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2回目の人生
第32話 よし、結婚しよう
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ジークフリッドは途方に暮れた。
受験費用はもう払ってしまっていて、受験前だからと言って払い戻しはしてもらえない。
なにより、今回は今までの10倍の人数を平民枠で採用してくれるまたとない大チャンス。こんなチャンスは早々巡って来る者じゃない。
今回は涙をのんで見送ったとしても、母親が武具などを売ってしまっているので買い戻すにも新しく買うにも必要なのは金だ。
受験費用ですら3日キツイ肉体労働をして払える額で、今の武具だって何度か買い直したが全て下取りがあったから店頭価格の半額ほどで買えたのだ。
一番最初に武具を揃えた時、8歳からずっと貯めて来た金は全て無くなった。
父親は幼い頃からいないし、母親は金を持ったら持っただけ使う人。気を利かせてくれた商人が「お前の父親とは幼馴染だったから」とずっと金を預けて来たから母親に使われずに済んだのだ。
その商人は最初に武具を揃える時に、一緒に店まで来てくれて店主に値段交渉もしてくれた。
懸命に貯めた金でも所詮子供が働いて貯めた金で手持ちは多くなかったからだ。
店頭にある価格から30%引きで売って貰い、武具を揃えることが出来た。
その商人は足らない額を少し足してくれたのも、亡くなった後に武具屋の店主から聞かされた。
その商人が父親だったらいいなと何度も思った。
オデットと出会ったのもその商人が仲介をしてくれたからである。
3歳年下のオデットは出会った当時まだ7歳だった。
兄と慕ってくれるオデットは実の妹よりも素直だし、成長するにしたがって可愛くなっていった。
結婚も考えた事はあったが、決定的な部分でオデットとは合わなかったのだ。
何処が合わなかったかと言えば、まずオデットの作る料理は味が薄い。
調味料や香辛料の取り過ぎは良くないと言ってケチるのだ。
ジークフリッドもジークフリッドの母も食べている途中や、食べた後で喉の渇きを覚えたり、口の中が痛くなるような刺激のある味付けを好んでいたのだが、オデットはそのリクエストに応えてくれる料理は作ってくれなかった。
なので毎回食事の時にソースやらをドバドバとかける。
オデットが嫌そうな顔をするが、味付けが薄い方が悪いのだ。
それから、口煩い。年下のくせに「給料は半分を商会で預かり金にしてもらえ」とジークフリッドの給金なのに口出しをしてくる。半分も預けてしまったら酒もタバコも買えなくなる。
男なので特別女性給仕のいる店にも飲みに行く付き合いもあるし、娼館にだって行きたい。何より自分の稼いだ金なのに口出しをしてくるのはおかしい。
「貯めていれば下取りに出しても新品がもっと安く買える」などと言うが、中古なら壊れるたびに修理に出さねばならないけれど、その時、その時で支払う金は安く済む。
何より新品で買っても自分が使えば中古扱いなんだから最初から安い中古で十分なのだ。
掃除や洗濯をしてくれるのはありがたいとは思っていた。
だが、勝手に片付けられると「どこに置いた?」と問わねばならないのが煩わしい。
「置き場所を決めればいい」とオデットは言ったが、ジークフリッドはそんな事まで他人に決められたくはなかった。
「オデットは面倒くせぇんだよな。あぁしろ。こうしろって」
そうは言っても今のジークフリッドに武具を買うだけの金を誰に頼むかとなればオデットしかいない。
今は内職で細々と稼いでいるがマルネ子爵家は借金も無く、中古の武具なら揃えられるくらいの金は貯めている。
「あれ?待てよ?結婚したら‥‥」
ジークフリッドは「ふむ?」考えた。
「オデットはどんな仲で結婚の約束をしたわけじゃないって言ってたな。なら結婚すればいいのか」
オデットと結婚をすれば全てが上手く行く。
マルネ子爵家だってオデットの夫が試験を受けるのに必要だとなれば武具を買う金は出してくれる。借りるのではなく貰えるのだ。
これで武具は揃う。
オデットは内職もしているし、商会で売り子など働こうと思えば働けるんだから騎士になっての給料は総取り出来る。自分の稼ぎは自分で使うのが当たり前だ。
住む場所は母親がいるけれど、ないわけじゃない。何よりマルネ子爵家も借家なのだから自分が入り婿のようにマルネ子爵家で住むより、来てもらった方が引っ越しなどもしなくて済む。
最大の利点は娼館に行ったり、街角に立っている娼婦を買わなくて良くなる。
給料がそこそこに良いときは、娼婦を選べる娼館で愉しむが金がないのに体が疼いて仕方がない時は街角に立っている女を買う。
真っ暗い部屋でコトを済ませるだけなので2、3分で終わるが銅貨5枚なので年齢もかなり上、ヘタすると閉経してウン十年という年季だけが入った娼婦が相手。
結婚すれば娼婦を買う必要もなくなる。オデットは初めてだろうから仕込み甲斐もあるというものだ。自分の好みに躾けられるというのは男の醍醐味。
「あ、これ、結婚するしかねぇわ」
四の五の迷っている時間もない。
オデットもその気だったから、女房の真似事もしていたのだろうと思うと、断られる筈もない。
ジークフリッドはそうと決まれば!!
