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「だ、だったら・・・ここで暮らせばいい。別居なのならどこだって一緒だ。少なくともここなら私が貴女を守ってやれる」
ここでも耳がおかしくなったのかしら。
耳掃除のし過ぎは良くないと申しますが、清潔第一。月に1、2回でよいとお医者様から言われておりますが、実は私は10日に1度の頻度で耳掃除をするのです。
――適度に汚れていた方がいいのかしら――
はて?と首を傾げる私にアルフォンソ様は鼻を指で抓みながら再度仰ったのです。
「別居なのだったらこの屋敷も使わない部屋は幾つもある。それに私は子爵家の当主だが公爵家の子息でもあるし身元の確かさは折り紙付きだと自負している。何より暴力を振るうような男の元に別居と言えど返すのは騎士としても男としてもあり得ない」
――そぉなんですよ!!そうなの!――
私としても心配なのはその点なのです。
両家で「離縁ありき」とした契約ですので、婚約も白い結婚の期間に含めるために1年未満の半年としたのです。当初は、いえ、昨日までは別居ですし?顔を合わせるのも参加が回避できない夜会や茶会、つまり王族の方か公爵家がホストとなり「参加してね?」とわざわざ招待状を頂いた物に限って一緒に参加。
どうしても外せないのは年に3回ですし、近年に限って言えば近いうちに3人いる王子殿下のどなたかが立太子をされるでしょうから3年のうち1年だけは4回になる可能性がある程度。
3年間で最大10回の短時間の顔見世なので「ま、いいか」と思っただけなのです。
ですがそれでも、暴力系となると話は別。
何を思って手をあげたのか。
意図的であれば力で持って支配するドメスティックバイオレンス型のクズ。
無意識であればより質の悪いゲス。
クズとゲス。どっちがいいかなんて私には選べません。
このテのヤカラは老若男女問わず進化系。
最初は軽めの嫌がらせ的な悪口から始まり、最後は斬った張ったの世界。一歩足を踏み入れれば後戻りできない世界の住人には近寄らないのが一番なのです。
なんせ後戻りできないので改心とは無縁。物理的に隔離して人間を含め生きとし生けるものとの断絶をせねばなりません。治らないのですから接触を物理的に断つしかないのです。
しかしながら、そこに大きな問題が御座います。
この婚約が調った日。カレドス家にはパルカス侯爵家から多額の支援金が既に支払われているのです。
金銭援助を目的とした婚約、婚姻は国家間でも行われているので違法ではなく合法。この場合は暴力行為と金銭援助は全く別の問題ですので、1つの婚約に関わる事と言ってもそれを理由に破棄や解消は難しいのです。
せいぜい暴力行為については当主の話し合いで慰謝料をいくらにするか。
その支払方法は金銭で都度支払うのか、それともプールしておいて3年を待たずにこの関係が解消になった時に相殺するのか。その程度の違いにしかならないのです。
救いは後者の場合、離縁の慰謝料とは別にプールされた金が支払われるという事でしょうか。
前の婚約破棄でも娘である私に慰謝料が支払われましたが、それは当主同士の話し合いで決まった異例中の異例な出来事。通常は「家」に対して支払われるのです。
この婚約も破棄や解消をする方法がないわけではないのです。
支援された金に法定利息を付けて返金すればいいのですが、そうなれば数万、数十万の領民に飢えて死ねと言うに同義。カレドス家には出来ないのです。
「お言葉は大変に有難いのですが、お断り申し上げます」
「しかしそれでは君の身が危険だ」
「判っています。ですが相手がどんな方であれ家と家との約束です。3年を待たずに関係を無くすには借りたものを返すのが筋。恥ずかしながらカレドス家には出来ないのです」
「人身御供のような事を君がしなくても!」
「大義名分としてはそうでしょうけども、貴族の家に生まれたのならその身は領民の為に有ります。何らかの対応は必要でしょうけども大筋を変えることはできないのです」
アルフォンソ様はとてもお優しいのはよく判ります。
騎士様ですので、弱いものを虐めるヤカラは許せないのでしょうし、被害者が泣き寝入りする必要もないとお考えなのだと。
「貴女の言いたい事は解った。だがこの件は少し預からせてくれないだろうか。悪いようにはしないし貴女の両親にも私が責任をもって話をする。仮に侯爵家所有の屋敷に住まわねばならなくなったとしても最大限の配慮をするように働きかけてみようと思っている」
アルフォンソ様は公務中の出来事で私を保護しておりますので、騎士団などに報告の義務があるそうで、「ゆっくりしていてほしい」と言い残されてお出掛けになりました。
「お寛ぎくださいね」と至れり尽くせりな対応に全身が舌鼓を打っていた午後のお茶の時間。
バタバタと慌ただしくなったと思ったら、お母様が私に飛びついて来たのです。
「良かった!良かった!アナっ!!うわぁぁぁん」
「あの…お母様…重たいです」
よし!来いっ!と受け身を取ったとしても自身とほぼ同じ質量を持つ物体が飛びついてきたら転びます。床がフカフカのクッションだったから良かったものの、石や木の板だったら腰と後頭部を痛打していた所で御座いました。
