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真実の愛が実る時
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宿の部屋に戻った子爵は茫然としていた。
「お父様、どうしたの?」
シェリーの声に我に返ると、バッと身を翻しトランクを開けた。一張羅のスーツを取り出しパンパンと埃をはたくとしわを伸ばす。
よくよく考えてみれば立会人に王太子、その名代にブリュンヘルト公爵家。
ペルデロ侯爵家は確かに傾いて風前の灯火かも知れないがとんでもない縁ではないか!
貧乏子爵家でジェイス伯爵家に支払った慰謝料で領地も家もなくなったけれど、大物が後ろにいる婚約、そして結婚なのだ。
「俺は運が向いてきたのかも知れない!」
それまでシェリーの事を可愛いと言うものは自分くらいしかいなかった。
血を分けた娘という贔屓目を除いたとしても厚い上唇。鼻の天辺よりも飛び出している頬骨、五角形の形をした輪郭。鼻の孔が正面からハッキリ見えるのはこの上ないチャームポイント。
自分によく似たシェリーを思わず抱きしめてしまった!
「ど、どうしたの!?お父様っ」
「シェリー!お前は侯爵家に嫁げるんだ。ごめんよ。疑ったりして」
「お父様っ!本当?やはりわたくしカイン様のっ?!」
「あぁそうだ。逃げた母さんの事なんか忘れろ。あんな女途中でオオカミにでも食われてるだろう。金の事は心配しなくていい。父さんが何とでもしてやるからな!」
「嬉しいッ!」
「そうと決まれば‥‥」
子爵は元々シェリーのトランクの中身を売った金を取り出し、シェリーに握らせた。
「何?何?こんなに沢山のお金っ」
「可愛い服をこれで買えるだけ買っておいで。お前なら何でも似合うと思うがな」
「本当!嬉しいっ」
「明日、早速に侯爵家で一緒に住めないか話をしてみよう。だから飛び切り可愛い服を買っておいで」
時間はもう19時を過ぎようとしている。
シェリーは現金を握りしめて商店街へ走り出した。
娘の背を見送り、子爵はグっと脇腹に肘を当てるようにガッツポーズをする。
上手くいけば、シェリーは明日からあの豪華な侯爵家で生活を始めるのだ。
自分は一緒にいれば気が引けるだろうから宿代にと残しておいた金で叔母の元に行こう。
荷物がないなら十分手持ちで到着出来るはずだ。
父娘で離れて暮らす事になるが、侯爵家なんだから傾いていたところで嫁なんだ。学園は出してくれるだろう。そう思うと気が楽になった。
しかし子爵は肝心な事を忘れている。
姻族になるという事は、もれなく子爵家の親族も6親等以内は巻き込まれる。
自分が行こうとしている叔母も例外ではない事に。
街に出たシェリーはドレスにするか、ワンピースにするか。またどの店にするか行ったり来たりして迷っていた。時計台をみればもう20時半。早くしなくては閉店になってしまう。
気持ちだけが焦り、この店にしよう!と入り口に向かおうとした時呼び止められた。
「シェリー!」
振り返ると、花束をもったカインだった。
カインは母の引き出しからくすねてきた現金で機嫌を直してもらうためにティフェルに花束を買った。
そしてジェイス伯爵家に向かう途中でシェリーを見かけたのだ。
「カイっ!もう!今日学園でずっと待ってたんだからね」
「あぁ、ごめんよ、ちょっと色々あってね」
まさか屋敷が解体されてしまったとは言えず、カインは咄嗟に誤魔化してしまった。
