上 下
221 / 493
第六章 明かされた出自と失われた時間

32話 言葉に出来ない秘密

しおりを挟む
 あの後夕飯を食べたぼく達は直ぐに寝る事になったのは良いんだけど、また問題を起こさないようにというミュラッカの考えの元、ダートと同じ部屋で明け方まで休む事になった。
何ていうか連日同じ寝具で寝ていると慣れて来るから不思議だ……、でも何で彼女はぼくの腕を枕にして寝ているのかが分からない。
この状態で果たして眠る事が出来るだろうかと思っていたら……

「寝れた……」

 気付いたら明け方でしっかりと眠れていた。
それに今回は腕の感覚が残っているから動かせるし、更には変な方向に曲がったりしていない……、こんな事ってあるんだなぁって思っているけど、何故かぼくの手がダートの頭の上に置かれている。
寝ている時に無意識でやってしまったのだろうかと思うけど、そんな事ってあるのだろうか?
取り合えず手をどけようとするけど、そうすると彼女の頭を撫でるようになってしまうからなんとも気恥ずかしい。
でもしょうがないから手をどかそうとすると……

「ん、んん……」

 ぼくの手を掴んで何故か頭の上に戻されてしまう。
……なるほど、ぼくが無意識にやったんじゃなくて寝ている間にダートがやったんだって理解出来たけど、この光景を誰かに見られたら正直言ってかなり恥ずかしい気がする。
二人きりの時ならいいと思うけど、いつ誰が入って来るか分からない屋敷ではこうやってくっ付いてる所を見られたくないという気持ちがあって……、最近自分の気持ちに素直になれるようにはなって来たから分かるんだけど、ぼくはこの時間を誰にも見せないで独占したい。

「って言っても将来ダートとちゃんと夫婦になって、ダリアと一緒にメセリーの診療所に帰ったら難しいんだろうなぁ」

 部屋の数を考えたらぼくとダートの部屋位しか無いから、将来的な事を考えて増築して三階を作るのを視野に入れるとして……、それまではぼくの部屋をダートと共有すればいいと思うけどって何を考えてるんだ。
起きたら直ぐにヴィーニ達の所へと行ってダリアとルミィを助けに行かなきゃいけないのに、こんな妄想をしてしまう何てどうかしている。
気合を入れないといけないと分かっているのに、ついこれからの事を考えてしまう辺り緊張感が足りてないのかもしれない。

「ぼくってもしかして、かなりマイペースというか緊張感が無い人間なのでは?」
「レースさんがマイペースな人間だという事には同意しますけど……、緊張感が無いかと言われると同意しかねますね」

 声がした場所を見るとカエデがベッドの近くに立って、何とも言えない物を見ているような顔をしている。
いつ部屋に入ったんだろう、彼女の事だから無断で入って来ること何て無いと思う。
性格的にノックをしてから入って来たとは思うけど……、もしかして聞こえてなかったのだろうか?

「……何でカエデが部屋の中にいるの?」
「ミュラッカ様に妹が入ると気まずいと思うから代わりに行ってくれないかと言われたので、起こしに来たのですがノックしても反応が無かったので心配になって入りました」
「ノックの音なんて聞こえなかったけど?」
「入った後も私が声を出すまで気づかない位に、ダートお姉様の頭を撫で続けてたのでそっちに集中してたんじゃないですか?」
「頭を撫でて何か……、あれ?」

 ダートの方を見ると無意識に頭をゆっくりと撫でていて、撫でられている彼女は幸せそうな寝顔を浮かべている。
試しに意識をして触ってみると良く手入れされた髪の毛が気持ち良くて癖になりそうだ……

