王子殿下には興味がない

cyaru

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第二章~王子殿下は興味「しか」ない

ヴァレンティノの贈り物

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「うわぁ。やっぱり外は寒いですねぇ」
「そうだな」
「おっ!!おぉっ?!殿下見てください!松明の下!」
「松明の下?」

トゥトゥーリアは小さな子供と同じで街の至る所に興味を向けて何かを見つけるとヴァレンティノに教えてくれる。松明の下は火を入れた時に小さくなった炭が落ちて転がって行かないように少し掘ってあって水が張られる。

朝の冷え込みでその水の表面が凍り、氷の中に炭が見えた。

「先月、隣国の特産品で琥珀ってあったでしょう?中にずっと大昔の生物が閉じ込められていて・・・似てますね」
「そうだなぁ。リア、琥珀が欲しかったのか?」
「まさかぁ。綺麗だなと思っただけですよ。で?何処に行くんです?」


行き先も用途も告げていないヴァレンティノは城や宮に出入りする仕立て屋が目についた。しかし店頭に行くには事前に予約をしていなければならない。

尤も出向いたところで追い返されたりはしないだろうが、トゥトゥーリアは高額な品を買う時はあまり気乗りしないようで、仕立て屋が持ってきた品の中で一番安いものを選ぶか、機能性を重視するのでもうワンランク上になるか。

仕立て屋も商売なので、呼んでおいて買わずに帰すことは出来ない。なのでいつもヴァレンティノの品を注文する事になってしまっていた。

ヴァレンティノは店構えも豪華な仕立て屋には目もくれない。

行き先は決まっていた。

王子も人間。
10代前半の頃は兄の王太子とその側近4人で城を抜け出し何度か市井におりた事がある。しかし見つかれば自分と王太子以外の誰かが処罰されるので、秘密の冒険だった。

その冒険で1つの品にはいくつもの手がかかっている事を学んだのだった。

「リア、こっちだ」
「???」
「行こう」

恋人つなぎになった手を引き、ヴァレンティノは大通りから1本西に入った通りに向かった。


「わぁ、ここは大通りとはまた違いますね」
「来た事は無かったか?」
「屋敷の外に行くのはお使いの時なので、決められた道順で決められた店でしたから」


そこは「問屋通り」とも呼ばれていて、基本的には一般の客相手には商売をしていない商店が並ぶ通り。ここに並ぶ商店の「客」は「店」なのだ。

なので煌びやかでもないし華やかでもない。
しかし、品は確かなものを扱っていて、使用するのに問題はないが、売るには難がある品を格安で販売もしている知る人ぞ知る穴場でもあった。

「確か‥‥この辺りだったと思うんだが・・・あ!あの店だ」
「布製品の卸問屋さん?ですか?」

店舗の中は色んな布製品がゴチャゴチャに置かれているように見えて実は区別されている。

「わぁ!見てください!こんなに沢山っ」
「隣はカシミアだな。これなんかどうだ?」

ヴァレンティノは手にした品をトゥトゥーリアの首元にふわりと巻いた。

「温かいです!それに肌触りがいいです」
「素材はアンゴラだな。ただ手入れが難しい。こっちも試してみるか?」
「アンゴラっ?!うぇっ・・・そんな高級品試しちゃいけませんって!」
「高級品だと思うだろう?だが、値札を見てごらん」

――えぇーっ?!殿下と私じゃ金銭感覚違うんですけど――

そう思いながら巻かれたアンゴラ製のマフラーにつけられた値札を見ると「ヒュッ!」息を飲んだ。見間違いじゃないかとゼロとコンマの位置を何度も確認し‥‥。

「これ、通貨が違うとか?」
「為替かい?リアは全く・・・その金額で間違いないよ」
「で、でもこの品質で1980ミィって…安すぎです!まさか偽物?偽物の調査だったんですか?」
「違うよ。よく見てごらん。何処かに売れない理由がある」
「売れない理由・・・」


トゥトゥーリアには「偽物だから売れない」としか思えなかったが、奥から店主が出て来て理解が出来た。

「これね、基準より長さが20cm長いんだ」
「たったそれだけで?!大は小を兼ねるというのに?!」
「ハハハ。みんなそう思ってくれると助かるんだがね、既定の長さは38万ミィで販売されてるよ」
「ヒエェェェ~短いのに値段は高いなんて!」

その他にも端の部分が少しだけ歪んでしまったタオル、袖口のボタンホールの縫い目が左右で「言われれば違うと気付く」違いのあるものなど、トゥトゥーリアの感覚では「こんなの問題にする方がおかしい!」と叫びたくなる品がそこかしこにあった。

ヴァレンティノは幾つかを手に取るとトゥトゥーリアの首に巻いて使用感を尋ねた。

「良く似合ってる。リアはこういう瑕疵のない品だと買わないから」
「そ、そりゃ・・・元は皆さんの税金ですもの」
「だったら、この品は受け取ってくれる?」
「ま、まぁ…このお値段なら」


この品質でこの値段ならトゥトゥーリアだって買える。

――こんなお店があったなんて!――


向かいの屋敷で住み込みで働くジェニーと今度来てみようと思ったのだった。

笑顔であれもこれもと品定めするトゥトゥーリアを見つめるヴァレンティノの目は優しかった。
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