王子殿下には興味がない

cyaru

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第29話   トゥトゥーリアの居場所

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「キュウリが残ってます!キュウリ高いんですからちゃんと食べてください」

実はキュウリの青臭いのが苦手だったが、口の中に入れて見ると青臭くない。
トマトもあまり好きではなかったが、口の中に広がるつぶつぶの種すら気持ち良く感じる。そして焼きたてのパン。かと思ったら違っていた。


「朝から焼きませんよ?前の日に焼いたのを炙る様に温めるだけです。どこまで働かせる気ですか。今日は休みだったんですよ?ホントはね、休みの日はお日様がずっと高く上るまで寝台でゴロゴロするのが日課だったんです!」

「それは済まない事をした。早くに起きて朝食を作ってくれたんだな」

「一応・・・この家の家主さんですし?扉も直して貰わないといけないし?」

「家主は君だよ。父上に頼んで名義も変えてもらうようにしよう」

「やめてください!いりませんって!。稼ぎもはっきりしないのにこんな郊外でも一等地の固定資産税なんか払えませんってば。ホント…どれだけ働かすきなのかしら」

「トゥトゥーリアならこのパンで納税にしてあげるよ」

「そういう公私混同要りません。食べたら帰ってくださいね」

「もう少し良いだろう?」

「ダメですよ!早く帰って扉を直す手配をしてもらわないと!」


――そっちか。君らしいな――


小さいからか。いや違う。ヴァレンティノは部屋を見て思った。
見た事のある調度品もあるが、部屋の至る所にトゥトゥーリアの気配を感じる。工夫を凝らしている部分も多く「ここはトゥトゥーリアの居場所」なんだと感じた。


帰る家もなく、バリバ侯爵家はトゥトゥーリアを食い物にしようとしていた。

――きっと息が出来る居場所が欲しかったんだな――

そう思うと、トゥトゥーリアと離縁をしない場合でも宮に連れて帰ったらどうなるだろうと考えた。初夜の日のトゥトゥーリアはヴァレンティノが部屋に入って来たばかりの時は緊張もあっただろうが今のような雰囲気ではなかった。今に近いのは一緒に並んで寝た時にさっさと寝息を立てるその直前。

ヴァレンティノは食器を片付けるトゥトゥーリアから食器を奪った。

「片付けは私がやる・・・と言いたいんだが初めてなんだ。片付け方を教えてくれないだろうか」
「厨房に水の入った桶があるから食器をその中に入れてくれればいいです」
「その後は?そこで洗うのか?」
「しばらく水に浸けておいて、洗いやすくしてから洗うんです」
「なるほどね」


洗い方も教えてもらおうと思ったのだが、扉を早めに直さないと厨房の勝手口が使えないので、何かにつけ玄関から出て遠回りをしなければならない。

「扉、本当に申し訳なかった」
「夏だったら虫じゃなく風が入るから良かったかもだけど。直してくれるんでしょう?」
「勿論。なんならもう1部屋か2部屋増やすように増築をしようか?」
「やめてください。掃除が大変になるだけです」


浸け置きした食器の入った桶を玄関から外に運び、井戸の水で洗う。
トゥトゥーリアが「今日は湯あみは無理かな」と呟く声にヴァレンティノは宮に戻る事にした。

「夕方には直るようにしておく」
「ありがとう!夕方、殿下も来るんですか?」
「どうして?」
「来るなら殿下の分もパンを焼こうと思って」
「なら間違いなく来るよ」
「言わなきゃ良かった・・・」


ヴァレンティノは愛馬ボナパルト号に跨るといつものように前足をあげて暴れ出す。しかしトゥトゥーリアが「ボナ君また夕方ね」と鼻を撫でると大人しくなる。
すっかり飼いならされてしまった感のある愛馬ボナパルト号と共にヴァレンティノは宮に戻って行った。



「そのお顔は仲直り出来ましたか?」
「仲直り?‥‥そうなるのか?」
「御気分が宜しい時に何ですが、片付けねばならない問題が御座います」
「あぁ、扉か」
「扉?」


執事エルドはサブリナの処罰のつもりだったのだが、ヴァレンティノは違ったようである。
新しい扉の材料と、加工し取りつける人の手配を先に済ませたヴァレンティノは執事エルドが差し出した書類に目を通した。

「公爵令嬢とは言え、第2王子妃への暴行は見過ごすことは出来ません」
「そうだな。公爵は・・・修道院に入れるつもりか?」
「おそらくは。ですが修道院も寄付金次第で修道女の処遇も変わりますから意味がないかと」
「サブリナは虚偽も加わるからな。しばらくバリバ侯爵たちと働いてもらうか」
「しかしあの施設はマエスト公爵家が運営しています」
「城の地下牢しかないか。寝転がって勉強でも、し直して貰うのが良いだろう」
「寝返りは打てませんが、あのご令嬢は身長も低いのでさほどに丸まらなくてもいいでしょうしね」
「石の牢にも3年と言うし、それでいいだろう」

――殿下、石の上!上ですよ!――


マエスト公爵家にサブリナの出頭命令を出したが、公爵家にある牢で反省をさせているとサブリナの引き渡しを拒んだマエスト公爵家。

騎士団が出向いてみれば、豪華な部屋で「何処が反省?」と思うような生活を送っていた事が判明し、マエスト公爵家は罰として一番の稼ぎ頭だった領地を没収となり、サブリナは騎士団に引き渡された。

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「あれやこれやで反王政派がかなり勢いを無くした。怪我の功名と言う奴かな?」

「あぁ、そうですね。反王政派の筆頭だったマエスト公爵家は収支も以前ほどは出ないでしょうしバリバ侯爵家は家名だけとなりましたし…」

「ま、結果的には義妹サマサマと言うことだな。お前も自分の妻とは仲良くする事だ。たまには堀で釣りとか、山登りとか令嬢らしからぬことに連れて行ってやると喜ぶぞ?妃はロッククライミングに嵌ってるがな」

「は?」

ヴァレンティノは知らなかった。
てっきり両親である国王や王妃と同じで冷え切った夫婦関係だとばかり思っていたと兄の王太子に告げると大笑いをされた。

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ヴァレンティノ。24年生きて来て初めて知った兄の秘密だった。
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