「まぁ!この花はわたくしに?」
「えっ‥‥いや…その―――うん、そうだよ。シェリーに似合うと思って」
「わぁ!嬉しい。この花大好きなの」
花束を胸に抱いたシェリーはカインの頬にキスをした。
――ん?なんだこの臭い…どこかに魚のアラでも落ちてるのか?――
花束の柔らかないい香りの中に、似つかわしくない臭い。
しかし、さりげなく足元を見ても何も落ちていない。何かを踏んでしまったかと靴の裏を見ても何も踏んでいなかった。きっと商店街だから色んな匂いがするのだろうとカインはシェリーと腕を組んだ。
「ねぇカイ」
「どうしたんだい?」
「わたくし、カイン様と結婚したい。頑張っていい奥さんになるわ。だめ?」
「シェリー!ありがとう。嬉しいよ。あぁ…真実の愛って実るんだね。神様に感謝だ」
カインはシェリーの言葉にティフェルを迎えに行くのは止めようと思った。
ここで迷ってしまったらシェリーを泣かせてしまうと思ったのだ。
婚約はもう無くなったのだ。それは覆らないだろう。
だから借金の事だけは謝って許して貰おう。そうしなければシェリーと幸せな家庭が築けない。
ティフェルだって愛し合う者を借金という足枷を付けようなどと思わないだろう。
隣にいるシェリーの少しはにかんだ顔を見てカインも微笑んだ。
「あのね…こんな事…恥ずかしいんだけど‥」
「何でも言って。シェリーはもう俺の妻なんだから!」
「だったら‥‥わたくし…カイの赤ちゃんが欲しいっ」
「シェっシェリーッ!!いいのか?俺で」
「カイじゃないと嫌なの。カイがいいの…初めてはカイがいい!」
「初めても最後も俺のものだ!最高だシェリー」
シェリーは父親から貰った現金に気が大きくなっていたのかも知れない。
1晩で持たせてもらった25万が消えてしまうが、2人は高級宿に向かった。
そしてついに‥‥結ばれたのだった。
翌日。
昼になっても戻ってこないシェリーを心配して子爵は宿を出たり入ったりしていた。
時計を見ればもう13時。そろそろ迎えが来る頃だ。これ以上待っていては間に合わない。
しかしシェリーが戻る気配は全くなかった。
「仕方ない。1人で行くしかないか」
宿で呼んでもらった貸し切り馬車に荷物を載せて清算をしているとシェリーが帰ってきた。
先に公爵家に向かうように指示をする。
「何処に行ってたんだ」
「あ、ごめんなさい…学園のお友達の家に泊めてもらって」
「服はどうしたんだ?買ってないのか?」
まさか宿泊代に全部消えたとは言えず、シェリーは嘘を吐いた。
「あっ!いけない。お友達の家に忘れてきちゃった!」
「困った子だな。まぁ帰りに取りに回ればいいか。それより!臭ってるぞ。薬は飲んだのか?」
「それが…昨夜で全部飲んでしまって薬がないの。買って」
子爵は後悔をしてしまった。抗生物質の薬は無料なのだが口臭を誤魔化す薬は有料なのだ。
買ってしまうと今でさえ叔母のところまではギリギリ行けるかどうか。
――仕方ない。御者と交渉をするしかないか――
だが、今から薬を取りに行くと公爵家に14時という迎えとすれ違ってしまう。
「お待たせいたしました。参りましょうか」
まさにピッタリなタイミングで声を掛けられる。
子爵はシェリーと共に公爵家の馬車に乗り込んだ。
「うわぁ。凄い。椅子の上で跳ねる事が出来るわ。流石公爵家ね」
「侯爵家に嫁いでもこのクラスの馬車だろう。良かったな」
ガラガラと馬車はブリュンヘルト公爵家の門をくぐる。
そこには徒歩でだがペルデロ侯爵夫妻も顔を揃えていた。