ここでも耳がおかしくなったのかしら。
耳掃除のし過ぎは良くないと申しますが、清潔第一。月に1、2回でよいとお医者様から言われておりますが、実は私は10日に1度の頻度で耳掃除をするのです。
――適度に汚れていた方がいいのかしら――
はて?と首を傾げる私にアルフォンソ様は鼻を指で抓みながら再度仰ったのです。
「別居なのだったらこの屋敷も使わない部屋は幾つもある。それに私は子爵家の当主だが公爵家の子息でもあるし身元の確かさは折り紙付きだと自負している。何より暴力を振るうような男の元に別居と言えど返すのは騎士としても男としてもあり得ない」
――そぉなんですよ!!そうなの!――
私としても心配なのはその点なのです。
両家で「離縁ありき」とした契約ですので、婚約も白い結婚の期間に含めるために1年未満の半年としたのです。当初は、いえ、昨日までは別居ですし?顔を合わせるのも参加が回避できない夜会や茶会、つまり王族の方か公爵家がホストとなり「参加してね?」とわざわざ招待状を頂いた物に限って一緒に参加。
どうしても外せないのは年に3回ですし、近年に限って言えば近いうちに3人いる王子殿下のどなたかが立太子をされるでしょうから3年のうち1年だけは4回になる可能性がある程度。
3年間で最大10回の短時間の顔見世なので「ま、いいか」と思っただけなのです。
ですがそれでも、暴力系となると話は別。
何を思って手をあげたのか。
意図的であれば力で持って支配するドメスティックバイオレンス型のクズ。
無意識であればより質の悪いゲス。
クズとゲス。どっちがいいかなんて私には選べません。
このテのヤカラは老若男女問わず進化系。
最初は軽めの嫌がらせ的な悪口から始まり、最後は斬った張ったの世界。一歩足を踏み入れれば後戻りできない世界の住人には近寄らないのが一番なのです。
なんせ後戻りできないので改心とは無縁。物理的に隔離して人間を含め生きとし生けるものとの断絶をせねばなりません。治らないのですから接触を物理的に断つしかないのです。
しかしながら、そこに大きな問題が御座います。
この婚約が調った日。カレドス家にはパルカス侯爵家から多額の支援金が既に支払われているのです。
金銭援助を目的とした婚約、婚姻は国家間でも行われているので違法ではなく合法。この場合は暴力行為と金銭援助は全く別の問題ですので、1つの婚約に関わる事と言ってもそれを理由に破棄や解消は難しいのです。
せいぜい暴力行為については当主の話し合いで慰謝料をいくらにするか。
その支払方法は金銭で都度支払うのか、それともプールしておいて3年を待たずにこの関係が解消になった時に相殺するのか。その程度の違いにしかならないのです。
救いは後者の場合、離縁の慰謝料とは別にプールされた金が支払われるという事でしょうか。
前の婚約破棄でも娘である私に慰謝料が支払われましたが、それは当主同士の話し合いで決まった異例中の異例な出来事。通常は「家」に対して支払われるのです。
この婚約も破棄や解消をする方法がないわけではないのです。
支援された金に法定利息を付けて返金すればいいのですが、そうなれば数万、数十万の領民に飢えて死ねと言うに同義。カレドス家には出来ないのです。
「お言葉は大変に有難いのですが、お断り申し上げます」
「しかしそれでは君の身が危険だ」
「判っています。ですが相手がどんな方であれ家と家との約束です。3年を待たずに関係を無くすには借りたものを返すのが筋。恥ずかしながらカレドス家には出来ないのです」
「人身御供のような事を君がしなくても!」
「大義名分としてはそうでしょうけども、貴族の家に生まれたのならその身は領民の為に有ります。何らかの対応は必要でしょうけども大筋を変えることはできないのです」
アルフォンソ様はとてもお優しいのはよく判ります。
騎士様ですので、弱いものを虐めるヤカラは許せないのでしょうし、被害者が泣き寝入りする必要もないとお考えなのだと。
「貴女の言いたい事は解った。だがこの件は少し預からせてくれないだろうか。悪いようにはしないし貴女の両親にも私が責任をもって話をする。仮に侯爵家所有の屋敷に住まわねばならなくなったとしても最大限の配慮をするように働きかけてみようと思っている」
アルフォンソ様は公務中の出来事で私を保護しておりますので、騎士団などに報告の義務があるそうで、「ゆっくりしていてほしい」と言い残されてお出掛けになりました。
「お寛ぎくださいね」と至れり尽くせりな対応に全身が舌鼓を打っていた午後のお茶の時間。
バタバタと慌ただしくなったと思ったら、お母様が私に飛びついて来たのです。
「良かった!良かった!アナっ!!うわぁぁぁん」
「あの…お母様…重たいです」
よし!来いっ!と受け身を取ったとしても自身とほぼ同じ質量を持つ物体が飛びついてきたら転びます。床がフカフカのクッションだったから良かったものの、石や木の板だったら腰と後頭部を痛打していた所で御座いました。
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