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VOL.01  たかが婚約者

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その日はたった17年と言われようと人生を生きてきて最良の日になったオリビア。

第1王子レスモンドに呼び出されて「何を言われるんだろう」と戦々恐々。

迷惑な事にレスモンドはオリビアの婚約者。
婚約を結んでかれこれ10年になる。

寒風が吹き抜ける吹き曝しの廊下をゆっくりと歩いて行く。
時折風に乗って頬にペチ!と当たるのはみぞれだろうか。

レスモンドが待つ部屋までを歩く足は生まれたての仔馬のようにガクガクと震えていた。

――うぅ寒い。今日は特に足元から冷えるわねぇ――


扉の前まで来たオリビアに衛兵は「お気の毒に」と声には出さなかったが心を寄せる。
オリビアは衛兵に会釈をし、扉を開けてくれた衛兵に小さな声で「ありがとう」と声を掛けると部屋の中に入って行った。

「殿下、お呼びと伺いましたが?」

「やっと来た。何時まで待たせるつもりだったんだ?何をやらせても愚図だな。ほら!サインしろ」

執務机の上に足を乗せて、椅子にふんぞり返っていたレスモンドは机の上に乗せていた足の踵を書類にガンガンと叩きつけた。


反動で数枚の書類がハラハラと机の上から床に落ちる。
従者が拾い上げようとするとレスモンドが声を掛けた。

「落ちたものを拾うのはその女の仕事だ。お前の仕事ではない」

「で、ですが…」

「二度も言わせるなよ?誰の仕事だと言った?」


ニヤニヤしながら大きく背を預けた背もたれの後ろに立っている2人の令嬢はレスモンドと同様に「誰の仕事かしらね」オリビアに向かって声を出した。

オリビアはしゃがんで落ちた書類を拾い上げた。
拾い上げる時しゃがみかけた従者を「そのままで」と手で制する。

「サインしろ。言っておくがサインは求めるが反論は認めないぞ。今、ここでサインするんだ。いいか?ここで!だ」


大きな音を立てて踵でまた机の天板を叩くレスモンド。
足の乗る執務机の上でサインをしろとしつこく怒鳴る。

そんなレスモンドの顎や頬を艶めかしく令嬢の手が撫でていた。

――これをカッコいいと思ってるんだもの。重症ね――


人にはそれぞれ価値観があるのはオリビアだって解っている。
だが、あまりにもその価値観が乖離していると受け入れることも出来なければ理解も出来ない。

レスモンドの言動。どれをとってもオリビアの理解を超えていた。

ふんぞり返り、大声で恫喝する事が威厳と考えているのか自分よりも弱いと見た者へは態度が大きい。

所かまわず出自不明…とまでは行かなくても「場を弁えない親密な友人」を帯同。
その癖、国王や王妃の前では借りてきた猫。

学問やマナーは壊滅的かと思えば悪知恵は働くようで、税務会議や他国との折衝ではオリビアや官僚がお膳立てをして、用意した書面をまるで自分の功績かのようにそれはもう丁寧に読み上げる。

来賓や国賓の前ではオリビアの事をサゲつつ、自分アゲ。

それがどれだけ無知で恥ずかしい事なのか何度言っても解っては貰えない。

愛想笑いを返してもらうと悦に入り、レスモンドの気分は最高潮。
そのノリでパーティが終わった後は俺様に拍車がかかるのか「ご友人」を呼びだし朝を迎える。

苦言を呈せば「たかが婚約者の分際で」と手をあげられた事は数知れず。
それを息子可愛いと考えているのか国王夫妻は見て見ぬふり。

いや違う。
レスモンドの事を「しっかり見てくれないと困る」とオリビアが叱られる。

様々なコトの後始末を「たかが婚約者」がしている事も知りもしない。それがオリビアの婚約者であり第1王子レスモンドだった。
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