満面の笑みを浮かべるのは王太子と共にやって来た第二王子プリスト。
シェリーは既視感のある顔に少し父親の影に隠れたが、にこやかに着席を進められるともうお姫様気分である。
「ありがとう」
思わずスンスンと何かを匂う音が耳に聞えるがシェリーも真似をしてスンスンと鼻を鳴らす。
「忙しいのに済まないね。当事者が1人いないんだが問題ないだろう」
その場にいない当事者とはカインの事だ。
カインとシェリーは明け方まで8回戦に及ぶ試合の後、泥のように眠り慌ててチェックアウトをしたのだ。
街中にある宿屋より遥かに遠い廃屋となった侯爵家までは走っても1時間はゆうにかかる。
出かける時間までには帰れなかったのだ。
王太子は書類を一枚取り出すとペルデロ侯爵とローゲ子爵に指をさして説明をする。
「ペルデロ侯爵家嫡男カイン。ローゲ子爵家が娘シェリー。この2人の婚姻で間違いないな」
「殿下、婚約ではなく婚姻ですか?」
「まもなくカインも学園を卒業だ。勿論シェリー嬢も卒業だろう?」
第二王子プリストは優しく目だけが笑ってない微笑を浮かべてシェリーを見る。
「あ、はい。そうです」
「なら問題ないね。これからは侯爵夫人としてペルデロ侯爵家をカインと盛り上げてくれ」
「はいっ頑張ります」
「良かったね。侯爵、侯爵夫人」
「えぇ。当家としてもローゲ子爵から嫁いでくれるなどと夢のようです」
「わたくしが立派な侯爵夫人と致しますわ。シェリーちゃん。頑張りましょうね」
あの侯爵夫妻は何処に行ったのだと子爵が唖然となる位侯爵夫妻はにこやかだった。
「じゃ、異論はないようだね。双方の父親がサインをくれるかな。今日のような吉日をブリュンヘルト公爵家だけが見るって言うのは酷だろう?だから王太子である私が承認をこの場でしようと思うんだ」
「と、言う事はこの場で両家は結ばれると?」
「そうだね。貴族も民も幸せでいてくれるのが一番の喜びだよ」
父同士が書面にサインをすると王太子と第二王子、ブリュンヘルト公爵夫妻が拍手をした。
ペルデロ侯爵夫妻も満面の笑みである。
信じられない事に、帰り際、子爵の手を握りペルデロ侯爵は殴った事を詫びて路銀の足しにと銀貨がパンパンになった袋を手渡してくれた。全てこれが銅貨だったとしても100万、銀貨なら1000万だ。
――傾いたと言ってたがやはり侯爵家は違うな――
子爵はシェリーに別れを告げると叔母のいる屋敷に馬車を走らせた。
ペルデロ侯爵夫妻もシェリーを貸し馬車に乗せると廃屋に馬車を走らせた。
2台の馬車が小さくなった頃、王太子は腹を抱えて笑い始めた。
「お父様、どうしたの?」
シェリーの声に我に返ると、バッと身を翻しトランクを開けた。一張羅のスーツを取り出しパンパンと埃をはたくとしわを伸ばす。
よくよく考えてみれば立会人に王太子、その名代にブリュンヘルト公爵家。
ペルデロ侯爵家は確かに傾いて風前の灯火かも知れないがとんでもない縁ではないか!
貧乏子爵家でジェイス伯爵家に支払った慰謝料で領地も家もなくなったけれど、大物が後ろにいる婚約、そして結婚なのだ。
「俺は運が向いてきたのかも知れない!」
それまでシェリーの事を可愛いと言うものは自分くらいしかいなかった。
血を分けた娘という贔屓目を除いたとしても厚い上唇。鼻の天辺よりも飛び出している頬骨、五角形の形をした輪郭。鼻の孔が正面からハッキリ見えるのはこの上ないチャームポイント。
自分によく似たシェリーを思わず抱きしめてしまった!
