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第九章 戦いの中で……

12話 二人の気持ち

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 辺境都市クイストにいる時は二人で出かける時はいつも、官女に連れられて普段行かない所を足を進めては新たな発見を見つけて楽しそうに笑う姿を見る位に、ダートは好奇心旺盛な性格をしている。
何ていうか、子供が出来てもこういうところ変わらないなぁって思いどこかしら安心しながら、空間収納から大剣と長杖を取り出すと……

「黒くてかっこいいね……手に持ってもいい?」
「長杖ならいいよ?」
「剣の方はダメなの?なんで?」
「これは……怪力を発動しないと持てない位に重いから」
「そうなんだ……、じゃあちょっと待ってね?」

 ダートが心器の短剣を顕現させると、部屋に備え付けられているテーブルに近づき、置かれているグラスの中に指を入れて濡らすと指先で軽くこする。
すると綺麗な音が鳴り響き……

「……これは?」
「最近使えるようになった心器の能力【呪音】の力でね?言葉も含むんだけど、音を鳴らす事で詠唱しないで呪術を発動できるようになるの」
「呪術って何をしたの?」
「一時的に自分に暗示をかけて身体能力を上げた感じかな……、ほら私って空間魔術が使える以外はそこまで戦いが得意じゃないでしょ?暗示の魔術で私を変える以外にも出来る事を増やした方がいいかなって、じゃあ持つね?」
「え?ちょっと!」

 返事を待つ前にダートがぼくの手から剣を奪い取る。
あのトキでさえ、鞘に込められた【軽量化】の能力が無ければ持つのが難しかったのに、お腹の中に子供がいる彼女が持ってバランスを崩して腹部を強打したりしたらと思うと……

「ほんと……だ、凄い重いね」
「え?持てるの……?」
「何とか?でも結構辛いかも、鞘から抜いてみても良い?」
「それはさすがにやめた方がいいかな……、トキが言うには付与された【重量化】の能力のせいでぼく以外には持てないらしいから」
「そうなんだ……残念だけど返すね?」

 ダートから大剣を受け取ると代わりに長杖を渡して、空いた方の手で鞘から大剣を抜き放つ。
先程の激しい訓練の後なのに傷一つ無い黒い刀身は部屋の光を反射して一部が白く見える。

「……へぇ、凄い綺麗だね」
「だよね、アダマンタイトっていう希少な金属を使ってるらしいよ」
「え?アダマンタイトですか?」
「……カエデ?」

 ランと楽しそうに話していたカエデが驚いたような顔をしてぼくの方を見る。

「栄花騎士団でも扱う場合、団長と副団長の内どちらかによる許可が必要な金属ですよ?……もしかして義肢も?」
「あぁ……、トキが義肢を作る為に独断で使ってくれたらしいよ?それに大剣とかに使ったのはケイがぼく達の婚約祝いに取って来てくれた物から作ったみたいでさ」
「……希少な金属が取れるモンスター、アダマンタートルを無断で狩猟したんですか!?そんな……あれを狩る場合は所属している国に届け出を出さないと行けない希少種族なのに、トキさんとケイさんは何をしてるんですか!?いくら婚約祝いとはいえやっていい事と悪い事があります!!」
「でも既に受け取ってるから……、それに二人の気持ちを無碍にするのも良くないよ」
「そうかもしれませんけど……、レースさんに言われるのは何か複雑です」

 ……複雑って言われても反応に困る。
とはいえそこまで貴重な物を取って来てくれたなんて思ってなかったから、今度ケイに会った時に何てお礼をすればいいのだろうか。
普通にありがとうと言うべきか、それとも何か対価に見合う物を渡した方がいいのかな。
でもぼくとカエデの婚約祝いにくれた物だから、それに関してお返しをするのってどうなのか……ぼくには答えが出せそうにない。

「カエデちゃん、ケイとトキは二人の為を思ってやったの……だから栄花騎士団の副団長としてじゃなくて、一人の女の子として考えて見てなの」
「……二人のした事は問題ですが、してもらった事に関しては嬉しいですしなんだか複雑です」
「んー、それならカエデちゃん、こういう時は黙っておいたらいいんじゃないかな……、純粋な気持ちなプレゼントしてくれたんだから、私達は何も知らなかった事にしよ?」
「でも……ダートお姉様、それだとお父さんに二人のした事が知られてしまった時の事が心配に──」
「その時はカエデちゃんが許可を出したって事にしてみよ?確か団長と副団長のどちらかの許可があればいいんでしょ?」

 ダートがいたずらな笑みを浮かべながらそう言うと、長杖を器用に足と片手を使って回しながら意識を集中する。
すると回転する杖の先端を軸に円形に空間が切り裂かれて、見覚えのあるメセリーの辺境都市クイストの風景が姿を現す。

「……それに私が長杖に魔力を流してもこんなにスムーズに魔術が発動出来るんだよ?、いつもならここまでの遠い距離を移動するのに長い詠唱が必要になるのに凄いよね」
「アダマンタイトは魔力の伝導率にも秀でてますからね……、そこにトキさんの心器の能力を使い複数の素材を掛け合わせてレースさん専用に作った杖なら、凄い性能を持っててもおかしくないと思います」
「そんな凄い杖がレース専用に調整されてるんでしょ?これから先の戦いにも間違いなく必要になるだろうし、カエデちゃんが許可を出した事にしよ?」

……その長杖を使いこなしているダートも凄いと思うけど、彼女の言うように魔術をスムーズに発動させる事も確かに凄い。
トキと戦っている時は全然気にならなかったけど、そういえば雪のゴーレムを作る時にいつもよりも楽に生成出来た気がする。
そんな事を考えながら悩んで唸っているカエデを見るのだった。
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