当たらない大当たりを引いた気分。
――私、明日、死んじゃうのかな。ううん。今かも――
返した返事は噛んでしまって「ひゃい」になったが王太子は笑ったりせずに「侍医が奥にいる。呼んできてくれ」と声を掛けている。
――まさか殿下を診るお医者様?!――
トンデモない事だ。
いったい診察料が幾らになるんだろう。男性は家も土地も全部売らなきゃいけないんじゃないか。ロッティーナは音にするならギギギ…錆びついたゼンマイのように背負ってきてくれた男性を見た。
咄嗟に体を捩じった時、ついでのように足も捻じれてしまい横から石畳に体が打ち付けられた。
「ごめん!!大丈夫?」
ぶつかってきた男性は転んだロッティーナに手を差し出した。
「急いでて…前をよく見ていなかった。全面的に僕が悪い。どこかけがは無い?」
「大丈夫です」
手を貸してもらって立ち上がったが、歩こうとすると捻ってしまった足が痛み顔を歪めてしまった。
「足を怪我してるね。本当に申し訳ない…。家まで送るよ」
「いいえ。急いでいるんですよね。私は大丈夫です」
ロッティーナは更に遠回りになるけれど河原に行きイヌザンショウの葉を採取して湿布代わりにしようと考えたが、男性は「怪我をさせてしまったから」と引き下がりそうにない。送って行くと言ってロッティーナの手を放してくれなかった。
「僕のせいで怪我をしてしまったのにそのまま行かせることは出来ない。そうだな…」
うーん…男性は考えてロッティーナの服装を見るとロッティーナの前にしゃがみ込んで背中を向けた。
「な、なにを?!」
「横抱きは不味いと思うから背負うよ。僕の背中に乗って」
――え?いやいや、馬も乗った事ないのに初乗りが男性って?!――
ロッティーナが乗った事があるのは辻馬車と大掃除をする時にデスクの上に置いた椅子くらい。人間の背中に背負われた経験は生まれて間もなく18年だが一度もない。
「恥ずかしいと思うけど、皆抽選会場の方を見ているから大丈夫だ」
「そういう問題じゃ…」
迷っているロッティーナだったが「背負われるのが嫌なら横抱きしかない」と言われ仕方なく男性の背中に背負われてしまった。
「少し走るよ」
「は、はい」
揺らさないように気を使ってくれているのか。それとも背負われるとこんな感じなのか。初めての経験のロッティーナには揺れている感覚はあまりなかった。
「ごめん。ちょっと待たせたら借りを作ってしまうヤツを待たせてるんだ。医者もいると思うからそこに行っていいかな。かかりつけの医者がいるなら先に回るけど」
「お医者様なんて…知り合いにもいません」
「じゃ、僕に任せてくれて良いかな」
「は、はぁ…でも私、お医者様に診て頂くほどお金が」
「支払いが必要なら僕が払うのは当然だ。心配しないで」
男性に背負われて通りを抜けるとそこは貴族の中でもごく一部の貴族が御用達の店が並ぶ一角に入った。ロッティーナのような服装ならショーウィンドウを外から見ているだけでシッシと手で「あっち行け」とされてしまいそうな高級商店街。
高級商店街と言っても店に直接やって来る貴族はおらず、店の方が屋敷に来てくれるクラスの商店街である。
「えぇっと…ミッレ…ミッレ…」
男性はロッティーナを背負ったまま店の名前だろうか呟きながら小走りで歩道を駆けていく。
「あ、あの…多分ですけど通り過ぎたかと」
「え?マジ?どの辺りにあった?」
「3軒手前のお店の看板がミッレだったと思うんですが…。間違っていたらごめんなさい」
学問塾に行く前ならロッティーナも解らなかっただろうが、やはり学問塾に行った1年間は無駄ではなくロッティーナは色々な言葉を覚え、読み書きできるようになった。
そのおかげで通り過ぎた時に看板の文字もしっかりと判読できた。
男性は体を反転させると看板を見上げ「あった!ありがとう」と言い…ロッティーナが「入って良いのかな?」とびくびくしているのも気が付かず高級仕立て店ミッレの扉を開けた。
「降ろすよ」
そう言われたけれど足が痛いからではなく、自分がこの磨き上げられた床に立っていいのか解らない。
人生初がまたもや訪れたロッティーナ。
背負われるのも初めてなら、王家御用達の店の中に入り空気を吸い込むのも初めて。当然店の床に立つのも初めてだ。
「あ、あの…床が汚れてしまうので私は外で…」
「何言ってるんだ。大丈夫だよ」
大丈夫と言われてもロッティーナの心が全く大丈夫ではない。
そして更なる初体験がロッティーナに降りかかった。
「どうしたんだい?恋人?」
「ひゅっ!!」
日頃から面倒ごとばかりが降りかかるので少々の事では気を飛ばしたり出来ない強靭な心臓が恨めしい。
ロッティーナを背負っている男性に声を掛けながら店の奥から出てきたのは王太子殿下、その人だった。
目が覚めるような美丈夫でロッティーナは生きて動いている王太子を見たのは成婚の儀のパレードだけだが、街の至る所には国王一家の肖像画が掲げられていて通常絵に描くと本人よりも5割増しになるのだが、目の前に現れた王太子は更に肖像画の8割増しの美貌だった。
「来る途中でぶつかってしまったんだ。足を挫いたみたいで」
「ジャック…何やってるんだ。女性を転ばせてしまうなんて。大丈夫だったかい?」
「ひゃ、ひゃぃ」
まさか王太子殿下ご本人様に声を掛けられる、しかも気遣われる日が来るとは。
今日は教会クジの抽選日だが、ロッティーナは王太子に声を掛けて貰った。それだけで人生の運を全てつぎ込んでも当たらない大当たりを引いた気分。
――私、明日、死んじゃうのかな。ううん。今かも――
返した返事は噛んでしまって「ひゃい」になったが王太子は笑ったりせずに「侍医が奥にいる。呼んできてくれ」と声を掛けている。
――まさか殿下を診るお医者様?!――
トンデモない事だ。
いったい診察料が幾らになるんだろう。男性は家も土地も全部売らなきゃいけないんじゃないか。ロッティーナは音にするならギギギ…錆びついたゼンマイのように背負ってきてくれた男性を見た。
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