「ど、どうしたの!?お父様っ」
「シェリー!お前は侯爵家に嫁げるんだ。ごめんよ。疑ったりして」
「お父様っ!本当?やはりわたくしカイン様のっ?!」
「あぁそうだ。逃げた母さんの事なんか忘れろ。あんな女途中でオオカミにでも食われてるだろう。金の事は心配しなくていい。父さんが何とでもしてやるからな!」
「嬉しいッ!」
「そうと決まれば‥‥」
子爵は元々シェリーのトランクの中身を売った金を取り出し、シェリーに握らせた。
「何?何?こんなに沢山のお金っ」
「可愛い服をこれで買えるだけ買っておいで。お前なら何でも似合うと思うがな」
「本当!嬉しいっ」
「明日、早速に侯爵家で一緒に住めないか話をしてみよう。だから飛び切り可愛い服を買っておいで」
時間はもう19時を過ぎようとしている。
シェリーは現金を握りしめて商店街へ走り出した。
娘の背を見送り、子爵はグっと脇腹に肘を当てるようにガッツポーズをする。
上手くいけば、シェリーは明日からあの豪華な侯爵家で生活を始めるのだ。
自分は一緒にいれば気が引けるだろうから宿代にと残しておいた金で叔母の元に行こう。
荷物がないなら十分手持ちで到着出来るはずだ。
父娘で離れて暮らす事になるが、侯爵家なんだから傾いていたところで嫁なんだ。学園は出してくれるだろう。そう思うと気が楽になった。
しかし子爵は肝心な事を忘れている。
姻族になるという事は、もれなく子爵家の親族も6親等以内は巻き込まれる。
自分が行こうとしている叔母も例外ではない事に。
街に出たシェリーはドレスにするか、ワンピースにするか。またどの店にするか行ったり来たりして迷っていた。時計台をみればもう20時半。早くしなくては閉店になってしまう。
気持ちだけが焦り、この店にしよう!と入り口に向かおうとした時呼び止められた。
「シェリー!」
振り返ると、花束をもったカインだった。
カインは母の引き出しからくすねてきた現金で機嫌を直してもらうためにティフェルに花束を買った。
そしてジェイス伯爵家に向かう途中でシェリーを見かけたのだ。
「カイっ!もう!今日学園でずっと待ってたんだからね」
「あぁ、ごめんよ、ちょっと色々あってね」
まさか屋敷が解体されてしまったとは言えず、カインは咄嗟に誤魔化してしまった。
「まぁ!この花はわたくしに?」
「えっ‥‥いや…その―――うん、そうだよ。シェリーに似合うと思って」
「わぁ!嬉しい。この花大好きなの」
花束を胸に抱いたシェリーはカインの頬にキスをした。
――ん?なんだこの臭い…どこかに魚のアラでも落ちてるのか?――
花束の柔らかないい香りの中に、似つかわしくない臭い。
しかし、さりげなく足元を見ても何も落ちていない。何かを踏んでしまったかと靴の裏を見ても何も踏んでいなかった。きっと商店街だから色んな匂いがするのだろうとカインはシェリーと腕を組んだ。
「ねぇカイ」
「どうしたんだい?」
「わたくし、カイン様と結婚したい。頑張っていい奥さんになるわ。だめ?」
「シェリー!ありがとう。嬉しいよ。あぁ…真実の愛って実るんだね。神様に感謝だ」
カインはシェリーの言葉にティフェルを迎えに行くのは止めようと思った。
ここで迷ってしまったらシェリーを泣かせてしまうと思ったのだ。
婚約はもう無くなったのだ。それは覆らないだろう。
だから借金の事だけは謝って許して貰おう。そうしなければシェリーと幸せな家庭が築けない。
ティフェルだって愛し合う者を借金という足枷を付けようなどと思わないだろう。
隣にいるシェリーの少しはにかんだ顔を見てカインも微笑んだ。
「あのね…こんな事…恥ずかしいんだけど‥」
「何でも言って。シェリーはもう俺の妻なんだから!」
「だったら‥‥わたくし…カイの赤ちゃんが欲しいっ」
「シェっシェリーッ!!いいのか?俺で」
「カイじゃないと嫌なの。カイがいいの…初めてはカイがいい!」
「初めても最後も俺のものだ!最高だシェリー」
シェリーは父親から貰った現金に気が大きくなっていたのかも知れない。
1晩で持たせてもらった25万が消えてしまうが、2人は高級宿に向かった。
そしてついに‥‥結ばれたのだった。
翌日。
昼になっても戻ってこないシェリーを心配して子爵は宿を出たり入ったりしていた。
