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休日でも同じ日々
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市場が月に1回の休みの日。
シャロンはする事もないのでいつも通り家事をこなすつもりでいた。
その日は珍しくシリウスも休日だったようで
シャロンが目を覚ますと隣でシリウスが寝息をたてていた。
起こさないようにそっとベッドから出ると
昨夜のうちに構えておいた自分の服に着替えて
朝食を準備する。
寝室のほうからカタンと小さな音がするとシャロンは
バケツを2つ持って井戸に出る。
頭の中で台所の水瓶にはバケツで3杯。
湯あみ用の樽にはバケツで10回ほどだろうと算段をつける。
1回に運べるのは2つだが、この頃は途中で休みながらでないと
運べないほど体力が落ちていた。
「1個づつなら12往復は覚悟しないといけないわね」
そんなに時間をかけると買い物でお買い得商品という名の
単なる見切り品がなくなってしまうので時間との勝負と
自分に気合を入れて水を運んでいく。
最期のバケツから湯あみ用の樽に水を入れ終わった頃
シリウスが寝室から出てくる。
ーーまるで面倒な事が終わるのを見計らったようだわーー
時間にして30分ほどだったが、最初の1回目を出る前に
寝室から音がしたのに居間に来たのは全て運び終わってから。
休みなら以前は手伝ってくれたけれど、
今はきっと手伝うと言われても自分から断ってしまうだろうとも
考えてしまう。
居間でコーヒーを淹れようとしているシリウスを横目に
洗濯ものを持って、洗い場に出かける。
順番に洗っていると洗濯物の中から花のような匂いに気が付く。
シリウスのシャツかと思ったが、香っているのは下着だった。
しかも、見た事のない柄の下着である事にも気が付く。
衣類は支給される隊服や、趣味に左右される私服は別として
下着や寝間着、タオルなどはシャロンが購入している。
ーーわたくしに、これを洗えという事なのねーー
シャロンは洗濯に使う水の冷たさと同じくらい
自分の心も冷えていく感触を感じた。
ーー今ならこの下着の出所と幼児玩具について聞ける?ーー
そんな事を考えながら洗っていると、隣で洗っていた夫人が
叫び声をあげて我に返った。
「ワ、ワーグナーさん!ダメよ!」
突然の叫び声に何だろうと辺りをキョロキョロしていたが
手首を掴まれて驚く。
「あなたっ。血まみれじゃないの!指の皮がむけているわよ!」
手首を掴まれ、そう言われて初めて洗濯板に自分の手を
擦りつけていた事に気が付いたが、不思議と痛みがなかった。
それよりも、洗った衣服が自分の血でさらに汚れてしまった事の方が
頭の中を占めている。
「直ぐに班長さんを呼んできて頂戴!」
隣で洗っていた夫人が別の夫人に呼び掛けている。咄嗟にシャロンは
「呼ばないで!!」
っと言ってしまった。
血まみれの両手を洗ったばかりのタオルで隠すようにして
敢えて表情を作って夫人たちに言う。
「驚かせてしまってごめんなさい。以前の傷が洗濯で開いただけですわ」
「で、でもそんなに・・お医者様に診せたほうがいいわ」
「そうよ。ばい菌でも入ったら大変よ?」
本当に心配をしてくれているのだなぁと思いながら
「ありがとうございます。この後、お医者様に行ってみます」
そう言うと夫人たちはあまり納得はしていないものの
また座り込んで洗濯を始めた。
腰を上げて洗濯物を持って帰ろうとすると同じ方向に戻る夫人に
声をかけられる。
「何かあったの?シャロンさんこの頃変よ?それに凄く痩せた」
「いえ、何でもないんです。ただちょっとこの頃、疲れやすくて」
「無理しちゃダメよ。何でも言って。手伝うから」
「はい、その時はお言葉に甘えさせてもらいますね」
