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第04話  迷惑な話

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ロッティーナは何度かシルビアに言ったことがある。

『2人のために使った経費だけは精算して欲しいんですが』

ロッティーナに食事とミルク、オムツ交換を済ませて貰いご機嫌のセイラムをあやしながらシルビアがロッティーナを睨んだ。


『診察代も薬代も不要のはずよ?どうして貴女に払わなきゃいけないの』


確かにシルビアの言うようにエスニタート王国では10歳になるまで貴族の子供の医療費は無料だ。だが子供にかかる費用は医院に連れて行くだけにしても医療費だけでは済まない。


『行き帰りの辻馬車代とか、途中で購入する飲み物とか立て替えているんです』

『歩けばいいでしょう?なんで辻馬車を使うのか意味不明だわ。それに勝手な判断で飲料を与えないでくれる?アレルギーがあったらどう責任を取ってくれるの』

『なら医院に行く時は飲み物もご用意ください。何も持たされないので途中で喉が渇いたと言われれば買うしかありませんし、オムツや着替えも渡されないので』

『貴女にそこまで頼んでいないし、勝手にやったことで金をくれだなんてどれだけ卑しいの?』


シルビアは「頼んでいない」「勝手にした事に金は払えない」と一度も払ってくれたことはない。

アレルギーだなんだと御託を述べてはいるがシルビア自身「飲んでみるぅ?」とメアリーにワインを飲ませたり、離乳食も後半、まだ1歳にもなっていないセイラムに蜂蜜たっぷりの菓子を食べさせたりしている。

祖父母であるダストール伯爵夫妻も一緒になってメアリーやセイラムが「不味い」と顔を顰めるのが可愛いのだと言い、虐待ではないかと声をあげるのはロッティーナだけ。

面倒な姉の手前なのかシリルでさえ「杓子定規な事を言うな」とロッティーナを窘める。

その後に嘔吐や下痢、発疹にひきつけなどを起こしたセイラムを何度医院に連れて行く羽目になったか。

預かるのも極まれで、その時に与えただけなら何も言わない。

清算して欲しいと言ったのは、飲み食いする物も着替えも何も持たされず「後宜しく」とばかりに放られるからである。

医院に連れて行き、直ぐに診察ならまだいいが平均で1時間以上。長い時は2、3時間待合で待たされるため2人に水分補給させねばならず、混ざりものがあってはいけないとわざわざ果汁を目の前で搾ってくれる屋台であったり、沸騰させて冷ました白湯を使ってくれるカフェを利用しているので割高。

立替分を清算してくれと何度目かの申し出でダストール伯爵夫人がセイラムのためにベビーカーを用意したが、それまでロッティーナはメアリーの手を引き、セイラムを抱っこして医院に連れて行っていた。
首が座るまでのセイラムを抱っこするのは気苦労しかなかった。

医院までは片道5km以上あり、当時4歳のメアリーを歩かせられるはずもないので辻馬車を利用したのだ。

「具合が悪いほうだけを連れて行く」と言った事もあるが「ついでだから」と押し付けられる。

育児は使用人に任せきりでイイとこ取りの経験者であるダストール伯爵夫妻。

面倒な育児はしたくないシルビア。

幼子を見る給料は貰っていないと助けてもくれないダストール伯爵家の使用人。


ロッティーナも程ほど嫌気がさし、子供の面倒をみる、預かるのは「責任が持てない」と遠慮しますとシルビアに直接告げたが、シルビアは朝早くからロッティーナの家に子供を連れてやって来て「任せたわね」と返事を待たずにどこかに行ってしまう。

5歳と生後8か月の子供2人はそのまま置いていかれるので誰かが面倒を見なくてはならない。

シルビアがアテにならないのだから、メアリーとセイラムの祖父母にあたるダストール伯爵夫妻に直談判をしてみれば「預かったのは貴女でしょう?」とけんもほろろ。


ロッティーナが幼子2人の面倒を見なくてはならない状況になった原因はダストール伯爵家のシリルと婚約関係にあるからであるが、そのシリルも「ごめん、仕事があるんだ。悪いな」と言って逃げてしまう。

何度か幼子の父親であるシルビアの嫁ぎ先である男爵家が面倒をみるべきだと連れて行けば不在。

居留守を使っている訳ではなく、シルビアの夫は出稼ぎで隣国に出向いているし、父方の祖父母にあたる2人も日々の食い扶持を稼ぐために日雇い労働に出ていて帰ってくるのは20時過ぎ。


困り果てて公的機関に相談に行くと鬼の形相でダストール伯爵夫人とシルビアがやって来て何故かロッティーナが「子守をすると引き受けた」という話になっており相談員からも注意を受けてしまった。

それが何度か続けば相談員もロッティーナの話など聞いてくれもせず門前払い。

ロッティーナも仕事をしている。仕事先が気を利かせてくれて持ち帰りにしてくれているが預けられてしまった日は預かっている間に仕事が出来るはずもなく徹夜で仕事になる。

繁忙期は社外秘の書類もあり持ち帰りは出来ないので仕事先に頭を下げてメアリーはベビーサークルで遊ばせ、セイラムを背負って仕事をした事もあったが、仕事に集中出来るはずもなく3軒あった仕事先の1軒は「もう来なくていい」と仕事を切られた。


今日は特に最悪だった。

「どうなってるの。何してるのよ」

近所に住む男爵家の夫人が朝食を用意しているルチケット子爵家の玄関をけたたましく叩いた。

玄関前に幼子2人を「皮膚炎があるので医院に連れて行って。午後には屋敷に帰る」と置手紙1つでシルビアは子供を放置していたのである。ちょろちょろと動き回るメアリーを見た近所の住民が危険だと知らせてくれたが迷惑この上ない話だ。
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