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VOL.31 クーヘン、新作のパン
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オリビアはその後目覚めたロゼッタにもシェイラと同じように湿布を取り換えてやると痛み止めの薬湯を2人に飲ませ、クーヘンの待つ売り場にやって来た。
「どうだった?」
「うん。薬湯を飲んでくれたわ。湿布も交換した」
「酷いねぇ。あんな痣になるまで。全く。女に手を挙げるなんて」
フンフンと鼻息が荒いのは飲み屋ミナミの女将。オリビア1人では着替えをさせる事が出来なかったので手伝ってもらったのだ。足は湯に浸けることが出来てもクーヘンに着替えまでは頼めなかった。
「で、聞こえたんだけど‥放火するって?」
「らしいわね」
「ガセネタじゃないのかい?放火なんて大罪も良いところだよ。そこまでの命知らずなんているのかねぇ」
ミナミの女将は半信半疑だが、オリビアはディチ子爵ならやりかねないと考えていた。
国王の絶対的監視下にあるレスモンドから計画書を出され、都合よく焼け野原になれば「ちょうどいいところに」と声が上がり計画書は事業提案書と名前を変え昇格するだろう。
最初から事業提案書だと、クーヘンや女将、ハンス達を含め現時点で西地区に住んでいる者や、貧民窟の人間はどうするのだと問われる。
計画書なら草案の様なものなので、何も起こらなければ計画倒れ。
ディチ子爵は見越しての行動をしているのだ。
――許せないわ。でも…私に何が出来るかしら――
「オリビア。朝食にしよう。女将も食べて行ってくれよ」
クーヘンは場の空気を変えようとしたのか、明るい声を出すと調理場に行きオリビアが2人の湿布を交換している時に作った朝食をプレートに盛り付けて持ってきた。
「おやまぁ。若いと朝から旺盛だねぇ」
「どうしたの?!これ」
「試作品。ほら、朝食を抜いていく人もいるだろうから店先とか馬車乗り場で手軽に食べられるものを売ればどうかと思って」
プレートには2つのパンがあった。
双方ともコッペパンの中央に切れ目を入れて具材を挟み込んでいる。
「こっちのパン…黒いのは焦げたの?」
「いや、チョコレートを使ってみた」
「チョコレート?そんな高価なものを?買ったの?ねぇ!買ったの?いつ買ったの!」
問いから叱責に切り替わっていくオリビアを女将が「まぁまぁ」と窘めた。
「も、貰ったんだよ。ブータコマが精肉を納品に行った時にどこの伯爵だったかな。貰ったっていうから分けてくれたんだよ。こっちの白い方に挟んでるのは干し肉な?干し肉も貰ったんだよ」
「ん?ん~…確かに干し肉ね。でもどうしてチョコレートなの?」
「聞いた話なんだけどチョコレートは朝に少しだけ食べると頭が冴えるらしいんだ。これはお試しだけど細かく砕いたのを生地に練り込んで焼いたんだ。挟んでいるのはチーズバナナなんだ」
「チーズバナナ?!初めて聞いたわ。なにそれ‥そんな品種があるの?」
「違うよ。ハンスの所で熟す前のバナナだけど運ぶときに傷になったからって貰ったんだ。そのままじゃ甘みがかなり足りないからチーズをパリパリに焼いてバナナをスライスして並べてだな。ちょっと胡椒を振って包んで、チョコパンに挟んだんだよ」
「こっちの白いパンの方は?」
「こっちはだな。ポテトサラダを作っていつもならビネガーと卵黄、油で作ったマヨソースを和えるんだけど、マヨソースじゃなく生クリームにレモン汁を入れてサワークリームにしてだな、塩気に干し肉を水で戻して小さくして混ぜたんだよ。ポテサラ・サワークリームバージョンかな。干し肉を戻す時に使った水はコンソメスープになってるけどな」
――ホント。お菓子じゃなく調理人になったほうがいいんじゃない?――
「いいわねぇ。うちなんか、なぁんにも作ってくれやしないよ。アタシもクーヘンさんみたいな旦那にしとくんだった。あ~結婚を30年早まった~!」
「女将、俺、まだ未婚だから。それに30年前?俺、親父の中に形もないから」
「何言ってんだい。売約済みみたいなもんさね。ね?」
女将は「ね?」と首を傾げてオリビアを見る。
――いえ、予約もしてません――
どちらもほんのりと甘く美味しい。確かにバナナは甘くないのでチーズと胡椒がいい感じになっていてチョコの甘みも邪魔をしていない。
サワークリームのポテトサラダも干し肉にはたっぷり塩を使うので水で抜いていても塩気がしっかりと感じられるがサワークリームになっているので塩辛いとまでは感じない。
「持って食べるならポテトサラダのサワークリームかな。チーズバナナはパンを齧った時にバナナがコロって出てきちゃうわ」
「そうか…改良しなきゃな」
――ボツじゃないんだ?――
朝食が終わるとオリビアは女将にシェイラとロゼッタを頼み、クーヘンと一緒に貧民窟に向かった。
貧民窟にはスピア伯爵がいる。
甜菜を甜菜糖とウォッカにする倉庫を工場として使っていて、当面の間工場長として行き来をすると聞いていたので行けば会える…と思ったからである。
