上 下
465 / 558
第十章 魔導国学園騒動

10話 叡智の継承者 ダート視点

しおりを挟む
 レース達が出て行って直ぐの事……

「サリッサちゃん、ちょっと悪いんだけど席を外して貰ってもいいかしら?」
「え?カルディア様、急にどうしたのですか?」
「ダーちゃ……いえ、レースちゃんの奥さんと二人で大事な話をしたいからお願い」
「……分かりました、それでしたら下の診療所の方で備品の補充等して来ますので、お話が終わり次第及びください」

 サリッサさんが下の階に降りて行くと、お義母様がゆっくりとした仕草で紅茶を口にする。
そしてお互いに言葉を話さない静寂が部屋を包んだかと思うと……

「さて、ダーちゃんからしたら、どうして私の姿が変わっているのか気になるんじゃない?」
「うん……、元居た世界の本当のお母様にそっくりでびっくりしちゃった」
「そうよね?だってこの姿は……、以前あなたから貰った髪の毛を分析して見つけて作った身体だもの」
「そう……なんだ」

 その姿を見ると凄い懐かしい気持ちになる。
もう二度と戻る事は無いと思っていた場所に戻れたような、会えないと思っていた大切な家族に出会えたような。
この世界に転移して来た時の事を思い出して切ない気持ちになってしまう。
急に訳も分からない世界に連れてこられて、言葉も文字も全然分からない環境……お義母様とマスカレイドのおかげで生きる方法を学んでここまで来て、レースと出会い幸せになった事。
けど……お義母様の姿を見ると、転移しなかったらどんな生活を送っていたのか気になってしまう。

「以前私があなたに【叡智】を継ぎなさいみたいな事を言ったでしょ?それで思ったのよ……王族達が持つ【継承】という特性を利用できないかって」
「継承って確か、王様が無くなった際に次世代の王に能力と心器、封印されてる神様を移す物だよね?」
「それを独自に研究して……魔術として形にしたのよ」
「えっと……それと、これに何の繋がりが?」
「そうね、能力や心器を継承させるだけなら血縁になれば良いから簡単だったわ……ただ最後の神様を移すという事だけど、それを疑似的に行う為に……これね」

 お義母様が指輪を取り出すと、テーブルの上にゆっくりと置く。
今まで見た事が無い程に強い魔力を感じるそれは、まるで生きてるようで……

「あの、お義母様?」
「これは私の前の身体と今の身体の一部を作る際に出来たスペアの肉体を加工して作った指輪よ、メセリーでは誰かが亡くなった時、遺体を宝石に加工して遺族に残すのを知ってるわよね?」
「う、うん……」
「この指輪を魔導具へと加工したのよ、私が亡くなった際……この指輪を着けている人に込められた魔力を移す事で疑似的に【継承】を成立させる感じね、そうして特性を模倣し魔術の域に落とした事で、私の特性と能力、そして心器をあなたに渡すのよ」
「……ちょっと何を言ってるのか分からないかも」

 言ってることが難しすぎて私では何を言ってるのか全然分からない。
けど取り合えず、血縁……つまり遺伝子的な繋がりを作る事で私にお義母様が持つSランク冒険者としての能力を移すという事だけは辛うじて分かった気がする。

「分からないならいいわ、取り合えずあなたは指輪を肌身離さず着けてれば大丈夫よ」
「そういう事なら……?でも、後遺症とかって何かあったりしない?お腹の中の子に何かあったら嫌だよ?」
「そこは大丈夫だと思うわ、だって……私の魂はそこには無いもの、仮にあったとしても私の能力や魔力がその子にも継承されて【叡智】の特性を持つ存在が二人になるというイレギュラーが発生するくらいじゃないかしら」
「それって凄い危ない事なんじゃ……?」
「……大丈夫よ、私の時と違って最初から周囲に理解者がいるもの、仮にそうなったとしてもあなた達なら大丈夫、私が保障するわ」

 お義母様はそう言うと私の手を取って左手の小指に嵌める。
そして何かを決意したかのように椅子から立ち上がると……

「じゃあ私は行くわね?」
「行くって……お義母様、何処に行くの?」
「その時になったら分かるわ、ただそうね……過去の忘れ物を拾いに行くと言っておくわ」
「それって……」
「ふふ、幾ら見た目は若くても、身体を変え続けて何百年も生きてるおばあちゃんよ?生きてるうちに大事な忘れ物の一つや二つ、それにやり残してる事があるのよ、例えばそう……【黎明】マスカレイドとの事や、私と彼の間で作られたフィリアの事、この国の王【魔王】ソフィアに別れを告げたり、後任であるあなたに関する話をしたりね」

……そのまま私の方を振り返る事無く小さく呟くと、玄関の方へと歩いて行き。
『あなたは旦那であるレースちゃんや、第二婦人になるカエデちゃんと仲良く手を取り合って行かなきゃダメよ?、大事な物って一度無くしたり忘れたりしてしまったら、もう戻って来ないんだから……あ、そうだ、この事はレースちゃんには内緒にしてね?』と言葉にして出て行ってしまう。
そして一人家に取り残された私はどうするべきか悩みながら、一階へ降りてサリッサを呼ぶのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

父が再婚しました

Ruhuna
ファンタジー
母が亡くなって1ヶ月後に 父が再婚しました

転生令嬢は現状を語る。

みなせ
ファンタジー
目が覚めたら悪役令嬢でした。 よくある話だけど、 私の話を聞いてほしい。

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

【完結】あなたに知られたくなかった

ここ
ファンタジー
セレナの幸せな生活はあっという間に消え去った。新しい継母と異母妹によって。 5歳まで令嬢として生きてきたセレナは6歳の今は、小さな手足で必死に下女見習いをしている。もう自分が令嬢だということは忘れていた。 そんなセレナに起きた奇跡とは?

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

男女比がおかしい世界の貴族に転生してしまった件

美鈴
ファンタジー
転生したのは男性が少ない世界!?貴族に生まれたのはいいけど、どういう風に生きていこう…? 最新章の第五章も夕方18時に更新予定です! ☆の話は苦手な人は飛ばしても問題無い様に物語を紡いでおります。 ※ホットランキング1位、ファンタジーランキング3位ありがとうございます! ※カクヨム様にも投稿しております。内容が大幅に異なり改稿しております。 ※各種ランキング1位を頂いた事がある作品です!

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

処理中です...