旦那様に離縁をつきつけたら

cyaru

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シリウスの葛藤

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部屋に1人残されたシリウス。
握りしめた手は手のひらに爪の跡が残る。

シリウスの心は船酔いのように気持ち悪く揺れる。

戦時中ではないが、遠征先では野盗などと対峙する事もあり
人を斬った事もある。とどめを刺したこともある。
だが、それを誰も人殺しとは言わなかった。

何故俺はあの時カリナを殺らなかったんだ。

王弟を筆頭とする男たちは手段を練った。
カリナに金を渡し、遊んでもよいが男と寝るなと伝えた。
その橋渡し役はカリナが自分の相手だと思い込んでいるシリウスだった。

ーー頃合いを見て、カリナを殺せーー

妊娠中のカリナを殺めるのは簡単である。
それが出来なかったのは、カリナが死ねば腹の子も死ぬからだ。
シリウスの1つ目の甘さである。

カリナから解放される時期は来るはずだった。
しかし、予定が狂った。
その予定とは、王太子夫妻の第一子の事だ。
第一王子時代から既にお手付きとなっていた令嬢は身ごもっていたのだ。
王太子夫妻に生まれたのは女児だった。

甘さからカリナを葬ることが出来ず、月日が経ち
カリナは出産をした。
せめて女児であれば・・期待を裏切りカリナは男児を出産した。
王家特有の金髪に国王の髪の癖も引継ぎ、目の色も継承していた。

一抹の望みをかけた次の予定も狂った。
王太子夫妻に女児が生まれたその後、第二王子夫妻にも子供が生まれた。
待望の男児だったが、1か月もしないうちに赤子は天に召された。

王弟はソティスを利用する事を模索した。
王太子でも第二王子でも可能性がある。まだ男児が生まれていない。
ソティスを公にして、自分が後見人となり王座を取るためである。

しかし、その計画は大きくとん挫した。
領地に引きこもった第三王子に男児が生まれた。
第二王子の事があり、しばらくは様子見をしたが子供は順調に成長した。

こうなるとソティスはもうただの邪魔者でしかなかった。
継承権を放棄しているとはいえ、私生児ではなく
貴族の妻から生まれた正当な継承者が生まれたのだ。
第三王子が継承権を放棄していても、その子には継承権が発生する。

勿論、今後王太子夫妻や第二王子夫妻に男児が生まれれば
継承権は順位は下がっていく。

そして王弟はシリウスに命令を出した。

ーーソティスを殺せーー

乳飲み子であったソティスを殺めるのはもっと簡単だった。
カリナは産後、悪露は続くのに動けるようになるとソティスを放って
男遊びを繰り返していた。

カリナを斬る事に対してシリウスは何のためらいもない。
シリウスにとってカリナは
剣を振りかざして向かってくる野盗と変わらないのだ。
だが、その子供であるソティスには剣を向けられない。

しかし命令である。決心して忍び込んだ事があった。
扉を開ける前から赤子の鳴き声が響いていた。
ベビーベッドまで来た時、シリウスは剣を振れなかった。
鞘に剣をしまい、手袋を外してソティスを抱き上げた。
ソティスはまだ生後6か月だった。

ーー殺せないーー

それが一度だけ忍び込んだシリウスの答えだった。

そして再度、今度は最後通達ともいえる命令である。
しかも、任務を終えないとシャロンとの離縁はほぼ間違いない。

僅か2歳ほどの子供を殺める事はシリウスには出来ない。
ソティス自身は何の犯罪にも手を染めていないのだから。
ただ、生まれてしまった事が罪だというのは
大人が勝手に決めつけている事だ。

シリウスは自分の手を眺め、葛藤した。
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