足早にマルネ子爵家に向かった。
受験費用はもう払ってしまっていて、受験前だからと言って払い戻しはしてもらえない。
なにより、今回は今までの10倍の人数を平民枠で採用してくれるまたとない大チャンス。こんなチャンスは早々巡って来る者じゃない。
今回は涙をのんで見送ったとしても、母親が武具などを売ってしまっているので買い戻すにも新しく買うにも必要なのは金だ。
受験費用ですら3日キツイ肉体労働をして払える額で、今の武具だって何度か買い直したが全て下取りがあったから店頭価格の半額ほどで買えたのだ。
一番最初に武具を揃えた時、8歳からずっと貯めて来た金は全て無くなった。
父親は幼い頃からいないし、母親は金を持ったら持っただけ使う人。気を利かせてくれた商人が「お前の父親とは幼馴染だったから」とずっと金を預けて来たから母親に使われずに済んだのだ。
その商人は最初に武具を揃える時に、一緒に店まで来てくれて店主に値段交渉もしてくれた。
懸命に貯めた金でも所詮子供が働いて貯めた金で手持ちは多くなかったからだ。
店頭にある価格から30%引きで売って貰い、武具を揃えることが出来た。
その商人は足らない額を少し足してくれたのも、亡くなった後に武具屋の店主から聞かされた。
その商人が父親だったらいいなと何度も思った。
オデットと出会ったのもその商人が仲介をしてくれたからである。
3歳年下のオデットは出会った当時まだ7歳だった。
兄と慕ってくれるオデットは実の妹よりも素直だし、成長するにしたがって可愛くなっていった。
結婚も考えた事はあったが、決定的な部分でオデットとは合わなかったのだ。
何処が合わなかったかと言えば、まずオデットの作る料理は味が薄い。
調味料や香辛料の取り過ぎは良くないと言ってケチるのだ。
ジークフリッドもジークフリッドの母も食べている途中や、食べた後で喉の渇きを覚えたり、口の中が痛くなるような刺激のある味付けを好んでいたのだが、オデットはそのリクエストに応えてくれる料理は作ってくれなかった。
なので毎回食事の時にソースやらをドバドバとかける。
オデットが嫌そうな顔をするが、味付けが薄い方が悪いのだ。
それから、口煩い。年下のくせに「給料は半分を商会で預かり金にしてもらえ」とジークフリッドの給金なのに口出しをしてくる。半分も預けてしまったら酒もタバコも買えなくなる。
男なので特別女性給仕のいる店にも飲みに行く付き合いもあるし、娼館にだって行きたい。何より自分の稼いだ金なのに口出しをしてくるのはおかしい。
「貯めていれば下取りに出しても新品がもっと安く買える」などと言うが、中古なら壊れるたびに修理に出さねばならないけれど、その時、その時で支払う金は安く済む。
何より新品で買っても自分が使えば中古扱いなんだから最初から安い中古で十分なのだ。
掃除や洗濯をしてくれるのはありがたいとは思っていた。
だが、勝手に片付けられると「どこに置いた?」と問わねばならないのが煩わしい。
「置き場所を決めればいい」とオデットは言ったが、ジークフリッドはそんな事まで他人に決められたくはなかった。
「オデットは面倒くせぇんだよな。あぁしろ。こうしろって」
そうは言っても今のジークフリッドに武具を買うだけの金を誰に頼むかとなればオデットしかいない。
今は内職で細々と稼いでいるがマルネ子爵家は借金も無く、中古の武具なら揃えられるくらいの金は貯めている。
「あれ?待てよ?結婚したら‥‥」
ジークフリッドは「ふむ?」考えた。
「オデットはどんな仲で結婚の約束をしたわけじゃないって言ってたな。なら結婚すればいいのか」
オデットと結婚をすれば全てが上手く行く。
マルネ子爵家だってオデットの夫が試験を受けるのに必要だとなれば武具を買う金は出してくれる。借りるのではなく貰えるのだ。
これで武具は揃う。
オデットは内職もしているし、商会で売り子など働こうと思えば働けるんだから騎士になっての給料は総取り出来る。自分の稼ぎは自分で使うのが当たり前だ。
住む場所は母親がいるけれど、ないわけじゃない。何よりマルネ子爵家も借家なのだから自分が入り婿のようにマルネ子爵家で住むより、来てもらった方が引っ越しなどもしなくて済む。
最大の利点は娼館に行ったり、街角に立っている娼婦を買わなくて良くなる。
給料がそこそこに良いときは、娼婦を選べる娼館で愉しむが金がないのに体が疼いて仕方がない時は街角に立っている女を買う。
真っ暗い部屋でコトを済ませるだけなので2、3分で終わるが銅貨5枚なので年齢もかなり上、ヘタすると閉経してウン十年という年季だけが入った娼婦が相手。
結婚すれば娼婦を買う必要もなくなる。オデットは初めてだろうから仕込み甲斐もあるというものだ。自分の好みに躾けられるというのは男の醍醐味。
「あ、これ、結婚するしかねぇわ」
四の五の迷っている時間もない。
オデットもその気だったから、女房の真似事もしていたのだろうと思うと、断られる筈もない。
ジークフリッドはそうと決まれば!!
足早にマルネ子爵家に向かった。
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