時計を見ればもう13時。そろそろ迎えが来る頃だ。これ以上待っていては間に合わない。
しかしシェリーが戻る気配は全くなかった。
「仕方ない。1人で行くしかないか」
宿で呼んでもらった貸し切り馬車に荷物を載せて清算をしているとシェリーが帰ってきた。
先に公爵家に向かうように指示をする。
「何処に行ってたんだ」
「あ、ごめんなさい…学園のお友達の家に泊めてもらって」
「服はどうしたんだ?買ってないのか?」
まさか宿泊代に全部消えたとは言えず、シェリーは嘘を吐いた。
「あっ!いけない。お友達の家に忘れてきちゃった!」
「困った子だな。まぁ帰りに取りに回ればいいか。それより!臭ってるぞ。薬は飲んだのか?」
「それが…昨夜で全部飲んでしまって薬がないの。買って」
子爵は後悔をしてしまった。抗生物質の薬は無料なのだが口臭を誤魔化す薬は有料なのだ。
買ってしまうと今でさえ叔母のところまではギリギリ行けるかどうか。
――仕方ない。御者と交渉をするしかないか――
だが、今から薬を取りに行くと公爵家に14時という迎えとすれ違ってしまう。
「お待たせいたしました。参りましょうか」
まさにピッタリなタイミングで声を掛けられる。
子爵はシェリーと共に公爵家の馬車に乗り込んだ。
「うわぁ。凄い。椅子の上で跳ねる事が出来るわ。流石公爵家ね」
「侯爵家に嫁いでもこのクラスの馬車だろう。良かったな」
ガラガラと馬車はブリュンヘルト公爵家の門をくぐる。
そこには徒歩でだがペルデロ侯爵夫妻も顔を揃えていた。
満面の笑みを浮かべるのは王太子と共にやって来た第二王子プリスト。
シェリーは既視感のある顔に少し父親の影に隠れたが、にこやかに着席を進められるともうお姫様気分である。
「ありがとう」
思わずスンスンと何かを匂う音が耳に聞えるがシェリーも真似をしてスンスンと鼻を鳴らす。
「忙しいのに済まないね。当事者が1人いないんだが問題ないだろう」
その場にいない当事者とはカインの事だ。
カインとシェリーは明け方まで8回戦に及ぶ試合の後、泥のように眠り慌ててチェックアウトをしたのだ。
街中にある宿屋より遥かに遠い廃屋となった侯爵家までは走っても1時間はゆうにかかる。
出かける時間までには帰れなかったのだ。
王太子は書類を一枚取り出すとペルデロ侯爵とローゲ子爵に指をさして説明をする。
「ペルデロ侯爵家嫡男カイン。ローゲ子爵家が娘シェリー。この2人の婚姻で間違いないな」
「殿下、婚約ではなく婚姻ですか?」
「まもなくカインも学園を卒業だ。勿論シェリー嬢も卒業だろう?」
第二王子プリストは優しく目だけが笑ってない微笑を浮かべてシェリーを見る。
「あ、はい。そうです」
「なら問題ないね。これからは侯爵夫人としてペルデロ侯爵家をカインと盛り上げてくれ」
「はいっ頑張ります」
「良かったね。侯爵、侯爵夫人」
「えぇ。当家としてもローゲ子爵から嫁いでくれるなどと夢のようです」
「わたくしが立派な侯爵夫人と致しますわ。シェリーちゃん。頑張りましょうね」
あの侯爵夫妻は何処に行ったのだと子爵が唖然となる位侯爵夫妻はにこやかだった。
「じゃ、異論はないようだね。双方の父親がサインをくれるかな。今日のような吉日をブリュンヘルト公爵家だけが見るって言うのは酷だろう?だから王太子である私が承認をこの場でしようと思うんだ」
「と、言う事はこの場で両家は結ばれると?」
「そうだね。貴族も民も幸せでいてくれるのが一番の喜びだよ」
父同士が書面にサインをすると王太子と第二王子、ブリュンヘルト公爵夫妻が拍手をした。
ペルデロ侯爵夫妻も満面の笑みである。
信じられない事に、帰り際、子爵の手を握りペルデロ侯爵は殴った事を詫びて路銀の足しにと銀貨がパンパンになった袋を手渡してくれた。全てこれが銅貨だったとしても100万、銀貨なら1000万だ。
――傾いたと言ってたがやはり侯爵家は違うな――
子爵はシェリーに別れを告げると叔母のいる屋敷に馬車を走らせた。
ペルデロ侯爵夫妻もシェリーを貸し馬車に乗せると廃屋に馬車を走らせた。
2台の馬車が小さくなった頃、王太子は腹を抱えて笑い始めた。
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