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VOL:28   恋の物語は突然に

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アージと出掛けた古巣とはまだ言えないかも知れないが懐かしい中央卸売市場。

人口が増えた王都の台所の一端を担う中央卸売市場は今日も活気に満ちていた。

「おっ!サっちゃんじゃないか。復帰かい?」

葉物野菜を競り落とした仲介商会の男性メバールが声を掛けてきた。

「違うの。広報にね、ここのセリ場あったところを貸してるとあったから」
「あぁ、それか。案内してやるよ。サっちゃんが休職して2カ月くらいで通路も変わったんだよ。右が野菜、左が果物。一方通行になっちゃったんだ。前のセリ場に行くには逆方向になっちゃうからかなっ」

工事中でもあり、衝立代わりの板で仕切られた仮歩道を歩いていくと見慣れた屋根が見えてきた。

「あれ?先客かな?」
「先客・・・」
「こんな広い場所なかなか借りてくれる人はいないって市場長も言ってたのにぁ」

しかし、メバールに案内をされて進んでいくサーディたちは何故か兵士に囲まれてしまった。


「この先に立ち入る事はならない!引き返せ!」

剣を抜いてはいないものの、兵士の手は帯剣した剣にあてられている。
ただ借しだされた場所を見に来ただけなのにと、メバールが声を荒げると先に案内をされていた一行が近づいて来た。


「何をしてるんだ?」
「殿下。この者達が断りもなく入ってきましたので」

――殿下?!――

サーディとアージ、メバールは顔を見合わせた。
サーディは大公家のマカレルとは結婚をしたが、マカレルが婿に来た状態。必要最低限と言われた夜会もマカレルが大公家に籍があれば呼ばれたかも知れないが、落ちぶれたオルーカ伯爵家に招待状を出す者などいるはずがなく、呼ばれる事は無かっただけ。

王族などサーディも大公夫妻とガンガーゼくらいしかお目にかかっていない。あぁ、そう言えばマカレルと、先日の夜会で紹介された叔母さんが元王族という程度である。

社交シーズン開始のデヴュタントは出席できたのに行かなかった事と、先日の夜会で周囲をもっと確認すればよかったと後悔した。
それを面識に含めるかは別として王族は肖像画で見る国王と王妃以外面識がない。


「見学は自由なんだ。複数の借り手がいる時は入札なんだから君たちの行為は王家を笠に着た妨害行為だと訴えられてもおかしくないんだぞ?」

兵士を窘めながら前に出てきたのは・・・。

――キュワァ!目も覚める美丈夫ッてこういう人の事よ!――

まるで後光を背負ったかのようにキラキラ・キンキラキンな美丈夫がサーディの目の前に現れた。

バチッ!バチバチ!

視線が合った瞬間、サーディと美丈夫は共に落雷の直撃を受けたような衝撃。
が、兵士の手がサーディの頭を押さえつけた。

「頭を下げろ!不敬だぞっ!」
「やめないか。これでは内緒で城を抜け出してきた意味がないだろう」
「ですが、殿下!」
「私が良いと言ってるんだ。ここにいる間は王子の扱いをしない。そういう約束でここまでついてきただろう?」


美丈夫の手がサーディの頭を押さえていた兵士の手を掴み、サーディの頭は軽くなった。


「すまない。私はシイロナガス・マッコウ・オーシェンだ。名前を聞かせてはくれないだろうか」

押さえられていた手はないのに「殿下」と言う事は「王族」である。サーディは俯いたままで「はい」と答え、更に深く頭を下げた。

「サーディ・オルーカと申します。オルーカ伯爵家の当主代行をしております」
「オルーカ・・・あぁ、学院のバニートゥ君のご実家か」
「はい!バニートゥは‥‥」

バニートゥの名前に思わず顔をあげてしまったが、また視線が合ってしまう。

「わ、私の弟です」消え入りそうな声で俯いて言葉を続けた。

「バニートゥ君の姉上か、話には聞いていた」

――もぉ!バニー!どんな話をしたのぉぉ?!――

サーディはそう思いながらも胸のドキドキが止まらない。顔も火が噴き出ているのではないかと思うくらいに熱いし、頭の上からは水分が蒸発する湯気がモワモワ出ている気さえする。

「ここへは?」
「あの…デニムという布を縫製するのにミシンとか何台も設置したり・・・広さがあって従業員も通いやすい地を・・・その・・・探しておりまして・・・」
「そうか。私は鉱石をここで選別するのに良いかと思っていたんだが・・・」
「いえっ!いえっ!私は良いんです。恥ずかしながら資金の目途も立って・・・いませんので」
「資金・・・そうか、君は・・・」

――ンニャー!その先は言わないでぇぇ――

サーディは何故かシイロナガスの口から「マカレルの妻」である事を認める言葉を聞きたくなかった。そう思うとポトリと涙がつま先に落ちた。

床に広がって行く水滴はシイロナガスにも直ぐ察しはつく。

「‥‥すまない。泣かせるつもりはなかった」
「いえっ、違っ・・・違うんです。殿下のせいではなくって・・・申し訳ございませんっ」


サーディはその場にいる事がどうしても出来なくなって頭を下げると脱兎の如く逃げ出してしまった。この行為が罰せられるかも知れないと判っていても、「マカレルの妻」である事がサーディの心にグルグルと鎖を巻きつけて、息も出来ないくらいの後悔に襲われて苦しかった。

「お嬢様っ?」
「サっちゃん?!」

先にメバールがサーディの後を追った。続いて追いかけようとするアージの手をシイロナガスは咄嗟に掴んだ。

「話を聞かせてくれないか?」

アージもシイロナガスの手を振り切ってしまえばどうなるかくらいは判る。大人しく従った方がサーディへの咎も軽くなるだろうとその場に留まった。



走ってその場を逃げてしまったサーディは何処をどう走ったのかも判らない。
小さめの広場に出た。

――私、どうしちゃったの?胸が苦しい!――

全力疾走をして肩で息をするから胸が苦しいわけではない。
確かに全力疾走をした後は、胸もドキドキとするが、このドキドキはドキドキ違い。

今まで感じた事のない胸の拍動にサーディは自問自答する。

その答えは考えずとも判っているのだ。
考えるような事なら「マカレルの妻」である事を悔いたりはしない。

――これが、あの日、あの時、あの場所でってやつなのね――

「サっちゃーん!どこだぁ」遠くでメバールの声がする。


自分自身が悔しくて涙が止まらない。
バニートゥのためだったとは言え、金で自分を売ったに等しい自分が情けなくてサーディは蹲り泣いた。

泣いて、泣いて・・・目をごしごしと袖で擦ると「はぁー」長く息を吐いた。

立ち上がり、1つしかない出口に歩くとメバールが待っていた。

「迷子の仔猫みぃーっけ。お腹痛かったのか?」
「えへ・・・うん。お腹痛かったかも」

メバールは何も言わずにポンポンとサーディの背中を叩くと走って来た方向とは逆。仲介人が一息つくスペースに連れて行ってくれて、昆布茶を出してくれた。

腹痛はらいただよな。この昆布茶は胸の痛みにも沁みいるぜぇ」
「うん」
「迷子には昆布茶が一番効き目あるんだぁ」

――ねぇよ――

サーディはそう思いつつもメバールの優しさが嬉しかった。






★~★

今日はここまででぇーっす(*^-^*)

明日は最終日!
完結は22時22分ですが、おや?完結にならないぞ??となるかも??

その時は日曜の真夜中、ウッシッシな丑三つ時、2時22分に何かが起きるΣ( ̄□ ̄|||)

明日も楽しんで頂けると嬉しいです(*^-^*)
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