あなたへの愛は時を超えて

cyaru

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ジークハルトの汚「点」でパリパリ?

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食事の前に神に祈りを捧げるのは同じだが、ジークハルトはコレットの一挙手一投足に、ふむ?と考え込んだ。

幼い頃に亡くなったが、曾祖母の仕草に似ている気もする。
母の母の母、祖母のほうが早く亡くなったが98歳で天寿を全うした曾祖母の言葉もあまり理解出来なかった。世代が変わるごとに話し言葉も若干変化をしていく。

同じように祈り方も宗派はあるのかも知れないが、ジークハルトは胸の前で軽く手の指を組み合わせるものだが食後には特に祈りを捧げることはない。

コレットはと言うと、食前はほぼ同じだが手の指は組まずに片手でもう片方の握った手を覆う形である。そして食後には手を交差させて胸にあてて目を閉じるのだ。



昔、曾祖母とした会話をジークハルトは思い出した。

「食べる前はね、陽の神、風の神、雨の神、大地の神、そして作ってくれた人たちに感謝を述べるのよ。食べた後はその食材の命を無駄にせず今日一日を生きていきますと食材に約束をするのよ」

「野菜にありがとうって言うの?お肉にも?」

「そうよ。レタスにも人参にも命があるの。お肉だって最初から焼いた形ではないのよ。それぞれ命を持って生きているものを私達は頂くの」

「そしたら、野菜は死んじゃうよ」
「そうよ。だからあなたの命は無駄にしませんと約束をするのよ」
「フーン…そうなんだ…母様はしないけどなぁ。父様も」
「誰かがしないから、自分もしない。それも1つの考え方ね。でもねジーク。婆様は誰もしなくてもするの。それが婆様の中の決まりなのよ」

「そうなんだ…僕もしていいの?」
「勿論よ。ジークが食べた野菜もお腹の中で悪さをする者をやっつけなきゃ!ってもっと頑張ると思うわ」




目の前のコレットもかつての曾祖母と同じように胸に手を交差させて目を閉じている。

「その祈り方…懐かしいな」

コテンと首を傾げて、祈りが懐かしい?とコレットは不思議に感じた。
立ったまま食事を流し込んでいた時は、簡易的に指を組んでジークハルトのように祈りを済ませた事はあるがコレットにしてみればあくまでも「簡易的な」ものであり、本来の祈りをしただけだった。

騎士団に行くと言うから、手早く掃除も済ませるために簡易的な形式を取ったのではないのかしら?とさえ思ったくらいだ。


食事が終わると、コレットは早速掃除と洗濯を始めるために先ずは脱ぎ散らかした服を手頃な籠に入れ始めた。あっという間に籠に山盛りになっていく服。

――もしかして、俺ってポンコツなゴミ屋敷住人だったのか――


しかし、下着のシャツを手に取りじぃぃぃっと一点を見つめ考え込んだ。
ジークハルトはそれを見て・・・。

――え?シャツに恥ずかしいシミはなかったはずだが?!――

心の中が大騒ぎをし始めた。
ちらりと横目で見れば下着の「下」の方は湯殿にこんもりと山になっている。
そもそも、下着の「下」を体から外すのは湯殿くらいしかここ何年も経験がない。
但し、下着でも「上」だったり、その上に着用するボトムスやジャケット、シャツなどはその辺にポイポイと投げてある。

隊服だけは椅子の背にかける事はあるがその程度。
休みの日は1日寝て過ごすか、出かける時は脱ぎ散らかした中から比較的匂いが薄くて汚れが目立たないものをチョイスするだけだった。

冷や汗が流れる。一部ケチャップがついていたりソースなら誤魔化せるだろうが、白いパリパリしたものなら今すぐ窓から逃げ出せる自信さえ沸いてくる。


「えぇっと…コレット??何か~気になる点でも?」


声をかけてジークハルトは「失言」に気が付いた。
そう、白くてパリパリした恥ずかしいシミは「点」なのだ。そんなものが全体に満遍なくついていた時は例えおろしたての1回着用のみであってもジークハルトは捨てる。間違いない。
自分自身が製造元である限り、製造者責任で捨てるしかない。勿論…その時はリサイクルBOXではなくウェス用でもなく燃えるゴミの袋の中に丸めて捨てる。

人生の汚点だからだ。

いやいや、そこまでの量はない。
なんなら今、背中をつたう冷や汗のほうが量が多いかも知れない。
ダラダラと流れる冷や汗。足元が水溜まりになっていないだろうか。

「あのぅ…この下着なんですけど」

ビクっ、いやもう釣り上げられた魚のように床をビチビチと体を打ち付けて転がった方が誤魔化せるか?!ジークハルトはコレットの気を逸らすために転がっても害がなさそうな広さを探す。

「そ、それは‥‥その‥シャツの下に着て汗をだな…」
「そうだと思うのですが…」

「うん。多分、多分だ!俺も言い切る自信が今は減少傾向にあるが汗だと思うんだ。同じ体液であっても汗!暑い時にダラダラと流れる汗だとは思うんだ」

「汗で汚れているのはわかるんですけど」

ビックゥ!!!
ジークハルトの体はもう伸びきったバネのようになっている。

「凄く、高級品ばかりですよね…これも、これも…このシャツも…」
「は?」

コレットが差し出してきたシャツは3枚で1200ミャゥの特売品である。
ついでにあちこちの転がっている靴下も5足で1000ミャゥのワゴンセール品。
(1ミャゥ=1円とお考え下さい)


ジークハルトにはとても高級品には思えないが、コレットにしてみれば綿100%なシャツなど王族でもなければ着る事もないだろうという最高級品である。

ベラン王国に木綿の種が入ってきて栽培が始まったと女将に聞かされたが、気候が合わず木綿は育たなかった。そのため、「綿製品」は高価で侯爵位くらいなら領地と数着が交換できると言われたほどだった。
仕立てで何度か綿に触れたことはあるが、それでも10年ほどの経験の中で数回である。公爵家の令嬢が隣国の王族に嫁ぐ際に嫁入り道具として持っていくという衣類だったのを思い出す。

コレット達の服は殆どが「麻」を主に使っていたが、動物の毛皮などを幾重にもアカソなどの植物の繊維をよって糸状にしてつなぎ合わせたりしたものや、コレットの今着ているワンピースのように麻とアカソの混合が主流だったのだ。


「いや、安物だから、気にしなくていいよ。洗えそうになかったら捨てるといい」
「捨てる?!」

コレットは卒倒するかと思うくらい驚いた。
今度はコレットが冷や汗を大量に流す番となった。

――まさか…大陸でも有数の大富豪だったの?!――

少しでも木綿が使われていれば、お直しをする時も神経をとがらせてその部分を外し、不要な部分は糸を外してもう一度縫い付けるくらいの高級品が「綿」なのに捨ててもいいというジークハルトの思考にコレットはついて行けなかった。

下着の価値観は人それぞれ。

コレットは高級品である綿製品の下着を大事そうに手に取り、裏表を交互にじっくりと眺める。
ジークハルトは公開処刑をされている気分だった。

下着の「上」だからいいようなものの、これが下着の「下」だったらとっくにジークハルトは窓から逃げたことだろう。
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