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2回目の人生
第22話 あ、これ、不味いやつ
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ジークフリッドとの関りは最小限にしよう。
そう思うと心も体も軽い。
あの男爵令嬢の件がなくても、ジークフリッドとジークフリッドの母があんな気持ちでオデットに接していたのなら、遅かれ早かれ「裏切られた」と思う日は来たのだ。
行かなくていいならオデットも正直言って助かる。
ジークフリッドの母は確かに体調は崩しているし、あちこちが痛いと言っているが出来ない訳ではない。
買い出しのおまけだって状態がいいものを渡していたし、立て替えたお金の端数はいつも「細かいのがない」と払ってもらってなかった。
「あれ?これって煩わしさがなくなるってこと?」
良いこと尽くめじゃないの!?
そう言えば買い物に行った時に小物屋で「銅貨1枚店」を経営している店主が言っていた。
最近は断捨離と言って色々な物を捨ててミニマリストとして過ごすのがトレンドで、売り上げが伸びないと。
安いのでついつい多く買ってしまう。
これイイナと思うと使い道も大雑把に描いて買ってしまう。そんな客を狙っての銅貨1枚店なので物を持たない事が流行ると商売あがったりなのだ。
「でも、物じゃなくて人も断捨離していいのよね」
そう思うとアレも出来る、これも出来る。
何よりわざわざ家に行って掃除をしたり、細々とした御用聞きのような事をしなくていいので内職に打ち込める。
手のかかる刺繍の仕事の依頼が先にあったけれど、もしかするとそれを受けた事でジークフリッド達の本音が聞けたのかも知れない。だって、先にジークフリッドの家に行っていれば賃金の良いこの刺繍の仕事は他の持ち帰りお針子の手に渡っていたのだから。
残っていたとしても、今まで通り見た感じ低姿勢の態度をされていたら「手伝いには行かなきゃ」と思って刺繍の仕事を断ってしまったかも知れない。
「これっていい方向に進んでるってことかしら」
単純かも知れないが、あの本音はガッカリであり残念で嫌な気持ちになったけれど、1つ良い事があれば関連付けて考えれば続くんだなと軽い足取りでオデットは家に帰った。
★~★
「え‥‥どうして?」
良い事は続くと思っていたがやはり終わりがあるのだろうか。
家に帰ったオデットは玄関を開けて直ぐの部屋。客間でありリビングであり食事室でもある部屋。家族のダイニングテーブルに両親と向かい合わせに腰かけている男性を見て固まった。
見覚えのあり過ぎる男性。
初見なのだがその男性はヴァルスの屋敷。あの伯爵家の屋敷にいた男性だった。
「オデット。良いところへ。こちらガッティネ公爵家の執事さんなのだがお前に縁談を持ってきてくれたんだ」
――うわぁ…余計なお世話~――
あからさまに嫌そうな顔をすることは出来ず、にっこりと笑って会釈をする。
執事の男性は兄の椅子に腰を下ろしているので、オデットは自分の椅子を母親のヴィヴァーチェの隣に移動させて話を聞くことにした。
「実はガッティネ公爵家には次男で御座いますが子息のヴァルス様がおられまして、昨夜の夜会でお嬢様を見初められ是非にと旦那様に話をされたのです」
「は、はぁ…」
「まだ15歳との事ですし、急ぎません。お嬢様のお気持ちも大事ですし当面は仮婚約と言う形でご縁を頂ければと思いまして」
にこやかに話す執事だが、この執事は前回の人生で「学がない」とオデットを笑った男。
申し訳ないけれど、笑顔を笑顔として受け入れる事は出来ない。
「オデット、どうする?父さんたちはオデットの自由にしていいと考えているよ?」
オデットは子爵家を継ぐ訳でもなく、その子爵家もアレグロの結婚で特に資金面で支障が出るなら返上もありき。オデットの恋愛は自由でジークフリッドと良い仲であることを咎める事もなかった。
――ジークはもうどうでもいいけど、こっちも要らないわね――
「ありがたいお話ですれど、お断りいたします。仮婚約も何もまだ結婚とか考えた事もないので先に婚約ありきで縛られたくないんです。申し訳ございません」
「え?あ。あの、難しく考えて頂かなくていいんです。仮の婚約なので嫌になれば特に届もありませんし慰謝料だなんだも発生をしませんので」
「だとしてもです。仮でも婚約と名が付く以上、ヴァルス様?でしたかしら。制約も出るでしょうし爵位も釣り合いが取れません。お断りいたします」
――2度目な?断るって2度目な?――
しかし、執事は引き下がらない。
「爵位は結婚となればマルネ子爵家さんの1つ上になりますが伯爵家を興すことになっています。なので公爵家だと気負う事もないのです」
「いいえ。結婚すれば伯爵家であり、仮の期間は公爵家のご子息様です。見ての通り貧乏な子爵家。ご子息様に釣り合う学やマナーが身についているとはどんなに贔屓目に見て頂いても足りておりませんので。お断りいたします」
――3度目な?断るって3度目な?――
そして、執事は最後の切り札と取っておいたのか。
ゴトリ。
如何にも中身が詰まってます!!外見からでも直ぐに「あ、これ、不味いやつ」と判る金貨の入った袋をテーブルに置いた。
そう思うと心も体も軽い。
あの男爵令嬢の件がなくても、ジークフリッドとジークフリッドの母があんな気持ちでオデットに接していたのなら、遅かれ早かれ「裏切られた」と思う日は来たのだ。
行かなくていいならオデットも正直言って助かる。
ジークフリッドの母は確かに体調は崩しているし、あちこちが痛いと言っているが出来ない訳ではない。
買い出しのおまけだって状態がいいものを渡していたし、立て替えたお金の端数はいつも「細かいのがない」と払ってもらってなかった。
「あれ?これって煩わしさがなくなるってこと?」
良いこと尽くめじゃないの!?
