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関係の修復も何も
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「アドリアナ、下がっていなさい」
お父様が私を視界に捉え、下がるように言うのですが面会に来たと言われればそれまで。ならば面会すればよいのです。何時間以上と時間の決まりは有りませんので、チラッと見て一言、二言、挨拶程度で良いでしょう。
「ブラウリオ・パルカス様。ごきげんよう」
それ以上は特にかける言葉が御座いません。
夫婦と言えど、その程度の関係ですし何を話そうにも今日がお顔を拝見した2度目。
トータルで人生3分もご一緒していませんし、離縁する予定の男の何を知る必要があるでしょう。
面会の事実があればよいので、くるりと踵を返しまた人の輪の中に割入ろうとしましたら、不穏な言葉が聞こえます。耳掃除はしたはずなのにおかしいですわね。
「アドリアナ。聞いてくれ。僕が愚かだった。君は僕の為に嫁ぎ尽くしてくれる覚悟だったのにその思いを僕は…深く反省をしているんだ。関係を修復させてくれないか。全てをやり直したい。出会ったとき、いや、出会う前から」
――出会う前から?!勘弁してよ――
「申し訳ございません。何を仰っているか、私にはさっぱりわかりません」
そう申しますと、何故かブラウリオ様は叫んだのです。
「同じ事を何故いうんだ!丁寧な言い方をしても同じだろう!」
――いえ、今回が初めてのファースト・テイクですわ――
もしかするとどなたか…あぁ、恋人?愛人?未来の妻?な女性にも同じ事を言われたのかも知れません。そのあたり女性とのお付き合い経験のなさが伺えます。
私も男性とのお付き合いは過去の婚約者程度で御座いますが、それでも!寝取られてしまった彼でも別の女性の発言を同一としたり、錯誤する事は御座いませんでした。
男性は小さな事からコツコツと積み重ね、結婚後に細君にあらぬ疑いを持たれぬよう最新の注意を払うもの思っておりましたがブラウリオ様、強気ですわね。
「申し訳ないのですが、今、この時でブラウリオ様にお会いするのは2度目。ちなみに交わした言葉はこの発言、先程の発言と合わせてこれで4回です。復唱致しましょうか?初回が ”愛されるなど微塵にも思っておりません。そういう約束の婚約です” で御座いまして、2回目が ”ブラウリオ・パルカス様。ごきげんよう”、そして3回目が ”申し訳ございません。何を仰っているか、私にはさっぱりわかりません” となり、4回目がこの発言。やっと2回同じ事を申した事になりましたが?」
「す、すまない。ソフィーに同じ事を言われたんだ。だが!内容が全く違う。文面が似たようなものなだけで」
「だとしても失礼では御座いませんか。貴族だからと言って他家の、他人の発言にまで責任は持てません。貴方の最愛の方の言葉と一緒にするなんて。どちらに対しても失礼だと思いませんの?」
周囲は誰一人声を発しませんけれど、ブラウリオ様に対しての視線は私を貫く鋭さ。良かったですわ。視線の集中砲火は被弾すると精神的ダメージが大きいのです。
ブラウリオ様もスージーさんお掃除済みのフカフカ絨毯をお持ちなら転がる事で癒されるでしょうに。
「先程の発言は撤回する。どうか夫婦の関係を修復させてくれないか?君が頷いてくれなければ何も始まらないんだ」
「お言葉ですが、既に始まっていた事があるかのような発言はお控えください。私と貴方の間には何も始まりませんので修復するものはないのです。強いて言うならもう婚姻の届けにサインをした時点で始まって即!終わっているのです。現在は消化試合でしょうか」
「消化試合?!ならアディショナルタイムだ。まだ終わっていない!」
――終わってるってのに!しつこいわね――
そして人の輪の中心までフラフラと数歩進んだかと思えばがっくりと膝をつき、しくしく、メソメソと泣きだすのです。
ここが見せ場と思っているようですけれど、恥を上塗りしているに同義ですわ。
「君じゃないと僕がダメになる。ソフィーの事は一旦横に置いてちゃんとした夫婦になりたいんだ。そうしないと僕に未来がないんだよ。僕だけじゃ生きていく事も出来ない」
「大丈夫です。1人ではなくソフィー様?でしたかしら。ご一緒でしょう?」
「だから!ソフィーの事は一旦横に――」
「置く、置かないは貴方の自由。私には関係御座いません。面会は終了ですわ。お引き取りください」
「判った。今日は帰るよ。でも…君が夫婦関係を修復したいと言ってくれるまで僕は毎日面会に来るよ」
――エェーッ!!ホントに勘弁して――
災害は忘れた頃にやって来ると申しますけれど、毎日面会だなんて。
エブリディ・エマージェンシーになってしまって、何時が本当の非常事態か判らなくなっちゃうじゃないの。
だいたい、自分が楽をしたいだけでしょうに。
肝心なところで致命的と見える言葉のチョイスミス。
あら、いけない。いけない。
ちゃんと「・」を入れないと「チョイ・スミス」ってブラウリオ様になら人名と間違いそうだわ。だって、都合よくなんでも変換しちゃう人みたいだもの。
しかし、事態はこれでは終わらなかったのです。
激昂するお父様よりもアルフォンソ様の方がお怒りになっておられまして、お兄様が身を挺しアルフォンソ様を止められていたのですが、川を堰き止めている堰も切れてしまえば流れを止めるものはなし。
