王子殿下には興味がない

cyaru

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第23話   偶然にも数が一致

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「兎に角、金目の物を乗せるんだ。金が払えないとなればどうなるか判らない」

反王政派の中にはとりわけ過激な輩も多い。
それらを押さえてきたのは、金と権力があるように見せかけ、王家と姻戚にあると言う立場。

が、実は金はなく権力もハリボテ。よくぞここまで騙し通せたものだが、それも狡猾だった先代の置き土産。借金が払えないとなればなし崩しに地盤は崩れ去ってしまう。


「エジェリナは嫁ぎ先に暫くかくまって貰うんだ」
「えぇ~やだぁ。あの家、汚いし狭いんだもの。向こうの両親もいるし。結婚してもここにいていいって言ったじゃない」
「それが出来ないんだ。ここは直ぐに人手に渡る。早く身を隠さないと!」

一番荷物を運べる馬車は先ほど乗って来た馬車。
文句を言いながらも一家は何度も部屋と馬車を往復し、金になりそうなものを馬車に詰め込んだ。


そんな主一家を黙ってみている使用人は1人もいなかった。
エジェリナや侯爵夫人に「お運びします」と声をかけて宝飾品など一番金になりそうなものを先ずは使用人部屋に運び、使用人の頭数で分配する。

空になったトランクや、買取店も買い取ってくれそうにないものだけを残し馬車に積み込んでいった。



深夜、使用人が寝静まったのを見計らってバリバ侯爵一家はアルベロを御者にして正門に向かった。
その様子を息をひそめて見ていた使用人達は荷物を持って裏口から出て行く。

「父上、様子が変だ」
「何が。ランプダメだ。明かりで見つかってしまう。点けるなよ?」
「そうじゃない。正門の前が何か変だ。何か動いてる気がするよ」
「門番が外灯を消し忘れて、蛾でも飛んでるんだろう。気にするな」

正門の直前で停車し、アルベロが鉄の門を開けた。

ゴゴゴゴ‥‥。

その音が号令になったのか、馬車はあっという間に人間に囲まれてしまった。

「こんな夜中に何処に行こうと言うんですかね?」

男達に囲まれたアルベロは一歩も動けず、馬車から出れば何をされるか判らないと侯爵夫妻とエジェリナは馬車から出る事も出来ない。

屋根の上に積んだ荷物はその場で暴かれて、群がった人間が次々に中身を奪い去って行く。

「後は中だ!」

その声にバリバ侯爵は「待ってくれ!開けるから何もしないでくれ!」大声で叫んだ。

扉を開けると代表の男なのか。グルリと馬車の中を見回し、天袋や足元に置いたトランクを外に放り投げた。




嵐が過ぎ去ったかのように静まり返ったのは30分ほどしてからの事。
4人は下着姿になり、馬車の周りには売り物にもならない品が散乱していた。

「お父様のせいよ!お父様が持参金を持って帰ってこないから!!」

エジェリナの悲痛な叫びが闇の中をこだまする。

「1人づつ親戚の家に間借りさせてもらうしかない」

力なく呟くバリバ侯爵だったが、直ぐにアルベロが無理だと言う。

「どうやって親戚の家まで行くんだ?馬も盗られたと言うのに」


4頭の馬で引く馬車。
正門前には馬のいない馬車だけが残されていた。

「1、2、3‥‥4人・・・」アルベロが人間の数を数える。

「嫌よ!私は無理っ!!」

アルベロは馬の代わりに人間が馬車を引けばいいと言わんばかり。
屈強な男達に囲まれ、凄まれて頭の中が混乱をしていた。


「取り敢えず、馬車はこのままで屋敷まで戻ろう」
「そうね。厩舎には代わりの馬もいるし…夜が明けてから考えましょう」
「歩くの嫌よ。妊娠してるのよ?無理だってば!」
「じゃぁ走ればいい。歩くのが嫌なら走って戻れ。そもそもでお前が散財するから!父上も母上もエジェリナばかり!!こんなのとばっちりじゃないか!」


しかし、屋敷に戻った4人は更に項垂れる事になるとは思わなかった。

それは玄関を開けた瞬間から異変に気が付くほどの異常が起こっていた。

「壁の絵がない・・・何故だ?ここに騎士の甲冑もあっただろう?!」
「キャァァ!サロンのソファセットも!調度品もないわ!」
「父上っ!母上っ!鍋も釜もない!保存用の食糧庫もからっぽだ !」
「なんで廊下がこんなにネチャネチャす・・・絨毯がないわ!カーテンも!」

4人はお互いの顔をみた。

<< 部屋っ?! >>

めいめいが自室に飛び込んでいく。
夫人もエジェリナもズリっと捲れ上がる下着を手で押さえ階段を駆け上る。
アルベロも3段飛ばしで段を駆け上がった。

バリバ侯爵は先祖代々受け継いできた家宝を確認するために執務室に走った。

<< なんにもな~い!! >>


持って行かなかった衣類はドレスや下着類まで、カーテンもカーペットも寝台の寝具すらそこにはなかった。

翌朝、げっそりとした4人前に、昨夜取り立てを行った者から話を聞いた貴族が続々と集まって来た。

「マエスト公爵!!」
「貸した金には到底届かないだろうか・・・君も一家を養わねばならんだろう?」

優しく肩に手を置かれ、やはり長年同じ派閥でやって来た厚い情はあるのだとバリバ侯爵は涙ぐんだ。


「汚物の堆積場で清掃をする人間に丁度4人欠員が出てね。そこなら住み込みで働ける。4人だから3人分で丁度日当で家賃と食費が賄える。残り1人分を返済に充てて貰えれば。長く派閥で一緒だったからな。それくらいはさせてくれ」

――いやいや、そんな事してもらわなくていいし?汚物ってでしょう?!――

「都市の美化にもマンパワーが必要なんだ。君がやってくれねば誰がやるんだ?」

有無を言わせぬマエスト公爵。



「私は嫌よ!そんなの出来ない!あのボロ屋敷に住んだ方がマシよ!」

叫ぶエジェリナだったが、目の前に夫となった男性が現れ、駆け寄ろうとして盛大に転んだ。

「キャァァ!!赤ちゃんが!赤ちゃんがぁ!!」


っと、思ったのだが念のため医師に診察をしてもらったところ、月のものが始まっただけだった。

「不摂生をしていると3、4カ月止まる事もありますからね」


診察に付き合ってくれた夫だったが、診察後「手切れ金代わりに会計をしとくよ。その前にここに署名して?」と言われ離縁届を突きつけられてしまった。


全てを失ったと思われたバリバ侯爵一家。
爵位だけが残り、マエスト公爵に呼ばれた王太子殿下から有難い言葉を頂いた。

「一家揃って、敢えて汚れ仕事に携わろうというその心意気に感謝する」

「感謝じゃパンは食べられないし、ドレスも着られないわ!!」

叫んだエジェリナだったが、王太子はにっこりと笑顔。寛大な言葉をエジェリナに告げた。

「大丈夫だ。便槽の清掃は衣類を着ていたら仕事にならない。日当でパンは・・・食べようと思えば食べられると思う」


なんと!王太子殿下にも見送られて荷馬車に乗せられ、勤務地に向かう栄誉を賜ったバリバ侯爵一家。
ヴァレンティノはトゥトゥーリアには内緒で4人にデッキブラシを贈ったのだった。
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