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第38話 答えられない
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ラジェットは改めて父親の恐ろしさを知った気分だった。
あんなに可愛がっていたライモンドをあっさりと廃籍した。冗談かと思い翌日王宮で確かめてみてさらに驚く事実を知った。
ライモンドが廃籍される以前にラッセルも廃籍されていて、レント侯爵家の「子」の欄に名前があるのはラジェットだけになっていたのだ。
これが心躍らずしてなんとしようか。
もう弟たちに婚姻歴で後れを取ったと感じる事もない。こうなると何をしても許される気がする。それもそうだ。ラジェットまで廃籍してしまえば後継がいなくなるのだ。
――そうか。だから父上は当主の威厳を見せるためにライモンドを廃籍する場を僕に見せたんだ――
そんな経験は滅多に出来るものではない。貴重な経験をさせてもらった特別感にもラジェットは酔いしれた。
自分しかいないとなればイリスに構っている暇はない。
勿論メアリーももう気にもかけたいとも思わず、メアリーが産んだ子は言わずもがな。
――わざわざ他人の子を育てたいなんて奇特なやつはいないよ――
それからのラジェットは怠け放題。
レント侯爵もラジェットに何かをしろ、こうしたらどうだと口を出してくることもない。言われないのならわざわざ火中の栗を拾う事もないので「する事はないか」と問う必要もない。
メアリーが産後3か月でかつてイリスが数日だけ使用した別棟に住まいを移したと聞いて「やっと寝られる」としか思わなかった。
産褥中は流石にメアリーも立ち上がる事が辛かったらしくラジェットも部屋に来る事もなかったが、動けるようになって別棟に移ったのなら夜中にドアをノックされる事もない。
自分の私財であれば何に使ったところで文句を言われる事もなく、週に3、4日捕まえられる友人がいればラジェットは飲み歩くようになった。
半年、1年と経つと飲み仲間の友人から「お前大丈夫か?」と言われるようになった。
「何が?」
「いや、何がって…お前の嫁さん。個別乗合駆動車協会の顧問するんだろう?」
個別乗合駆動車とは不特定多数の人と一緒に乗車をするのではなく、自分だけだったり知り合い2,3人と乗り合わせる駆動車である。
初乗り運賃で1km走った後は600mごとに料金が加算されていく。
乗合大型駆動車のように停留所で待たなくても家の前、店の前など指定した場所まで迎えに来てくれる便利な乗り物である。
「全然知らないけど」
「マジかよ…お前本当に3年で捨てられるんじゃないのか?あと1年もないだろう?」
「ハッ。僕が捨てられる?冗談じゃない。僕の方が捨てるんだよ。なんてったって僕は侯爵になるからな」
「だったらいいけどな。ま、頑張れよ」
友人達はラジェットからどんどん離れて行く。
そんなラジェットは何時しか1人寝の寂しさを紛らわせようと別棟に住むメアリーの元に通うようになっていた。
★~★
「イリスさん、これはどうします?」
「新しく風穴が見つかった件ね。温度の変化はどう?」
「温度自体は変わっていないんですが、微量の風が抜けることで植物には冷たく感じるのかも知れません。やはり他所に比べて生育状態が悪いようですね」
「16番坑道から17番坑道に移しましょう。風穴が人が通れないくらいでも虫は入って来るし衛生上も問題が出るわ」
「判りました。早速指示を出します」
「サイモンさん、指示を出すならアレ。使ってみて」
アレと言うのはヘリオグラフ回光通信機。
各地に設置して光の明滅で発光通信をする設備である。
レント侯爵領まで18カ所の中継地を設け、反射の光を付けたり隠したりする後のモールス信号のようなもの。
光源が太陽なので夜、雨天や曇りの日は使えないが昼間は15分程度でレント侯爵領に指示を送ったり、報告を受けたりできる。
