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第05話   嫁に~こないかと大募集も撃沈

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トラフ伯爵領は国内でも領地の狭さで有名…かと思えば哀しいほどに無名。

そう、なんでもNO.1、ワースト1は有名。2番目はなんとか知っている人もいるくらい。

一番高い山はと聞かれてフゥジマウンティンは誰もが答えられる。
2番目と聞かれてノゥス岳は4割。しかし!!3番目になるとたった3mしかノゥス岳と高さは変わらないのに「奥ホダッカ岳」と答えられる人は1割に満たない。

湖でもそうだ。ビーワ湖は断トツ、ぶっちぎりな大きな湖だが、2番目のカシュミヶ浦になると4割。3番目はシャロマ湖と答える前にクシャーロ湖?いやいやフゥジマウンティン周辺の5湖のうちどれかだ!と迷われてしまうのだ。

トラフ伯爵領の領地の狭さは国内で第4位。もう地元民以外誰も知らないし、地元民も「微妙~」とどうせなら隣の領地に幾分わけてNO.1になってくれた方がまだ「一番小さな領地産」として農作物も売れそうな気がする。

だがこれでも切り売りをしたのだ。決して自慢ではない。

と、言うのも12年前。当主のケルマデックが13歳の時である。父親が高利回りをうたったポンジ・スキ投資詐欺ームに引っ掛かってしまった。

王都にあった屋敷も土地ごと抵当にいれて金を借りたものだから、当然追い出される。4つあった領地も3つを担保に入れて金を借りていたものだから、こちらも没収。

残った領地は猫の額ほどの広さしかないのに領界となっている小麦畑も王都から領地への引っ越し費用の為に切り売りして、さらに狭い領地になった。

ちなみに一番狭いのはビオトーヴィ子爵領。領民の数がここ数年で倍増したが領地の広さは変わっていない。

貧乏ゆえに薬も買えず、10年前に先代は流行り病で天に召されてしまった。


「あぁ…トラフ領でもムキャンが採れればなぁ」


ムキャン。
エグ味と渋み、苦みしかなく皮も実も食べられない柑橘類。ただ掃除には最適でムキャンに落とせない物はない!と最近では掃除用品としてではなく、ぽわキャラのムーキャンという着ぐるみ人形を作り、「意中のあの子をロックオン!」と本命を落とすためのゲン担ぎとしてもグッズを売り出している。

が、トラフ領には特にこれと言った農作物が取れる訳でもなく、取れたとしても収穫量は少ない。

トラフ領、そしてトラフ伯爵家の唯一の売り込みポイントは「借金がない」であるが、これも裏を返すと貸してくれる所がないので借金をしたくでも出来ないだけである。

まるで破産宣告後の満期明けを待つ元債務者のような心境になりそうだが、当主のケルマデックを筆頭に使用人、領民一丸となって今日もあくせくと汗を流して農作業。


「ご当主様にもお嫁さんがきたらなぁ」
「無理無理。教会くじを連番で3枚買ったら1等前後賞くらいの確率だよ」

25歳になるケルマデックだが、女っ気は全くない。
女性と話をした事がないわけではない。領民のご婦人方には「デックさん」と呼ばれて屋根の修理や壁に空いた穴、逃げたヤギの捜索に引っ張りだこだし、農作業の帰り道には体を90度に曲げてあるく元レディには「乗ってくかい?先着1名様まで無料だぜ」と背中を提供するナンパ師でもある。

農作業で忙しく王都への書類提出も執事が行う事もあるが、正装の衣装がないし招待状も届いた事がない。夜会に出る事もないため肝心な出会いがないのだ。

「奥様になってくれる方を募集はしてるんですけど応募がないんです」

執事は野良作業で頬に泥をつけ、首に回したタオルで汗を拭きながら愚痴る。

「出す場所が悪いんじゃないか?」
「そうだよ。何処に出したんだ?まさか王女様に出したとかじゃないだろうな」
「ち、違いますよヘロゥワークに出してますよ」
「それ…正社員とかバイトとかパートになるじゃねぇか」
「もう掴む藁もないんですよ。この際短期でも…」
「お貴族様のご令嬢は貧乏は嫌うからなぁ」

手を止めて、鍬の柄に手のひらを乗せ、その上に顎もIN。
領民たちと執事は離れた場所でトウモロコシを植えるための畝を手作業で作るケルマデックを見た。

美丈夫か?!と言われれば首を傾げる。
10人いれば良くて5番目、せいぜい6、7番目。パッとしない目鼻立ち。

高身長か?!と言えば平均の172cmを少し上回る176cm。

その辺の「そう言えば見た事あるかも?」というその他大勢に分類されるのがこの領地の主であり、トラフ伯爵家の当主ケルマデックなのだ。


「来月王都に行くので、もしかするとヘロゥワークに応募があるかも知れません」

<< ないない >>

お嫁さん募集の広告を王宮前の掲示板、裁判院の掲示板、町内会でOKが出た掲示板…etc。貼りまくって応募があったのは1件。

それが現在一応屋敷と呼ぶ小さな家屋で経理の仕事をしているプエールという執事。性別は男性。隣のケースにあった募集と間違って応募してしまいわざわざトラフ領まで面接に来てくれた。トリコ男爵家の6男で住む場所もないというので住み込みで雇っただけである。

「来月、王都に行くならラビットマークの本を買ってきてくれよ」

男性ならお楽しみ満載のラビットマークの本。
執事は代金を受け取り、「本屋にも寄らなきゃな」とまた鍬を振り始めたのだった。
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