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第九章 戦いの中で……

35話 薬王との交渉

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 メイメイの安全が約束出来ないと、間違いなくここで殺されてしまうだろう。
ならここはどうするべきか……、近くで戦って安全を確保出来るようにする?いや、その場合彼女はSランク冒険者【薬姫】だからどちらかと言うと守られるのはぼく達の方だ。
ならどうする……ダリアが近くにいるだろうから、彼女と二人なら安全だという話をするのか。
一応時空間魔術で時間そのものに干渉できるから、問題無く出来るだろうけどその事をショウソクに話していいのか迷う。
けどここは持てる手札を全て切らないとこの人を説得出来る気がしない。

「どうした?三人共何故黙っている?」
「えっと、レースどうしよう」
「ちょっと今考えてるけど……」
「……レース、お前まさか俺に嫁を守れと言っておいて何も出せないのか?」
「いや、出せるんだけど何て伝えればいいのか分からなくて……」

 ダリアの能力をどうやって伝えるべきか。
彼女の心器の能力は、一時期使った事があるから装備していると空間魔術が使えるようになるという認識はあるけど、正直あれはダリア本人の力だと思うし。
という事は……

「えっと、ダートはダリアの心器の能力って分かる?」
「ダリアの?一つだけしか分からないかな……斬った相手に自傷効果のある呪術を掛ける【呪剣】という能力くらいかな」
「……それが娘を守る事と何の繋がりがある?」
「レースさん、良ければ私が説得しましょうか?」
「いや、ここはぼくがやるよ……、ショウソクはぼくに聞いてるんだからしっかりとぼくの言葉で言わないと」

 ダリアの心器の能力と時空間を操る事が出来る属性、この二つを使って説得をするのなら……

「メイメイの友達になったぼく達の娘なら何とか出来ると思う」
「あの口の悪い教育がなってない娘がか?」
「教育がなってない……、あぁうん、それに関しては何て言うかごめんなさいとしか」
「いやいい、謝罪等求めていない……で?メイメイから精霊術を教わっている、プラチナ色の髪を持った娘がどうしたのか言ってみろ」
「あの子は、時空間魔術が使えて……現代で唯一デメリットを受ける事無く時間に干渉出来るんだ、だからその魔術を使ってメイメイが危なくなったら安全な場所に移動させるのはどうかな」

 正直メイメイが危なくなる時ってぼく達ではどうしようもない場合だと思う。
でもそれでも出来る事を提示するのは必要だ。
……色んな人を見て来て感じた事だけど、交渉をする場合まずはこちら側が何を出来るのかを伝えてから動く人が多い。
だからこの場合はぼくを含めて周りの人が何が出来るのかを伝える、これが正解なんだと感じる。

「……つまりメイメイが負傷した場合、時間に干渉してこの首都まで退却することが可能という事か、ならそれと心器の能力【呪剣】はどういう繋がりがある?」
「メイメイを狙ってくる人達を攻撃して傷つける事で、同士討ちや動揺させる事が出来るかも?ほら、相手側からしたらいきなり味方が自分の身体を傷つけ始めたら驚くと思うし、少しでも危なくなったらその隙に戦場の中でも比較的敵の少ない場所に行けると思う」
「……なるほど、だがメイメイの本職は薬師だ、戦場において負傷者が出たら彼らを放置する事は出来ないだろう、その時を狙われたらどうする?」
「その心配は必要無いんじゃないかな……」
「……おまえ、何を言っている?」

 床から生えて来た枝が蔓のように動いて、ぼくの手足を縛りあげる。
これ位なら常に怪力を発動しているおかげで簡単に外せそうだけど……今は暴れたりせずに話を続けた方がいいだろう。

「メイメイは単独でもぼく達よりも強いから、余程の事が無い限りは問題無いと思うんだよね……ケイスニルは既に亡くなってていないし、今敵側で彼女を傷つけられるのは同じSランクである【滅尽】と第三勢力としてこちらに向かっている【黎明】位だと思う、だからそのどちらかが彼女を狙って来て危険だと判断したら退却して貰うでいいんじゃないかな」
「……間に合わなかったらどうする?」
「さっき言ったけど、その為にダリアの時空間魔術があると思うとどうかな、ぼく達で出来る範囲の事だとこれ位かな」
「……なら俺からも提案を出そう、メイメイが退却した場合栄花騎士団の副団長及びレースの嫁、お前等二人で娘を守れ」
「ショウソク様、ダートお姉様はお腹の中に子供がいるのでそんな危険な事をさせる訳には……」

 ダートは確かにお腹の中に子供がいるけれど、まだ動けない訳ではない。
でもそれでも心情としては危険な事をして欲しくはないし、出来れば安全なここにいて欲しいのは確かだ。

「レース、そんな心配しないで?私なら大丈夫だから……、ショウソク様それでお願いします、こっちにはカエデちゃん以外にも護衛に栄花騎士団の最高幹部が一人いるので、ダリアを入れた四人態勢でメイメイちゃんを守れると思います」
「……それなら問題無いだろう、レースの願いを特別に聞いてやる」

……絡みついていた枝が手足の拘束を解くと、ぼく達に向けられていた鋭い先端と共に壁や床の中へと戻っていく。
何とかこの場を生き延びる事が出来た安心感から全身の力が抜ける気がするのだった。
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