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VOL.20 決めつけてない?②―①
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ハンスの店でスピア伯爵と次回打ち合わせの約束を交わしたオリビアはクーヘンの店に戻って来た。
「どうでし…どうだった?ハンスは…」
「万事うまく行きましたわ。ハンスさんもこれから大忙しかも知れませんわね」
「そっか。良かった。ありがとう」
「いいえ。捨てたと思った肩書も使えただけです」
「だけど、良いんですか。俺…」
「クーヘンさん!言葉!私、クーヘンさんには感謝しているのですよ?住まう場所もなかった私を受け入れてくださったのですから」
「あれは成り行きって言いま…言うか」
オリビアがクーヘンに感謝をしているのは本当の気持ち。
だたクーヘンの心の中はオリビアの素性を知った時から複雑な感情が入り乱れていた。
手は出していないし、思いを言葉にした事もないけれどオリビアに対しては恋心も感じている。片付けが終わり、掃除も終われば菓子作りが始まる。
クーヘンは菓子作りが始まる頃には神父が受け入れ可能な修道院を見つけてくれるといったオリビアに「もう少しここにいたら?」と修道院行きを延期するように伝えようと思っていた。
一緒に居る期間が長くなればこの思いを伝える事が出来るかも知れない。
そんな邪な思いを誤魔化す言葉だ。
だが、今は言えないと自分自身に釘をさす。
同時に「捨てたといってるんだから」と背を押す自分もいる。
クーヘンは生まれた時からの平民。オリビアは雲の上の女性なのだ。
気安く話しかけるのも憚られて、頓珍漢な敬語になったクーヘンにオリビアは「今まで通りに」と頭を下げた。
==貴族が平民に頭を下げるなんて==
クーヘンの心は言葉では言い表せない程に乱れたが、今はオリビアの希望通りにと立場を意識しながらも話し言葉は通常に。気を使ってしまっていた。
「でね、クーヘンさん」
「なんですか?」
「もう!クーヘンさん。今まで通りでお願いします」
「ご、ごめん…で?なんだろう」
「甜菜の加工が始まったらスピア伯爵様の工場に行ってみません?」
「工場に?工員として?」
「そうではありません。お菓子作りって砂糖が必要でしょう?」
「そうだな。必需品かな」
「ハンスさんが新種と紹介されたという事は甜菜糖を使ったお菓子は未発表と言う事でもあります。勿論他国にはもうあるでしょうけど、この国ではまだ出されていない。クーヘンさんの作るお菓子に使えば他との違いが出ると思いませんか?」
「そんなに違いがあるのかな」
「あるんですよ。甜菜糖はさっぱりしている味なので薄味とも言えます。気を付けるのは味が薄い?と思って使いすぎるとカロリーの取りすぎになっちゃう点ですけど、さっぱりとした薄味なのでお菓子本来の味を引き立たせる名脇役とも言えるんです」
「そうなのか。でも俺の菓子…全然売れないんだよな」
「だからです。他とは違ったものを作ってみません?」
「そのために甜菜糖を使うと?」
「それだけじゃないのです」
ふふふと不敵に笑ったオリビアはさっきハンスの店から戻る時に、ハンスに頼んで幾つかの野菜を持ち帰っていた。
そしてクーヘンに問う。
菓子作りに必要だと思いつく材料は何かと。
「小麦粉だろ。砂糖にバターにミルク。塩も必要だしあとは重曹かな」
「その中で小麦粉と重曹を使わなかったらどうなります?」
「そんなの!菓子が出来る訳ないじゃないか」
「そう思う?決めつけてない?」
オリビアはスピア伯爵の事を思い出した時、同時にもう1人思い出した人がいた。
その人とは「剣が使えない時」と言って色んなものを武器として使っていた護衛兵士である。
人には概念がある。こうあるべきと思い込んでしまうと考えが凝り固まってしまう。
お菓子には小麦粉が絶対必需品、本当にそうなのだろうか。
例えば干し芋。これも菓子の1つ。あまりにも素朴で田舎っぽいのでお洒落感は感じないが菓子なのだ。勿論非常食にもなるので、その時は主食ともなる。
そしてスイカやイチゴをフルーツとして盛り付ける菓子店もあるが分類上、スイカやイチゴは果物ではなく野菜。
つまり、野菜だと思いこんでいるから使わない食材もある。
それは穀物だって同じ。