ブラウリオ様に飛び掛かる寸前でブラウリオ様に並ぶ招かれざるお客様が登場したのです。
えぇ…レオン殿下で御座いました。
お父様が私を視界に捉え、下がるように言うのですが面会に来たと言われればそれまで。ならば面会すればよいのです。何時間以上と時間の決まりは有りませんので、チラッと見て一言、二言、挨拶程度で良いでしょう。
「ブラウリオ・パルカス様。ごきげんよう」
それ以上は特にかける言葉が御座いません。
夫婦と言えど、その程度の関係ですし何を話そうにも今日がお顔を拝見した2度目。
トータルで人生3分もご一緒していませんし、離縁する予定の男の何を知る必要があるでしょう。
面会の事実があればよいので、くるりと踵を返しまた人の輪の中に割入ろうとしましたら、不穏な言葉が聞こえます。耳掃除はしたはずなのにおかしいですわね。
「アドリアナ。聞いてくれ。僕が愚かだった。君は僕の為に嫁ぎ尽くしてくれる覚悟だったのにその思いを僕は…深く反省をしているんだ。関係を修復させてくれないか。全てをやり直したい。出会ったとき、いや、出会う前から」
――出会う前から?!勘弁してよ――
「申し訳ございません。何を仰っているか、私にはさっぱりわかりません」
そう申しますと、何故かブラウリオ様は叫んだのです。
「同じ事を何故いうんだ!丁寧な言い方をしても同じだろう!」
――いえ、今回が初めてのファースト・テイクですわ――
もしかするとどなたか…あぁ、恋人?愛人?未来の妻?な女性にも同じ事を言われたのかも知れません。そのあたり女性とのお付き合い経験のなさが伺えます。
私も男性とのお付き合いは過去の婚約者程度で御座いますが、それでも!寝取られてしまった彼でも別の女性の発言を同一としたり、錯誤する事は御座いませんでした。
男性は小さな事からコツコツと積み重ね、結婚後に細君にあらぬ疑いを持たれぬよう最新の注意を払うもの思っておりましたがブラウリオ様、強気ですわね。
「申し訳ないのですが、今、この時でブラウリオ様にお会いするのは2度目。ちなみに交わした言葉はこの発言、先程の発言と合わせてこれで4回です。復唱致しましょうか?初回が ”愛されるなど微塵にも思っておりません。そういう約束の婚約です” で御座いまして、2回目が ”ブラウリオ・パルカス様。ごきげんよう”、そして3回目が ”申し訳ございません。何を仰っているか、私にはさっぱりわかりません” となり、4回目がこの発言。やっと2回同じ事を申した事になりましたが?」
「す、すまない。ソフィーに同じ事を言われたんだ。だが!内容が全く違う。文面が似たようなものなだけで」
「だとしても失礼では御座いませんか。貴族だからと言って他家の、他人の発言にまで責任は持てません。貴方の最愛の方の言葉と一緒にするなんて。どちらに対しても失礼だと思いませんの?」
周囲は誰一人声を発しませんけれど、ブラウリオ様に対しての視線は私を貫く鋭さ。良かったですわ。視線の集中砲火は被弾すると精神的ダメージが大きいのです。
ブラウリオ様もスージーさんお掃除済みのフカフカ絨毯をお持ちなら転がる事で癒されるでしょうに。
「先程の発言は撤回する。どうか夫婦の関係を修復させてくれないか?君が頷いてくれなければ何も始まらないんだ」
「お言葉ですが、既に始まっていた事があるかのような発言はお控えください。私と貴方の間には何も始まりませんので修復するものはないのです。強いて言うならもう婚姻の届けにサインをした時点で始まって即!終わっているのです。現在は消化試合でしょうか」
「消化試合?!ならアディショナルタイムだ。まだ終わっていない!」
――終わってるってのに!しつこいわね――
そして人の輪の中心までフラフラと数歩進んだかと思えばがっくりと膝をつき、しくしく、メソメソと泣きだすのです。
ここが見せ場と思っているようですけれど、恥を上塗りしているに同義ですわ。
「君じゃないと僕がダメになる。ソフィーの事は一旦横に置いてちゃんとした夫婦になりたいんだ。そうしないと僕に未来がないんだよ。僕だけじゃ生きていく事も出来ない」
「大丈夫です。1人ではなくソフィー様?でしたかしら。ご一緒でしょう?」
「だから!ソフィーの事は一旦横に――」
「置く、置かないは貴方の自由。私には関係御座いません。面会は終了ですわ。お引き取りください」
「判った。今日は帰るよ。でも…君が夫婦関係を修復したいと言ってくれるまで僕は毎日面会に来るよ」
――エェーッ!!ホントに勘弁して――
災害は忘れた頃にやって来ると申しますけれど、毎日面会だなんて。
エブリディ・エマージェンシーになってしまって、何時が本当の非常事態か判らなくなっちゃうじゃないの。
だいたい、自分が楽をしたいだけでしょうに。
肝心なところで致命的と見える言葉のチョイスミス。
あら、いけない。いけない。
ちゃんと「・」を入れないと「チョイ・スミス」ってブラウリオ様になら人名と間違いそうだわ。だって、都合よくなんでも変換しちゃう人みたいだもの。
しかし、事態はこれでは終わらなかったのです。
激昂するお父様よりもアルフォンソ様の方がお怒りになっておられまして、お兄様が身を挺しアルフォンソ様を止められていたのですが、川を堰き止めている堰も切れてしまえば流れを止めるものはなし。
ブラウリオ様に飛び掛かる寸前でブラウリオ様に並ぶ招かれざるお客様が登場したのです。
えぇ…レオン殿下で御座いました。
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