旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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君はニキティス

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「ルートはその中の数字を2つかけ合わせれば外れる」
「そうですよ。よく知っていますね」
「ご本に書いていました!」

東の塔でドレーユ侯爵は小さな男の子と向かい合わせで
テーブルに着き、数学を教えていた。

「では、次は何をしたいと考えますか」
「あの…パパに会いたい…です」
「パパ?あなたのお父様の事ですか?」
「えっと…パパとお父様は同じなの?」
「そうですねぇ。年若い女性なら使い分けを‥おっと余計な知恵です。
失敬失敬…人と話をする時は余程に気を置けない人は除いて、
通常はお父様と呼ぶように致しましょう」
「はいっ」

ドレーユ侯爵は男の子の小さな手を両手で握る。

「あなたの名前はニキティス。よろしいですね」
「違うよ。ソティスだよ」
「いいえ。その名前は仮の名前です。あなたはニキティス」
「ニキ…ティス?」
「そうです。勝者という意味があります」
「ニキティス…そうしゃ?」
「勝者です。ニキティス、最後に勝ち残る者です」
「はいっ!」

床に届かない足をプラプラとさせながら、
手元に先程聞いた内容を、自分なりの字で書いていく。
金髪で王家特有の目を継承した男の子は以前はソティスと言った。

脇腹に少し深めの切り傷を負ったものの
その場で意識を飛ばしたのが幸いし、
川に投げ入れられた。

☆~☆~☆

シリウスを馬車に乗せて、少し川べりを走っていると
ドレーユ侯爵は再度馬車を止めさせた。

「ヒンギス。御者に落し物を拾うように伝えなさい」
「お、落し物でございますか?」
「えぇ。小さな落し物。そっと優しく拾い上げるように」
「は、はい‥」

ヒンギスに伝えられた御者はまたかと思いつつ葦を分け入ると
小さな男の子が流されているのに気が付き、
慌てて川に飛び込んで男の子を引き上げる。

「ハァハァ・・ひ、ヒンギス様・・拾ってきました」
「なっ、なんと・・」
「おや?寒中水泳ですか。体力自慢はほどほどに。フフフ」

ーーはぁ?寒中水泳って‥拾ってこいって言ったでしょうがーー

少しだけムっとした御者でしたが

「大変にご苦労でした。ヒンギス、彼に給料の昇給をしましょう」

その言葉に、屋敷までの手綱は今まで以上に軽くなる。
実際彼の月給は1.5倍となり寒中水泳も悪くないと思うのだった。

☆~☆~☆

「侯爵さま、僕はもっと大きくなれますか」
「えぇ。貴方は誰よりも大きくなるでしょう」
「僕はもっとお勉強がしたいです」
「そうですか。では御心のままに手配を致しましょう」
「それから…」
「それから?どうしました?」
「お外で遊びたい…です。あと騎士になりたいです」

その言葉に侯爵は少し微笑むだけの答えをした。

ーー幼い駒。そして最も価値ある椅子に鎮座する駒ーー

心で呟いて東の塔を後にした。
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