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第21話 夢見る現金シャワー
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バリバ侯爵家では手ぶらで帰って来た従者を侯爵夫妻が叱責していた。
「トゥトゥーリアに会えばいいのだ!」
「そうよ?あなた・・・こんな雑な仕事で給金が貰えると思っているの?」
「申し訳ございません。ですが殿下が――」
「関係ないだろう!殿下の元に行かずトゥトゥーリアを捕まえればいいだけだろうが」
「そんな無茶な・・・好き勝手に宮の中は歩けません」
「歩こうとしないからだッ!この役立たずが!」
そこに異母兄アルベロ、異母姉のエジェリナがやって来て、叱責される従者に舌打ちをするとドカリとソファに腰を下ろした。
アルベロはかなり疲れているようで、動くたびに砂ぼこりが舞う。
「父上、母上もそこでギャーギャー喚いても解決はしませんよ。叔父上は貸す金はないと突っぱねられました。どうするんです。この請求書の束を。駆けずり回りましたが何処も話も聞いてくれませんでしたよ?」
「そこを何とかするのが次期当主のお前の勤めだろう!」
「何を言っているんです?こんな時だけ次期当主だなどと言わないで頂きたいッ!それを言うのなら持参金をあてにして夜会を開くのは止めた方が良いと言った私の意見をくんでくれても良かったじゃないですか!」
「今更の話をするんじゃない!あの時はあれが最善だったんだ。くそっ!トゥトゥーリアには言っておいたのに」
「だぁからぁ。言ったじゃない。侍女かメイドの1人や2人は付けた方が良いって。そうすればこっちから出向かなくたってあの子を呼び寄せることだって出来たでしょう?そんなところまでケチるからよ。私なんか宮にあるドレス、全~部くれてやった太っ腹よ?」
どの家も金を貸してくれたのはトゥトゥーリアが第2王子に嫁ぐから、この先の事業にも融通を利かせてくれるだろうと言う腹があった。
利息すら就けなかったのはそういうオマケを見越していたのと、1、2か月ほどで全額返金するという約束があったから。
しかし、結婚式後に開かれる夜会に「ヴァレンティノ殿下」というワードは会話に出て来ても出席は一度もなく、それどころかバリバ侯爵家の事業ではなく、不貞を犯したエジェリナの嫁ぎ先である家を推すような内容ばかり。
金の切れ目が縁の切れ目。
今までバリバ侯爵家の何を恐れていたのだろうと派閥を抜ける動きを見せる低位貴族の数も多くなってきていた。
ここで金を返さねば伯爵位も、国内の流通を牛耳っている商会からもそっぽを向かれてしまう。それに気が付いたのか、結婚式の後2回目に開いた夜会で「これはいったい何の催し?」と疑いを持った中堅の商会は早々に手を引いた。
大手さえ残っていればいいとタカを括っていたが、大手も零細、中小商会が下請けとしているから成り立っているのであって、大手商会も超短期で貸した金が戻るかどうかで今後の付き合いを考えるとまで言ってきた。
「事業はどうでもなんとか金は返さないと!」
バリバ侯爵夫妻は後継となるアルベロよりもエジェリナが可愛くてたまらない。行き過ぎた親馬鹿とも言えるが、初めて生まれたのがエジェリナでそれはもう目の中に入れても痛くないほどに可愛がってきた。
ヴァレンティノとの婚約からは政略的に逃げられないと判った時は、何日も夫婦で涙したものだ。
特にバリバ侯爵は2人目の来となるアルベロに手を焼く妻の癇癪が酷くて相手をしてもらえず、当時エジェリナは祖父母の元に行かせていたので、目についたメイドに欲情し好き放題にしてしまった事を悔いていた。
エジェリナへの過剰な愛は妻への罪滅ぼしでもあったが、エジェリナを裏切ってしまった事への贖罪でもある。残念な事にトゥトゥーリアの母であるメイドは「そこにいたのが悪い」としか思っておらず、トゥトゥーリアに対しても「生まれて来なければ良かった」と思っている。
夫人がトゥトゥーリアを嫌うのは、どんな事情であれ我が子以外が侯爵家の血を引くと言うことが許せなかった。
そんな親に育てられればエジェリナは好き放題になるし、アルベロは性格がかなり歪んでしまった。
4人が4人とも本能の赴くままに行動するのがバリバ侯爵家だった。
「殿下は父上に来いと言ってるんだから行って来ればいいさ」
「そうよ?お父様が行けば話が早いわ」
「そうね、殿下はあなたをご指名なんだもの。早い所行ってらして?」
「そうだな。もしかすると持参金の話だけではなく、大臣の椅子でも用意してくれているのかも知れん」
意気込んで翌日、ヴァレンティノの住まう宮に出向いたバリバ侯爵。勿論帰りには1億ミィで10kgを30億、つまり300kgと言う現金を積み込むのだから万が一に備えて一番頑丈な馬車。