シャロンは頬は笑っているように見せたが、
自分でも目は笑ってないわねと思いつつ返答をした。
シャロンはする事もないのでいつも通り家事をこなすつもりでいた。
その日は珍しくシリウスも休日だったようで
シャロンが目を覚ますと隣でシリウスが寝息をたてていた。
起こさないようにそっとベッドから出ると
昨夜のうちに構えておいた自分の服に着替えて
朝食を準備する。
寝室のほうからカタンと小さな音がするとシャロンは
バケツを2つ持って井戸に出る。
頭の中で台所の水瓶にはバケツで3杯。
湯あみ用の樽にはバケツで10回ほどだろうと算段をつける。
1回に運べるのは2つだが、この頃は途中で休みながらでないと
運べないほど体力が落ちていた。
「1個づつなら12往復は覚悟しないといけないわね」
そんなに時間をかけると買い物でお買い得商品という名の
単なる見切り品がなくなってしまうので時間との勝負と
自分に気合を入れて水を運んでいく。
最期のバケツから湯あみ用の樽に水を入れ終わった頃
シリウスが寝室から出てくる。
ーーまるで面倒な事が終わるのを見計らったようだわーー
時間にして30分ほどだったが、最初の1回目を出る前に
寝室から音がしたのに居間に来たのは全て運び終わってから。
休みなら以前は手伝ってくれたけれど、
今はきっと手伝うと言われても自分から断ってしまうだろうとも
考えてしまう。
居間でコーヒーを淹れようとしているシリウスを横目に
洗濯ものを持って、洗い場に出かける。
順番に洗っていると洗濯物の中から花のような匂いに気が付く。
シリウスのシャツかと思ったが、香っているのは下着だった。
しかも、見た事のない柄の下着である事にも気が付く。
衣類は支給される隊服や、趣味に左右される私服は別として
下着や寝間着、タオルなどはシャロンが購入している。
ーーわたくしに、これを洗えという事なのねーー
シャロンは洗濯に使う水の冷たさと同じくらい
自分の心も冷えていく感触を感じた。
ーー今ならこの下着の出所と幼児玩具について聞ける?ーー
そんな事を考えながら洗っていると、隣で洗っていた夫人が
叫び声をあげて我に返った。
「ワ、ワーグナーさん!ダメよ!」
突然の叫び声に何だろうと辺りをキョロキョロしていたが
手首を掴まれて驚く。
「あなたっ。血まみれじゃないの!指の皮がむけているわよ!」
手首を掴まれ、そう言われて初めて洗濯板に自分の手を
擦りつけていた事に気が付いたが、不思議と痛みがなかった。
それよりも、洗った衣服が自分の血でさらに汚れてしまった事の方が
頭の中を占めている。
「直ぐに班長さんを呼んできて頂戴!」
隣で洗っていた夫人が別の夫人に呼び掛けている。咄嗟にシャロンは
「呼ばないで!!」
っと言ってしまった。
血まみれの両手を洗ったばかりのタオルで隠すようにして
敢えて表情を作って夫人たちに言う。
「驚かせてしまってごめんなさい。以前の傷が洗濯で開いただけですわ」
「で、でもそんなに・・お医者様に診せたほうがいいわ」
「そうよ。ばい菌でも入ったら大変よ?」
本当に心配をしてくれているのだなぁと思いながら
「ありがとうございます。この後、お医者様に行ってみます」
そう言うと夫人たちはあまり納得はしていないものの
また座り込んで洗濯を始めた。
腰を上げて洗濯物を持って帰ろうとすると同じ方向に戻る夫人に
声をかけられる。
「何かあったの?シャロンさんこの頃変よ?それに凄く痩せた」
「いえ、何でもないんです。ただちょっとこの頃、疲れやすくて」
「無理しちゃダメよ。何でも言って。手伝うから」
「はい、その時はお言葉に甘えさせてもらいますね」
シャロンは頬は笑っているように見せたが、
自分でも目は笑ってないわねと思いつつ返答をした。
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