勿論、シェイナからの情報についてスピア伯爵の考えを聞くのもあるし、備えるのであればどうするか。対策を練るためである。
「どうだった?」
「うん。薬湯を飲んでくれたわ。湿布も交換した」
「酷いねぇ。あんな痣になるまで。全く。女に手を挙げるなんて」
フンフンと鼻息が荒いのは飲み屋ミナミの女将。オリビア1人では着替えをさせる事が出来なかったので手伝ってもらったのだ。足は湯に浸けることが出来てもクーヘンに着替えまでは頼めなかった。
「で、聞こえたんだけど‥放火するって?」
「らしいわね」
「ガセネタじゃないのかい?放火なんて大罪も良いところだよ。そこまでの命知らずなんているのかねぇ」
ミナミの女将は半信半疑だが、オリビアはディチ子爵ならやりかねないと考えていた。
国王の絶対的監視下にあるレスモンドから計画書を出され、都合よく焼け野原になれば「ちょうどいいところに」と声が上がり計画書は事業提案書と名前を変え昇格するだろう。
最初から事業提案書だと、クーヘンや女将、ハンス達を含め現時点で西地区に住んでいる者や、貧民窟の人間はどうするのだと問われる。
計画書なら草案の様なものなので、何も起こらなければ計画倒れ。
ディチ子爵は見越しての行動をしているのだ。
――許せないわ。でも…私に何が出来るかしら――
「オリビア。朝食にしよう。女将も食べて行ってくれよ」
クーヘンは場の空気を変えようとしたのか、明るい声を出すと調理場に行きオリビアが2人の湿布を交換している時に作った朝食をプレートに盛り付けて持ってきた。
「おやまぁ。若いと朝から旺盛だねぇ」
「どうしたの?!これ」
「試作品。ほら、朝食を抜いていく人もいるだろうから店先とか馬車乗り場で手軽に食べられるものを売ればどうかと思って」
プレートには2つのパンがあった。
双方ともコッペパンの中央に切れ目を入れて具材を挟み込んでいる。
「こっちのパン…黒いのは焦げたの?」
「いや、チョコレートを使ってみた」
「チョコレート?そんな高価なものを?買ったの?ねぇ!買ったの?いつ買ったの!」
問いから叱責に切り替わっていくオリビアを女将が「まぁまぁ」と窘めた。
「も、貰ったんだよ。ブータコマが精肉を納品に行った時にどこの伯爵だったかな。貰ったっていうから分けてくれたんだよ。こっちの白い方に挟んでるのは干し肉な?干し肉も貰ったんだよ」
「ん?ん~…確かに干し肉ね。でもどうしてチョコレートなの?」
「聞いた話なんだけどチョコレートは朝に少しだけ食べると頭が冴えるらしいんだ。これはお試しだけど細かく砕いたのを生地に練り込んで焼いたんだ。挟んでいるのはチーズバナナなんだ」
「チーズバナナ?!初めて聞いたわ。なにそれ‥そんな品種があるの?」
「違うよ。ハンスの所で熟す前のバナナだけど運ぶときに傷になったからって貰ったんだ。そのままじゃ甘みがかなり足りないからチーズをパリパリに焼いてバナナをスライスして並べてだな。ちょっと胡椒を振って包んで、チョコパンに挟んだんだよ」
「こっちの白いパンの方は?」
「こっちはだな。ポテトサラダを作っていつもならビネガーと卵黄、油で作ったマヨソースを和えるんだけど、マヨソースじゃなく生クリームにレモン汁を入れてサワークリームにしてだな、塩気に干し肉を水で戻して小さくして混ぜたんだよ。ポテサラ・サワークリームバージョンかな。干し肉を戻す時に使った水はコンソメスープになってるけどな」
――ホント。お菓子じゃなく調理人になったほうがいいんじゃない?――
「いいわねぇ。うちなんか、なぁんにも作ってくれやしないよ。アタシもクーヘンさんみたいな旦那にしとくんだった。あ~結婚を30年早まった~!」
「女将、俺、まだ未婚だから。それに30年前?俺、親父の中に形もないから」
「何言ってんだい。売約済みみたいなもんさね。ね?」
女将は「ね?」と首を傾げてオリビアを見る。
――いえ、予約もしてません――
どちらもほんのりと甘く美味しい。確かにバナナは甘くないのでチーズと胡椒がいい感じになっていてチョコの甘みも邪魔をしていない。
サワークリームのポテトサラダも干し肉にはたっぷり塩を使うので水で抜いていても塩気がしっかりと感じられるがサワークリームになっているので塩辛いとまでは感じない。
「持って食べるならポテトサラダのサワークリームかな。チーズバナナはパンを齧った時にバナナがコロって出てきちゃうわ」
「そうか…改良しなきゃな」
――ボツじゃないんだ?――
朝食が終わるとオリビアは女将にシェイラとロゼッタを頼み、クーヘンと一緒に貧民窟に向かった。
貧民窟にはスピア伯爵がいる。
甜菜を甜菜糖とウォッカにする倉庫を工場として使っていて、当面の間工場長として行き来をすると聞いていたので行けば会える…と思ったからである。
勿論、シェイナからの情報についてスピア伯爵の考えを聞くのもあるし、備えるのであればどうするか。対策を練るためである。
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