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第八章 戦いの先にある未来

20話 信用出来ない相手

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 あくまでこれは予測の範囲でしか無いけれど、エンキは味方ではないと思う。
そんなに強い人が助けに来たのならこっちが不利になったタイミングで助けに来ないだろうし、何よりも疑わしいところが多い。
魔力の波長は両親までしか分からない筈なのに、何故ガイストと血縁がある事が分かるのか……、そこで予想出来るのは姉からぼく達の事を聞いているのかもしれないという事だ。
その事に関してメイメイを起こして連れて来たダリアを含めた全員に話してみると……

「……確かにその可能性はあるかもしれねぇけどよぉ、助けに来てくれたのは事実だろ?」
「そうだけど信用しすぎてしまうのは良くないと思う」
「ですね、それに栄花出身と言ってましたが私の記憶にそのような名前の方がいた記憶がありません」
「ん?炎姫は自身を栄花出身と言ったのじゃな?……おかしいのぅ、あ奴の名前はアナイス・アナイアレイト、焔の炎姫と名乗っておるのは人助けをする彼女を讃えメイディの国民が名付けたのを気に入って名乗っておるだけで、本人は栄花とは何の関係は無い筈じゃけどな」

 栄花とは関係が無いという言葉を聞いて、やはり焔の炎姫が嘘を付いている事が分かる。
何故自分を偽ってまで嘘を付く必要があるのかは分からないけど、やはり彼女はぼく達の味方ではないのだろう。

「でもあの文字は栄花で使われているのと同じ――」
「ん?あの文字はメイディでも使うぞ?例えば余の名前なのじゃが、この国の文字にするとこう書くのじゃ」

 メイメイが灰に指を突っ込んで文字を書いて行く。
ただ、途中で指が止まり……

「うげっ!文字を書いて思うたけどこの灰はアンデッドなのじゃ!汚いのじゃあ!!」
「……灰になってんだから汚いも何も無いだろうが、で?途中で終わってるけどこの文字は何て読むんだよ」
「そ、そうじゃな……とりあえず書きながら説明をするが、【命】と書いてメイと読むのじゃよ、余の名前はこれを二つ繰り返して【命命】でメイメイじゃな」
「その文字を使うのは栄花だけだと思ってました……」
「くふふ、この文字はメイディから栄花に伝わったのじゃよ、まぁその事を知ってる者は少ないじゃろうし、カエデが知らぬのも致し方ない事じゃな」

 メイメイはダリアに手渡されたハンカチで指についた灰を念入りに拭きながら得意げな顔をして笑う。

「全然知りませんでした……」
「まぁ知らないのはしょうがないのじゃよ……、カエデは余と同じで若いからのぅ、余もエルフの言語が栄花でも使われていると知った時は驚いたのじゃよっ!」
「んー、取り合えず炎姫さんが栄花出身じゃないって事は分かったけど、それならどうして私達を助けてくれた後にそんな嘘をついたのかな……」
「多分だけどさ、ガイストに俺達を見かけたら助けるように言われたんじゃねぇの?……、ストラフィリアでルミィと一緒に連れて行かれて時に父であるヴォルフガングに罪はあるが、俺達には罪が無い的な事を言ってたしなよ」

 ガイストなら確かにそういう行動をしそうだけど、アナイスの事は信用する事は出来ない。
姉とぼくはお互いに捨てられたという経緯はあれど育った環境がまるで真逆だとは言え、当時の事をダリアとルミィに聞いたりした時は家族思いの優しい人だという事は知っているけど、アナイスに限ってはぼくからしたらガイストがやろうとしている事を知った上で力を与え、弟子として鍛えたという事に関して色々と思う所がある。
本当に弟子の事を思っているのなら復讐を止める筈なのに、カエデの説明を聞くと正義の為という訳の分からない理由で送り出しているのも個人的にはどうかと思う。
多分だけど……

「……アナイスは愉快犯?」
「ほう、どうしてそう思うのじゃ?」
「多分だけどあの人は周りの人が困ったタイミングを狙って現れて自分の評価を上げたり、意図的に嘘の情報を流して状況を楽しんでいるのかも」
「余が知ってる限りでは、あやつは誰かの為に行動する事に生きがいを感じておるからな、その為になら意図的にそういう事をして自ら問題を起こすような事をしてもおかしくはないであろう、まぁ……Sランク冒険者は皆誰しも何処かしら頭のネジが外れておるからのぅ、そう思うと余はかなり常識人なのかもしれんぞ?」
「あぁ、うん、そうかもね」

 確かに母さんやマスカレイド、今迄出会って来たSランク冒険者達と比べるとメイメイはまだ常識人に見えるのは確かだけど彼女がして来た事を考えると認め辛いかったりする。

「なんじゃその返事は傷つくのぅ……まぁ良いが、とは言えアナイスに関しては次に会った時に色々と聞いてみるしかなかろうて」
「私もそれが良いと思う……、今ここであれこれ考えてもどうしようもないよ」
「ですね、取り合えず今はアキラさん達との合流を急ぎ、え、な、なに!?」

……その時だった、周囲の地面に積もっていた灰が森の中へと流れるように移動して行く。
本来ならありえない光景に警戒して身構えていると、森の奥から黒い髪に茶色い瞳を持った子供がゆっくりと姿を現す。
その容姿は半年以上前と違い少しだけ背が伸びて雰囲気が変わっているが間違えるはずがない。
指名手配されている元Aランク冒険者【死人使い】ルード・フェレスがぼく達の前に現れるのだった。
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