「じゃーん!これを使ってお菓子を作りましょう!」
オリビアはハンスから貰った野菜を手に取り、クーヘンの目の前に翳した。
「どうでし…どうだった?ハンスは…」
「万事うまく行きましたわ。ハンスさんもこれから大忙しかも知れませんわね」
「そっか。良かった。ありがとう」
「いいえ。捨てたと思った肩書も使えただけです」
「だけど、良いんですか。俺…」
「クーヘンさん!言葉!私、クーヘンさんには感謝しているのですよ?住まう場所もなかった私を受け入れてくださったのですから」
「あれは成り行きって言いま…言うか」
オリビアがクーヘンに感謝をしているのは本当の気持ち。
だたクーヘンの心の中はオリビアの素性を知った時から複雑な感情が入り乱れていた。
手は出していないし、思いを言葉にした事もないけれどオリビアに対しては恋心も感じている。片付けが終わり、掃除も終われば菓子作りが始まる。
クーヘンは菓子作りが始まる頃には神父が受け入れ可能な修道院を見つけてくれるといったオリビアに「もう少しここにいたら?」と修道院行きを延期するように伝えようと思っていた。
一緒に居る期間が長くなればこの思いを伝える事が出来るかも知れない。
そんな邪な思いを誤魔化す言葉だ。
だが、今は言えないと自分自身に釘をさす。
同時に「捨てたといってるんだから」と背を押す自分もいる。
クーヘンは生まれた時からの平民。オリビアは雲の上の女性なのだ。
気安く話しかけるのも憚られて、頓珍漢な敬語になったクーヘンにオリビアは「今まで通りに」と頭を下げた。
==貴族が平民に頭を下げるなんて==
クーヘンの心は言葉では言い表せない程に乱れたが、今はオリビアの希望通りにと立場を意識しながらも話し言葉は通常に。気を使ってしまっていた。
「でね、クーヘンさん」
「なんですか?」
「もう!クーヘンさん。今まで通りでお願いします」
「ご、ごめん…で?なんだろう」
「甜菜の加工が始まったらスピア伯爵様の工場に行ってみません?」
「工場に?工員として?」
「そうではありません。お菓子作りって砂糖が必要でしょう?」
「そうだな。必需品かな」
「ハンスさんが新種と紹介されたという事は甜菜糖を使ったお菓子は未発表と言う事でもあります。勿論他国にはもうあるでしょうけど、この国ではまだ出されていない。クーヘンさんの作るお菓子に使えば他との違いが出ると思いませんか?」
「そんなに違いがあるのかな」
「あるんですよ。甜菜糖はさっぱりしている味なので薄味とも言えます。気を付けるのは味が薄い?と思って使いすぎるとカロリーの取りすぎになっちゃう点ですけど、さっぱりとした薄味なのでお菓子本来の味を引き立たせる名脇役とも言えるんです」
「そうなのか。でも俺の菓子…全然売れないんだよな」
「だからです。他とは違ったものを作ってみません?」
「そのために甜菜糖を使うと?」
「それだけじゃないのです」
ふふふと不敵に笑ったオリビアはさっきハンスの店から戻る時に、ハンスに頼んで幾つかの野菜を持ち帰っていた。
そしてクーヘンに問う。
菓子作りに必要だと思いつく材料は何かと。
「小麦粉だろ。砂糖にバターにミルク。塩も必要だしあとは重曹かな」
「その中で小麦粉と重曹を使わなかったらどうなります?」
「そんなの!菓子が出来る訳ないじゃないか」
「そう思う?決めつけてない?」
オリビアはスピア伯爵の事を思い出した時、同時にもう1人思い出した人がいた。
その人とは「剣が使えない時」と言って色んなものを武器として使っていた護衛兵士である。
人には概念がある。こうあるべきと思い込んでしまうと考えが凝り固まってしまう。
お菓子には小麦粉が絶対必需品、本当にそうなのだろうか。
例えば干し芋。これも菓子の1つ。あまりにも素朴で田舎っぽいのでお洒落感は感じないが菓子なのだ。勿論非常食にもなるので、その時は主食ともなる。
そしてスイカやイチゴをフルーツとして盛り付ける菓子店もあるが分類上、スイカやイチゴは果物ではなく野菜。
つまり、野菜だと思いこんでいるから使わない食材もある。
それは穀物だって同じ。
「じゃーん!これを使ってお菓子を作りましょう!」
オリビアはハンスから貰った野菜を手に取り、クーヘンの目の前に翳した。
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