「いや、何で手の方を確認した後にそのまま撫で続けてるんですか……」
「何でって触ってると気持ち良くて」
「……レースさん、そういうのは二人きりの時にしてください」
「あ、うん……、そういえば起こしに来たって事は皆はもう準備が出来て居たりするの?」
「はい、ミュラッカ様とトキさん、シンさんは既に馬車の中で待機しています、サリア様は……皆の朝食を作ってから乗るそうですが、既に結構時間が経っているので馬車にいると思いますよ?、なので後は私達だけですが……、ダートお姉様を起こす方法が浮かばないので、レースさんが抱き上げてそのまま運んでください」

 取り合えず待たせている以上は言われたようにした方がいいと思うから、枕にされている腕を起こさないようにゆっくりどかすとベッドから起き上がり、両腕を彼女の身体の下に入れるとこちらに抱き上げるようにして持ち上げる。

「当り前のようにお姫様抱っこするんですね、途中で起きたら恥ずかしがりますよ?」
「その時はその時で考えるよ」
「ならいいですけど……、じゃあレースさん行きますよ?」

 カエデが扉を開けてくれてダートを抱き上げたぼくを先に通すと、急いでぼくの隣に立って通路を歩きだす。
ただ……、何ていうかぼくに何かを聞きたそうな顔をしているけどどうしたのだろう。

「聞きたい事があるなら、そんな顔をするよりも聞いてくれないかな」
「……まさかレースさんが表情で察してくるようになる何て思いませんでした、聞きたい事と言っても何て言いますか、目を覚ましてミュラッカ様に怒られている時から気になっていたのですけど、何か思い悩んでいるように見えますけどどうかしたんですか?、ダートお姉様は話してくれるまで待ってくれるでしょうけど、私はどうしても気になってしまって……」
「……どうもしてないよ、何もない」

 聞かれた瞬間に驚きで歩く足が止まりそうになったけど、どうせぼくの事だから顔に出て隠せて無かったんだと思う。
でも、マリステラから内緒にするように言われているから言う訳には行かない。

「その言い方だと何かありましたって言ってるようなものですよ?、言えないような事なんですか?」
「操られている間にあった事を皆に言わないように約束した相手がいるんだ、だからごめん」
「……約束をした?、誰としたのかは分かりませんが、それなら一つだけいいですか?答えられないならそれでいいです」
「それでいいなら」
「レースさんが操られて戦闘をしている時に、途中で心器が消えたのですけど何か知ってるんじゃないですか?」

 ……それなら母さんが介入したおかげだと思うけど、これを伝えて良いのだろうか。
でも聞いた事を話す訳じゃないから話すだけなら問題無い?、マリステラが言っていた事は『ここで聞いた事は出来れば誰にも言わないでね』だけだから大丈夫な筈だ。

「それなら心の中で母さんが出て来て……、ぼくの魔力の流れを停止させてくれたんだよ」
「スノーホワイト様が?それって何があったんですか?」
「……ごめん言えないんだ、それに質問は一つだけでしょ?」
「なるほどこれで分かりました、レース様は心の中であった事を誰かと約束している為、誰にも伝える事が出来ないって事ですね、それなら私からはこれ以上聞きません」
「……ありがとう、何も言えなくてごめんね」

……本当は言えるならダートに伝えたいし、カエデ達にも話してしまいたいけど約束をしている以上は守らなければいけない。
それに……、もし約束を破ってしまった場合いくら『出来れば誰にも言わないで』と言われていても何が起きるか分からないから何が起きても言わない方が良いと思う。
あの時はそこまで恐ろしい相手だとは思わなかったけど、今になって思うとどう見てもぼく達では敵対した瞬間に手も足も出ずに滅ぼされてしまってもおかしくない。
カエデからは、その質問以降何も聞かれる事無くお互いに無言のまま屋敷を出ると、そのまま外に用意されている馬車に乗りこんで目的地へと出発するのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