わざわざ行かなくて良いと言うのはとても便利。おかげで他の作業が滞らずに済む。
「トントコトンツートン♪」
「こら!アリス。誰かが間違って信号送ると大変よ」
「イリスさん、間違いませんって。トントコ言わせとけばいいんです」
「もう。サイモンさんもそんな事を!」
アリスはサイモンに近寄ってそっと耳打ちする。
「好きですって信号送ってるぅ?」
「お前なっ!!」
「きゃー!核心突かれてキレちゃだめー(ごつん) 痛いっ!」
アリスに軽めのゲンコツを落としたのはミモザ。
軽めなのだが、グーに握った時に微妙~に中指が浮いているのでピンポイントに痛いのだ。
「ちゃんと仕事をしなさい。本宅に戻すわよ」
「します!ごめんなさーい!」
「語尾を伸ばさない!イリス様、ペック伯爵家から書類が届いております」
「うっわぁ。忘れてた~来月実家の決算月だわ!」
封書を開けて書類を取り出すとソフィアが纏めてくれてはいるが、父のオーディンと兄のブレイドルでは役に立たないのだろう。
「やっぱり経理を雇うしかないかしら。でもあと1年くらいだし」
イリスは乗合駆動車の発案者だと言う事で幾つも噴き出した●●協会の相談役や顧問、名誉会員などややこしい役目を任されている。
どれもレント侯爵家と縁が切れるまでと期限を切っているものの式典の挨拶やらに出向かねばならない事も多くて折角ヘリオグラフ回光通信機で時間を作っても他の事に取られてしまっている現状もあった。
「本当に離縁したら御実家に戻られるんですか?」
「そりゃそうよ。王都にいる意味が無いもの」
「直ぐに王都に住む男性と再婚すればいいじゃないですか」
「無理無理。結婚ってね1人じゃ出来ないのよ?」
「相手なら要るのに」
アリスの言葉にイリス以外がサイモンを見る。ここまで言われ続けていると気が付きそうなものだがイリスは気が付いているがちょっと違う方向に気が付いていた。
「あのね。そういうことを言うと職場内虐めになるのよ?サイモンさんもいい加減迷惑よね。ね?」
サイモンは本人から「ね?」と同意を求められても答えることが出来なかった。
あんなに可愛がっていたライモンドをあっさりと廃籍した。冗談かと思い翌日王宮で確かめてみてさらに驚く事実を知った。
ライモンドが廃籍される以前にラッセルも廃籍されていて、レント侯爵家の「子」の欄に名前があるのはラジェットだけになっていたのだ。
これが心躍らずしてなんとしようか。
もう弟たちに婚姻歴で後れを取ったと感じる事もない。こうなると何をしても許される気がする。それもそうだ。ラジェットまで廃籍してしまえば後継がいなくなるのだ。
――そうか。だから父上は当主の威厳を見せるためにライモンドを廃籍する場を僕に見せたんだ――
そんな経験は滅多に出来るものではない。貴重な経験をさせてもらった特別感にもラジェットは酔いしれた。
自分しかいないとなればイリスに構っている暇はない。
勿論メアリーももう気にもかけたいとも思わず、メアリーが産んだ子は言わずもがな。
――わざわざ他人の子を育てたいなんて奇特なやつはいないよ――
それからのラジェットは怠け放題。
レント侯爵もラジェットに何かをしろ、こうしたらどうだと口を出してくることもない。言われないのならわざわざ火中の栗を拾う事もないので「する事はないか」と問う必要もない。
メアリーが産後3か月でかつてイリスが数日だけ使用した別棟に住まいを移したと聞いて「やっと寝られる」としか思わなかった。
産褥中は流石にメアリーも立ち上がる事が辛かったらしくラジェットも部屋に来る事もなかったが、動けるようになって別棟に移ったのなら夜中にドアをノックされる事もない。
自分の私財であれば何に使ったところで文句を言われる事もなく、週に3、4日捕まえられる友人がいればラジェットは飲み歩くようになった。
半年、1年と経つと飲み仲間の友人から「お前大丈夫か?」と言われるようになった。
「何が?」
「いや、何がって…お前の嫁さん。個別乗合駆動車協会の顧問するんだろう?」
