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初夜は土下座で期間限定妻となる
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人生は不思議な事の連続と申します。
わたくしフェイン・イノセンは、デンティド侯爵家のアンプレッセ様と本日の昼間に国王陛下、王妃殿下にも祝福をを頂き結婚を致しました。
祝いの宴。宴も酣な中、こちらにどうぞと嫁ぎ先の侯爵家の侍女に手を引かれ、いい加減ここ数日磨き上げられた体を更に磨かれ、揉まれ…。
だからでしょう。このような向こうが透けて見えるような薄い布を身に纏って寝台が主役の部屋に押し込められたので御座います。
年も22歳。これが何を意味するか解らぬではありませんが、扉を開け遅れて入室してきた【夫】となるアンプレッセ様は突然なにをされるかと思いきや、目の前で床に額を押し当てながら詫びておられます。
何を詫びておられるかと言えば簡単で御座います。
【人違い】
結婚式で誓いのキスの段階となり、ヴェールをそっとあげた夫となるアンプレッセ様がわたくしを一目見た途端に目を泳がせ、軽く頬に触れるか触れないかをキスの代用とした理由は決して照れ隠しではなく、動揺だったとは神様も驚いた事でしょう。
無風の筈なのに、わたくしとアンプレッセ様の間に風を感じるのは何故でしょう。
ガウンを羽織ったわたくしの行動に間違いはないはずです。
半年ほど前、デンティド侯爵家より婚約の打診が御座いました。
婚約を申し込んできた理由は【一目惚れ】
しかしながら、わたくしは女学院を卒業したあと、屋敷で本を読むか庭を愛でるか。時に女学院時代に知り合った友人と歓談を楽しみつつも、年の半分は領地に引きこもる。そんな風に過ごしておりました。
『何処で知り合ったのだ』
両親や兄弟は口を揃え言いましたが、全く身に覚えが御座いませんでした。
騒がしい事はあまり好きではないので夜会に呼ばれても出席するのは不参加が認められないような王家主催のものだけですし、それすら王族の方に挨拶が終われば早々に会場を後にしておりました。
ダンスも苦手で父と数回、兄と数回、弟とは2、3回あったかしら?
従兄弟にあたる第三王子殿下とも1回、2回だったかという程度。
名乗り合った事はありませんし、歓談する時も家族の誰かと一緒でしたのでわたくしが覚えていなくても、カーケキ国にアンプレッセ・デンティドありとまで言われたお方です。家族の誰かが覚えているはずですが誰も彼も首を傾げたのです。
もしやと思ったのは、数年前に領地からの帰り馬車がぬかるみに嵌った際に使用人と一緒になって馬車を押してくださった男性が数名いらっしゃいました。皆さんお父様と同年代の農夫の方ばかりでしたけれど、その中に居られたのかも知れないと思いましたが公爵領と侯爵領は王都を挟み真逆の位置。一体どこで見初められたのか。
アンプレッセ・デンティド様のお家は建国以来の名家でデンティド侯爵家と言えば3大公爵家に次いで財力もあり、広い侯爵領も持っている家で御座います。
歴代の騎士団の団長、副団長には近衛から第六騎士団までその親族の名が連なっておりますし、一夫多妻のカーケキ国では珍しく奥様一筋の一途な男性が揃っている家系なのです。
燃えるような太陽の色をした御髪と瞳、整ったかんばせ。騎士ですので鍛え上げられた体躯に見上げるほどの上背。同じ年齢の王太子殿下もアンプレッセと言えば美丈夫な上に剣技にも優れ神は不公平だと溢しておられたほど。
ですが、婚約の打診はお断りをしたのです。
騎士ともなれば負傷したり、最悪戦死する可能性もないとは言えないのです。
出来れば天寿を全うできる男性の元に嫁いでほしいという両親の希望で御座いました。
貴族の中で公爵という爵位が初めて役に立ったとお父様が笑っていたのがつい先日のようです。
しかし、デンティド侯爵様は第一騎士団長に就任した褒美に何が良いかと国王陛下に聞かれ、わたくしをと熱く望まれたのです。