そう言えば買い物に行った時に小物屋で「銅貨1枚店」を経営している店主が言っていた。
最近は断捨離と言って色々な物を捨ててミニマリストとして過ごすのがトレンドで、売り上げが伸びないと。
安いのでついつい多く買ってしまう。
これイイナと思うと使い道も大雑把に描いて買ってしまう。そんな客を狙っての銅貨1枚店なので物を持たない事が流行ると商売あがったりなのだ。
「でも、物じゃなくて人も断捨離していいのよね」
そう思うとアレも出来る、これも出来る。
何よりわざわざ家に行って掃除をしたり、細々とした御用聞きのような事をしなくていいので内職に打ち込める。
手のかかる刺繍の仕事の依頼が先にあったけれど、もしかするとそれを受けた事でジークフリッド達の本音が聞けたのかも知れない。だって、先にジークフリッドの家に行っていれば賃金の良いこの刺繍の仕事は他の持ち帰りお針子の手に渡っていたのだから。
残っていたとしても、今まで通り見た感じ低姿勢の態度をされていたら「手伝いには行かなきゃ」と思って刺繍の仕事を断ってしまったかも知れない。
「これっていい方向に進んでるってことかしら」
単純かも知れないが、あの本音はガッカリであり残念で嫌な気持ちになったけれど、1つ良い事があれば関連付けて考えれば続くんだなと軽い足取りでオデットは家に帰った。
★~★
「え‥‥どうして?」
良い事は続くと思っていたがやはり終わりがあるのだろうか。
家に帰ったオデットは玄関を開けて直ぐの部屋。客間でありリビングであり食事室でもある部屋。家族のダイニングテーブルに両親と向かい合わせに腰かけている男性を見て固まった。
見覚えのあり過ぎる男性。
初見なのだがその男性はヴァルスの屋敷。あの伯爵家の屋敷にいた男性だった。
「オデット。良いところへ。こちらガッティネ公爵家の執事さんなのだがお前に縁談を持ってきてくれたんだ」
――うわぁ…余計なお世話~――
あからさまに嫌そうな顔をすることは出来ず、にっこりと笑って会釈をする。
執事の男性は兄の椅子に腰を下ろしているので、オデットは自分の椅子を母親のヴィヴァーチェの隣に移動させて話を聞くことにした。
「実はガッティネ公爵家には次男で御座いますが子息のヴァルス様がおられまして、昨夜の夜会でお嬢様を見初められ是非にと旦那様に話をされたのです」
「は、はぁ…」
「まだ15歳との事ですし、急ぎません。お嬢様のお気持ちも大事ですし当面は仮婚約と言う形でご縁を頂ければと思いまして」
にこやかに話す執事だが、この執事は前回の人生で「学がない」とオデットを笑った男。
申し訳ないけれど、笑顔を笑顔として受け入れる事は出来ない。
「オデット、どうする?父さんたちはオデットの自由にしていいと考えているよ?」
オデットは子爵家を継ぐ訳でもなく、その子爵家もアレグロの結婚で特に資金面で支障が出るなら返上もありき。オデットの恋愛は自由でジークフリッドと良い仲であることを咎める事もなかった。
――ジークはもうどうでもいいけど、こっちも要らないわね――
「ありがたいお話ですれど、お断りいたします。仮婚約も何もまだ結婚とか考えた事もないので先に婚約ありきで縛られたくないんです。申し訳ございません」
「え?あ。あの、難しく考えて頂かなくていいんです。仮の婚約なので嫌になれば特に届もありませんし慰謝料だなんだも発生をしませんので」
「だとしてもです。仮でも婚約と名が付く以上、ヴァルス様?でしたかしら。制約も出るでしょうし爵位も釣り合いが取れません。お断りいたします」
――2度目な?断るって2度目な?――
しかし、執事は引き下がらない。
「爵位は結婚となればマルネ子爵家さんの1つ上になりますが伯爵家を興すことになっています。なので公爵家だと気負う事もないのです」
「いいえ。結婚すれば伯爵家であり、仮の期間は公爵家のご子息様です。見ての通り貧乏な子爵家。ご子息様に釣り合う学やマナーが身についているとはどんなに贔屓目に見て頂いても足りておりませんので。お断りいたします」
――3度目な?断るって3度目な?――
そして、執事は最後の切り札と取っておいたのか。
ゴトリ。
如何にも中身が詰まってます!!外見からでも直ぐに「あ、これ、不味いやつ」と判る金貨の入った袋をテーブルに置いた。
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