個別乗合駆動車とは不特定多数の人と一緒に乗車をするのではなく、自分だけだったり知り合い2,3人と乗り合わせる駆動車である。
初乗り運賃で1km走った後は600mごとに料金が加算されていく。
乗合大型駆動車のように停留所で待たなくても家の前、店の前など指定した場所まで迎えに来てくれる便利な乗り物である。
「全然知らないけど」
「マジかよ…お前本当に3年で捨てられるんじゃないのか?あと1年もないだろう?」
「ハッ。僕が捨てられる?冗談じゃない。僕の方が捨てるんだよ。なんてったって僕は侯爵になるからな」
「だったらいいけどな。ま、頑張れよ」
友人達はラジェットからどんどん離れて行く。
そんなラジェットは何時しか1人寝の寂しさを紛らわせようと別棟に住むメアリーの元に通うようになっていた。
★~★
「イリスさん、これはどうします?」
「新しく風穴が見つかった件ね。温度の変化はどう?」
「温度自体は変わっていないんですが、微量の風が抜けることで植物には冷たく感じるのかも知れません。やはり他所に比べて生育状態が悪いようですね」
「16番坑道から17番坑道に移しましょう。風穴が人が通れないくらいでも虫は入って来るし衛生上も問題が出るわ」
「判りました。早速指示を出します」
「サイモンさん、指示を出すならアレ。使ってみて」
アレと言うのはヘリオグラフ回光通信機。
各地に設置して光の明滅で発光通信をする設備である。
レント侯爵領まで18カ所の中継地を設け、反射の光を付けたり隠したりする後のモールス信号のようなもの。
光源が太陽なので夜、雨天や曇りの日は使えないが昼間は15分程度でレント侯爵領に指示を送ったり、報告を受けたりできる。
わざわざ行かなくて良いと言うのはとても便利。おかげで他の作業が滞らずに済む。
「トントコトンツートン♪」
「こら!アリス。誰かが間違って信号送ると大変よ」
「イリスさん、間違いませんって。トントコ言わせとけばいいんです」
「もう。サイモンさんもそんな事を!」
アリスはサイモンに近寄ってそっと耳打ちする。
「好きですって信号送ってるぅ?」
「お前なっ!!」
「きゃー!核心突かれてキレちゃだめー(ごつん) 痛いっ!」
アリスに軽めのゲンコツを落としたのはミモザ。
軽めなのだが、グーに握った時に微妙~に中指が浮いているのでピンポイントに痛いのだ。
「ちゃんと仕事をしなさい。本宅に戻すわよ」
「します!ごめんなさーい!」
「語尾を伸ばさない!イリス様、ペック伯爵家から書類が届いております」
「うっわぁ。忘れてた~来月実家の決算月だわ!」
封書を開けて書類を取り出すとソフィアが纏めてくれてはいるが、父のオーディンと兄のブレイドルでは役に立たないのだろう。
「やっぱり経理を雇うしかないかしら。でもあと1年くらいだし」
イリスは乗合駆動車の発案者だと言う事で幾つも噴き出した●●協会の相談役や顧問、名誉会員などややこしい役目を任されている。
どれもレント侯爵家と縁が切れるまでと期限を切っているものの式典の挨拶やらに出向かねばならない事も多くて折角ヘリオグラフ回光通信機で時間を作っても他の事に取られてしまっている現状もあった。
「本当に離縁したら御実家に戻られるんですか?」
「そりゃそうよ。王都にいる意味が無いもの」
「直ぐに王都に住む男性と再婚すればいいじゃないですか」
「無理無理。結婚ってね1人じゃ出来ないのよ?」
「相手なら要るのに」
アリスの言葉にイリス以外がサイモンを見る。ここまで言われ続けていると気が付きそうなものだがイリスは気が付いているがちょっと違う方向に気が付いていた。
「あのね。そういうことを言うと職場内虐めになるのよ?サイモンさんもいい加減迷惑よね。ね?」
サイモンは本人から「ね?」と同意を求められても答えることが出来なかった。
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