国王陛下からわたくしの父に話があり、侯爵という爵位もあって騎士団長、国王陛下の覚えも目出度いアンプレッセ・デンティド様をお断りする理由はもう何処にも御座いませんでした。
公爵家と言えど所詮は臣下。国王陛下が口にした瞬間に断ると言う選択肢も消えるのですから。
わたくしは幼い頃から父の公務に付き合って色んな国に行った経験から、いつか一人で旅をしてみたかったのですが、邪魔をするのは公爵令嬢という立ち位置。爵位があるばかりにそれを口にする事は出来ず、外務庁にお勤めの方とご縁があればと願っておりました。
所詮、夢は夢。心に蓋をしてアンプレッセ・デンティド様と結婚をしたのです。
なのに・・・。
未だに床の絨毯に伏せられているアンプレッセ・デンティド様。
つまり、アンプレッセ・デンティド様は何処かで妻にと望む女性のお顔を見た事になります。そうでなければ【人違い】だと気が付く事はなかったでしょう。
不思議なのは、どうしてその女性はわたくしの名を名乗ったのでしょう。
ご自分の名を名乗っておられれば、このような間違いは起きなかったでしょうし、アンプレッセ・デンティド様に妻にと望まれる名誉さえ手にする事が出来たはずですのに。
「頼む!離縁をしてくれないか!」
「デンティド侯爵様、理由はどうされるのです?」
「どうすると言われても‥‥」
そう、容姿の美醜を問題にすれば神の教えに背くとデンティド侯爵家は教会を怒らせる事になりますし、信仰心の厚い民衆からもそっぽを向かれてしまうでしょう。
子が出来ないという事ですら一夫多妻ですから他に妻を娶るか、養子縁組も許容されているのですから言い訳にすらならないのです。
何よりこの結婚はデンティド侯爵様が国王陛下に望まれた事なのです。
例え、それが人違いであったとしても、2度も!わたくしを名指ししたのはデンティド侯爵様ご本人。
「頭では判っているんだ。だが‥‥君を妻として迎え入れる事に心が付いていかない」
ほとほとに困りました。
この状況を生み出した貴方にこそ全てが付いていかないのはわたくしですのに。
わたくしフェイン・イノセンは、デンティド侯爵家のアンプレッセ様と本日の昼間に国王陛下、王妃殿下にも祝福をを頂き結婚を致しました。
祝いの宴。宴も酣な中、こちらにどうぞと嫁ぎ先の侯爵家の侍女に手を引かれ、いい加減ここ数日磨き上げられた体を更に磨かれ、揉まれ…。
だからでしょう。このような向こうが透けて見えるような薄い布を身に纏って寝台が主役の部屋に押し込められたので御座います。
年も22歳。これが何を意味するか解らぬではありませんが、扉を開け遅れて入室してきた【夫】となるアンプレッセ様は突然なにをされるかと思いきや、目の前で床に額を押し当てながら詫びておられます。
何を詫びておられるかと言えば簡単で御座います。
【人違い】
結婚式で誓いのキスの段階となり、ヴェールをそっとあげた夫となるアンプレッセ様がわたくしを一目見た途端に目を泳がせ、軽く頬に触れるか触れないかをキスの代用とした理由は決して照れ隠しではなく、動揺だったとは神様も驚いた事でしょう。
無風の筈なのに、わたくしとアンプレッセ様の間に風を感じるのは何故でしょう。
ガウンを羽織ったわたくしの行動に間違いはないはずです。
半年ほど前、デンティド侯爵家より婚約の打診が御座いました。
婚約を申し込んできた理由は【一目惚れ】
しかしながら、わたくしは女学院を卒業したあと、屋敷で本を読むか庭を愛でるか。時に女学院時代に知り合った友人と歓談を楽しみつつも、年の半分は領地に引きこもる。そんな風に過ごしておりました。
『何処で知り合ったのだ』
両親や兄弟は口を揃え言いましたが、全く身に覚えが御座いませんでした。
騒がしい事はあまり好きではないので夜会に呼ばれても出席するのは不参加が認められないような王家主催のものだけですし、それすら王族の方に挨拶が終われば早々に会場を後にしておりました。
ダンスも苦手で父と数回、兄と数回、弟とは2、3回あったかしら?
