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第06話   これからどうしよう

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日を改めてオーストン子爵がトレンチ侯爵家を訪れた。

賢いのか、それとも馬鹿なのか。全員が揃っている場で不貞を自ら明かしたロミオスはあの日から屋敷の中にある過去に間者を捕縛した時に憲兵に引き渡すまで収監していた座敷牢に閉じ込められた。

座敷牢と言っても華美な家具などがあるわけではなく、何もない板の間に毛布が1枚。食事はパンに切れ目をいれて肉と野菜を挟んだものだけ。

水も食事の時に小さな窓から紙製のコップに2杯まで。
身に着ける衣類も下着のみでこの季節でなかったら真夜中に凍死したかも知れないが、大人しく過ごしているという。

「本当に申し訳なかった。これは慰謝料の一部だが受け取って欲しい。残りは屋敷が売れたら引き渡し時に貰う事になっているが、金融商会を挟むのでトレンチ侯爵家に入金になるようにしている」

慰謝料を支払うだけでなくオーストン子爵家は結婚式のキャンセルや参列してくれる客への詫び状とそれに添える品、中には宿屋などを既に予約していた者もいるし、隣国に至ってはわざわざ時間をやりくりしての参列だった国賓級の人物もいる事から領地も全て手放す事になるだろう。


爵位が2つ違うだけでなくトレンチ家は侯爵家。
息子の不手際の尻ぬぐいは大きな代償を支払う事となった。


「子息はどうされる?」
「愚息は今日付けで排籍とします。伺う前に貴族院にも届けを出してきましたので帰りには受領書が頂けるでしょう」
「だが、もう1人ご子息がおられただろう?」
「えぇ。私の実弟が田舎で細々と商売をしておりますので、そこに奉公に行くことになりました」
「オーストン殿はどうされるのだ」
「妻の実家に暫くは身を寄せます。事業の引継ぎもありますしそれが終われば…実弟の元に行き離れをあてがってくれるそうですので」


伯爵家に陞爵しょうしゃくどころか、全てを手放す事になるオーストン子爵家。
憐れに思い慰謝料を減額したり、事業があるからを猶予を与える事は一見よさそうに見えてオーストン子爵の矜持を踏みにじる事にもなるため、トレンチ侯爵も頷くしかなかった。

「どこで育て方を間違ったのか。いやはや‥情けない限りです」
「子育ては難しい。教本のように育ってくれればそれほど楽な事はない」
「そう言って頂けると。はぁー…残った息子と共にまた1からやり直しです」

肩を落とし帰っていくオーストン子爵。
ロミオスの失態はロミオスだけでなく、家族も巻き込んでしまった。
トレンチ侯爵はロミオスが目を覚ましオーストン子爵のように誠実であれと願うしかなかった。


★~★

「なんで?どうして?!婚約破棄だけじゃなくどうして廃籍なんだ?!」
「残っていいよ?でもハッキリ言って放逐された方が楽だと思うよ」
「どう言う意味だ?」

ロミオスの兄、ベンヴォリオは呆れ気味にロミオスに告げた。

「何もなくなるからさ。この家も土地も領地も。それだけじゃない。11あった事業も全部他家に売った。足りない分は借金だよ。全部お前が蒔いた種だ」
「全部?どれだけ慰謝料払うつもりなんだよ!」
「馬鹿なの?ねぇ。馬鹿なの?相手は侯爵家だよ?しかもこの国の王家、隣国の王家、重鎮…考えたことあった? あぁ、ごめん。なかったからこんな事になったんだよね」
「だとしてもだ!この家と土地だけでどれくら――」
「足らないんだよ!僕だってこれから叔父さんのところで奉公だ。お前はいいよね。好きな女と子供まで。なんて輝かしい未来だろう。僕は‥‥婚約も白紙にされたってのにさ!!」

ロミオスはここまで大ごとになるなんて考えもしていなかった。

ただ、結婚してから隠し子が居ましたとバレるより、生まれる前に知っておいた方が良いと思ったし、色々と考えてマリアナが楽になると思っただけだ。

――全部…素直に話をしたのにどうしてこうなってしまったんだ――


ベンヴォリオが目に涙を溜めながら部屋を出ていくと入れ違いに父親のオーストン子爵と従者が入って来た。

無言で手渡されたのは貴族院でロミオスの廃籍が完了したという受領書だった。

「何処にでも好きな所に行くと良い。お前も父親になるんだ。しっかりな」
「待ってくれよ。父上。どうかしてる!こんなっ廃籍なんてどうかしてるよ」
「今だに事の大きさが解らないお前の方がどうかしている。だがそれも夜露を凌ぐ屋根のある場で眠る事もないだろうから寒さでその能天気な頭も芯から冷えるだろう。お前にはただ頭を冷やせと言っても判らんだろうからな」


従者に両側から腕を掴まれ、ロミオスの足は宙に浮いた。暴れようが藻掻こうが従者は言葉を発する事なく前に進み、玄関を出ると門道へ、そして外門の外に体を放り投げられた。

ギギっとレールが錆びついた音をさせてガシャンと門が閉じるがロミオスはまだ悪い夢を見ているんじゃないかと現実を受け止められなかった。
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