治癒術師の非日常―辺境の治癒術師と異世界から来た魔術師による成長物語―

物部妖狐

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第七章 変わりすぎた日常

33話 依頼の説明

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 凄い勢いで咽るスイを見て何があったのかと心配になるけど、それよりも自分の事を自らメスガキと名乗った事の方が気になる。
ダートもこの子何言ってるの!?って言いたそうな顔をして目を見開いているし、ミオラームの護衛として着いて来ているSランク冒険者のフィリアも何も言わずに眉間に皴を寄せて難しそうな顔をしていた。
そして……、冒険者ギルド職員のエレノアはと言うと……

「ミオラーム様っ!?何を言うてはるん?……、いきなり自分の事をメスガキだなんて名乗ってそういうの良くないんよっ!」
「良くない……?あ、そういえばスイ様が言ってましたわね、偉い人は自分を偉いと自慢しないと、これは失礼致しましたわ?やり直させて頂きます」
「え、あのそういう事じゃ無いんよ、メスガキと言うのはですね……」
「ん?言葉の意味は分からりませんが、良い意味なのでしょう?だから良いのですっ!」
「エレノアさん、ミオはこういう子だから出来ればそのままにしといてあげて……?」

 スイはいったい何をミオラームに教えているのか……。
相手は南東の大国の賢王だから、本当の意味が分かったら首を飛ばされてしまっても文句は言えないだろう。

「改めまして、私は南東の大国マーシェンスの王、賢王ミオラーム・マーシェンスですわっ!この度は私の護衛を引き受けて頂けた事感謝致します、特にレース様……、あなたにお守り頂けるなんて嬉しすぎて舞い上がってしまいそうですわっ!」
「舞い上がってって何を言ってるの?」
「レース?、ミオラーム様に何をしたの?」
「……思い当たる事が無いから分からない」
「酷いですわレース様……、王位を継いで以降、徐々に自分が自分で無くなっていく感覚があった状態で自分を失いつつあった私に、最終的に暴走し決闘までしてしまったとはいえ、身を挺して守り正気に戻してくれた、心の底から思いを寄せているお方ですわっ!」

 ダートの目線が……、こちらを射抜くように鋭い。
決闘の事に関しては伝えてはあったけど、まさかミオラームからそんな思いを向けられている何て思わなかったから、反応に困ってしまう。

「……ミオラーム、気持ちは嬉しいけどぼくにはもうダートがいるから」
「でも、あなたは王族ですから妻の一人や二人いて当たり前でしょう?」
「そうかもしれないけど、ぼくの隣には彼女がいればそれでいいよ」
「誠実ですのね、私そういう所ますます気に入りましたわぁっ!」
「ミオ、そろそろ本題に入らないと何時までも本題に入れないんだけど?」

 今度は耳まで赤くしたダートがぼくの肩を両手を使って殴って来るけど、何かしてしまったのだろうか。
そんな事を思っていると、フィリアがミオラームの頭を手で鷲掴みにして、表情も変えずに力を入れる。

「痛い痛いっ!痛いですわフィーっ!」
「ならちゃんと話を進める努力をしないとダメよ?」
「分かりました、分かりましたですわぁっ!」
「あの……、取り合えず依頼の話を進めて大丈夫なんかな」
「えぇ、お願いね、私達は適当な所に座るから」

 フィリアは何故かぼくの対面の位置に座ると、ミオラームがその膝の上に座る。
椅子が沢山あるんだから他の所に座ればいいのにと思っていると、フィリアの表情がとても満足そうに緩んでいるからこれでいいのかもしれない。
……久しぶりに会ったから忘れてたけど、この人は幼い子供の世話をするのが大好きだった筈だから、今もそれが変わっていないんだと思う。

「……では、皆様の準備が出来たようなので説明を致しますね、もし途中で疑問に思った事等がありましたらいつでも仰ってください」
「分かりましたわっ!」
「ミオ……、あなたは護衛側なのだから聞かれたら応える側」
「そうだったのだわ……、では何でも聞いて欲しいのだわっ!特にレース様っ!」

 ……何て言うかめんどくさい、何でこの子はそんなにぼくの事を気に入ってしまっているのか。
問題が起きたら嫌だから、依頼中は極力距離を取った方がいいのかもしれない。
それにダートが不安になるだろうし……

「レースは依頼中ミオラーム様の近くにいてあげてね?」
「……え?」
「その方が守りやすいと思うの、だから嫌だと思うけどお願い」

 耳元でそう呟いてくるダートに思わず驚いてしまう。
彼女の事だから嫌がると思っていたんだけど……

「出来れば私語は止めて欲しいんよ……」
「あ、ごめんなさい」
「では……、説明となりますがこの度の依頼はメセリーの王である、魔王ソフィア・メセリー様から、現在開拓中である辺境の森に、マーシェンスの魔王ミオラーム・マーシェンス様が視察に行くとの事でお三方に護衛依頼を受けて頂く事になりました、ここまでで何かありますか?」
「なら聞きたいのだけど、何故レースがこの依頼を受けている?」
「はい、レース様は冒険者になったばかりなんけど、ギルド長と栄花副団長の許可の元実力に関してはCランク以上の者があると判断され、Bランクへの昇格する権利を得る為に参加する事になりました、他には誰かありますか?」

 エレノアがぼく達を見るけど、誰も手を上げて無いのを見て再び口を開く。

「でしたら続けさせて頂きます、ミオラーム様が行かれる場所は森の奥地であり、そこでは現在魔族と呼ばれる我々に近い知能を持った種族と、異業種と呼ばれる異常な進化を遂げたモンスターが確認されております、それ等の脅威から護衛するのがこの度の依頼となります」
「エレノア様、私からも一つ言いたい事があるのですけど、大丈夫かしら?」
「ミオラーム様、どうしたんですか?」
「異常種の件なのですが、これに関しては私の国であるマーシェンスが関係しておりますて、今は既に追い出し国外に追放したのですけど、Sランク冒険者【黎明】マスカレイド・ハルサーが行った魔導具と生物の融合実験とと言う物がありまして、二つを合わせる事で魔科学兵器以上の戦力を得ようとして……」

……という事はぼくがダートに出会って直ぐの時に出会った、あの異常種もその被害に合った生物なのだろうか。
それを踏まえて姿を思い出すと、あの二本足で立ち、両手には長く鋭い鉤爪を持ったトカゲのような見た目に、尻尾に蛇の顔を持った存在は、明らかに一般的に知られる異常種と比べても異様でしかない。
マスカレイドはいったい何処まで禁忌を犯せば気が済むのだろうかと、彼の行いに理解が出来ない自分がいるのだった。
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