勇者一行から追放された二刀流使い~仲間から捜索願いを出されるが、もう遅い!~新たな仲間と共に魔王を討伐ス

R666
ファンタジー
アマチュアニートの【二龍隆史】こと36歳のおっさんは、ある日を境に実の両親達の手によって包丁で腹部を何度も刺されて地獄のような痛みを味わい死亡。 そして彼の魂はそのまま天界へ向かう筈であったが女神を自称する危ない女に呼び止められると、ギフトと呼ばれる最強の特典を一つだけ選んで、異世界で勇者達が魔王を討伐できるように手助けをして欲しいと頼み込まれた。 最初こそ余り乗り気ではない隆史ではあったが第二の人生を始めるのも悪くないとして、ギフトを一つ選び女神に言われた通りに勇者一行の手助けをするべく異世界へと乗り込む。 そして異世界にて真面目に勇者達の手助けをしていたらチキン野郎の役立たずという烙印を押されてしまい隆史は勇者一行から追放されてしまう。 ※これは勇者一行から追放された最凶の二刀流使いの隆史が新たな仲間を自ら探して、自分達が新たな勇者一行となり魔王を討伐するまでの物語である※

序盤でボコられるクズ悪役貴族に転生した俺、死にたくなくて強くなったら主人公にキレられました。え? お前も転生者だったの? そんなの知らんし〜

水間ノボル🐳
ファンタジー
↑「お気に入りに追加」を押してくださいっ!↑ ★2024/2/25〜3/3 男性向けホットランキング1位! ★2024/2/25 ファンタジージャンル1位!(24hポイント) 「主人公が俺を殺そうとしてくるがもう遅い。なぜか最強キャラにされていた~」 『醜い豚』  『最低のゴミクズ』 『無能の恥晒し』  18禁ゲーム「ドミナント・タクティクス」のクズ悪役貴族、アルフォンス・フォン・ヴァリエに転生した俺。  優れた魔術師の血統でありながら、アルフォンスは豚のようにデブっており、性格は傲慢かつ怠惰。しかも女の子を痛ぶるのが性癖のゴミクズ。  魔術の鍛錬はまったくしてないから、戦闘でもクソ雑魚であった。    ゲーム序盤で主人公にボコられて、悪事を暴かれて断罪される、ざまぁ対象であった。  プレイヤーをスカッとさせるためだけの存在。  そんな破滅の運命を回避するため、俺はレベルを上げまくって強くなる。  ついでに痩せて、女の子にも優しくなったら……なぜか主人公がキレ始めて。 「主人公は俺なのに……」 「うん。キミが主人公だ」 「お前のせいで原作が壊れた。絶対に許さない。お前を殺す」 「理不尽すぎません?」  原作原理主義の主人公が、俺を殺そうとしてきたのだが。 ※ カクヨム様にて、異世界ファンタジージャンル表紙入り。5000スター、10000フォロワーを達成!

俺だけ毎日チュートリアルで報酬無双だけどもしかしたら世界の敵になったかもしれない

亮亮
ファンタジー
朝起きたら『チュートリアル 起床』という謎の画面が出現。怪訝に思いながらもチュートリアルをクリアしていき、報酬を貰う。そして近い未来、世界が一新する出来事が起こり、主人公・花房 萌(はなぶさ はじめ)の人生の歯車が狂いだす。 不意に開かれるダンジョンへのゲート。その奥には常人では決して踏破できない存在が待ち受け、萌の体は凶刃によって裂かれた。 そしてチュートリアルが発動し、復活。殺される。復活。殺される。気が狂いそうになる輪廻の果て、萌は光明を見出し、存在を継承する事になった。 帰還した後、急速に馴染んでいく新世界。新しい学園への編入。試験。新たなダンジョン。 そして邂逅する謎の組織。 萌の物語が始まる。

氷翼の天使—再び動き出した時間の中で未来に可能性を見出せるのだろうか―

物部妖狐
ファンタジー
遥か遠い昔、お伽噺になり人々に伝えられる大きな戦いがあった。 その時を生きた存在が、永い眠りから目覚めた後に眼に映る世界は……、全てが変わり果てた平和な時代。 彼は再び動き出した時間の中でどう生きるのか。 今新しい冒険が始まる。 治癒術師の非日常の本編前の時間軸の物語 更新頻度:更新頻度:読者様がいない為2024年4月以降不定期更新 目覚めた翼は新たな時代を生きる……