従兄弟にあたる第三王子殿下とも1回、2回だったかという程度。
名乗り合った事はありませんし、歓談する時も家族の誰かと一緒でしたのでわたくしが覚えていなくても、カーケキ国にアンプレッセ・デンティドありとまで言われたお方です。家族の誰かが覚えているはずですが誰も彼も首を傾げたのです。
もしやと思ったのは、数年前に領地からの帰り馬車がぬかるみに嵌った際に使用人と一緒になって馬車を押してくださった男性が数名いらっしゃいました。皆さんお父様と同年代の農夫の方ばかりでしたけれど、その中に居られたのかも知れないと思いましたが公爵領と侯爵領は王都を挟み真逆の位置。一体どこで見初められたのか。
アンプレッセ・デンティド様のお家は建国以来の名家でデンティド侯爵家と言えば3大公爵家に次いで財力もあり、広い侯爵領も持っている家で御座います。
歴代の騎士団の団長、副団長には近衛から第六騎士団までその親族の名が連なっておりますし、一夫多妻のカーケキ国では珍しく奥様一筋の一途な男性が揃っている家系なのです。
燃えるような太陽の色をした御髪と瞳、整ったかんばせ。騎士ですので鍛え上げられた体躯に見上げるほどの上背。同じ年齢の王太子殿下もアンプレッセと言えば美丈夫な上に剣技にも優れ神は不公平だと溢しておられたほど。
ですが、婚約の打診はお断りをしたのです。
騎士ともなれば負傷したり、最悪戦死する可能性もないとは言えないのです。
出来れば天寿を全うできる男性の元に嫁いでほしいという両親の希望で御座いました。
貴族の中で公爵という爵位が初めて役に立ったとお父様が笑っていたのがつい先日のようです。
しかし、デンティド侯爵様は第一騎士団長に就任した褒美に何が良いかと国王陛下に聞かれ、わたくしをと熱く望まれたのです。
国王陛下からわたくしの父に話があり、侯爵という爵位もあって騎士団長、国王陛下の覚えも目出度いアンプレッセ・デンティド様をお断りする理由はもう何処にも御座いませんでした。
公爵家と言えど所詮は臣下。国王陛下が口にした瞬間に断ると言う選択肢も消えるのですから。
わたくしは幼い頃から父の公務に付き合って色んな国に行った経験から、いつか一人で旅をしてみたかったのですが、邪魔をするのは公爵令嬢という立ち位置。爵位があるばかりにそれを口にする事は出来ず、外務庁にお勤めの方とご縁があればと願っておりました。
所詮、夢は夢。心に蓋をしてアンプレッセ・デンティド様と結婚をしたのです。
なのに・・・。
未だに床の絨毯に伏せられているアンプレッセ・デンティド様。
つまり、アンプレッセ・デンティド様は何処かで妻にと望む女性のお顔を見た事になります。そうでなければ【人違い】だと気が付く事はなかったでしょう。
不思議なのは、どうしてその女性はわたくしの名を名乗ったのでしょう。
ご自分の名を名乗っておられれば、このような間違いは起きなかったでしょうし、アンプレッセ・デンティド様に妻にと望まれる名誉さえ手にする事が出来たはずですのに。
「頼む!離縁をしてくれないか!」
「デンティド侯爵様、理由はどうされるのです?」
「どうすると言われても‥‥」
そう、容姿の美醜を問題にすれば神の教えに背くとデンティド侯爵家は教会を怒らせる事になりますし、信仰心の厚い民衆からもそっぽを向かれてしまうでしょう。
子が出来ないという事ですら一夫多妻ですから他に妻を娶るか、養子縁組も許容されているのですから言い訳にすらならないのです。
何よりこの結婚はデンティド侯爵様が国王陛下に望まれた事なのです。
例え、それが人違いであったとしても、2度も!わたくしを名指ししたのはデンティド侯爵様ご本人。
「頭では判っているんだ。だが‥‥君を妻として迎え入れる事に心が付いていかない」
ほとほとに困りました。
この状況を生み出した貴方にこそ全てが付いていかないのはわたくしですのに。
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