幼なじみは絶対人質の許嫁

青香

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 いやいや、ちょっと待て!
 怪しい物売り自体を演じてどうする!?
 そんな事をしても、意味がないだろう!
 くっ!
 やはり動揺が尋常ではないな。
 何か話題は?
 何かーー。

 ここでカイルはハッとする。
 忘れていた事を思い出したのだ。

 そうだ!
 本来の目的は、『プリシラの服が合わなくなっているからどうする』だろ?
 それでいこう!
 それがベストだ!
 そんな事を忘れているなんて、まったく。
 俺のおっちょこちょいめ!

 起死回生の話題だと思い、フフッと無意識に笑みを出してしまう。
 それを見た母は、ますます眉間の堀を深めた。

 「変な話し方したり、いきなり笑ったり。変よ?カイル」

 ややこしくなりそうなフラグが立つ。
 しかし無意識な反応だった為、今さら後悔しても仕方ない。
 怪しげな物売りのマネをした事も、この際飲み込んでしまおう。
 今は話題を変える事に集中だ。

 気持ちを落ち着ける為に、コホンと咳払いをする。
 そして、いつもの声色で話し出した。

 「母さん、プリシラの服なんだけどな。サイズが小さいみたいなんだ」
 「まぁでも、お父さんとの結婚が決まった時、私も色々、幸せな想像をしていたから、ね?」
 「だから、どうしたらいいか聞きに来たんだが」
 「それが一つ一つ、叶っていって。そしてカイルとプリちゃんが生まれてきてくれて。そう思うと本当に、私は幸せだわ」

 母は幸せそうに微笑む。

 まったく会話が噛み合わん!
 俺の声が聞こえないのか?
 それほど俺のことなど、まったく意に介してない!
 幸せそうに微笑みやがって!
 どうしたらいいんだ!

 焦る心は、思考回路を加速させる。

 俺の晒した醜態から、昔の自分を思い出したんだろうが、状況をややこしくしないでくれもらいたい!
 幸せ?
 大いに結構じゃないか!
 俺とプリシラが、それに貢献できているなら尚更だ。
 だが今それを伝えられても、なぁ?

 なんて答えよう。
 悩む時間が少ない中考え、そして口を開いた。

 「そうか」

 たった一言、そう言った。

 答えようが無ぇよ!
 何なんだよコレ!
 難しすぎるだろ!
 例えば『母さんにも、俺と同じような時期があったんだな』なんて言ってみろ。
 話題が蒸し返されて、さっきはいやらしい妄想をしていたんだろうと追求されかねん!

 かといって、『母さんが幸せなら、俺も幸せだ』とでも言えと?
 そんなの恥ずかしくて言えるか!!

 そりゃ、母さんが幸せなら嬉しいさ。
 そんなの当たり前だ。
 俺の存在が、母親の幸せに関わっているなら、自分にグッジョブをあげたい。
 でも思春期真っ只中な俺に、そのセリフを求めるのは酷だろ?
 酷なんだぞ?
 だって、思春期なんだもん。
 わかるだろ?
 そうなんだって!

 わかってくれぇぇぇ!!

 魂の叫びを脳内にこだまさせ、グッと目を瞑った。
 今後の展開が読めない恐怖と、処理しきれない状況から、目を背けたかったのだ。

 もう、好きにしてくれ。
 どんな流れになろうとも、それに身を任せ、俺は生きていくよ。

 罪人が裁判の判決を待つ。
 どんな裁定が下ろうとも、全てを受け入れてから、今後の事を考えよう。
 そんな心境だった。
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