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第15話 敵に回しちゃいけない人
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クラリッサとは別の部屋に先ず連れていかれたザカライア。
「あ~やっちまった。不味いよな。これ絶対不味いよな」
今までに感じた事のない罪悪感に包まれてしまった。
うっかりと口走った言葉。オシャベリーナとも言われるカローザ公爵夫人に知られれば異母兄の国王の耳にあの出来事が伝えられるまでは秒単位。
明日の朝には今夜の夜会に出席をしていない末端の貴族も知る事になるだろう。
ガチャリと扉が開き、部屋に入って来たのは満面の笑みの異母兄、国王と王妃。そして3家ある公爵家の当主夫妻。ぞろぞろと全員が顔を揃えてしまった。
――くそっ!今日が生誕を祝う夜会で無ければ揃わないのに!――
ザカライアは痛恨のミスと悔やむが国王は目に涙さえ浮かべながらザカライアの手を握って来た。
「良かった・・・なんだ。お前はちゃんと自分で選んだ女性がいるんじゃないか」
「そうじゃ――」
「判っている。私が何度も何度も相手はというから言い出せなかったんだな」
「そうじゃ――」
「嬉しいよ。今日という日は生きて来て最良の日だ。こんな嬉しい事はない」
――俺の話を聞け!!――
だが、ザカライアには肯定の返事しか許されない空気が漂う。
3家の公爵夫妻も「良かった良かった」「これでもう何も憂いはない」「立太子の報告のほかにもう1つ慶事の報告を聞けるなんて」と、夫人は目頭にハンカチをあてて涙を吸わせているし、公爵は頬を紅潮させている。
――だめだ・・・逃げられない――
「第1王子の立太子を発表した後、ザカライアの婚約も発表しよう」
「あ、兄上っ!早すぎる!」
「何を言ってる。遅いくらいだ。もう彼女の事をお前の連れだと知った者もいる。一刻も早く公表すれば彼女だって安心するだろう」
「そうですよ。この日をどれだけ皆が待ちわびたことか。これで安心して戴冠の日を待てるというものです」
「左様ですな。広く諸外国にも通達をせねばなりません」
「確か直轄領をザカライア殿下に。でしたな。手続きを急ぎましょう」
「戴冠式と殿下の婚姻の儀、忙しくなりそうですな」
「早速御紋となる花の選定もしませんと。どんな方ですの?」
「とっても凛々しい方でしたわ。暴漢にも屈しない強靭なお心をお持ちでしたの。殿下も格好良かったですわ。 ”待たせてすまない” っとそれはそれは・・・今、思い出しても…若い方の言葉でいうなら胸アツで御座いますわ」
「まぁ、ではザカライア殿下ともお似合いでは御座いませんか」
――そんなところから見てたんだ?!――
「そうですの。その後、彼女を殿下が抱きしめ、見つめ合う2人。まるで1枚の絵画でしたわ」
――???そんな事したっけ??――
「彼女も殿下をみて張り詰めた緊張の糸が解けたので御座いましょう。殿下の胸にこう…あぁ若いって素晴らしいですわ」
――してねぇし!そんなことしてねぇから!――
恐るべし野次馬魂。カローザ公爵夫人は既に噂の根幹となる筋書きを完成させているようで、まるで本当にそうであったかのように国王達に語って聞かせる。
うんうんと頷いていた国王だが、ザカライアはとんでもない事に気が付いた。
勝手に決められて行ってしまう。勿論ザカライアの失言が発端となっているのだがザカライアは「妻」となる女性の名前を知らなかった。
――あ、これ使えるかも??――
咄嗟に「お一人様」と大勢の前で言われた彼女を傷つけたなく無くて言っちゃった!と告白しようとした時、女性の情報収集力の凄さを見せつけられた。
「殿下のお相手はモルス伯爵家のクラリッサ嬢で御座いますわ。陛下、ご安心くださいませ。少し前まで婚約者が居りましたが現在はその婚約も御座いません。長兄は現在隣国に留学中、次兄は第1騎士団で次期副長とも言われる剣豪。モルス家には借入金も御座いません。経営スタイルは薄利多売の利益還元。派閥は中立派ですし何の問題も御座いませんわ」
――すげぇな…もうそこまで調べ上げてるのか――
借金がないのは本当だが、薄利多売の利益還元は誇大表現だ。尤も「泣かず飛ばすででも支払いは滞りなく行う」って事を着色すればそんな言い方も出来るのだと思えば・・・。
――絶対に公爵御三家の夫人を敵に回しちゃいけないな――
そう思ってしまうのだった。
「よし、では集まった皆をこれ以上待たせることは出来ない。立太子を発表した後はザカライア。お前の婚約を発表する。合図をしたら2人で颯爽と登場してくれ!」
「あ、兄上っ!!」
すくっと立ち上がった面々にザカライアは「待って!」と言おうとしたが時刻に正確な従者は「お時間です」と告げる。ザカライアに後が無くなった。
――もう俺に出来ることは1つしかない――
養子となった子爵家でも国王の乳母を務めた養母に何度も言われた。
【言葉には責任を持ちなさい。言葉は言霊。言葉は良くも悪くも人の心に作用するのです】
「はぁー」長い溜息を吐き、壁に手を当てて賢者の時間を少し過ごしてザカライアはクラリッサの待つ貴賓室に向かった。
――先ずは謝ろう。その後は・・・出来る限りの事をしよう――
女性が嫌いだとか言ってる場合ではなくなった。
その種を蒔いたのは間違いなくザカライア自身でもある。
