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2回目の人生

第15話  お父様は私の太陽

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浮かれていても一度来たことがあると思えば緊張はそれほどでもなかった。

前回は子爵家に割り当てられた時間の丁度中間を狙ったが今回は開始早々。
俗に言う「開店ダッシュ」である。

――よし!年明けの狙いを定めた限定福袋奪取と同じよ――

開門と同時にホールに入場し「あら?陛下はまだだったのね~」で帰る。これで万全のハズだった。


「オデット、えらく落ち着いているな?」

「そうかしら。馬車降りたら、直ぐ乗り込んでもいいかな?」

「は?来た意味がないだろうに」

「跳ね橋も渡ったしもう十分。だってお父様?もう二度と来ない所よ?ここで十分よ」

「オデット…まだ馬車は停車もしていないんだが」


指定の乗降場まで門道を走る馬車でオデットは「来たという事実があればいいならもう帰りたい」とダクシオンに言ってみた。

ヴァルスは有名人だし、王太子の側近護衛なので乗降場には来ないだろうがそれでチャンスは潰すに限る。

――これがあのお芝居で見たフラグを折るってやつかしら――

そう思うと尽くチャンスを潰すことに楽しみも覚えてしまう。

――いけない。いけない。ドキドキハラハラは要らないのよ――


乗降場に到着をすると前回と同じ。ここでも流れ作業。
1度目と違う事をしようと思ったオデットはアーシャ、ケイト、ディアナを探した。

1度目は会えなかったのだから、ここで会えば1度目とは違う事になる。
兎に角同じ轍を踏まぬように違う事をしなければ!と意気込んでしまったのが良くなかったかも知れない。


「まぁ!王太子殿下よ」

「本当!ヴァルス様もいるわ。眼福~」

「ね?早めに来て良かったでしょう?お姉様の時に挨拶に回れない貴族のために王族の誰かが出迎える事があるって聞いたの。お姉様の時は第3王子殿下だったそうだけど」

どこに王太子がいるかなど直ぐに解ってしまう。
人の輪が出来てしまっているからである。

子爵家に割り当てられた時間で挨拶が出来るのは全員ではない。
低位貴族は数が多いので、少しでも王族と触れ合う時間を設ける。

――カァァー!迷惑タイムね――

王族だって開始から終了まで壇上にいる訳ではなく、入場退場があるのだから王族に全く会う事もなく、馬車でオデットが望んだように「ただ王城に来ただけ」となる組もいるのだ。


触らぬ神に祟りなし。
この場に王族で既に結婚をしているのに王太子妃のフロリアがいない事でお察しだ。

ずっと前に教会に礼拝に行った際にちらっと見ただけだったが王族とは公の場では夫婦となっている場合は常に行動を共にすると聞いたことがある。

今回が2度目の人生であろうと、これがまだ夢の続きであろうとフロリアは仕事をしていない。それに尽きる。王弟殿下だって公的な場には夫妻でやって来る。


――よし、回避するわよ――


オデットは係員のいる扉に向かってダクシオンの腕を引く。


「お父様。さっさと入っちゃいましょう」

「でも、あそこに王太子殿下がいるぞ?」

「見ても仕方ないわよ。キンキンに輝くのだったら湯上りのお父様の後頭部見てた方がずっと心が落ち着くわ」

「それは褒めているのか?」

「・・・・・勿論よ!お父様は私の太陽だもの」


少し間が開いたのは仕方のない事だ。

首を傾げるダクシオンの腕をグイグイと引き、オデットはホールに入場をした。廊下で王太子が囲まれているからかホールの中にいる組はまばら。

当然まだ国王の挨拶タイムは始まっていない。楽団が静かな音楽を奏でているだけだった。


「よし!お父様。見るものは見たし帰りましょう」

「オデット…まだホールに入って1分も経ってないんだぞ?」

「何を言ってるの。1分も経ってるのよ?オートミールの中にミルク注いで1分もしたらフニフニになって流動食じゃない。私はガリゴリってする食感を大事にしてるの」

兎に角、長居は禁物だ。
なのにダクシオンは「ダンスを踊ろう」と誘ってくる。

――気持ちはわかるッ!判るのよお父様――

「ごめんなさい。お父様。私、ダンスってリンボーダンスしか踊れないの」

「リンボー?あの棒をズンダダしながらレイバック状態逸らしするやつか!?」

「そうよ。ついでに松明もここにはないでしょう?」

「オデット…お前絶対にふざけているだろう?」

「あら、失礼ね。リンボーさせたら私の右に出る者はいないのよ?」


もう帰りたい気持ちでいっぱいだったオデットはつい周囲への警戒を怠ってしまった。


「ぷっ。それは凄いな。是非見てみたいものだ」


背中がぞくぞくする。
後ろに誰が立っていて、誰が声を掛けたのか。振り返らずとも父の顔を見ればわかる。

――不味い。王太子殿下だわ――

冷や汗がダラダラと流れていく感触がする。

ギギギ…自分の首はこんなに錆びついてしまったのか。回転が悪い。

「これは、王太子殿下。わたくしマル―――フォグッ?!」

「お父様っ!!」

オデットは思いっきりダクシオンのつま先をヒールで踏んづけた。
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