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VOL:12   ティタニア、手紙に萎える

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アルマンドが義両親の元に強制的に引き取られて約2か月。
非常に密度の高い、良質で有意義な時間を過ごしていたティタニア。

明けない夜が無いように、良い事ばかりも続かない。

その日の午後は最悪だった。
厚みを持たない手紙がつかの間の幸せをなかった物にしてしまったのだ。

「奥様、大旦那様からお手紙で御座います」
「えぇーっ…読みたくないんだけど・・・不幸の手紙にしか見えないの、私だけ?」
「奥様、私にはブラックメー恐喝の手紙ルと大差なく見えます」

やはりメイリーンは出来る侍女。心のままを口にする。

開封せずに捨ててしまいたいが、事業に関する事が書かれているかも知れずゴミ箱に直行させる事も出来ない。おおよその見当はついているもののこれほどまでに開封をしたくないと体が拒否反応を示す手紙も珍しい。

十中八九アルマンドについてだろうなと思ったが、開いてみれば・・・。

予想通りだった。


「最悪~。来月無罪放免らしいわ」
「来月ですか。決算なので丁度と言えば丁度ですね。決済印も必要ですし」
「馬鹿親は嫁のすね齧りですからね。どうせ旅行に行くから面倒見れないんでしょう。ここはペットホテルじゃないんですけどね」
「メイリーン。奥様の前です。言葉を慎みなさい」

間違いない。メイリーンはアルマンドの事を「人」として認識してはいない侍女である。

しかし、手紙は1通だけではなくもう1通あった。

「げぇぇ・・・これ王族の誰かの蝋封よね・・・今日って13日の金曜日だったかしら」
「ジェイソン君知ってるんですか?実はジェイソン君チェーンソーは使ってないんですよ」
「そうなの?!」
「レザーフェイスと混同しちゃう人が多いんですよ」
「メイリーン・・・詳しいのね。その系統が好きなの?」
「いいえ?俳優が推しなだけです。痛っ!なにするんですボムスさんっ」

やはりメイリーンは素直なのだが、スラッシャー劇に出てくる俳優が推しらしい。
高齢の執事ボムスはついメイリーンの頬を軽く抓ってしまった。

「奥様に変な情報を伝えるのは許しません」
「変じゃないですよ!もう!失礼ね」


じゃれるボムスとメイリーンをよそにティタニアは封を切り、中の便せんを取り出した。

「うーん…3日後以降で予定が空いている日ってあったかしら」
「3日後から後ですか・・・」

手紙の内容は今度は王太子夫妻がティタニアと面会をしたいので時間をくれという先触れだった。こちらもおおよその内容は解る。

先日、帝国に精製水で風邪薬など一般に流通させるために特許の使用を許可したのだが、国としても事業を起こしたいのだが、その際のロイヤリティの減額を求める事と、この国への永住を確約してほしいのだろう。

「精製水ですかね」
「そうだと思うけど。若しくはカスティール石鹸かしら・・・うーん王太子殿下でしょう?体温計の製造を発注したいのかも知れないわね。だけど水銀体温計はあまり作りたくないのよね」
「正確なんですがね。割れると危ないですし。そう言えばカスティール石鹸は医療院から発注がまた来てました。メイリーン。発注書を取って来てくれないか」


色々と品物を作っては特許を取り、売りまくるティタニア。
結婚して半年はもう過ぎたが、おそらくは王族を抜き国内1位、単独の爆走状態の大富豪であるのはほぼ間違いなかった。

カスティール石鹸はオリーブオイル100%の固形石鹸で人間が髪や体を洗うのもよし、野菜の洗浄にも使えるし衣類の洗濯や食器を洗ったり、床や壁などの掃除にも使える万能石鹸である。

肌にも優しいと王太子妃が湯殿で使用をしてくれたおかげで国内の貴族の夫人や令嬢にあっという間に広まり、商人も諸外国に売り込みをしたおかげで食用オイルだけではだぶついていて、オリーブでは食べていけないと離農する者が多かったが歯止めがかかった。

オリーブは気候によって育たないが世界屈指の産地である隣国のオリーブの農園を救ってくれたと隣国の王室から感謝状も届いたばかりである。

ティタニアは王太子夫妻の訪問を問う手紙をヒラヒラとさせて溜息を吐いた。

金はあっても困るものではないが、儲けようと思って始めたのではなく「あれば便利」だと思って色々と手広くやっただけ。その結果として各国の王族などから目を付けられれば自国の王家もじっとしてはいられないのだろう。
この先、ティタニアが住まう場所はティタニアがいるだけで税収が大きく変わる。

移住などされてしまったり、ティタニアが会頭を務める商会の拠点を他国にされてはかなわない。そんな思惑が手紙からも読み取れるのである。

そうなってしまえば少なくとも30年間はアルマンドとの離縁は認めてもらえなくなる。届けは出せるのだが受理をされなくなるという事だ。

しかし、他国に移住をする事はないと確約をすれば高位貴族の婚姻の在り方を根本から変える法案は通してくれるだろう。そうなれば離縁は秒読み。

王家にとっても痛し痒しだが、ティタニアにとっても痛し痒しだ。

ティタニアは出来るだけ早く実家に害が及ばないように離縁はしたいが、この国に留まろうとも考えていない。色々と流通をさせるのに地理的に一番有利なのはやはり帝国で四方を山に囲まれたこの国では流通をするだけでコストが上乗せになり、安く販売する事が出来ないのである。

ティタニアが願うのはどの国で買っても市場価格が同じであること。

実家に害があるからこの貴族には売らないと離縁に際し悪態を吐く貴族への販売を差し止める事も出来るが、そうした時に困るのは結果として庶民なのでその手を使いたくはない。

その為に生産する工場を各国に建設する計画はしているけれど、自分が自由に動けないのはやり難くて仕方がない。かと言って亡命のような事をすれば亡命されなかった国で商品がどう扱われるかは未知数。

「奥様、こちらはカスティール石鹸の発注書です。それから面会の時間ですが直近なら4日後の午前10時から11時半までは何とかなりそうです」

「そう。判ったわ。その時間で返事をしてくれるかしら。勿論来て頂く事で確保できる時間だから王宮に出向くのであれば面会時間は10分ほどになると伝えて」

「畏まりました」

品物はティタニアにとって申し分なく良い結果を齎してくれるが、人との付き合いに萎えてしまったティタニアだった。


★~★
次は14時10分でぇぇース\(^0^)/オウジサマバチコーイ
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