座り心地はあまり良くないが、4馬引きで広さはある馬車。帰り道では1つトランクを開けて現金シャワーでもしてみようかなとウキウキしながら馬車に揺られた。
「トゥトゥーリアに会えばいいのだ!」
「そうよ?あなた・・・こんな雑な仕事で給金が貰えると思っているの?」
「申し訳ございません。ですが殿下が――」
「関係ないだろう!殿下の元に行かずトゥトゥーリアを捕まえればいいだけだろうが」
「そんな無茶な・・・好き勝手に宮の中は歩けません」
「歩こうとしないからだッ!この役立たずが!」
そこに異母兄アルベロ、異母姉のエジェリナがやって来て、叱責される従者に舌打ちをするとドカリとソファに腰を下ろした。
アルベロはかなり疲れているようで、動くたびに砂ぼこりが舞う。
「父上、母上もそこでギャーギャー喚いても解決はしませんよ。叔父上は貸す金はないと突っぱねられました。どうするんです。この請求書の束を。駆けずり回りましたが何処も話も聞いてくれませんでしたよ?」
「そこを何とかするのが次期当主のお前の勤めだろう!」
「何を言っているんです?こんな時だけ次期当主だなどと言わないで頂きたいッ!それを言うのなら持参金をあてにして夜会を開くのは止めた方が良いと言った私の意見をくんでくれても良かったじゃないですか!」
「今更の話をするんじゃない!あの時はあれが最善だったんだ。くそっ!トゥトゥーリアには言っておいたのに」
「だぁからぁ。言ったじゃない。侍女かメイドの1人や2人は付けた方が良いって。そうすればこっちから出向かなくたってあの子を呼び寄せることだって出来たでしょう?そんなところまでケチるからよ。私なんか宮にあるドレス、全~部くれてやった太っ腹よ?」
どの家も金を貸してくれたのはトゥトゥーリアが第2王子に嫁ぐから、この先の事業にも融通を利かせてくれるだろうと言う腹があった。
利息すら就けなかったのはそういうオマケを見越していたのと、1、2か月ほどで全額返金するという約束があったから。
しかし、結婚式後に開かれる夜会に「ヴァレンティノ殿下」というワードは会話に出て来ても出席は一度もなく、それどころかバリバ侯爵家の事業ではなく、不貞を犯したエジェリナの嫁ぎ先である家を推すような内容ばかり。
金の切れ目が縁の切れ目。
今までバリバ侯爵家の何を恐れていたのだろうと派閥を抜ける動きを見せる低位貴族の数も多くなってきていた。
ここで金を返さねば伯爵位も、国内の流通を牛耳っている商会からもそっぽを向かれてしまう。それに気が付いたのか、結婚式の後2回目に開いた夜会で「これはいったい何の催し?」と疑いを持った中堅の商会は早々に手を引いた。
大手さえ残っていればいいとタカを括っていたが、大手も零細、中小商会が下請けとしているから成り立っているのであって、大手商会も超短期で貸した金が戻るかどうかで今後の付き合いを考えるとまで言ってきた。
「事業はどうでもなんとか金は返さないと!」
バリバ侯爵夫妻は後継となるアルベロよりもエジェリナが可愛くてたまらない。行き過ぎた親馬鹿とも言えるが、初めて生まれたのがエジェリナでそれはもう目の中に入れても痛くないほどに可愛がってきた。
ヴァレンティノとの婚約からは政略的に逃げられないと判った時は、何日も夫婦で涙したものだ。
特にバリバ侯爵は2人目の来となるアルベロに手を焼く妻の癇癪が酷くて相手をしてもらえず、当時エジェリナは祖父母の元に行かせていたので、目についたメイドに欲情し好き放題にしてしまった事を悔いていた。
エジェリナへの過剰な愛は妻への罪滅ぼしでもあったが、エジェリナを裏切ってしまった事への贖罪でもある。残念な事にトゥトゥーリアの母であるメイドは「そこにいたのが悪い」としか思っておらず、トゥトゥーリアに対しても「生まれて来なければ良かった」と思っている。
夫人がトゥトゥーリアを嫌うのは、どんな事情であれ我が子以外が侯爵家の血を引くと言うことが許せなかった。
そんな親に育てられればエジェリナは好き放題になるし、アルベロは性格がかなり歪んでしまった。
4人が4人とも本能の赴くままに行動するのがバリバ侯爵家だった。
「殿下は父上に来いと言ってるんだから行って来ればいいさ」
「そうよ?お父様が行けば話が早いわ」
「そうね、殿下はあなたをご指名なんだもの。早い所行ってらして?」
「そうだな。もしかすると持参金の話だけではなく、大臣の椅子でも用意してくれているのかも知れん」
意気込んで翌日、ヴァレンティノの住まう宮に出向いたバリバ侯爵。勿論帰りには1億ミィで10kgを30億、つまり300kgと言う現金を積み込むのだから万が一に備えて一番頑丈な馬車。
座り心地はあまり良くないが、4馬引きで広さはある馬車。帰り道では1つトランクを開けて現金シャワーでもしてみようかなとウキウキしながら馬車に揺られた。
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