戦争から帰ってきたら、俺の婚約者が別の奴と結婚するってよ。

隣のカキ
ファンタジー
国家存亡の危機を救った英雄レイベルト。彼は幼馴染のエイミーと婚約していた。 婚約者を想い、幾つもの死線をくぐり抜けた英雄は戦後、結婚の約束を果たす為に生まれ故郷の街へと戻る。 しかし、戦争で負った傷も癒え切らぬままに故郷へと戻った彼は、信じられない光景を目の当たりにするのだった……

漫画の寝取り竿役に転生して真面目に生きようとしたのに、なぜかエッチな巨乳ヒロインがぐいぐい攻めてくるんだけど?

みずがめ
恋愛
目が覚めたら読んだことのあるエロ漫画の最低寝取り野郎になっていた。 なんでよりによってこんな悪役に転生してしまったんだ。最初はそう落ち込んだが、よく考えれば若いチートボディを手に入れて学生時代をやり直せる。 身体の持ち主が悪人なら意識を乗っ取ったことに心を痛める必要はない。俺がヒロインを寝取りさえしなければ、主人公は精神崩壊することなくハッピーエンドを迎えるだろう。 一時の快楽に身を委ねて他人の人生を狂わせるだなんて、そんな責任を負いたくはない。ここが現実である以上、NTRする気にはなれなかった。メインヒロインとは適切な距離を保っていこう。俺自身がお天道様の下で青春を送るために、そう固く決意した。 ……なのになぜ、俺はヒロインに誘惑されているんだ? ※他サイトでも掲載しています。 ※表紙や作中イラストは、AIイラストレーターのおしつじさん(https://twitter.com/your_shitsuji)に外注契約を通して作成していただきました。おしつじさんのAIイラストはすべて商用利用が認められたものを使用しており、また「小説活動に関する利用許諾」を許可していただいています。

金貨1,000万枚貯まったので勇者辞めてハーレム作ってスローライフ送ります!!

夕凪五月雨影法師
ファンタジー
AIイラストあり! 追放された世界最強の勇者が、ハーレムの女の子たちと自由気ままなスローライフを送る、ちょっとエッチでハートフルな異世界ラブコメディ!! 国内最強の勇者パーティを率いる勇者ユーリが、突然の引退を宣言した。 幼い頃に神託を受けて勇者に選ばれて以来、寝る間も惜しんで人々を助け続けてきたユーリ。 彼はもう限界だったのだ。 「これからは好きな時に寝て、好きな時に食べて、好きな時に好きな子とエッチしてやる!! ハーレム作ってやるーーーー!!」 そんな発言に愛想を尽かし、パーティメンバーは彼の元から去っていくが……。 その引退の裏には、世界をも巻き込む大規模な陰謀が隠されていた。 その陰謀によって、ユーリは勇者引退を余儀なくされ、全てを失った……。 かのように思われた。 「はい、じゃあ僕もう勇者じゃないから、こっからは好きにやらせて貰うね」 勇者としての条約や規約に縛られていた彼は、力をセーブしたまま活動を強いられていたのだ。 本来の力を取り戻した彼は、その強大な魔力と、金貨1,000万枚にものを言わせ、好き勝手に人々を救い、気ままに高難度ダンジョンを攻略し、そして自身をざまぁした巨大な陰謀に立ち向かっていく!! 基本的には、金持ちで最強の勇者が、ハーレムの女の子たちとまったりするだけのスローライフコメディです。 異世界版の光源氏のようなストーリーです! ……やっぱりちょっと違います笑 また、AIイラストは初心者ですので、あくまでも小説のおまけ程度に考えていただければ……(震え声)

処理中です...