どのような謝罪をするか。考えた挙句ザカライアは扉を開けた瞬間に部屋の中に滑り込み、東洋で最上級の謝罪の意を示す土下座を華麗にキメた。
「あ~やっちまった。不味いよな。これ絶対不味いよな」
今までに感じた事のない罪悪感に包まれてしまった。
うっかりと口走った言葉。オシャベリーナとも言われるカローザ公爵夫人に知られれば異母兄の国王の耳にあの出来事が伝えられるまでは秒単位。
明日の朝には今夜の夜会に出席をしていない末端の貴族も知る事になるだろう。
ガチャリと扉が開き、部屋に入って来たのは満面の笑みの異母兄、国王と王妃。そして3家ある公爵家の当主夫妻。ぞろぞろと全員が顔を揃えてしまった。
――くそっ!今日が生誕を祝う夜会で無ければ揃わないのに!――
ザカライアは痛恨のミスと悔やむが国王は目に涙さえ浮かべながらザカライアの手を握って来た。
「良かった・・・なんだ。お前はちゃんと自分で選んだ女性がいるんじゃないか」
「そうじゃ――」
「判っている。私が何度も何度も相手はというから言い出せなかったんだな」
「そうじゃ――」
「嬉しいよ。今日という日は生きて来て最良の日だ。こんな嬉しい事はない」
――俺の話を聞け!!――
だが、ザカライアには肯定の返事しか許されない空気が漂う。
3家の公爵夫妻も「良かった良かった」「これでもう何も憂いはない」「立太子の報告のほかにもう1つ慶事の報告を聞けるなんて」と、夫人は目頭にハンカチをあてて涙を吸わせているし、公爵は頬を紅潮させている。
――だめだ・・・逃げられない――
「第1王子の立太子を発表した後、ザカライアの婚約も発表しよう」
「あ、兄上っ!早すぎる!」
「何を言ってる。遅いくらいだ。もう彼女の事をお前の連れだと知った者もいる。一刻も早く公表すれば彼女だって安心するだろう」
「そうですよ。この日をどれだけ皆が待ちわびたことか。これで安心して戴冠の日を待てるというものです」
「左様ですな。広く諸外国にも通達をせねばなりません」
「確か直轄領をザカライア殿下に。でしたな。手続きを急ぎましょう」
「戴冠式と殿下の婚姻の儀、忙しくなりそうですな」
「早速御紋となる花の選定もしませんと。どんな方ですの?」
「とっても凛々しい方でしたわ。暴漢にも屈しない強靭なお心をお持ちでしたの。殿下も格好良かったですわ。 ”待たせてすまない” っとそれはそれは・・・今、思い出しても…若い方の言葉でいうなら胸アツで御座いますわ」
「まぁ、ではザカライア殿下ともお似合いでは御座いませんか」
――そんなところから見てたんだ?!――
「そうですの。その後、彼女を殿下が抱きしめ、見つめ合う2人。まるで1枚の絵画でしたわ」
――???そんな事したっけ??――
「彼女も殿下をみて張り詰めた緊張の糸が解けたので御座いましょう。殿下の胸にこう…あぁ若いって素晴らしいですわ」
――してねぇし!そんなことしてねぇから!――
恐るべし野次馬魂。カローザ公爵夫人は既に噂の根幹となる筋書きを完成させているようで、まるで本当にそうであったかのように国王達に語って聞かせる。
うんうんと頷いていた国王だが、ザカライアはとんでもない事に気が付いた。
勝手に決められて行ってしまう。勿論ザカライアの失言が発端となっているのだがザカライアは「妻」となる女性の名前を知らなかった。
――あ、これ使えるかも??――
咄嗟に「お一人様」と大勢の前で言われた彼女を傷つけたなく無くて言っちゃった!と告白しようとした時、女性の情報収集力の凄さを見せつけられた。
「殿下のお相手はモルス伯爵家のクラリッサ嬢で御座いますわ。陛下、ご安心くださいませ。少し前まで婚約者が居りましたが現在はその婚約も御座いません。長兄は現在隣国に留学中、次兄は第1騎士団で次期副長とも言われる剣豪。モルス家には借入金も御座いません。経営スタイルは薄利多売の利益還元。派閥は中立派ですし何の問題も御座いませんわ」
――すげぇな…もうそこまで調べ上げてるのか――
借金がないのは本当だが、薄利多売の利益還元は誇大表現だ。尤も「泣かず飛ばすででも支払いは滞りなく行う」って事を着色すればそんな言い方も出来るのだと思えば・・・。
――絶対に公爵御三家の夫人を敵に回しちゃいけないな――
そう思ってしまうのだった。
「よし、では集まった皆をこれ以上待たせることは出来ない。立太子を発表した後はザカライア。お前の婚約を発表する。合図をしたら2人で颯爽と登場してくれ!」
「あ、兄上っ!!」
すくっと立ち上がった面々にザカライアは「待って!」と言おうとしたが時刻に正確な従者は「お時間です」と告げる。ザカライアに後が無くなった。
――もう俺に出来ることは1つしかない――
養子となった子爵家でも国王の乳母を務めた養母に何度も言われた。
【言葉には責任を持ちなさい。言葉は言霊。言葉は良くも悪くも人の心に作用するのです】
「はぁー」長い溜息を吐き、壁に手を当てて賢者の時間を少し過ごしてザカライアはクラリッサの待つ貴賓室に向かった。
――先ずは謝ろう。その後は・・・出来る限りの事をしよう――
女性が嫌いだとか言ってる場合ではなくなった。
その種を蒔いたのは間違いなくザカライア自身でもある。
どのような謝罪をするか。考えた挙句ザカライアは扉を開けた瞬間に部屋の中に滑り込み、東洋で最上級の謝罪の意を示す土下座を華麗にキメた。
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